無謀なる者達   作:芥川賞候補者

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三話

『ちょっと待て』

 

清々しい気持ちでギルドハウスを去ろうとしたら、何故か全員から肩を掴まれた件。

 

「なんですか?輝かしい未来を拓かんがために、俺今新たな一歩を踏み出したばっかなんですけど」

「ちょっと待とうよ。判断が極端すぎるよアルト君」

「何が極端だコラァ!俺今他人の責任を背負わされる所だったんだぞコラァ!」

 

しかも俺が全く関与してない事だぞコラァ!どんなとばっちりだコラァ!つうか肩から手ぇ放せよ!強く掴みすぎて痛いんだよ!いや痛すぎ痛すぎ!ゴリラか?ゴリラなのか!?全員力強すぎだろ!いやそんな事ないわ、リアシュ先輩だけ全力で抵抗したら吹っ飛んでった。かわいそう…、かわいそうなのは俺じゃい!

 

「いや確かに!確かにこれは団長ちゃんが全面的に悪いよ!?だけどアルトちゃんの監督不届きによる責任もあるくない?」

「団長は子供かよ!もういい年だろ!絶対やっちゃいけない事の良し悪しくらいわかれよ!つうかなんで俺が問題児の責任者みたいな扱いになってんだよ!こんな奴の責任取りたくねぇよ!」

「オーケーアルトクン、こう考えよウ。君は今試されているんダ。培ってきた君の精神力が試されているんダ。今まで幾多の試練を乗り越えた君ガ、こんな事で折れてどうするんだイ!さァ、顔を上げて!イッツァチャレンジ!」

「幾多の試練を課してきたのはアンタ達だし、20億ルネは”こんな事”じゃねぇ!」

 

今回の一件だけなら、慈悲深き俺はこいつらの甘言につられてやったかもしれないが、前にも言ったように、俺がこのような迷惑を被ったのは一度や二度どころではない。思い出すだけでも背筋が凍り、「よく死ななかったな俺」と思う事に、俺は何度も巻き漏れてきた。

 

例えば地下大下水道での冷酷なる魔粘体(キング・シュプリム)討伐クエスト。寒く暗い地下に一人で起き去られ、低体温症で死ぬ寸前まで行った。ただの事故だったらまだしも、思いっきり味方の攻撃に巻き込まれる形で下層に落ちた。他人の失敗には寛容になれと言われ育った聖人君子の俺が、あれほど誰かを強く憎んだ日はないだろう。おうリアシュ、別名天然ド鬼畜ポンコツ、お前の事だぞ。

 

次に獅子王城、あれも本当に酷かった。団長の『初心者向きでそんなに攻略難易度は高くない。せいぜい二級程度だろう』という言葉にまんまと騙され、愚かにもついていったらそこは推定四級クラスのダンジョン。幸いにも重症は負わず踏破する事ができたが、至る所に張り巡らされた苛烈な罠や、ダンジョンの主である”憤怒の魔王”の攻撃によって、何度も死を覚悟した。昔は誰よりも純粋で澄みきった心を持っていた俺は、あの時から他人を信用する事をやめた。

 

最後に”極悪連合会”との衝突。カイト先輩と団長が喧嘩を売り、落とし前を付けさせようとギルドマスターと四大幹部の一人が自ら配下を連れ、俺達のギルドハウスに襲撃しに来たのだ。昼夜問わず押し寄せる凶悪な顔をしたゴロツキ達を見て、これは悪夢か隅で震えたのは、人生の中でトップ5には入るであろう嫌な思い出である。最終的には、団長たちの周囲への影響を考えない圧倒的暴力によって大半が撃退され事、相手側が小規模のギルド相手に全力を出しては面子が立たない事、これ以上戦いを続ければ、近隣の地域や人々に更に悪影響が及ぶ事などを理由に、『最後の雫』が仲裁をすることで、何とか戦いは終息した。

 

だがその休戦協定を結んでる時に、何故か”無謀なる者達”の新入りの俺と、同じく”最悪連合会”の新入りが戦う流れになった。おいおい勘弁してくれ俺を巻き込むなクソ共と思ったが、相手が俺と同年代くらいの女の子だったし、断ったら殺されそうな雰囲気があったし、その戦いに”殺しは無し”というルールがあった事から、俺は渋々その流れに従う事にした。

 

なによりも、成りたてではあるが、自分はそこらの冒険者とは、比べようにならない程に濃密な経験を積んでいるという自負があり、「やれやれ、まだまだ未熟な青い実を揉んでやりますかぁ…(笑)」という余裕があったのである。

