「おーい、良い加減機嫌直せよー」
「無理」
「いや、足を本気で引っ張ったのは悪かった。今思えばもやしの具現体みたいなお前が、男四人の、しかも人外二人の力に耐えられるわけなかったよな」
「本当だよ!足が千切れるかと思ったよ!死ぬほど痛かったんだからね!いやマジで」
「だから悪かったって言ってるだろー。ほら、団長も反省してるしさ」
「ソーリーガール」
「絶対ふざけてるよね!?」
ふざけてるぞ。
「あーもーいい!先いこ!先!派手に土被っちゃったし、早く休憩できる場所に行きたーい」
「確かに、もう結構太陽も落ちてきた事だし、そろそろ野宿できる所を探さないとね」
「魔王の居場所だと目星を付けてる所まではまだ遠い。今日はまだ歩くぞ」
「ぐえー、気が滅入るぅー」
俺達が目指す場所は、メギドナの中心部に在する大聖堂ヘイヴンストリークである。魔王は己の力を外敵や下位種達に示すため、自らの居城――俗にいう魔王城――を周辺一帯で一番目立つ物にする傾向がある、らしい。
学者面したインチキ爺に聞いた話であるから、信用できるかどうかどうかは微妙な所だが、確かに都市型のダンジョンの魔王城は派手であることが多い。
『間抜けと魔物は目立つ事が好き』。ふむ、言い得て妙だな、我ながら気に入った。特にうちの馬鹿達にも言えることが最高だ。最悪だよくそったれ。
まぁいい、アイツらが最悪なのは今に始まったことではない。とにかく、この辺一帯で最も目立つ建物と言うのが、件のヘイヴンストリークなのだ。
周りは悲惨という言葉しか出ない程、壊滅的な様相を呈しているのに、ヘイヴンストリークだけはかつてのそれとさほど変わらない威光を放っている。不自然なほどに。
しかし、俺にはそれよりも気になることがある。
「でかくね?」
話には聞いていたが、遠目で分かるほどに予想以上に大きい。いや大きすぎる。60トールはあるのではなかろうか、見上げると首が痛くなるレベルだ。
しかも縦だけでなく横にも広い。攻略しがいがありそうですね!やめてくださいよ…
こんな大きくする意味ないでしょ、流石にデカすぎんだろ。離れていても場所がわかるから、迷子になる心配がないくらいしか利点ないだろ。
当時のセニスがどれだけ栄えてたかがわかるぜ。君たちの頑張って作った建物、魔物の物になっちゃったよぉーん?ドンマイ!ドンマイなのはこれからそれを攻略する俺らです、主に俺。
「ふム、しかし外から聞こえた悲鳴のわりには見える魔物が少ないネ。ボクとしてはもう少し盛大な歓迎を期待してたんだけド」
「さっきのでここら辺のは粗方狩れちゃったんじゃないかな。リアシュちゃんのが派手に決まったしねぇ」
「ふふーん流石私ちゃん!五百年に一度の天才って呼んでくれてもいいのよ?」
「天才を自称するなら最低でも威力と範囲コントロールできるようにしろよ」
「お、低火力低耐久マンがなんか言ってる」
「ユーイズノーパワー」
泣いた。
「ふふーん。どうやら言い返せないようですなぁ!ぷーくすくす、未だにハイドフォックスと一対一じゃ互角なの恥ずかしくないの?私のライトニングボール以下の攻撃しかできないの恥ずかしくないの?ぷーくすくす」
「言い返せなくて悔しいから今日のお前の飯無しで」
「え?ちょっと待って?嘘だよね?アルト君そんな事しないよね?そんな血も涙もない鬼畜大魔神な事しないよね?え?許して?」
「俺は世界一男らしい男だ。許そう」
「やったー!」
「だが男として二言はできない。お前の今日の夕飯はなしだ」
「や"っ”だー!」
泣いたw
「うーんアルト君のレスバ無敗伝説継続!」
「最終兵器に料理あるのズルいよネェ…」
