“財産最強”ギルド・テゾーロ   作:陸神

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“フランクリンのゲーム”にて資本主義を叫ぶ⑤

 □■某A国・N州

 

 

 そこは煌びやかな都市であった。

 眠ることの知らない街は、深夜帯に差し掛かるのに気付いていないかの如く光エネルギーを散々と放つ。輝きは宇宙からでもよく見える程。

 

 世界でも有数の人口と技術産業や経済の渋滞する街では、喧噪が止むことなく続く。

 そう……あるビル群の中でも同様で確からしく、

 

 

「……そっちでは朝だったか? 生憎とこちらは深夜だ。……ITは眠らない産業、だっけか? よく言ったものだよ、昼夜でそれぞれA国とI国の人間が交代で働いているだけだというのに」

 

『ははは! そうは言っても君だってその恩恵に預かる内の一人だろうに』

 

「否定はしませんとも」

 

 

 ゴシック建築の歴史的権威と呼ばれる、レトロチックな近代様式のゴシック様式の大型ビルは二〇世紀に建てられたものではあるが、現代でも尚その輝きは失われることなく、現在ではオフィスビルとして活用されていた。

 

 高層階の内の一つ、中でもダーク調な調度品で囲まれたそこには、ライトも少なに品よく飾っていた。

 

 そして、執務室と思われるそこでは、一人の男がレザーの椅子に腰掛けて電話をしていた。

 

 翡翠色の眼がトロリと溶ける。

 眠さを堪えた瞳に、目薬を差す。

 ツンとした涼感が目頭を襲った。眠気もひとしきりなのだ。

 

 

『君は地中海ら辺出身だと記憶しているが……どうかね、A国での暮らしは? もう数か月ほどだろう?』

 

「そうですね……場所は悪くない。金の回りも人の回りも良好、気温もぼちぼち……過ごしやすい都市だとは思いますが……如何せん飯がどうにも……」

 

『はっはっは!! そうか! A国の豪快な味は、君にはちと厳しかったか!』

 

「厳しいというかアレは大雑把にも程がある』

 

 

 けたたましく耳殻を叩くのは老人のしゃがれた声。対して男は気疲れしたような返答をした。

 

 

『しかしだな』

 

 

 と、カタカナ交じりなアジア訛りの英語がスピーカーから響く。

 

 おや。

 

 男は首を傾げた。

 仕事柄上、あるいは天性の商売人気質の男にとっても、電話の先の相手は食えないと認識するほどの人物である。

 

 それほどの人物が憂うことがあるのだろうか、と。

 単純なる疑問と甘い好奇心が彼の舌の根を動かした。

 

 

「何か悩み事ですかな?」

 

『む……いかんな、これではまるで儂が聴いて貰いたがりのようではないか。……しかし、そうだな、悩みというにはちっぽけだが、あるのだよ。…………孫のことだ』

 

「孫、ですか」

 

『うむ。最近ウチの孫がなんと言ったか……Infinited……なんだ』

 

「<Infinite Dendrogram>」

 

『そう! それだ! ……それに熱中して、生活も学業も疎かになっているというのだ……のう、孫との正常な付き合い方とは如何なものなのかのぅ……』

 

「フフ……妻子も居ない身ですから何とも……」

 

 

 男は夜景に目をやりながら言う。

 その視線は段々と空へ空へと向かいいく。

 

 

 

 

 

 ──────そういえば、火星にコロニーを増設するプロジェクトとかあったな

 

 

 

 

 

『それは……失礼した』

 

「いえ。だが、そうですな。恐らくですが……お孫さんは妙に自慢ちきで鼻高々といった風ではないですか?」

 

『おお! まさに! 見て知ったようだな!』

 

「ならば、一度その鼻っ面を折ってしまえる人間に会わせるのがよろしい。それも、絶対に逃げられず、自身の得意で打ち負かされるようなら尚更良い。そうともすれば、言うことのひとつやふたつも聞くでしょう」

 

『そうか……そうか。難しいな、それは』

 

「左様ですか」

 

 

 それから男と翁は話題を二、三つ跨いで会話を打ち切った。

 

 

『では、またいずれ』

 

「ええ。失礼します」

 

『ところで、テゾーロ君。君、嫁を取る気は──────』

 

 

 ブチッ。

 

 

 

「…………生憎と心に決めた人がいるのでね」

 

 

 

 ぎう。

 

 男──────テゾーロは首に掛けたロケットを握り締めた。

 

 

 

 

 

 ──────────―Prrrrrrr,Prrrrrrr……

 

 

 

 

 そんな彼の耳へ、空いたばかりのスマホがアラームを響かせた。

 やや、やつれた表情の彼は画面を見て、疑問符を思い浮かべる。見たことのない番号だったからだ。

 

