□■ドライフ皇国・皇宮前
本来、衛兵が門番をしているはずのそこは人払いがされているようで、重厚な扉の前には一人の白衣を着た眼鏡の男が立っているのみであった。
男の顔を見るなりテゾーロは顔を顰めた。
それはまるで、お気に入りのガウンに蟲が湧いていたのを発見したかのような、ふと友人のスマホを覗き込んだらハード系のAVを見ていたのを発見したかのような……取り合えず、最悪な顔をしていたテゾーロであった。
「ハァ……やっぱ、テメェか。クソが」
額に手をやり、天を見上げる。
「おんやぁ? その声はぁー。“金食い虫”のギルド・テゾーロではなぁいですかぁ」
「殺すぞ。
「ははぁ! さっすが、器はお猪口一杯分だぁ!」
早速とガンを飛ばしあう二人。
「チッ……さっさと案内しろ、
「…………なんだか、含みのある言い方で気に入らないねぇ。まあ、いいでしょ。付いて来なよぉ」
くるりと反転。
独りでに開いた扉が開き、フランクリンと呼ばれた男が先行する。
「あぁ……そう言えば、超級職が増えていたみたいだねぇ。なんだっけ? 【
「耳聡い奴め。どこで……」
先導するフランクリンは尻目にテゾーロを見るが、やがて訝し気な視線へと変わり、口をヘの字に曲げる。
「どうした?
「チッ……! どこで、そこまでの隠蔽スキルを手に入れたんだい? 君の<
したり顔で口角を上げるテゾーロ。
対してバツが悪そうに目線を前に戻すフランクリン。
《叡智の解析眼》。
それは超級職【
能力としては、対象の生物を見続けることで、対象のレベルやステータス、果てには保有ジョブ・保有スキル・成長性・状態異常・落とす素材ドロップアイテムなどをも詳らかにする──────という、対人においては相性ゲー・初見殺し・死にゲーとまで言われるデンドロにおいては破格の性能を誇るスキルである。
非生物には使えないという縛りこそあるものの、対象が生物でさえあれば、《隠蔽》や《偽装》の類のスキルを持っていても、見続けることで看破できる。
だが、彼の『眼』を以てしてもテゾーロのステータスどころか名前すら見ることが出来ていなかった。
「【財産王】のスキルかねぇ……あるいは、特典武具? いやだって、君はそれ系のUBMを倒した記録はないしねぇ……」
「ヒントはやらん」
「ふんっ。元より貰うつもりはないよッ」
かつん!
苛立ちが行動に現れたのか、靴を踏み鳴らしたフランクリン。
テゾーロはその様子に満足げに鼻を鳴らした。
と、彼らの様子を物珍し気な気持ちで見守るテゾーロが護衛らである。
(あのテゾーロ様が、意地を張りあっていらっしゃる……)
バカラはテゾーロの雰囲気に驚き、目を見開いていた。
彼女がデンドロを始めたのは第二期生。初期勢からワンテンポ遅れてからスタートしたのだ。元よりリアルで密にテゾーロと関係を持っているバカラであったが、
「さぁ、着いたよぉ。どうせここまで来たんだ、中にいるのは誰か分かってるね? 礼は無しでいいってさ。所謂、無礼講だね」
豪華な彫刻のなされた扉に手を掛けたフランクリンが言った。
テゾーロは「さっさとしろ」と顎をしゃくった。
「っ! ったく! ムカつく男だねぇ……っ! ほら、連れて来たよ、お姫サマ!」
扉を開け放ち、フランクリンが呼び掛けたその人物とは…………
「──────ようこそいらっしゃいました」
窓際に立つ、深窓の可憐な美少女──────
「うざってぇ。
「…………まあ」
へとぞんざいに言い放つテゾーロ。
しかし、彼の天性と経験を元にした慧眼には、彼女の異常性が映っていた。
彼の瞳には、彼女の眼球が
「クラウディア・
「…………そこまで知っているのならお兄様が出る必要もありませんね。改めて自己紹介を。……クラウディア・L・ドライフです」
「……OK。
「それなら単刀直入に言いましょう。私に融資してくださいませ」
「アァン?」
どかりと無造作に椅子に座りこんだテゾーロが不可解そうな声を上げる。
クラウディアは構うことなく話を続けた。
「ハッキリ言います。私たち皇国は近い内に王国でテロを起こすつもりです」
「――――――…………」
眼を逸らすことなく、また物怖じもせずにテゾーロへと話を続ける。
テゾーロも……彼にしては珍しいが、居住まいを正して耳を傾ける。冗談半分で聞ける話ではないと再認識したためである。
「そのためには戦力が必要です。なので、フランクリンの手を借りることにしました。<騎鋼戦争>の時と同じように。だから──────」
「──────だから。……だから、彼奴の製造するモンスターの材料費が欲しい、と」
話を遮り、口を開いたテゾーロ。機嫌はすこぶる悪そうであり、鬼の形相をしていた。
「俺が融資? 国でも滅ぼす気か。俺がリソースを多少開放するだけで市場崩壊が起こるんだぞ? そこのカス女郎に融資して、どれだけのモンスターが造れると思っている?」
「ま、少なくとも亜竜級モンスター2000万体は堅いだろうねぇ」
「馬鹿が。テメェは黙ってろ、殺すぞ。いや、殺すから黙ってろ。何が悲しくて国家プロジェクト級の資本をテメェに融資しなきゃなんねぇんだ。…………で、だ。王国をどうしたいんだ、お前は? お前らは?」
フランクリンへと中指を立てたテゾーロは、クラウディアへと問いを投げる。
視線は鋭く、貫かんばかりである。
「ええ、正しく滅ぼすつもりですわ。貴方様のお陰で一時的にではあれど、皇国は大幅な復興を見せました。ならば、この機を逃す手はありません。私は皇国のために王国を滅ぼします」
毅然と言い放つクラウディア。
それにテゾーロは──────────―
「──────────────―断る」
「知ってました。なので……お願いします」
―――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!
