「人の恋心を利用する奴は死ねばいいと思うんです」
太陽が最盛を迎える真昼。俺達は長旅を終え、件のダンジョンの入り口に来ていた。
「まだ言ってるのかいアルト君。いい加減切り替えたらどうだい?」
「切り替えられる訳ないでしょ。僕の純粋無垢な恋心を利用して、半ば無理矢理連れてこられたんですよ?しかもずっと馬車に乗ってたせいで、尻が痛いし気分が悪い。ほら見てください、リアシュが死にそうな顔してます」
「おえええ…」
「おまけに今から人生最大級の命の危機が迫ってるんですよ。やばい、俺も吐きそう…」
場所も場所だ。一応団長の「攻略難易度は低い」、という言葉に儚い期待を抱いていたが、そんな物は此処に着いた瞬間消え失せた。
痛哭街・メギドナ。かつて、
『”殲滅卿”は勇猛であった。大波の如き魔物の大軍を滅ぼし、自らの民を命尽きるまで護らんと、昼夜を問わずしてその力を振るった。途切れなく、絶え間なく、間断なく押し寄せる災禍を前にしても、”殲滅卿”は折れなかった。二日、三日、四日、五日、いつ終わるかも分からぬ苦難の日々と、積み重なっていく自身の疲労を前にしても、”殲滅卿”は一度として弱音を吐かず、休みもしなかった。
そして、十日目。突如として戦場は沈黙に包まれた。民は歓喜した、我が王の無比たる献身により、遂に我らの国は救われたと、長き戦乱の日々は終わったのだと、誰もが泣いて喜んだ。しかし、”殲滅卿”は剣を離さなかった。誰かが言った、「王様、戦いは終わりました。祝いの宴も用意いたしました。そろそろ緊張の糸を解き、お休みになってはいかがでしょうか」と。対して、”殲滅卿”は答えた、「戦いはまだ終わっていない」と。多くの血を呑み、死の行進を耐え抜いた彼は、彼だけは、己達に迫る空前の脅威に気づいていたのだ。
そして、十一日目。何の前兆もなく、突如としてその災厄は顕現した。
”
人という枠組みの中では、限りなく頂点に近しかった”殲滅卿”であったが、人の身を遥かに高く上回る存在には敵わず、壮絶な抵抗の果てに戦死した。しかし、彼が死に際に放った一撃は、断つまでとは行かずとも、致命へと導く傷跡をその身に刻んだのだ。そして、一ヶ月に及ぶ耐久戦の末、11人の銀級冒険者と2人の金級冒険者の命を代償に、ようやくかの怪物は滅んだ。
そして、かの怪物の爪痕は、今なおセニス旧人類統治圏の地に強く根を張っている。かつて存在した9つの地区は、繁栄の跡が僅かにしか残らないまでに破壊され、それぞれが魔物達が蔓延る魔境となった。
ここ三年は大規模な侵略が起きず、安全な地域が増えつつあることで、ギルド連合が正式な調査を始められるようになったが、探索は遅々として進まない。”轟哭覇踏の巨象”により、土地のほとんどが草の根一つ生えない更地になったため、開拓した所で得られる利益がほとんど無いからである。
ましてや、冒険者は誰よりも自身の損得のために生きる者だ。危険を顧みず、他者を顧みず、過ぎ去った過去を顧みない。ただひたすらに、刺激や、財宝や、名誉や、己の求める物を手に入れるために戦う者。誰のためでもなく、自分のために生きる者。それが冒険者という者だ。
そんな者達にとって、この地に如何ほどの価値があるだろうか。答えは一つだろう。故に、セニス旧人類統治圏は”失われた大地”と呼ばれているのだ。』
”殲滅卿”と同じく”七王冠”の一人に数えられた、”賢帝”オルフェイス・ガルディアの著書、『アルブケイル史大紀行』からの抜粋である。
当時の悲惨極まる状況とは違って、この地も少しづつ草木が生え始め、復活の兆しを見せつつはるが、依然として人の気は無く荒廃している。ダンジョンが発生しても、『最後の雫』のような慈善家の集まりしか攻略しようとしないし、以前として魔物共の楽園と言う状況も変わっていない。
おまけに、古くに発生したダンジョンは、人間から何の干渉も受けず、伸び伸びと成長しいるため、危険度は上がり続けていると言っていい。セニス旧人類統治圏の未開の深奥には、いったいどんな化け物が誕生しているのか、何とも恐ろしい話である。
で、俺らが今いるのはその深奥のちょっと前くらいです。オワタ。
「ああぁ行きたくねぇええ!」
絶対ヤバいじゃん!絶対攻略難易度三級以上じゃん!下手したら五級級指定ありえるレベルじゃん!
