反転好感度のデイバイデイズ   作:このむらりく

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第15話『踊り狂う駄獣達/それは刹那に煌めく正義』

 必殺。それは、狐坂ワカモの揺らがぬ一撃。

真紅の災厄から放たれる銃弾はその名前に相応しく、あらゆるモノを血の海へと沈ませる。

ああ、これは躱せない。ユキノはその銃口から放たれる銃弾を前に、自身の敗北を悟った。

銃弾はやがて、ユキノを貫く。約束された必殺は、直に届く。

 

 ……それで、お前はどうする?

 

 己が地に伏するまで後何秒残っている。僅かな時間で何ができる。

仕方がない。結局、敵わぬ相手であった。弱くて、済まない。諦めてしまって、済まない。

 

 ……お前は、諦めるのか?

 

 声が聞こえる。それは嘗ての己。瑞々しい正義を掲げていた己の姿、そして、その声。

強く、真っ直ぐに、理想を胸に走る過去の七度ユキノが、見える。

 

 ――先生との約束もあるんだ……なら、ここで諦めることはできないな。

 

 できるできないではなく、やるしかないのだ。

七度ユキノ。FOX小隊の隊長。四の五の言ってる余裕があるなら、致命を遅らせる努力をしろ――!

 

「ま、だ」

 

 銃声と光。そして、紅い華の紋様が見えた。砲弾の如き銃弾がユキノを貫く間際、使い物にならなくなった突撃銃を滑り込ませる。

どうせ、もういらぬ武器なら、一度きりの盾にしてしまえば良い。そして、着用している防弾ベストもある。

何でも使え、何かしら残していけ。それが出来ぬなら、生き永らえて此処に立つ資格など、ない。

 

「だぁッッ!!!!!!!!!!!!!」

 

 存在証明――それは、刹那に煌めく正義。

詰みとなった状態であっても、ユキノは抵抗を諦めない。

返す形でサブウェポンとして持っていた拳銃を無造作にワカモへと撃つ。

半ば反射のような咄嗟の対応だった。日々訓練を重ねなければできない瞬時の反撃。

破れかぶれは、ワカモへと届く。

 

「見事……!」

 

 ワカモの身体の複数箇所と仮面に銃弾がぶつかった。

衝撃で地面へと落ちた仮面は罅割れ、砕け散る。

けれど、それは決して災厄の狐への致命傷足り得ない。

動きは鈍る。頭部から流れる血は決して微量ではない。されど、彼女の戦闘を阻害する程ではない。

 

「ですが、足りませんね!」

「ユキノちゃん、下がって!」

「遅い!」

 

 その言葉を受取る前に、ワカモは行動を終えていた。

ユキノへと突き刺さった蹴撃は、彼女をニコ達の後方へと吹き飛ばしていった。

ユキノはごろりと地面に這いつくばり、血反吐を吐いたまま、動かない。

後方をじっくり見る余裕はない。ユキノが倒れた今、ニコは切り札の切り時を考える。

 

「ニコ! 私が止める! ユキノをお願い!」

「貴方が、私を止める? 寝惚けたこと仰らないで下さいな。それに、介抱した所で動きませんよ。想い(呪い)をたっぷり込めたとっておきですので」

 

 均衡が崩れた今、ワカモが止まらない。クルミが前線へと上がり、迫ろうとするも、ワカモは一定の距離を開け続ける。

ユキノからも徐々に離され、二人の表情にも焦りが生まれ始めた。

 

「アウトレンジから嬲り殺しです。じっくりと奥深くまで……っ! 私を邪魔した報い、受けていただきます!」

 

 血飛沫に咲い、舞い踊る。

さてと、どうするか。ニコの思考は焦燥に満ちていた。全体のバランサーであったユキノが倒れただけで、戦況は向こうへと傾いている。

倒れ伏し、動かないユキノに代わってニコは考える。あのまま、ユキノを放置していたら、拙い。

好き勝手に暴れるワカモの後方部隊が人質としてユキノを使うかもしれない。

勝つ為なら何でもあり。大義は向こう側にあるのだから。

 

 ――判断を迫られる。

 

 クルミがバリスティックシールドを使って、銃弾の直撃を防いでいるものの、時間の問題だ。

いくら盾の強度が高くても、限度がある。盾が割れてしまう前に。

切り札を切らなくてはならない――今後を度外視しなくてはならないのは此方も同じだった。

 