その瞬間、皇宮の一角が吹き飛んだ。
そして、一音遅れて破砕音……というには、あまりにも圧縮された爆発音が響いた。
砂煙がや粉塵、残骸が落ち着いた頃、異様な光景が露わになる。
「…………止めた?」
「あぁ!? テメェ、テゾーロ様に何しやがる!? 殺すぞ!!!!」
肩にヤマアラシ? を乗せ、右拳を放った体勢のまま固まった秘書風の女性と、それを体一つで受け止め、吼えるダイスの姿。
更にダイスの両肩には手袋を外したバカラとタナカの手が置かれていた。
バカラが驚愕した顔色で、思わずといった感じで呟く。
「“物理最強”ベヘモット……?」
「
「防がれましたか。流石は【
驚いた様子もなく、淡々と観察を続けるクラウディア。
「というより、彼女、パッシブの《獣心憑依》でSTRは20万以上あるんですよね……修繕費、足りますかね?」
「知るか、阿呆め。我々は被害を出していない。――――――それより、バレてるな。ってか、テメェがバラしたなフランクリン?」
「そりゃ私はこっちサイドだからねぇ?」
朗らかに会話を行うテゾーロとクラウディア。その後ろではフランクリンが蛇型のモンスターに
テゾーロは椅子に座った体勢のまま、変わらず睥睨する視線でクラウディアを見下す。
次いで行動を行ったのは、ベヘモット。
跳び退き、その
「《ウィングド・リッパー》」
指先から放たれるのは、【爪拳士】の固有スキルであり、拳士系統では珍しい遠距離攻撃スキル。しかし、侮ることなかれ。“物理最強”から放たれるそれは、実にSTR400000以上の値を誇る性能である。
対抗するは、テゾーロが親衛隊の三人。
「《
「《
立ちふさがったダイスが受け止め──────切れずに、斬撃が体に埋まり始める。が、それよりも先にタナカが斬撃に触れる。
すると、斬撃はダイスの体を通り抜け……いや、体だけではなく、壁を貫通し、皇宮を通り抜け、飛距離が4000メテルに届いた時点で効果時間切れで自然消滅した。
固まった姿勢のままのベヘモットに肉薄するのはバカラ、彼女の体に触れるなり、スキル名を宣告する。
「《
「小細工をっ!」
激高した彼女が、バカラへと拳を振るうがその瞬間、
「あ?」
地面が抜け、階下へと“物理最強”は落ちる。
いやそれだけではない。
同じく崩落した天井から、多数の護衛用の<マジンギア>と武具の数々が落下し、
────────―!!!!!!!!!!!!
大爆発を起こした。
「おんや? どうやら、<マジンギア>に不良品が混ざっていたようだな。<叡智の三角>産かね? あそこのマジンギアはどうやら従来の品々と比べて
「チィッ! 覚えておくことだねぇ……!」
「ふむ……邪魔な“物理最強”も消えたことだ。話を再開しよう……これは、どういう真似だ、クラウディア・L・ドライフ」
「そうですね、こうなってしまえばお話する他ないでしょう」
そうして、目を伏せた彼女は語り出した。
如何にして、“最弱最悪”フランクリンと共謀して、王国を失墜へと追い込むかに至ったかを。
・【
……盾士系統特殊派生超級職。盾士系統の下級・上級ジョブと【
HP・END特化の大器晩成型であり、パッシブにより鎧着用時にはどんな状態異常に掛からない。……誰が取得できんだよのその1。
・【
……強盗系統特殊派生超級職。強盗系統と盗賊系統のジョブを取得し、累計10億リル以上(現金以外の貴金属や装飾品などは時価や鑑定額で判定)の強盗を行い、他人から奪ったアイテムで累計5000キルと2000万ダメージを与えることで取得できる。
AGI・DEX・LUC特化。スキルは強盗時のステータス上昇と、強奪品が増えれば増えるほど、ステータスが上昇するというもの。……誰か取得できんだよのその2。
・【
……賭博士系統特殊派生超級職。賭博系統の下級・上級のジョブを取得した上で、LUCの値が150万を超えると取得可能。……誰が取得できんだよのその3。
LUC特化型であり、パッシブでLUCが上昇するがアクティブスキルは奥義である一つだけ。
・【
……魔術師・隠密・伏兵・暗殺者・密偵系統の超特殊型複合超級職。それぞれ各50レベル以上ずつ取得した上で、スキルを発動し、周囲半径100メテル以内に人口が5万人以上(マスターを含む)の状態で未発見状態をデンドロ内時間で1250時間以上維持する(ログアウト期間中は除外)と取得できる。……誰が取得できんだよのその4。
STR・AGI特化。パッシブで一部の例外を除き、あらゆる感知系スキルをすり抜けて、未発見状態からの初撃のダメージが2000%増加する。また、未発見状態の時間に比例してダメージを増加させるスキルを持っている。アクティブスキルでは、使用MPに応じて物理・魔法的障害物を透過出来る。
スキルの解説はまた次話にて。