無謀なる者達   作:芥川賞候補者

2 / 9
一話

人生はクソだ、これは、俺が19年に及ぶ年月を経て悟った一つの真理である。

 

必死に働いて貯めてたお金が、どっかクソの連帯保証人になったせいで消える。

 

信じてバイトに送り出したポンコツが、働き先の店を全焼させる。

 

馬鹿どもを信用したせいで、大規模抗争に巻き込まれる。

 

多大な努力を以って得た物だろうと、大いなる覚悟で決断したことであろうと、風の前の塵と同じように消し飛ぶ。そんな理不尽そのものといえるのが人生だと、俺は知っているし、人生に唐突に訪れる不幸の一つや二つ何とも思わない精神力を、十分に培っていると自負している。

 

「だからと言って、これはあんまりではないだろうか」

 

俺の眼前にあるのは総額20億ルネに及ぶほどの請求書である。ま、まぁ請求書が届くことは、うちじゃ日常茶飯事だしいまだいいだろう。日常茶飯事だと片付けちゃ絶対ダメだろうが、まぁいいだろう。

 

問題は請求額だ、20億。あれ?やり手の冒険者が生涯に得るルネが2億とか言われてるのに、その10倍の20億???

 

終わってます。これは終わりなんです。どうしよう、俺明日から借金取りから逃げる日々だよ。毎日朝ご飯も昼ご飯も夜ご飯もパン一つどころか米一粒だよ。今まで育ててくれた親に孝行したり、村のみんなの生活を助けるために冒険者になったのに、助けるどころか俺が助けてほしくなってきたよ。

 

「つうか請求元どこだ…?ワンチャン顔見知りの所だったら減らしてくれるかも…」

 

悪い予感を感じつつも請求書をめくると、そこには”最後の雫””乾いた血潮””最悪連合会”の合同署名があった。なんと東連合国三大ギルド揃い踏みである。終わった…。

 

まだ一つだけだったらなんとかなったかもしれない。二つだったら国外逃亡すればギリセーフであったかもしれない。三つとなるとお終いだ。もうお前らは東連合国から出れないし、金を返済しないなら死ねと宣告されたも同然である。

 

一体なぜこんなことに…。できるだけ嘘をつかず、人に迷惑をかけず、実直に誠実に生きてきたこの俺が、なぜこんな目に遭っているのだ。あれか?この前報酬金をちょっとだけ多く請求したせいか?いいじゃんちょっとぐらいさぁ。ぶんどったて言っても10万ぽっちよ?命かけてんだから少しぐらい跳ねてもよくないですか?

 

いや待て、この請求書が間違えてうちに送られた可能性もないわけではない。現実逃避であることはわかっている。しかし、しかしだ、事実を確認するまではそれは事実と決まったわけではない。そこには無限の可能性があるんだ。

 

そうか、日頃の良き行いの全てはこの時のためにあったのか。『善業を積み、祈りを捧げれば神は必ず応えてくれる』、いつもは金が大好きな腹黒坊主共が何言ってやがると吐き捨てる聖神教会の教義が、なんだか今日はとてつもなく有難く感じられる。神とはこの信ずる心から生まれるんだ。

 

真理に至った俺が、この程度の試練を乗り越えられぬはずがない。いやぁどっかの誰かは大変だな!急にこんな額の借金負うことになってな!しかも三大ギルドが請求元とか、一体どんなことやらかしたんだか!でもこんな請求書急に送られてきたこっちの方が大変だから!俺の優雅な休日がお前のせいで陰鬱なムード漂う地獄になるところだったぜ!

 

うおおお偉大な神様万歳!日々頑張ってる俺様万歳!故にこの請求書の送り先は―――

 

 

送り先:”無謀なる者達”

 

 

―――ウチです…。ついでに神は死んだ、もういない。

 

 

 

♢♦♢♦♢

 

 

 

「えーここに20億に及ぶ請求書があります。心当たりのある方」

「皆目見当もつかない」

『以下同文』

「殺すぞ」

 

いけない、思わず殺意が出てしまった。いくら意志の疎通ができない猿共と言えど、直ぐにコミュニケーションを放棄しては前に進めない。心を鎮めて対話を図るのだ。

 

「ひぇっこわっ」

「これだから今どきの若者は…」

「先輩への敬意が足りないよねェ~」

「足崩していいか?」

 

殺すぞ。

落ち着け俺!今さっき平常心を保つことを誓ったばかりだろ!心頭滅却すればバカの言葉もまた涼し。理知的で常識人な俺が、こんなカスに等しい妄言などに揺り動かされていてはいけない。

 

団長に教わったリラックスする呪文を唱えよう、ひっひふ―ひっひふーひっひふー…。よし、心が和らいだ気がする。団長の事だからどうせ嘘だろと思っていたが、結構効いてる気がするぞ。今度ヨハン先輩にも教えよう。

 

さて、俺は今ギルドハウスにて、うちのギルド問題児オールスターを呼び、今回の件について尋問している所である。並んでる所を見るだけで頭痛がするし腹も痛くなってきた。

 

容疑者は次の4人。月に三回は借金するギャンブル中毒者、ロア・グローリー。青髪低身長の生意気ポンコツ、リアシュ・エウラック。いつも糸目で誰かを裏切ってそうな自称紳士、カイト・オルティバイ。そしてウザったい程に長身筋骨隆々バカの我らが団長、ナインハルトである。

 

まずは悪い意味で随一の素行を誇り、問題の発生量では文句なしのナンバー1から審問しよう。一分で有罪判決してやる…。

 

