“財産最強”ギルド・テゾーロ   作:陸神

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接続話「開演の兆し。最強の兄弟」

 □■アルター王国・王都アルテア

 

 

「──────で、俺にどうしろと?」

 

「別に」

 

「は?」

 

 

 呆けた表情を見せるシュウ。

 テゾーロは、紅茶を口元に運び、唇を湿らせた。

 

 

「なんだそれ……」

 

「正直な話、あのフランクリンだけではなく、彼女(ベヘモット)も来ている」

 

「……マジか」

 

「尤も、彼女は本当に観覧に来ているだけらしいがな。が、皇国に所属しているなら万が一ということもある」

 

 

 頭を抱えるシュウ。

 

 如何に【破壊王】にして<アルター王国三巨頭>のシュウ・スターリングといえども、“物理最強”の名は重く、苦悩の原因ともなりえるのだ。

 

 

「まあ、そちらは心配しなくてもいい。レヴィアタンはともかく、彼女は一応だが“世界派”だ。ほら、事実、レヴィアタンはメイデンだろう?……闘技場にはティアンも大勢詰め掛けると聞く。大それたことはしないし、出来ないだろう」

 

「そうか……なら、あんし……いや、だが、フランクリンかー……」

 

 

 それでも尚、苦い顔は解消されなかった。

 

 それもそのはず、「デンドロ内で一番戦いたくないのは誰?」と聞かれれば、その大半は“物理最強”や“魔法最強”と答えるだろう。

 更に範囲を絞り、アルター王国内の存在に限定するのであれば、あるいは【強奪王】や狼桜(ローザ)、“蹂躙天蓋”などの名が挙がるだろうか。

 

 しかし、「デンドロ内で一番敵対したくない人は?」という問いであれば、年代老若男女問わずデンドロプレイヤーはこう答えるだろう、「フランクリン」と。

 

 

「来るってことは、俺やフィガロ専用のモンスターもいるだろうし……」

 

 

 “最弱最悪”、あるいは“クソ白衣”、や“マッド才媛ティスト”の名をほしいままにするフランクリンは、その実デンドロ内でも屈指の才覚の持ち主である。広域制圧型の代表格かつ、<マジンギア>のプレイヤーズ・パイオニア。そして、“世界派”でありながら行動は生粋の“遊戯派”という悪辣振り……。

 

 問題はその執着心であり、たった一度でもキルされると、そのプレイヤーのことならずも、その周りごと数倍にして復讐する……という習性ないしは性質を持つ、粘着質なプレイヤーなのだ。

 

 

「あまり計画を詳しく言い過ぎると結んだ《誓約(ギアス)》の魔法に抵触する為、言えんが……心配し過ぎなくても良い」

 

「……」

 

「君を抑えられると思われるのはベヘモットが精々。だが、そのベヘモットが動けず、君は──―【破壊王】だ。何を心配する」

 

「何ってそりゃあ……」

 

「なんだ? フランクリンか? 彼奴自体の戦闘能力は対したことはない。ならば、彼奴のモンスターか? 物理が効かないモンスター……粘体(スライム)か? 霊体(ゴースト)か? 恐れるべくもないだろう。君には、《破壊権限(デストロイオーダー)》がある」

 

「そりゃそうだが……」

 

「ふむ。そうなると……数の問題かね?広域制圧型の彼女の手先はモンスターだ。ならば、<月世の会>にでも頼るかね?あれのオーナーは対モンスター戦に特化して―――」

 

「────―それだけは絶対にやだね!」

 

「だろう?」

 

 

 テゾーロは含みがあるような笑いを漏らし、ティーカップに残っていた残りを飲み干し、席を立った。

 

 そして、彼は懐から手帳を取り出し、何かとメモをし、

 

 

「やるよ」

 

 

 破って渡したそれには十数桁の数字の羅列が並んでいた。

 

 テゾーロとメモの間をシュウの視線が行ったり来たりし……、メモで視線が停まる。

 

 

 

「生憎とフランクリンのショーが開催される時……というか、暫くは俺は仕事中でログインできん。だが……もし、何か困ったことがあれば、呼び給えよ」

 

「……いいのか?」

 

「今更この俺が言の葉を翻すとでも? そもそも私が皇国と結んだのは、融資の代わりの<グラン・テゾーロ>の利益拡大、そして計画の口外禁止だけだ。『計画の妨害禁止』は含まれていない」

 

「そりゃ……そうだな、確かに」

 

 

 

 彼の皇国での話を思い返すシュウ。言われてみれば、テゾーロは一度でも「邪魔はしない」と言っていただろうか?

