無謀なる者達   作:芥川賞候補者

3 / 9
二話

「え…すみません、聞こえなかったです。もう一回言ってもらってもいいですか?」

「歓楽街をちょっとだけ消し飛ばした」

「なんで???」

 

頭おかしいよこの人…。

 

「いやちょっと待ってください。歓楽街?あのロストロードのですか?しょっぺぇ規模の歓楽街とかじゃないんですか?」

「そこだな。」

 

そこだな、じゃねぇんだよ馬鹿がよ。

 

ロストロードは東連合国四番地区の通称である。”ロストロード”という名は、東連合国が東連合国となる前、四番地区がただの小国の領土であった頃に、その地を治めていた領主の一族が、地区に侵攻してきた魔獣との戦いで滅亡して以降、20余年に渡って支配者が存在せず、王座が空白であったことからついた。

 

しかし二年前、東連合国最大の規模を誇る"最後の雫”と、『最悪最凶』の悪名名高い”極悪連合会”、そしてここ数年で急速的に勢力を伸ばした”乾いた血潮”によって、大規模なこの地を巡った抗争が起き、血で血を洗う戦いの末、三者の共同による支配協定が成立した。

 

当時、多く存在していた荒くれ共やギャングは、無抵抗の者はそれぞれのギルドの傘下に入り、抵抗したものは髪の毛一本すら残らないほどに殲滅され、この地の勢力図は綺麗に三分化した。

 

つまり、ロストロードで破壊行為等の問題を犯すということは、これら三つのギルドの尾を踏むという事と同義なのである。

 

そら来ますわ!こんな請求書も来ますわ!寧ろ大挙されて嬲り殺されてないのが奇跡ですわ!

 

「話すと長くなるが、訳を聞くか?」

「いいっすよ…。聞いたらその場で倒れる予感がするのでいいっすよ…」

「なんでだ?」

 

マジでくっだらねえ事だったら頭が破裂しそうで聞くのが怖いからだよ。

 

「え、ていうか知らなかったのアルトクン。君気持ち悪いくらい情報通だから当然知ってると思ってたヨ」

「まったく知りませんでした、初耳ですよ。え?ていうか滅多に表にでないクソニートで情弱のカイト先輩が知ってるくらい大きな騒ぎだったんですか?」

「うーんいつも通り感心するくらい返しが強イ。ロストロードが小規模とは言えど文字通り消し飛んだシ、団長が歓楽街の元締め相手に大立ち回りしたからネ。まぁ”夜王”が箝口令布いてたらしいかラ、流石のアルト君でも知らないのは仕方ないかナ。僕が知ってるのもソニア君の愚痴をたまたま聞いたからだシ」

 

おお、お労しや姉御。馬鹿共のケツを一緒に拭いてくれてありがとう。いつも始末書書くのを手伝ってくれてありがとう。今度一緒に飲もうね。サンキュー姉御。フォーエバー姉御。

 

「ふフ、しかしソニア君のような気の強い女性の顔が物憂げに歪んでいるのを見るのはやっぱり最高だネ。思わずこぼした溜息も良かっタ…。ふフ、愉悦愉悦」

 

きめぇ!この人マジこういう所なんだよなぁ…。性格が普通に終わってる…。

 

黙ってたらギリギリうさん臭いだけのイケメンで済むのに、喋った途端外道味が溢れ出てくるの本当にどうにかした方がいいと思う。

 

あ、姉御に次あったらカイトさんがまた覗き見してた事報告しとこ。そろそろ姉御はストーカー被害でカイトさんを訴えた方がいいと思う。

 

「そいえばなんで団長ちゃん生きてるの?」

「唐突な罵倒」

「いやそうじゃなくて、あそこの元締めって確か”暗殺王”でしょ?あの人相手によく逃げることができたねー」

「あいつ俺に貸しがあるし、何よりも開けた場所で喧嘩売ったからな。通行人を肉盾にしたら余裕だった」

「やだ団長ちゃん鬼畜~♡」

 