「まったくだ」
「他人事みたいな顔しているそこの団長、お前も俺の事煽ってたよな?」
「おい、まさか」
「はいご飯抜き。じゃあ飯早く食いたいし、ドンドン先行こー。」
後ろから悲鳴が聞こえるが、勿論無視だ。もう本格的に太陽が落ち始める頃だし、先を急ごう。夜になると狂暴性を増す魔物もいるから、安全に過ごせる場所を早く見つけるに越した事はない。
♢♦♢♦♢
今夜の寝床はヘイヴンストリーク城の近くに建っている、こじんまりとした教会になった。建っていると言っても、今にも柱の根元から崩れそうな程ボロボロで、頼りない事この上ないが。
他に泊まれそうな場所もなかったからしょうがない。壁も天井もない廃墟が乱立するなかで、穴は沢山開いているが、未だ建物という体裁を保てていたのが、この教会だけだったのだ。
魔物の根城で贅沢はあまりに言えないし、外からは中が見えづらくなっている分だけまだましだろう。
「おーし、飯できましたよー。自分から取りに来ない奴は飯抜きなー」
『はーい!』
ダンジョン攻略において、俺唯一の楽しみ、お待ちかねの夕食タイムである。
「うひょー!美味しそー!!」
「腹が減った…」
「うーン、食欲がそそられる良い匂いダ。疲れた身に染みるねェ」
「あ、アルト君今日は僕も大盛りで。結構ハイペースで進んだから、お腹空いているんだよね」
「あーい」
今日のメニューは、一時間ほど鹿肉をじっくり茹でて作ったローストと、俺が持参したキノコを煮込んだスープ。そして最高級食材である
最高級食材なんだから、もう少し贅沢そうな物を作れというツッコミが聞こえてきそうだが、小市民の俺には卵と鶏肉を作った料理で、親子丼以上の料理を思いつけなかったのである。うるせぇな美味しいだろ親子丼、人間で親子丼が嫌いなやついないだろ。
で、なんでそんな高級食材を使えているかと言う話だが、勿論俺が買ってきた訳ではない。銀麗鳥は防寒具が必須な程の過酷な環境と、標高500m以上の高所に巣を構える習性があるため、捕獲や討伐が難しく、市場の価格は一匹は40万ネルを超える。
こんな世紀末な世の中で、食事以上の楽しみなんてあるか?主義の俺でも、流石に40万とかいう結構トンチキな値段には手を出せない。
ではなんでこんなスペシャルな親子丼を作れたのか。答えは簡単、団長が自分の
元々聖人君子の呼び声高い俺は許すつもりだったが、これにはにっこり。即座に団長にオールオッケーを出したぜ。
ぶっちゃけ、こんなのを買える余裕があるなら、今回の借金問題をまずどうにかしてほしかったが、まぁ良いよ。良くないけどな。
最初は俺と団長の一人でこっそりと楽しむつもりだったのだが、作っている間にカイト先輩達に気づかれ、執拗な非難の三重奏が始まり、あまりのうるささに他三人のも作ることになってしまった。クソが。そして流れでリアシュの分にも作る事になってしまった。流石に一人だけ、しかも女の子に作らないのはアレだね…、という雰囲気になってしまったからである。クソが。
「うめうめ」
「いつもの事ではあるけド、ダンジョンで上質な食事を楽しめるっていうのはやっぱり最高だネ」
「甘い黄身の風味と、脂のよく乗った鶏肉のマリアージュが素晴らしい…。店出せるよアルト君」
「美味い。おかわり。あと酒」
「今日はみんな大盛を注文したのでおかわりないっす。あと酒はあんたが暴れるから持ってきてないです。明日早いんでしょ?もう歯磨いて寝てください。」
「ひもじいし酷いし雑だ…」
こうして、俺達のダンジョン攻略の夜は騒がしく更けていく。
小さな正四面体…ファンタジーにありがちな何でも入るイベントリ