しかも未開ってことは先達いないやん!情報ないやん!どこに危険が潜んでるか全くわからんやん!
いや、正確に言えばセニス崩壊前のメギドナの地図はあった。だが、細部が不確かな上に、情報料は激高、6桁後半と言えば伝わるだろうか。ぶっちゃけ法外である。いやまぁ東連合国に法なんてものはないんだが…。
小市民の俺が、そんな額の大金を出せる訳もなく、今回の探索では情報面では手ぶら挑む事となってしまった。せめて聖水くらいは準備してくるべきだったかもしれないなぁ。
ま、馬車の中でも言わせた、「命がけで何があってもアルトを護る」という言葉を信じよう。言うてそんな危機的状況になるかもわかんないしな!案外イージーに終わっちまうかもな!いや、終われ!
「てゆーか、ここクッサいねー」
「あ、リアシュ。もう吐き気は大丈夫なのか?体調悪そうな奴ソムリエの俺の見立てじゃ結構長引きそうな感じだったけど」
「何そのソムリエ…。まぁ一回吐いたらスッキリしたよ。うげええ…、今日の朝食べた物全部出ちゃったよぉ。ていうかマジくっさい!何これ!」
「あー、ここが何で”痛哭街”って言われてるかわかるか?」
「えーわかんない」
「ここら一帯はゴブリン含めた鬼種が多いらしくてな、魔王も詳細はわかんないけどその系列っぽい。鬼種ってのは気性が荒い奴が多いだろ?ただでさえここらへんは植物も生えてないし、動物もいないから、腹を空かせた奴が多くて、食料を巡った争いが沢山起きるらしいんだ。で、喧嘩で殺されたり重症を負った奴が沢山悲鳴を上げるから、”痛哭街”って言われるんだと。つまり、この匂いはそいつらの死体の腐臭ってこった」
「はえー…。相変わらずアルト君、情報通だね。キモいくらい」
「一言余計だっつーの。あとこんくらいなら情報って言わねぇよ。ちょっとでも調べたらわかるからな」
「そういう所だと思うよ」
おい、なんだそういう所って。あとその満面の笑みやめろ。アルト君は変わらないなぁ、みたいな視線をやめろ。なんか苛つく。
どいつもこいつも俺の事を情報厨だとか、情報でマウント取るマンとか呼びやがって、俺そんな情報通じゃねぇよ。最近はお金なさ過ぎて全然仕入れられてないし。
というかカイトさんの方がヤバいしキモいと思う。頻繁になんでそんなの知ってるんだおめーっていうのが起きるし。あの人姉御の件でも思ったけど絶対盗聴とかやってるよな…。
ま、俺は人格的には最高だからな。性格いいし、面倒見いいし、問題も起こさない優等生だからな。
かっー、リアシュとかロア先輩とかカイト先輩は典型的劣等生だからなぁー!優秀な俺への僻みがこういう言動生んでんのかもなぁー!
