女神と妖精をこき使って無人島を発展させよう!   作:サニキ リオ

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エピローグ ニート、無人島を開拓する

 慌ただしかった収穫祭も終わり、女神牧場は平常通りの穏やかな日々を取り戻した――と、言いたいところだったが、今も変わらず女神牧場は忙しいままだ。

 というのも、収穫祭の時に多くの牧場関係者や食品業者と契約を結んだ影響で、俺達はその対応に追われ続けていたのだった。

 

「やっと終わった……」

 

 全ての書類の精査が終わり、請求関係を担当している部署に回し終えた頃には既に午前零時を回っていた。

 定時退社? 何それおいしいの状態である。

 

「お疲れ様です」

 

 俺が机に突っ伏していると、エリシャが紅茶を入れてくれる。

 

「いつも悪いな」

「別に構いませんよ。それより、もっと人を雇った方がいいんじゃないですか?」

「そうだな。次のプロジェクトもあるし、人はどんどん雇いたいところだよ」

「また新しいことをはじめるんですか」

 

 エリシャは呆れながらもどこか楽しそうに笑っていた。世界を旅するシスターもすっかりワーカホリックになってしまったらしい。

 

「ああ、実現するのは年単位で先になるだろうけどな」

「そうしてください。また無茶をされては、いろんな意味でこっちの身がもちませんから」

「肝に銘じておく」

 

 女神牧場を立ち上げてからというもの、無茶しかしていない気がするからな。反省しよう。

 

「終わったー!」

「ふふっ、お疲れ様です」

「ん?」

 

 それから黙々と書類を裁き、なんとか明日の始業には間に合いそうなところまで漕ぎ着けたとき、ふと窓の外に視線をやった俺はあることに気づいた。

 不思議に思っていると、同じ方向に視線を向けていたらしいエリシャがポツリと呟いた。

 

「雪ですね」

「もう冬になってたのか……収穫祭終わってから時間経つの早すぎだろ」

 

 最近忙しかったこともあり、季節感をすっかり忘れていた。思えば、紅葉のシーズンもすっかり終わっていたな。

 でも、そうか。もう冬なのか。

 

「ゲレンデを作ればさらに観光客が呼べる……」

「ネイトさん、お願いですから一旦そこで止めてくださいね。コナーさんがいるせいで最悪今シーズン間に合っちゃって仕事が大変なことになりますから」

 

 思いついたことを口にしただけだったのだが、真顔で止められた。最近エリシャにこんな顔ばかりさせている気がする。

 

「さて、風呂でも行くかなー。エリシャはどうする?」

 

 俺は誤魔化すように咳払いをすると、話を逸らすことにした。

 

「私もちょうどお風呂へ行こうと思ってました」

「……あの温泉、実質混浴だってこと忘れてるぞ」

 

 女神のお節介のせいで男湯と女湯の境目が消えた温泉は、従業員用の温泉ということで男女で時間を分けて運用している。

 できればカイジに直してもらいたかったのだが、女神の加護が変に発揮されているせいで直せなくなってしまったらしい。マジであの女神、余計なことばかりしやがって。

 

「だ、大丈夫です! 裸の付き合いは信頼関係の構築に効果的なんですよね? だったら、ネイトさんと一緒にお風呂に入るくらいへっちゃらです!」

「いや、あれは同性の話だから」

 

 顔を赤くしながら捲し立てるエリシャに、つい冷静に突っ込みを入れてしまう。男と混浴するシスターってどうなんだ。

 結局、何故か意地を張ってきたエリシャに押される形で、一緒に温泉に入ることになった。

 

「お、お背中流しましょうか?」

「いや、寒すぎてとっとと体洗って温泉に浸かりたい」

 

 最初こそぎこちない空気だったが、この寒空の中で入る温泉が気持ち良すぎて、そんなことはどうでもよくなっていた。

 雪降る中で入る夜の温泉はまさに幻想的だ。

 周りには星空が見えて、寒さから湯気が立つ温泉に降った雪が触れては消えていく。視界の端にはランプの灯りが雪に反射する様子も見える。

 ぼーっと眺めていると、突然エリシャがこんなことを尋ねてきた。

 

「ネイトさんは今の自分をどう思っていますか?」

「予想外も予想外だ。まさか開拓した無人島で観光牧場を開いて社長をしてるなんて、ちょっと前の俺からは考えられない」

「私も一人で布教の旅をしていた頃を考えれば信じられませんよ」

 

 女神牧場の中でも、俺は社長でエリシャは料理部門の部長だ。予想できるはずもなかった現状には、俺もエリシャも笑うしかない。

 

「この一年、いろいろあったよな」

「ええ、慌ただしい一年でしたね」

 