 

 つまるところ、彼の目指しているのは「王国の無事」と「皇国内での商業活動活発化」だったという訳だ。王国内の彼の店が無事であれば、彼は何でもいいのだ。

 

 

「お前、日本人(ジャパニ)だろ? 国際線だからな。くれぐれも間違えてくれるな。私としても、利益が減るのは本意ではない……たとえ、ゲームの中だとしても、な。そして、フランクリンの邪魔をするのは私としても――――――最高に気持ちがいい」

 

「お前ら、仲が悪いんだか良いんだか分かんねぇな」

 

「悪友だよ。ちょうど君と扶桑月夜のように、ね」

 

 

 テゾーロはそう言い残すと歩みを始めた。

 どんどんと遠ざかっていく彼の背中にシュウは、

 

 

 

「……ケッ」

 

 

 

 つまらなそうに顔を背け、テーブルの上に置いて行かれた札束をちゃっかりと懐に仕舞い、路地裏へと姿を消した。

 

 

 

 

 

 ……五分後、路地裏からポップコーンのカートを引いたオオカミの着ぐるみが出てきたことと、その着ぐるみとシュウ・スターリングとの間に一切の関係を確認出来なかったことをここに報告しておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■決闘都市・ギデオン

 

 

 決闘都市・ギデオン。

 

 それは、王都アルテアから約200㎞離れた場所に位置している都市の名称である。より正確に表記するならば、アルター王国第二の都市、ギデオン伯爵統治領である。

 通称“決闘都市”の名の由来はやはり、ティアン・マスターを問わない決闘が盛んで、西方三国最大規模の闘技場施設が存在することだろう。

 

 他国からも観光客が多数訪れるため、市内は非常に賑やかで活気に溢れており、国内外からの交流が途絶えず、文化の緩衝地帯としても興隆している地域である。

 また、<超級>や<UBM>のせいで壊滅の危機に何度も瀕しているとかなんとか。

 

 そんな街の中に彼らはいた。

 

 三人組の男女である。

 

 一人は巨体のクマ……?

 ──────―否、クマの着ぐるみ。

 

 残る二人は、邪悪な鎧と脚甲鎧を身に纏った青年と、ポテトとチキンが入ったバケットを抱え込み、頬張る黒いゴシックロリータに身を包んだ可憐……可憐な少女であった。

 

 

「なあ、兄貴」

 

「なんだ、弟よ……クマ」

 

「なんじゃ、変に余所余所しいのう……。して、レイよ、どうした」

 

 

 クマの着ぐるみ……言うまでもなく、トンチキな格好をした着ぐるみはシュウ・スターリングであるが、対した青年は彼の実弟である……プレイヤーネームでレイ・スターリングという。

 

 傍で咀嚼を続けるのはレイの<エンブリオ>であるネメシスだ。

 

 レイは神妙な面持ちで兄へと問い掛ける。

 それは、まるで「見てはいけないもの」を見てしまい、それを訪ねるホラー映画の友人役のような表情であった。

 

 

「何クマ?」

 

「──────なんで、コンビニがあるんだ?」

 

「ああ~、それクマね」「んむ? こんびに、とな?」

 

 

 ある建物を指差して叫ぶレイ。

 腕を組み頷きを返すシュウと、首を傾げるネメシス。その違いはプレイヤーであるかどうかの違いだろう。

 

 彼が指を差す建物は、長方形型の店舗に、馬車でも数台止められる駐車場、中にはホットスナックや日用雑貨に食料品から娯楽まで……店舗名は“テゾーロ・マート”。

 

 まんま、コンビニエンスストアであった。

 

 

「あれは<グラン・テゾーロ>。どこの国にも所属していないクランが経営元になってる店クマ。お前だって、ちょいちょい<グラン・テゾーロ>の名は聞いたことあるだろう?」

 

「ああ。ちょっとっていうか、今まで行ったことのある店のほとんどに……ってまさか!」

 

「正解クマ。王国内にある商業系店舗の約()()は、<グラン・テゾーロ>の傘下系列の店舗クマ」

 

「3割!? いち国家内で一つのクランがそこまでの影響力を!?」

 

 

 目を剥き吼えるレイ。ネメシスは「あ、これ私には関係ない話じゃな」とクリスピーチキンにかぶりついた。

 

 

「ま、初心者はそんな反応クマね。<グラン・テゾーロ>はマスターやティアン問わず所属していて、その規模はデンドロ内でも最高の総勢19万人が所属しているクマ」

 

「セブンより多いじゃねえか!」

 

「あんま具体的な名前言うと色んなとこが煩いから名前を出すなクマ。それに、<グラン・テゾーロ>以外の傘下クランや企業、店舗を含めるとそれ以上クマ。正真正銘の最大規模のクランクマな」

 

 