 

しかし、そんな余裕は刹那の如く消え失せた。相手の女の子、いや女の子の形をした化け物は、恐ろしく強かったのである。剣を振る度に猛烈な風が吹いたり、踏み込むだけで地面が巻き上がったりと、お前団長と同類のゴリラかよと思った。特に最後の赤い雷を纏った一撃はヤバかった。死ぬかと思った。おしっこチビりかけた。ていうか殺す気だっただろあれ、目がマジだったもん。今でも寝ている時に度々夢として出てくるレベルである。

 

結局最後まで攻勢に出ることは一度も出来なかったものの、俺は何とかその修羅場を乗り切ることができた。後日聞いてみれば、その女の子は件の四大幹部の妹で、誰もが一目置くレベルの期待株だったとか、殺しは無しだが、”不慮の事故”はアリだったとかいう闇深い情報が次々と出てきた。マジで団長許さねぇ。

 

どれも本当に思い出したくない、黒く輝く数珠の如き最悪な出来事達である。本当になんで俺生きてるんだろう、神に感謝。神なんていねぇよ!神がいたら俺こんな目に遭ってねぇよクソが!

 

「アルト、落ち着け。お前は今、一時の激情で全てを壊そうとしている。それに前言っただろう?『何があっても諦めないでください、俺がいつでも傍で支えますから』と。その約束を反故にするつもりか?」

「そんな事言った覚えねぇよ!天と地がひっくり返っても言わねぇよ!なんだよそのキモい台詞!」

「それになりよりも…、お前の飯が食えなくなるのは辛い。お前以外に飯を作れる奴はいないんだ。俺達を餓死させるつもりか?」

『それ』

「そこは作ろうとする努力を見せろよ!ていうか姉御がいるでしょ」

『あれを食べ物と言うのは食べ物への冒涜』

「ひでぇ…」

 

確かにではある。あれは俺でも食いたくない。でもそれを言うと姉御泣きそうになるんだよな…。こいつらの泣き顔みても何も思わないけど、姉御は良い人なだけに流石に心が痛む。なんとか矯正しようと料理教室を何度か開いてるんだが、一向に改善しない。ちゃんとレシピ通りに材料を入れて、工程もしっかり熟してるのにである。もはや何らかの呪い説を推すぞ。

 

ってこんな事はどうでも良くないが良いんだよ。しかしどうしよう、思ったより抵抗がいぞ。まぁ貴重なケツ拭き係兼飼育員は手放したくないんだろうな。どんだけ抵抗しても力じゃやっぱ勝てないし、今回はしょうがない、折れるとするか。まぁ好機を見つけて夜逃げすればいいだろ。

 

「…わかりました。このギルドを抜けるのは一旦辞めます」

『おお!』

「でもダンジョン行くのは嫌です。俺抜きで行ってください」

『それはやだ』

「何でだよ!」

 

そこは譲歩しろよ!そんなに俺とダンジョン行きたいのか?俺そんな強くないよ、むしろ最弱レベルだよ!自分で言っててちょっと悲しくなってきた。

 

「だってダンジョンで飯食えないし」

「アルトちゃんのギフトがあるかないかで探索結果が大きく変わるし」

「なんだかんだ情報通がいると助かるシ」

「あと何かあった時に責任取ってくれるし」

『それ』

「俺は好きでアンタらのツケを払ってる訳じゃねぇんだよ!」

 

一つも戦闘面の事でフォローがなかった。泣ける。

 

「と・に・か・く!俺はダンジョンには行きません!俺を置いていくか、俺がここを辞めるかの二者択一です。さぁ決めてもらいましょうか!」

 

ふっ、決まったな…。流石のアイツらと言えど、俺を置いていかざるを得ないだろう。勝った!

 

「ふむ…、残念だ」

「残念でしょう残念でしょう!さぁ、俺を置いてアンタらは先に行け!」

「あぁ、残念だ。奥の手を切らなければいけない事が」

「…え?」

 

 

 

 

「ノルルに、『アルトお前の事好きなんだって』って言うぞ」

「うおおおお殺すぞおおお!」

 

 

 




ノルル
本名、ノルル・メディア。無謀なる者達の一員。聖神教会にも所属しており、そちらでの活動が忙しく、中々ギルドハウスに顔を出せない。ちゃんと性格がよくてかわいい。アルトとは2歳年上。

冒険者の等級低さ順
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