外道共が…。馬に蹴り飛ばされて死ねばいいのに。

 

「つうかどうするんすか?20億ルネっすよ?いつもの数十万とか数百万とかいうチャチな額じゃないんすよ?マジでどうするんすか?ちょっと誰かいい考えとかないんすか?」

「アルト君!僕に良い考えがあるよ!」

「おおロア先輩!貴方の提案なんて絶対碌な事じゃないでしょうし、実行に移すことも絶対にありませんけど、体裁のために一応聞いときます!なんですか?」

「うーん一言余計どころじゃないね!まぁいいや!ギルドメンバーの全財産全てをかき集めて、それを元手にギャンブルで大勝するというのは――――」

「はい却下。次になんか意見ある人~」

「なんでだい!?全額弁償できるどころか、上手くいけば大金持ちだよ!?」

「上手くいけばっていう前提がある時点で終わりですボケ。姉御の店にぶち込まれたのに、まだ改心してないんですか?あ、そういえばアンタの行きつけの賭博場、この前八百長が常習的に行われたなんかで取りつぶされてましたよ。」

「えちょっと待ってそれ詳しく」

「はいはい~!」

「はいなんですかド貧乳ドチビ」

「おいゴラァ!」

「そういうのいいんで」

「くぬぬぬ。まぁ私の空絶絶後の案を聞けば、アルトちゃんであろうとも私へのリスペクトを持つはず!」

「ほう、形だけの期待をしよう」

「ずばり、複数の金貸しからお金を借りてそれを踏み倒す!私達結構強いし、そんじょそこらの取り立てだったらボコボコのボコにできるでしょ!」

「え…クズ…。クズすぎ…。え…。ちょっと明日から話しかけてこないでください…」

「なはは流石の私でも冗談だって…。え?ちょっと、アルトちゃん目ぇ合わせてよ。おーい!冗談だよぉー!流石の私でもそんな外道じゃないよー!おーい!」

 

クソッ、ギャンブル中毒のクズと、倫理観が欠如したクズのせいで俺の貴重な時間が取られた。忘れてた、こいつら他人の足を引っ張ることしか能のない役立たずだった。期待した俺が馬鹿だった。

 

しかし、本当にどうしよう。まったく名案が浮かんでこない。やっぱり地道に働いて弁償していくしかないのか?一日三食米粒が現実になりそうだな。なりそうだなじゃないよ諦めんなよ。でも諦めるしかないよね…。

 

ああ、思考がどんどんネガティブな方向に行ってる。行き過ぎてもはや底につきそうなレベルだ。もうだめだ、お終いなんだぁ。俺これから死ぬまで働きづめだぁ。

 

「大丈夫だ、アルト。金の宛ならある」

「え…?」

 

おお、貴方は団長、団長じゃないか!今回の元凶の団長じゃないか!頂点にして究極のバカの団長じゃないか!何が大丈夫だくそったれ!アンタのせいで俺がこんな目に遭ってるという事を理解しろ!

 

「元はと言えば全ての貴方のせいですが、私は慈悲を持って対応します!なんですか!」

「目の付けてる未開拓のダンジョンがあるんだ。結構攻略難易度高そうだし、出現してからまぁまぁ経ってるから魔王も成長してるが、まぁなんとかなるレベルだ。あ、でも結構遠いな。14時間ぐらいでつく場所だ」

「死んでください。却下です」

 

忘れていた、この人こそ、全てのバカを凌駕するバカの帝王であることを。

 

「なんでだ?」

「僕が百パー死ぬからです。この前言いましたよね?もう二度とダンジョンなんて行かないって、僕言いましたよね?若年性健忘症かな?記憶喪失したのかな?あと難易度低いって嘘だよね?俺知ってるからね?」