「クルミちゃん!」

「…………ああ、もうっ! 稲荷寿司一週間は覚悟してよね!」 

 

 被弾の可能性も踏まえて、クルミが前に出る。

消耗とか、今後とか。四の五の言っていられる状況はとっくに過ぎ去った。

盾から波濤する衝撃に顔を顰めつつ、ワカモを引き付ける。

その間にニコはユキノの下へと走っていく。

 

「止めるって、言ったでしょ!?」

「できるのなら、ですけど。有象無象が調子に乗らないでくれます……!」

 

 再度、接敵。

致命傷は確実に避けるつもりだが、細かな傷はもう無視するしかない。

あの災厄とサシで戦うなんて、不条理そのものである。

それでも、まあ――やるしかないのだ。

銃弾の応酬はそれまで当たらなかった互いへと当たっていく。

様子見を兼ねた小競り合いは疾うの昔に終わっている。

潰し合い――生命を懸けた戦いへと移っているのだ。

 

「恋に茹だってる奴に言われたくはないっての!」

「それの何が悪いんです!?」

 

 しかし、戦いのセンスの差は歴然である。七囚人に一人であるワカモとFOX小隊の一隊員であるクルミ。

比較すると、センスはクルミの方が低い。それでも、クルミは食らいつく。

 

 ――まだ、まだっ、まだ、まだまだまだまだっ!

 

 脇腹に食らった銃弾は骨を砕き、側頭部を掠るとなれば、血飛沫が弾ける。

的確に拳撃と蹴撃をバリスティックシールドで防ぎ、食らいつくものの、限界はある。

しんどい、辛い。圧倒的な暴力はクルミの心を苛んでいく。

 

「……………………そうねぇ。確かに、悪くはないか。それが、アンタだもんね。

 狐坂ワカモはいつだって、やりたいことを気ままにやる。

 勝手に可能性を狭めて、小悪党に堕ちるより、よっぽどマシ、だわ」

 

 その狂おしい愛にどこまでも殉じれるのは、きっと自分ではできない境地だ。

半端に正義を掲げて。居場所を取り戻そうと足掻いて。全部失いかけた阿呆より、よっぽどマシだ。

 

「そうなる予定だったんだけど、ね」

 

 その結果、救われないことも覚悟していたのに。

あり得なかった運命に、救われてしまったのだから。

 

「救われて、赦されてしまったから」

 

 詰んでいた未来に道筋を作ってくれた先生《運命》。

誰よりも苦しんで、誰よりも背負いたがる先生《運命》。

自分達が嫌っていた大人とは違う、その強さを。

 

「今度は、私達が救う番。あの人が進む道を、貴方達なんかに譲らない」

 

 ――護らせてくれ!

 

 どうやら準備は整ったらしい。

周囲一帯に事前に仕込んでいた爆弾が起動し、爆発が連鎖的に巻き起こる。

ニコが予め仕込んでいた爆薬を起動させたのだろう。

これにて、戦闘フィールドを狭め、限定的にさせる。

炎熱と瓦礫で逃げは塞がれ、クルミとワカモは必然と孤立する。

 

「完全に分断!? チームワークがウリなのに、単独での戦闘を強行とは勝負を捨てました……!?」

「はっ、別に珍しいことじゃないでしょ。アンタを倒せるのは、現状私だけ。なら、他の邪魔が入らない戦場を創り上げるのなんて、当然じゃない」

 

 これが空崎ヒナ、剣先ツルギならば、理解はできる。

集団を率いる立場でありながら、単独の戦闘力が随一である生徒だからだ。

しかし、FOX小隊は違う。無論のこと、戦力としてキヴォトスの中でも上澄みの方ではあるが、一騎当千とはいかないはず。

 

「それに、勝率がまったくないギャンブルでもないから。百回に一回はアンタに勝てるかもしれない。要は、その一回を最初にもってきたら良いだけ。ほら、簡単でしょ?」

「イカれてますね……私を前によく吠えました!」

 

 ――一騎討ちをブラフにして、狙撃で討ち取る気ですかね。

 