 へぇ~、と興味深そうに頷くレイ。

 そういう彼のエンブリオのネメシスが頬張るバケットのそれもテゾーロ・マートの製品であるのだ。

 

 と、ここでレイが疑問を頭に浮かべ、頭を横に傾けた。

 

 

「でも、そんなに大規模なクランなら、なんで国ごとのクランランキングに名前がないんだ?」

 

 

 疑問を呈したレイにシュウは呆れた表情(?)を浮かべて言った。

 

 

「だから言ったクマ? <グラン・テゾーロ>は()()()()()()なんだクマ。ちょくちょく戦争とか抗争とかが起こるデンドロ内で、どっかの一組織に所属しているのは下策クマ」

 

「なるほど……」

 

「ったく。いくら文系とはいえ、ここまで……いや、経営学とか経済学は文系科目だったクマ。大学では行動経済学でも学んでみたらどうクマ?」

 

「うっせぇやい。……さっきの話の続きだが、どっかの国に所属してないと、デメリットも多いんじゃないのか? 国に所属してれば、援助とかなんかあるかもしんないだろ? それこそ、ゴゥズメイズ山賊団みたいな奴が現れたら……」

 

「ないクマ」

 

「え?」

 

「それだけは絶対にないクマ」

 

 

 あまりにも断定の意思が強い否定にシュウを見上げるレイ。

 

 彼の瞳には、いつもはのらりくらりとしている兄にしては珍しく、意思を明確にして首を振っていた。

 

 

「<グラン・テゾーロ>のクラマスはあの……二つ名が多すぎるクマな。“財産最強”って知ってるクマか?」

 

「あっ、ああ。マリーも言ってたが、デンドロ内で絶対に敵対しちゃいけない内の一人だって……」

 

「そうクマ。奴はそれだけの影響力を持つクマ。それこそ、単なる武力や政治力ではなく、いや、それもあるクマけど、最大の特徴は──────()()()で、クマ」

 

 

 ──────奴? 兄はそんな危険人物と知り合い……顔見知りなのか?

 

 兄の言葉遣いに違和感を覚えるレイであったが、真剣な声色で話すシュウにその疑問は喉奥へと引っ込むこととなる。

 

 

「むかーしむかしクマ。カルディナの西部にある、小国群の内の一つが<グラン・テゾーロ>の従業員を人質にして、大量の資本金を抑えようとしてたクマ」

 

「なっ!? そんなのありかよ!」

 

「アリ、クマ。……だけど、その行動も声明を出した十四時間後に鎮圧されたクマ。他ならない<グラン・テゾーロ>オーナー、ギルド・テゾーロの手によってクマ。奴は単独、その国家へと乗り込み、()()()()()()()()

 

「マジか……!」

 

 

 規格外。

 そういう他ない。

 

 レイの想像する強者というのは、彼の兄や姉、ゲーム内で言えば、“超級殺し”やガルドランダ、ゴゥズメイズなどである。

 しかし、あれらが国を滅ぼせるかどうかと問われれば疑問に思わざるを得ない。ただのいちプレイヤーが国を滅ぼせるとはどれだけの実力を……。

 

 

「しかも、その国に協力していた小国家群三ヵ国は以後、たったの一人も商人が国へやって来ることがなかったそうクマ」

 

「それって……」

 

「そうクマ。()()()()クマ。百年単位で取引していた取引先も鳴りを潜めて、食料・武器・人材の流入が急ストップが掛かった三ヵ国は亡命者が大量に出て、その後事実上の解体となったクマ。以降、奴の異名は“財産最強”……あるいは“新世界の怪物”とか言われてるクマ」

 

「“新世界の怪物”……」

 

 

 新世界。

 

 それは現実世界と対比したデンドロ世界のことを指すのだろう。

 

 怪物。

 

 それは国を滅ぼし、尚経済を牛耳る彼の実力を評したものだろう。

 

 

「あ、ちなみにだけど、レイがご執心の“超級殺し”も、彼の暗殺には失敗してるクマ」

 

「……ッ!!」

 

「更にちなみに言うと、ギルド・テゾーロの総資本はこのデンドロ世界全体の8%を所有してるとか言われてるクマな。具体的な数値で言うと1300兆リルとかクマ?」

 

「ハァ……ッ!?」

 

 

 弟の驚愕した顔に朗らかに笑い声を上げるシュウであったが、その着ぐるみの下では、いまいち芳しいものではなかった。明らかに強張った表情である。

 

 近付く<超級激突>、そんな最中自分と比肩する<超級(スペリオル)>の気配をひしひしと感じているからか……。

 

 騒乱はそう遠くない────────。

どんな話がいい?

  • 過去編(厳冬山脈とか超級職就職とか)
  • 原作介入
  • オリジナルストーリー
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