 胡乱気な視線を向けつつも、緩慢な動きで電話を取るテゾーロ。

 気分は億劫なものであった。

 

 

 

 

「誰だ」

 

『誰? 誰とは心外な。教えてくれたのはお前だろ』

 

「その声──────まさか!」

 

 

 

 

 思い切りよく立ち上がったテゾーロ。

 

 あまりの勢いにデスク上に置かれたいた小物がからんころんと地面を転がった。

 

 

「そうか! 遂に始まったか?」

 

『ああ。今は……一触即発って所だ。今から来れるか?』

 

「フフフ! いいだろう。ちょうど、今日の用事が全て終わったところだ、直ぐに参加しようじゃないか」

 

『おう、頼んだ』

 

 

 よっぽど切羽詰まっているのか、そのまま挨拶もなしに切られる通話。

 だが、余程感極まったのかテゾーロは意にも介せず、デスク備え付けの固定電話へと手を伸ばした。

 

 押したのは自社内で使われている短縮ダイアルであった。

 数回の通知音が鳴り響き、間もなく出る。

 

 

『はい、こちらカジノエリアVIP室。ご用件をどうぞ』

 

「私だ、テゾーロだ」

 

『っ!? ……これは、テゾーロ様、如何なされましたでしょうか?』

 

「チーフ・ディーラーのダイスに伝えておけ、本日の業務を終了し『副業』へ移れ、とな」

 

『了解致しました』

 

 

 ガチャン!

 

 叩きつけるように電話を切ったテゾーロは、足早に執務室を出る。

 部屋の外で待機していた赤髪の女性が侍り、口を開く。彼女はテゾーロの秘書であった。

 

 

「本日の業務は────―」

 

「全て終わった。そして、往くぞ。久々の晴れ舞台だ」

 

「……成程、了解致しました。では、田中にも?」

 

「ああ。警備主任にも『副業』への転業を伝えておけ」

 

「畏まりました」

 

 

 秘書は、テゾーロに追従しながらも、どこかへと電話を掛けた。

 テゾーロはネクタイを緩め、腕まくりをする。

 

 

 

 

 

「さぁ、 ShowTimeだ」

 

 

 

 

 

 そして、彼らはエレベーターへと乗り込み、姿を眩ましたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □ ■ □ ■ □

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □■ジャンド平原

 

 

 そこには悪鬼羅刹魑魅魍魎が跋扈(ばっこ)していた。

 スライム種、竜種、獣竜種、怪人種・鬼種……あるいは悪魔種や天使種に至るまで。

 

 古今東西のモンスターがごった返している平原では、生い茂っていた緑は覆い隠され、踏み均され、元の景観は見る影もなかった。

 

 そして、何よりも刮目すべきは「数」である。

 決闘都市ギデオンの西方名一杯に広がるネクス平原を()()()()()()()()()()()()()のだ。

 もしこの場に観測や識別に長けたマスターが居れば、その数に気付いたことだろう。

 

 いや、仮に気付いたとしても自らの正気と現実を疑うこととなっただろうが。

 何分(なにぶん)その数は常軌を逸していたからだ。

 

 

 

 

 

 数にして──────────二〇万。

 

 

 

 

 

 本来は数千から数万で済んだはずのモンスター群──────スーサイドシリーズと呼ばれるそれ──────は、ある筋からの出資と、ある博士の隠し財産によりその数を数倍にも膨れ上がらせていた。

 

 ……本当は未だモンスターを排出……()()()()する予定ではなかったが、この惨状を引き起こしたマスターこと、Mr.フランクリンの第六感が告げていた。

 

 

 

「嫌な予感がする」

 

 

 と。

 

【女教皇】や【獣王】の乱入を想定していない訳ではない。更にいえば、王国内にいる超級・準超級レベルのマスター全員分の対策モンスターも造ってきているのだ。

 

 なにも……なにも心配することなど無いはず

 

 

 

 

「……なのに」

 

 

 

 

 どうにも、()()の影がチラつく。宿業の相手の形影が。

 

 

 

「……クソっ」

 

 

 

 毒づく彼の視線の先では、軍勢の最前線でレイ・スターリングを筆頭に、数十人のマスターがモンスターと鍔迫り合っていた。

 

 幾ら五千体しか稼働させていないとはいえよくやるな、と他人事のようにフランクリンは思った。

 

 

 

 ──────―ビュゥゥゥッッ

 

 

 

 突風がフランクリンの前髪を巻き上げる。

 

 フランクリンは現在、もしもの時のため【暗殺王】あるいは【透王】対策に、予定にないはずの虎の子のモンスターを出してまで空中にいた。しかもただの飛行用モンスターではない。特別に察知能力や高速飛行に特化した純竜級モンスターだ。

 

 傍らには簀巻きにされた王女がもぞもぞと身動ぎしていたが、気にも留めなかった。

 

 思考を巡らすフランクリンだったが、突如としてその思考は停止することとなる。

 フランクリンの視線に異変が映ったからだ。

 

 

 

 

 

「──────―」

 

 

 

 

 

 二〇万体もいるモンスター達のその最後方・最北方から()()が溢れ出した。

 

 闇夜を切り裂くように放たれた閃光は、()()()()()が反射したものだ。

 色は黄金、純度は脅威の24金……純正の黄金が放つそれ。

 

 

 フランクリンはその口端を大きく裂いた。

 

 

 見覚えがあった。

 

 

 

 

(いいや、見覚えしかない────私が見間違えるはずもない! 仇敵よ!)