「〆ることはもう決まってますけど、一応聞いときます。団長、何やっちゃってくれたんすか?」

「俺は悪くない」

「悪いとか悪くないとかじゃないんだよおおおお!何やらからしてくれたんだって聞いてんだよおおおお!!」

「俺は知らない」

「ああん?アンタが知らねぇわけないでしょ。なんか心当たりとかないんすか?」

「知らん。俺はここ一ヶ月ぐらいは何の正当でない暴力はしてないし、食い逃げもしてないはずだ。」

 

むぅ。嘘を吐かないっていうのが団長の唯一レベルの美点だし、今回はマジで知らないのかもしれないな。

 

「じゃあ、リアシュ、お前か?お?今の時代は男女共参社会だぞ?俺の男女平等腹パンが炸裂する前に吐けよ、このままじゃお前の胃袋にあるものが出てくることになるぜ?」

「知らないですー、ずっと自分の部屋で引きこもってましたー。ていうかアルトちゃん、どうせそんな事しないでしょ、なんだかんだ甘いですからねぇ。だから舐められるんですけど♡」

「このクソチビ…!」

「ぷぷ、もしかして怒っちゃいましたぁ?沸点低すぎて笑っちゃうんですよねぇ、プークスクス」

「黙れ貧乳」

「ああん!?」

 

クソうぜぇし、いつもと同じく泣くまで弄りたい所だが、今回は構ってられるほど暇じゃない。「ちょっとぉ!」「お黙り」「むきぃー!!!!」。さて、次の容疑者に移ろう。

 

「ロア先輩、アンタでしょ?どうせまた出所のわからない借金したんでしょ?次やったら手足を縛りつけて半年はギルドハウスに監禁って言いましたよね?覚悟できてますよね?」

「いややってないやってない!ていうかアルト君、僕が姉御の酒場で住み込みの強制労働してたの知ってるよね?」

「いやまぁ知ってましたけど。ロアなら抜け出してどっかで賭け事してても驚かないので…」

「えぇ…どんだけ信用ないの僕。流石に姉御が怖くて抜けられないよ、命が惜しくなっちゃう。あれ?ていうか、今僕の事呼び捨てにした?」

「気のせいですよ」

 

むぅ、ロア先輩でもないのか。となると…

 

「カイトさん、貴方ですか。まぁ貴方だろうとは思ってましたけどね」

「いやァ、僕じゃないヨ。ていうか何もまだ聞いてないよネ?どんだけ信用内のさボク」

「その面してて信用する方が難しいですよ」

「ちョ、酷イ、酷くなイ?それ差別って言うんだヨ?ていうカ、僕この中だったら一番常識的だからネ?この人たちと同列に扱わないで欲しいんだけド」

「楽しくなりそうだからって理由で極悪連合会に喧嘩売る人を、僕は常識人とは言えないです」

「いやそりゃ常識人ではないけどさァ…」

 

常識人じゃない自覚はあるのか…。

というか、むぅ、カイトさんでもないとなると誰が原因なんだ?最後の雫と乾いた血潮、極悪連合会から連署で来てるし、理由があるとしたら大問題児のこいつらしかあり得ないと思ったんだが。

 

一度第一区に行って最後の雫に何の要件なのか聞きに行った方がいいかもなぁ…、あそこ堅苦しい雰囲気あるから苦手なんだけど。まぁ最近レンに会えてないし、ちょうどいいかもなぁ。

 

「というか、アルトクン。どこからその請求書来たんだイ?」

「あー、そういえば言ってませんでしたね。三大ギルド全部からです」

「えーヤバ。一つづつなら何度かあったけど、全部となると初めてでしょ。結構大事じゃーん」

「だから焦ってるんだよ…。まぁレンに会いたいと思ってたし、ついでにどういう理由なのか聞いてくるよ。あっちで宿取るから、今日は各自でご飯の用意してな」

「オッケー。アルト君、お土産よろしくね☆」

 

うぜぇ…。しかし、問題児共に心当たりがなかったおかげで、消滅したはずの送り先間違い説が再浮上してきた。神も生き返った気がする。

 

そういえば、いつも馬鹿どものブレーキ役として付き添ってる事が多いから、こうしたちょっとの間でも離れられるそうな好機が暫く無かった。久しぶりに羽を伸ばして休めるかもしれないな。

 

せっかくだし、レンと一緒にどっかに遊びに行くか。美味い飯も食いに行くのもいいし、遺具店巡りに行くのもいい。ふふ、いいねぇ希望に夢が広がってきたぜ。

 

「待て」

「ん?なんすか?時間ないんで夕食の作り置きはできませんよ?自分で頑張って飯探してください」

「三大ギルドが請求元なら心当たりがある」

 

え?

 

「や、やだなぁ。さっき最近は何の暴力も食い逃げもしてないって言ってたじゃないっすか。冗談はよしてくださいよ~、こっち忙しいんすから~」

「正当でない暴力はしてないだけだ。正当な事ならやっている」

 

や、やめろ。

 

「俺は」

 

それ以上口を開くな。

 

「一週間前」

 

黙れと言っているんだああああ!!

 

「歓楽街をちょっとだけ消し飛ばした。後悔はしてない」

 

 

団長は殺すし神は二度死ぬ。俺もストレスで死ぬかもしれない。

 




ロア・グローリー
普通にクズ。先輩風を吹かせる事に定評がある。

リアシュ・エウラック
ポンコツ。メンタル弱すぎてメスガキになれない。

カイト・オルティバイ
詐欺師面糸目。レスバ最強系男子。

ナインハルト
脳筋人外お化け。一番アホ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。