ふっ、そう考えればあいつらのなんと矮小でおかわいらしい事よ。この世全てが小さいく見えるぜ…
「またアルト君ナルシストモードに入ってるよ」
「アルトちゃんあーゆートコあるよねぇ」
「ていうカ、ボク達の事憐れんでる視線だよネ。あれ」
「どうする?処す?先輩の物理な威厳発動しちゃう?みんなで先輩パンチしちゃう?」
「実際にやったらアルト君、『うわああ集団リンチだああ!人気のない所につれてきたのは俺を殺すためだったのかあああ!こんなギルドに俺はいられない!今度こそ辞めるぞおお!』って喚くと思うよ。やめとこ」
「うワ。容易に想像できちゃうネ」
『だははははっ!』
クッソむっっかつくわ。油断してるし、剣の鞘でぶん殴ったろうかなぁ…。三人だったらギリギリ全員もってけるだろ。
「おい、お前ら。仲良いのは結構だが、そろそろ行くぞ。できれば3日ぐらいで帰りたいだろ。地下があるかないかで攻略期間がかなり変わりそうだからな。今日中に魔王のいそうな大体の位置は掴んでおきたい」
「おっけ~。ちなみに団長、今回調達してくれたの何~?」
「ああ。出発前に鹿の群れ見つけて何匹か〆て箱に入れといた。喜べお前ら、今日はアルトがジビエ料理作ってくれるぞ」
『やったー!」
「何か俺が素直に作る流れになってんのやだなぁ」
まぁ作るんだけど、俺も久しぶりに鹿肉食いたいし。
「あ、ちょっと待ってください団長」
「ん?なんだアルト。今更引き返すってのは認めんぞ。引きずってでも連れて行くからな」
「流石の俺もここまで決めたら覚悟決めましたよ…。渋々ですけど。そうじゃなくて、装備の最終確認させてください」
「あぁ、わかった。じゃあ出来たら言え」
今回、俺はアサルトライフルの”AMENNI”と、サブとして単発威力に優れたリボルバーの”
兵器が発展した現代で、剣というのは一見時代遅れのように思えるだろうが、魔物の中では銃弾が効かず、斬撃だけしか有効にならない物も少なくない。
次に投擲物だが、閃光弾は5つで、煙幕弾は4つ。俺の技術と力じゃ有効なダメージを与えられない相手を想定して、B級爆弾のPARANも一つ持ってきた。これだけで3万飛ぶから、できるだけ最後まで使いたくはない。
最後に
これら全てを上手く駆使して、俺は攻略に挑む。本当なら聖水を一つくらい持ってきたかった所だが、PARANのせいで所持金が随分持ってかれた。
この聖水一個で泣くような事がなければいいんだがな。ま、なんとかなるだろう。憂鬱だが、もうここまで来たんだ。やるしかない。
「団長、大丈夫です。確認終わりました」
「よし。じゃあお前ら行くぞ、気合入れてけ。蘇生代が高くつくからできるだけ死なないようにな」
『うぃ~す』
「おー」
なんて気の抜ける出発だ…
致命的な矛盾があったから投稿しなおし。
ダンジョンの難しさ
一級…初心者用。油断してたら死ぬけど基本大丈夫。
二級…普通に死ぬ。罠とかがちゃんと人を殺すようになる。ここを卒業できたら初心者卒業。
三級…ここから一気にハードルが上がる。リスクと稼ぎを秤にかけた時にここが一番良いため、攻略の競争率が高い。
四級…ベテランでも攻略するのを渋るレベル。龍種の『魔王』が支配してたりする。
五級…環境が『魔王』の力の影響によって変動するようになる。瘴気が満ちてたりクソ暑かったりクソ寒かったりする。ここを単独で攻略できたら上澄みのギルドと判定していい。
六級…ここを攻略する事が金級冒険者になる条件。複数のギルドが協力して挑まなくちゃいけないくらい広いし辛い。『魔王』はバロウド君まではいかないけど、そのちょっと下くらいの強さ。
七級…発生したら一番近い位置にある国が終わるレベル。冒険者の頂点の黒級がいても厳しい。ちなみに黒級冒険者は一人につき”殲滅卿”10人ぐらいの強さ。ダンジョンの主が原初種だと指定される。
八級…人類滅亡でしゅ~