 

 

 

 

 三日月状に吊り上がったフランクリンの口腔の内部から哄笑が木霊する。

 

 

 フヒヒ、アハハ、キャハハ、ダッハハ、ホッホッホ、ヒヒヒ、フフフ、ヘッヘッヘ。

 

 

 瞳孔は既に開き切り、縦に思い切り裂かれていた。中に剣呑と狂喜の色が渦巻いている。

 

 今ここに、今でこそフランクリンの戦いは、テロは始まるのだ。

 

 フランクリンは叫ぶ、敵の名を。仇敵の、宿敵の、怨敵の、不倶戴天の敵の名を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────テェェェゾォォォオオオオオォォォォォォロォォォオオオオオオ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 開戦だ。

 

 “最弱最悪”Mr.フランクリンは、そう言わんばかりに一斉にスーサイドシリーズを起動し──―

 

 

 

 

 

 

 ────────────■■■■■■■■■■■■([形容し難き破砕音])!!!!!

 

 

 

 

 

 

 また、時を同じくして<ジャンド平原>の最南方、ギデオンへと枚挙する最前線のモンスターら……一千体が瞬きの間に全て──────()()された。

 

 その凶行、あるいは偉業を成し遂げて魅せた英雄は──────毛皮を被った男の姿をしていた。

 彼はボロボロになった弟に回復薬(エリクサー)を振りかけて、頭に手のひらを下ろす。

 

 

「よくやった」

 

 

 と、短く、自分の宝物を自慢するような声色で呟いた。

 

 次いで余裕のある動きでアイテムボックスから指輪を取り出す。

 そのアイテム名を【拡声の指輪】といった。

 

 

 

 

『あー、テステス。聞こえるかー、フランクリン』

 

 

 

 

 声のお陰か所為(せい)か、幾らか冷静になったフランクリンは起動しようとするのを止めて、イヤモニのマイクへと声を届けた。

 

 

『……ああ、聞こえているねぇ』

 

 

 翼竜の首に掛けられたスピーカーから声が拡大されて放送された。

 

 

 

『そっかー。良かった良かった。じゃあ宣言するわー』

 

『…………宣言?』

 

『今夜お前が開いたゲームで、お前は最大のミスを犯した』

 

 

 

 毛皮の男はそこで一度言葉を切り、

 

 

 

『──―それは“()()()”を敵に回したことだ』

 

 

 

 ほんの数人にしか意味が分からないことを言った。

 

 だが、その言葉に込められた戦意の激しさは、この場にいるものだけでなく中継を見る者にすら届いていた。

 

 

 

『だから、宣言するぜ……フランクリン』

 

 

 

 そして、

 

 

 

『お前自慢のモンスターは───―─この【破壊王(キング・オブ・デストロイ)】がまとめて“破壊”してやる』

 

 

 

 

 

 毛皮の男は──“シュウ・スターリング”はそう宣言した。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 そして今宵最後の決戦の幕が開く。

 

 皇国最多戦力保有者、Mr.フランクリン。

 

 王国最大戦力保有者、シュウ・スターリング。

 

 世界最高資産保有者、ギルド・テゾーロ。

 

 

 

 

 最多と最大と最高……それだけでは言い尽くせない。

 言うならば、量を極めた者と、質を極めた者と、そのどちらにも注力した者。

 

 

 

 “正体不明”と“最弱最悪”と“財産最強”。

 

 

 

【大教授】と【破壊王】と【財産王】。

 

 

 

<超級>と<超級>と<超級>。

 

 

 

 最強と最凶と最恐。

 

 

 

 これより始まるは、奇しくもギデオンで開催されていたメインイベントと同じ──────否。否である。今宵開催されるは、それ以上のもの。

 

 

 

 

 

 即ち、<超級激突>────―改め、<超級戦線>。

 

 

 

 

 

 

 ここに開幕。

 

 

 

 

 

 To be continued……




主人公変わった?ってくらいシュウ・スターリングが出てきた……でも、このシーンは外せませんよね

どんな話がいい?

  • 過去編(厳冬山脈とか超級職就職とか)
  • 原作介入
  • オリジナルストーリー
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