 ワカモは眼前のクルミだけではなく、一時退却したニコやまだ姿を見せぬオトギが奇襲を懸けてくると予想している。

しかし、この期に及んで、狙撃は来なかったし、ニコの援護は一騎打ちのフィールドを構築するだけ。

ユキノの言う通り、オトギは本当に別任務に従事しているのかもしれない。

とはいえ、気を緩ませることのないよう、最後まで戦い切る。

 

「万が一。貴方一人で勝てる確率なんてその程度では!?」

「そういう天賦に懸けて戦うのも悪くないんじゃない?」

 

 その言葉が本心か、ブラフか。どちらにせよ、退く訳にはいかない。

 

「やってやろうじゃないの、一騎討ち!」

 

 ――後、九百メートル。

 

 バリスティックシールドはまだ壊れていない。

真紅の災厄から放たれた銃弾を受けるたびに手が痺れ、骨の隅々まで痛みが滲みる。

それでも、盾を持つ手は離さない。この分水嶺を踏み越えた先にこそ、勝利はある。

 

 ――まだ、六百メートル。

 

 バリスティックシールドに罅が入る。

気づいた瞬間のクルミの動きは早かった。

もうこれ以上弾丸を防げないと判断し、ワカモへと投擲。

当然、一直線の投擲である為、簡単に躱される。

コンマ二、三秒程度の稼ぎにしかならない。そんな雑な足止めだった。

その秒数があれば、掲げた突撃銃の引き金に手をかけられる。

引き金を引き、ばらまかれた銃弾は、それでも、ワカモの動きを阻害させるには至らない。

 

 ――ようやく、三百メートル。

 

 もう、バリスティックシールドは持っていない。

クルミの左腕に銃弾が突き刺さる。たった一撃で意識が飛びそうになるくらい、強烈だ。

呪いでも込めているのか、と。それでも、疾走ることは止めなかった。

気合と根性でワカモを撃ち抜く射程圏内に入る。この一瞬で、総てに決着をつける。

 

「勝負!」

 

クルミのハンドガンとワカモの真紅の災厄。

銃弾の発射は同時だった。けれど、クルミの銃弾は届かず、ワカモの銃弾は届いた。

そんな、撃破の余韻に浸る暇もなく。ワカモはバックステップ。

本能――直感による回避だった。数瞬おいて、ワカモがいた場所に銃弾が突き刺さる。

やはり、来た。オトギによる狙撃、そして、それを躱し切った。

 

 ――避け切った。

 

 それにしても、焦りもあったのか。ワカモの予想とは違い、狙いが煩雑な狙撃であった。

いよいよ仲間がダウンしていてもたってもいられなくなったのか。

どんな理由にせよ、ワカモは勝ちを確信した。

狙撃の方向、場所も目星がついた以上、後は――。

ワカモの思考が巡っていたのは、そこまでだった。

間髪を入れる間もなく、再び、銃弾。前の銃弾とは違う、一撃必殺を狙った頭部への正確無比の狙撃。

連発にしては早すぎる――狙撃手が二人いるとしか思えない“必殺”。

痛みに喘ぐ暇も、悲鳴を上げる余裕もなく、狐坂ワカモの意識は闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 RABBIT小隊の動きは迅速だった。

『先生』からの命令は、ワカモが取り零した敵――FOX小隊の討伐。

そして、倒れ伏した敵の拘束。

前者の目的はワカモがいる以上、お鉢が回ってくることはないだろう。

その証明として、今も戦闘音は絶えず響いている。FOX小隊はあのワカモを相手取って、隊長が欠けた今も一進一退の攻防を繰り広げている。

 

「ワカモさんと分断された今、私達の任務は倒れた先輩――七度ユキノの拘束です」

 

 廃校の時から姿を消した先輩達が敵として現れる。加えて、戦意も高い。

遠くから見た彼女達は、嘗ての憧れそのものだった。月雪ミヤコがテレビの中で見た誇りと決意の顔は何一つ陰りがなかった。

どうして、彼女達は先生へと銃を向けるのだろう。どうして、正義は此方にあるというのに、彼女達の言葉には確固たる正義があるのだろう。

疑問は湯水のように心中から湧き出てくる。

 

 FOX小隊が蘇った理由。強さの源泉がわからない。

 

 もっとも、武器が戦う背景まで想いを馳せる必要はない。

それは命令及び指揮を行うシャーレ――先生が行うことだ。

Rabbit小隊は任務を遂行する武器で在ることを選ぶ。

FOX小隊はシャーレの敵であり、排除すべき存在。銃口を向けることを躊躇うな。命を果たして、正義を為そう。

 