 異世界転移から始まり、流れ着いた無人島を発展させろーなんて女神から頼まれたと思ったら、種もないのにいきなり膨大な土地で農業を始めることになったり、鉱山に潜ったり、言葉が通じない女神信者のシスターを拾ったり、無口な大工の息子と友人になってロープウェイを建設したり、謎が多い美人の有能酪農家を雇ったり、観光牧場を開いたり、収穫祭を開いたり……思い返せばキリがない。

 ニートだった俺が、こんなにいろんな出来事が凝縮された日々を送ることになるなど、誰が想像できただろうか。

 

「私、この島に来てネイトさんと出会えて良かったです」

「どうしたんだよ急に」

「急じゃないです」

 

 エリシャは日頃から感謝を伝える方ではあるが、こうして改まって告げられると気恥ずかしい。むず痒い気持ちになっていると、エリシャは俺の横に腰かけてからそっともたれかかってきた。

 お前、ここが温泉で自分が裸ということを忘れていないか。

 

「だって、この島に来てから幸せなことばかりなんです」

 

 動揺する俺をよそに、エリシャは温泉に浸かりながら幸せそうに笑う。

 

「ネイトさんと出会わなければ、ユイさんとお友達になることも、女神様のいる島で暮らすことも、いろんな料理を覚えることも……マザーと再会することもできなかったんです」

「きっかけはそうかもしれないが言い過ぎだ。全部、エリシャが努力したから叶ったんだよ」

「それを言うならネイトさんこそ、そうですよ。こうして今、あなたが凄い結果を残せたのはネイトさん、あなたの努力の結果なんですよ。私達はきっかけに過ぎません」

 

 お互いを褒め合い、そしてどちらからともなく笑い声がこぼれる。

 

 なんかいいな、これ。

 

 俺がぼんやりとそんなことを思っていると、エリシャが温泉の水面を見つめながら呟いた。

 

「本当に幸せだなぁ……」

 

 それから、少し間を置いてからこちらを見上げてくる。その瞳には、不安の色が混ざっているように感じた。

 だから俺は……彼女が話し始めるまでずっと待つことにした。

 それから数分が経過した頃、エリシャは静かに想いを言葉に織りなす。

 

「私、ネイトさんが好きです」

 

 風がないせいで、やけにその言葉だけがはっきりと俺の耳に届く。俺は彼女の想いに応えるべく、自分が伝えられる言葉を探すことにした。

 

「ああ、俺もエリシャが好きだ」

 

 そして、口を突いて出てきた言葉はエリシャと同じくシンプルな気持ちだった。

 

「これからも傍にいて俺を支えてほしい」

「はい、喜んで」

 

 俺はそっと彼女の肩を抱くと、顔を寄せて唇を重ねた。

 触れ合う程度の短いキス。唇を離すと、エリシャの赤い顔がよく見えた。

 

「俺も今、最高に幸せだよ」

 

 今の気持ちを言葉にしようと必死に考えて、今の俺が一番伝えたい気持ちを言葉にした。

 俺の幸せは、俺が何かしたから得られたものじゃない。傍にいてくれる仲間がいて、互いを支え合える人がいる。それだけで、俺は十分すぎるほど幸せを感じられた。

 俺達はゆっくりと温泉に浸かりながら見つめ合う。お互いに何を言うでもなく、時間だけが過ぎていく。

 

「あら、ここのいましたのね」

「「うひゃあああ!?」」

 

 完全に二人の世界に没入していた俺とエリシャは、突然聞こえてきた声に思わず飛び退く。慌てて振り返ると、そこには酒瓶を手にしたメグミさんの姿があった。

 

「メ、メグミさん!?」

「ちょ、体隠してください!」

 

 何故ここにいる。というか、何故温泉に入ってきている。

 突然の展開に頭が追いつかずフリーズしていると、メグミさんは温泉に入り込んでくる。

 

「大丈夫ですわ。気にしませんので」

「俺が気にするんですよ!」

「まあまあ、そんなことよりどうです、一杯やりませんか?」

 

 そう言って、メグミさんは酒瓶を見せつけてきた。まったく、エリシャの前なのだからいつも通り猫をかぶっていてほしい。

 

「お、俺は上がります!」

「ちょっとネイトさん! この状況で逃げようとしないでください!」

 

 俺は慌てて立ち上がると、温泉から上がる。後ろから非難するようなエリシャの声が聞こえてくるが聞こえない振りをする。

 せっかく良い感じの雰囲気だったというのに、この人のせいでブチ壊しである。本当に余計なことばかりしやがって。

 

「めが――メグミさん。風呂に酒を持ち込むなんておっさん臭いことしてたら今期逃すぞ」

 

 そんな恨みを込め、バカにするようにメグミさんへと声をかける。すると、俺の言葉にメグミさんは笑顔を浮かべ、どこかの誰かさんのように叫んだ。

 

「あんたバチ当てるわよ!」

 

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