「大丈夫だ、今回は本当に難易度が低いのは嘘じゃないし、全員でお前をちゃんと守ろう。な?お前ら」

『おけ~』

「うーん世界一信用できないオッケーをありがとう。あと語尾を伸ばすな、殺意が迸りそうになる」

「それに冒険者の本文とはダンジョン攻略だ。お前最近討伐クエストすら受けてないし、戦闘技術がかなり鈍っているだろう。然るべき時のために、お前も実戦経験を積め」

「いやです。僕は永遠に植物採取とお困りごと解決で生計立てていくんです。然るべき時なんて一生来ません。僕は野蛮なアンタ達と違って、全ての物に慈しみを抱えて生きていくんです。僕は清純派冒険者になるんです」

「こんなご時世で戦う事以外に冒険者が生きていく術なんてない。どれだけ争いを忌避しても、いつかは剣を持たなければいけない時はくる。これはお前のためにも言っているんだぞ。それに何か他に金を得る宛でもあるのか?お前の言うクエストなぞ、一回に千貰えばいい方だろう。死ぬまで永遠にそんな事を繰り返すつもりか?いいか、お前が全額を弁償するには、ダンジョン攻略しか道はないんだよ」

 

おのれ。いつもボーっとして、酒と肉しか考えてないような間抜け面晒してるくせに、こういう時だけ真剣な顔をして理詰めしやがる。その論理的な思考をもうちょいまともな方向に活かせよ。主に日常生活。

 

しかし、ぐぬう。団長の言うことは、残念だが、真に残念極まる事だが、的を射ている。

ん?いやちょっと待て。

 

「なんか俺が全額を弁償する流れになってません?」

「気のせいだぞ。そんな事より、行くのか行かないのか。この場にて宣言してもらおうか」

『はい一気!はい一気に言ってみよう!行くって!ほらほらほら、あともうちょっとあと一歩!行く!行く!I・K・Uって!ヘイヘイヘーイ!』

 

なんで飲み会のコールしてんだよ。無限にムカつくから火急速やかに死んでほしい。もしくは死んでほしい。

 

畜生、マジでダンジョン行くしかないのか?しかも、こいつらと行くのか?いやだよ絶対死ぬわ俺。俺まだ死にたくねぇよ。

ぐおおだがしかしほかに道がねぇえええ!行くしかねぇえええ!行きたくねぇえええ!

 

あ、待って。

 

やべぇメッチャいい事思いついた。この窮地を一気に挽回できる名案思いついちゃった。むしろなんで今まで思いつかなかったってレベルだ。この案は確実に俺の明日が開ける案だ。やっぱり俺天才なんだぁ…

 

「団長、俺、決めました。紙ありますか?」

「お、ついに行く気になったか。なんだ?決起書でも書くのか?いいぞ、やろう」

「ありがとうございます」

 

俺は己の無比たる覚悟を表すため、渡された紙に二つの文字を書いた。なんだろう、さっきまでの事が昔の事に思える。それどころか、今まで俺が被ってきた面倒ごとでさえも美しき思い出のように思える。世界が美しく見えるぞ。

 

いやそんなことないわ一生根に持ち続けるわ世界はドブ色だわ。まぁ、いいだろう。今だけはこれまでを忘れてやろう。なぜなら、

 

「辞表です。俺このギルドやめます。なんだかんだ楽しくはなかったけど、面白くもなかったけど、俺のしてきた多大な貢献に比べれば、そこまで大した世話もしてもらいませんでしたけど、まぁありがとうございました。じゃ、さいならー」

 

俺の新たな門出だからだああああ!じゃあなクソ共!永遠にさよならグッバイだぜええ!

 

 




姉御
本名、ソニア・エールサイス。常識人枠。常に溜息をついている。可哀想。本編に登場するのは当分先。

夜王
ロストロードの帝王。三大ギルドでさえ手を出せない。妙齢の美魔女。

暗殺王
暗殺王(笑)。相手を取り逃がすことに定評がある。この前実質の上司にわざとやってんのかと怒られた。ストレスの絶えない中間管理職。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。