「ユキノ先輩――…………対象を発見」

 

 ワカモ達とユキノが分断され、クルミとの一騎討ちが始まったのと同時刻。

RABBIT小隊は隠れ潜むことを止め、行動を開始した。

ミユは狙撃地点で待機中。何かあった時の為にいつでも狙撃できるように、と。

そして、他の隊員はFOX小隊の制圧を行うべく、ミヤコに同行している。

 

「本当に先輩ですね」

「ユキノ先輩といえども、流石にワカモ相手だと、なぁ」

 

 ワカモにやられ、倒れ伏したままのユキノを小隊は発見する。

傷跡が深いのか、伏した状態からピクリとも動かない。それだけ、ワカモの銃撃が強力だったということか。

しかし、意識がないのであったら、拘束も楽に行える。半端に意識があり、抵抗されるのであったら、手間だ。

ひとまず、ポイントマンのサキが先行して、ユキノを拘束しようと小走りに近づいた。

 

 

「それじゃあ、急いで拘束を――」

「――できるものなら、な」

 

 サキが銃の引き金から手を離し、ユキノへと触れようとした瞬間。

ユキノは瞬時に起き上がり、サキの顎に強烈なアッパーカットを叩き込んだ。

姿勢をぐらつかせたサキの腹部に間髪入れずに、ハンドガンを当て、数発連射。

幾ら鍛えているといえども、零距離で弾丸を数発食らうとなると、ひとたまりもない。

ごぼりと胃液を吐きながら、サキは地面へと倒れ込む。

 

「一人」

「やっば!」

 

 それを見たモエが拳銃をユキノへと向けようとするも、ユキノの動きの方が一手早い。

モエの拳銃が向けられる前に、素早く狙いを定め、引き金を再度引く。

ヘッドショット。放たれた銃弾は違わずモエの頭を撃ち抜き、意識を刈り取っていた。

 

「二人」

 

 だが、そこまでだ。Rabbit小隊だって腑抜けではない。

遥か彼方から飛んできた狙撃は、ハンドガンを持ったユキノの右腕を撃ち抜いた。

冷静に、かつ、正確に。撃たれた腕は力が入らず使い物にならない。

痛みに表情を顰め、握力が抜けた手はだらりと下る。

地面へと転がったハンドガンを無事な手で取る隙は当然与えられない。

その一手を打った時、ミヤコのアサルトライフルの照準は既にユキノへと向いている。

 

「何故」

「何故、とは。変な質問だな、月雪小隊長」

 

 仮に隙を伺ってうまく突けたとしても、ユキノのハンドガンは残弾がもうない。

拾ってリロードして、と。複数動作を行わなければならない選択肢は当然不可能。

そして、もう一つの武装である地面に転がっているアサルトライフルはワカモの短刀が突き刺さり、更には盾代わりとなった為、使い物にならない。

倒したサキ達の武器を奪う? 無理だ、そんな余裕をミヤコが与えてくれるとは思えない。

銃火器なしでミヤコに立ち向かう? 不可能だ、素手で倒せる程、後輩が腑抜けているとは考えれない。

 

「この程度の手傷で起き上がれない奴が、FOX小隊の隊長を務めると思うか?

 あの学校で、お前達はFOX小隊を学んでこなかったのか?」

「…………っ」

「如何に致命であったとて、“残飯漁り”にやられる程、耄碌した覚えはない」

 

 強がりだ。言葉に痛みの震えが混じっていることをユキノもミヤコも知っている。

チームワークと安定性で売っている自分達は所詮は秀才止まり。

コンディション、装備、共に詰んでいる。何とか二人を倒したが、ここが限度であろう。

 

「SRTが廃校になっても、例え在野の兵となっても。私はFOX小隊の隊長――七度ユキノだ。

 戦場で隊員が死力を尽くしている中、倒れ伏したままの隊長など、格好がつかんだろう」

 

 けれど、そんな瑣末事は諦める理由にはならない。無理と不可能を踏破してこそ、FOX小隊の隊長と言えるだろう。

まだだ、まだやれる。諦めて、膝を屈する選択肢はとっくに捨て去っている。

後ろには隊員がいる、前には先生がいる。自分は今、一人じゃない。

共に背負って、約束を果たしてくれる人がいるなら、何度でも立ち上がろう。

きっと、最初から。ユキノが欲していたのはそれだけだった。

七度ユキノが目指した正義と明日を願ってくれる者達の為に、――戦うって理由が欲しかった!

 

「先程の狙撃、練度は悪くない。しかし、詰めが甘い。私の腕を正確に撃ち抜く技術は見事だが、狙いが違うだろう。

 私なら、頭を狙うように命じるぞ。討ち取る手筈に甘えが見受けられる。

 SRTで敵の制圧を教わったはずだが、忘れてしまったか?」

 

 正義なんてない、と。もう表舞台に立つこともないだろう、と。

そして、何もかもを諦めていた自分達に思い出させてくれた先生の為にも。

あの人の生徒として、恥じぬ戦いをすると決めた以上、最期まで生命は使い切る。

 

「今の私を倒したいのなら、殺す気概で来い。できないとは言わせない。

 信じ、貫き、決して敗けぬ強さ。お前達が擁立した大人はそういうもの《正義》だろう?」

 

 胃の底が熱くなるような高揚感が、ユキノをまだ戦場へと立たせてくれる。

詰んでいる状況であるにも関わらず、ミヤコを圧倒させる程の戦意を生み出していく。

これが月雪ミヤコがSRTへと志望させた熱の大元。あの日、あの時、テレビで見た夢なのだ。

そしてその夢と相対する恐怖は図り知れるものではない。

 

「どうした。お前の掲げる正義はその程度か? 貫けぬ正義を御題目にしている訳でもあるまい」

「…………ひっ」

「相手が誰であろうと、揺らぐな! 小隊の隊長が揺らいでどうする、月雪ミヤコ!」

 

 唯一確かなのは。かつて憧れたFOX小隊の隊長――七度ユキノは伝説のままだった。

彼女の勇姿はテレビの中で見た姿と同じだった。憧れが憧れのまま在り続けた。

それがとても嬉しいのに、とても悲しい。

どうして、敵対をしなくてはならない。どうして、彼女達は此方側にいない。

 

「私がお前達の先輩であるということを抜きにしても、腑抜けるな!

 手負いの狐がどれだけ恐ろしいか、知らないはずもあるまい!!」

「……っ! ですが、ユキノ先輩はこれ以上動けません!」

「…………そうだな。どれだけ意気込んでいても、私はもうこの状況から抜け出せん」

 

 それでも、なお。無理と不可能の壁は厚い。

詰んでいるこの状況を自らがひっくり返す手は、もはや確実性のない破れ被れの突撃しかない。

 

「だったら、私達の――!」

「はいはい、ダウンダウン」

 

 なればこそ。ユキノは仲間が来ることを信じた。

窮地にこそ、仲間が必ず来てくれる。他人任せ極まりない考えだが、そんな考えも悪くはないと教えてくれた大人がいたから。

ミヤコの背後に回ったニコが冷静に弾丸の雨をぶち込んだ。

小さく悲鳴を上げて、地面へと倒れるのを見て、漸くユキノは息をついた。

 

「助かった、ニコ」

「いえいえ~。時間稼ぎありがと。まあ、……残飯処理みたいなことしかできていない私の立場も考えてほしいんだけどね、ユキノちゃん?」

「お前に向けた言葉ではないだろう、気にするな。それに、結果的には決め手はお前だった。

 クルミの方も見つつ、RABBIT小隊の動きもチェックした。

 戦場のコントロールは得意分野だろう。その技能を十分に活かした、戦果は、それで十分だ。

 残りの一人――霞沢ミユは?」

「オトギちゃんが潰したよ。ユキノちゃんが釣ってくれたおかげで手間が省けたって。

 隠密スキルが高いとはいえ、位置を特定できたら、済し崩しだよね。後は偵察ドローンとか色々フル稼働。

 場所が割れた狙撃手なんて格好の的だからね」

「クルミの方面ではなく、こっちに来たのも幸いしたな。ニコがすぐに動ける要因となった」

 

 RABBIT小隊は全員潰せた今、後は、狐坂ワカモだけだが。

 

「クルミちゃん……惜しい子を失ったね」

「勝敗知ってる癖に、煽るんじゃない。通信で連携したじゃないの。百回の内の一回――仲間の援護込みだけど、ギリギリ当てれたわ……。

 まあ、正確にはカヤとオトギ込みの奇襲だったけれど。トドメは結局当初の予定通り、オトギなのが癪だけどね」

『いえ~い。私大活躍~』

『ちょっと、その大活躍のきっかけを作ったのは私じゃないですか!』

 

 ニコがしくしくと泣き真似をしているが、その表情に心配はない。

彼女が負けるとは思っていない。全幅の信頼を寄せた顔だった。

爆発で破壊された建物の向こう側から、ワカモを俵担ぎしながらクルミがやってくる。

粉塵で全身汚れまくっているし、流血とあざでボロボロだが、五体満足で生きている。

 

『カヤ室長と私で二重狙撃。うまくハマってくれたね。今回限りで次回は通用しないと思うけど』

『次回なんてないです! まったく、どうして私が戦場に出なくてはならないんですか!

 狙撃銃なんて触ったことないのに!』

『人手不足なんだから、しょーがない。先生みたいに銃火器の扱いが下手くそなら仕方ないけど、カヤ室長はやれば最低ラインくらいはできるでしょ』

『…………わかってますよ。ほんと、世知辛いですねぇ』

 

 最初の狙撃は、カヤが行った。当然本職ではないので、狙いなどガバガバであったが、それはどうでもよかった。

ただ、牽制の役割を担い、その狙撃をオトギが行ったとワカモに誤認させられたら、成功だ。

後は、狙撃を躱して隙が生まれたワカモを狙い撃つだけだ。

 

「ともかく、全員無事で何よりだ」

「ユキノちゃん、ガタガタな癖に強がり吐いちゃって」

「ちょっと! ワカモ相手に壁役やった私が一番ガタガタなんだけど。本当に、もう二度と戦いたくないわ。

 次は絶対に勝てないし」

『あちこち狙撃したり、適宜状況把握の連携したり。一生分のしんどいを味わった気がする。先生はよくも指揮ができるもんだわ~』

『いいから、さっさと合流してください。オトギさんだけじゃ不安です。私を護る役割が未だあるんですよ!?』

 

 各々、好き勝手に言葉を並べている。

本当についこの前までは口答えもなかったのに。随分と感情豊かに戻ったものだ。

 

「それじゃあ、これからについてなんだけど。シャーレに私達も突入しようと思う。

 出遅れちゃったのは仕方ないとして、五体満足の私とオトギちゃんが何もしないってのは、ねぇ?」

 

 全体的に見ると消耗は激しいが、ニコとオトギはまだ手傷らしい手傷を負っていない。

つまるところ、まだ戦える。少なくとも、後詰めとして動ける余地が遺っている。

 

「五体満足の私達に任せて、ユキノちゃん達はゆっくりと休んで」

「断る」

「嫌よ」

 

 即答だった。有無も言わせない迫力があった。

腕がもげても、血反吐吐いても、内臓が飛び出ても、付いていく。

此処で置いていったら末代まで恨まれるだろう。次の代があるか知らないけれど、たぶん。

 

『二人共、今後のことを考えるなら大人しくするべきだと思うけど?』

「此処で倒れていたら一生後悔する気がしてならないからな」

「局所的な戦いで勝っただけなのよ、まだ。世界が変わるか、変わらないか。その瀬戸際で境界線もぶっ壊れそうって時に、大人しくする訳ないでしょ」

「――それに、弾除けは多い方がいい」

『私は行きませんからね! 安全が確認されるまで! そもそも荒事専門じゃないのですよ、私は!』

「知ってるわよ。だから、倒れたワカモと後輩達の監視をお願いするから、ちゃんと見張ってなさい」

『それくらいなら、まあ……。いいですか、必ず先生を連れ戻してくるのですよ!

 というか、あの人、本当に死ぬかもしれないんですから、ああもう、やっぱり私が無理矢理にでも一緒に逃げ』

 

 これ以上はうるさいから、カヤの通信だけ切った。

まあ、倒した彼女達の見張りは誰かしなくてはならないし、無理矢理に付いていかせるつもりはない。

程々に放置して、自分達だけで行こう。

 

 ――――勝てた。

 

 災厄の狐に。後輩達に。

まだ、自分達はやれるのだ。FOX小隊は――此処にいる。

 




次回

『一人ぼっちの魔王決戦/赦しは此処に遺すから』
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