反転好感度のデイバイデイズ   作:このむらりく

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第2話『私達の二人戦争/君と二人で、最初から』

 とてつもなく、まずい。

端的に言うと、今の状況はほぼ詰んでいる。

会議が中断され、少しのブレイクタイム。

自分とカヤ以外の生徒が後任の『先生』を囲んでいる間、思案をするが、どれだけ重ねても行き先は1つしかなかった。

そうなると、最初に考えた『とてつもなく、まずい』という感想に戻ってくるのである。

 

 ……ここで動かなかったら、もっと詰むんだけどね。

 

 好感度が《反転》した生徒達。それに乗じて現れた後任の『先生』。

これまでは推測混じりではっきりとした行動ができなかった以上、後手に回るのは仕方がない。

しかし、彼女が姿を現したならば、取るべき行動は収束される。

なればこそ、これからの動きで大凶を凶にするくらいには、イニシアティブを取り戻さないといけなかった。

 

「カヤ。いい加減、正気に戻って」

「どうして、この私が罷免罷免罷免罷免、おおおおおおおおおおおおお」

「罷免で済むならまだましかなぁ。このままだと、私達は命の危険でお陀仏だよ」

「………………へ?」

「推測――いや、ほぼ確定だと思うけどさ。このシャーレを出た瞬間、私達には“流れ弾”が飛んでくる」

「ちょっと待ってください、話についていけません。“流れ弾”ってそんな言葉遊びで」

「銃弾。それも殺意があるやつ」

「どうして答えを言うんですか!」

「だってカヤが、話についていけないって言うから……」

「それは、そうなんですが……もっと、前置きがあるでしょうが!」

「前置きを出す余裕なんてないよ」

 

生徒を魅了する『先生』。頬が裂けんばかりの笑み。艷やかな黒髮。

彼女の正体が自身の推測と一致しているならば、次で更に詰めてくる。

自分達の関与が欠片もない、あくまでも偶然という言い訳を添えて。

たまたま、通りすがりの悪意に曝されて、罷免した二人は死んでしまいました。

そんな、ふざけた悲劇をなぞってくるはずだ。

 

「じゃあ、話を戻すよ。控えめに言って、私達はたぶん殺される」

「いやいやいやいやいやいや、話を戻さないで下さい、意味もわかりません。

 罷免だけでも発狂しそうなのに、どうして命まで? そんな悪どいこと………………」

「…………」

「や、やってません! たぶん、セーフですよ、ねぇ、先生! 目を逸らさないで下さい!」

 

 もしかすると、自業自得かもしれない。

いつもの笑顔が途端に胡散臭く見える。

ワタワタと手を振りながら否定するカヤに、先生は苦笑せざるを得ない。

それでは白状しているようなものではないか。特に突っ込んだ所でよりめんどくさいことになるから、言わないけれど。

 

「……仮にカヤが悪くないとして」

「悪くないですよ!?」

「はいはい。それで、端的に言うとさ。後任の先生は、子供を食い物にする悪い大人なんだよ。

 都合が悪いと思っている人は容赦なく排除にかかる苛烈さアリアリ」

「それって先生もでは? 特に変わらないように見えますが?」

「言うねぇ。カヤは私のことなんだと思っているのさ……。

 まあ、軽口は置いといて。あの人の施策は悪意で満ち溢れていて。

 そして、今は権限を持っている。これだけ揃ってわからない程、カヤは頭の回転遅くはないでしょ?」

 

 否定の言葉は飛んでこない。概ね、先生が伝えたかったことは納得できたようだ。

カヤは顎に手を当ててふむむと考え込む。冷や汗ダラダラ、涙目でなければ様になったろうに。

 

「じゃあ、そこから更に展延して。そういう悪い大人が邪魔だと感じている生徒を遠ざけるだけに留めて置くと思う?

 武力がないカヤ相手なら尚更、さっさと処理するよ、きっと。

 君なら、もっと手を打って、再起不能になるまで追撃を重ねるでしょ」

「……先生の考えはわかりました。確かに仰る通りです。

 でも、そうすると、私はシャーレの風紀を乱すようなことはしていませんけど」

「まだ、誤魔化すんだ……。まあ、それを抜きにしても、アレの掌に乗っていない――崇拝をしていない時点で排除の対象になると思うな」

「そんなにですか!?」

「そう、そんなに。あの人、自分の意にそぐわない駒を持ち歩く程、酔狂じゃないよ。

仮に切り捨てられなかったとしても、更迭……冷遇で飼い殺し程度だったらまだ救いだけど。

いつ撤去されるかわからないポジション――君は、ゴミ箱に捨てられる予定の椅子に座っていたい?」

 彼女が求めているのは、決して裏切らない盲目的な信頼を抱いている子供達だ。

余計な小賢しさがない、無垢な生贄――アリウスの在り方からしてそうだった。

その考えから沿うと、自分達をわざわざシャーレに残しておく利は全くない。

彼女が求める子供達の枠組みでは、先生とカヤは適応外である。

だから、自分達は彼女と敵対する立場で、動かないといけない。

内々で処理される前に。ベアトリーチェがまだ遊びを見せている内に、早急に結べる所はどんどん結んでいく。

 

「そういう訳で、不本意だとは思うけれど、今の私達は一蓮托生だ。

 カヤはこういった状況でも手札――表向きに出していない戦力を持っているだろう。

いいや、持ってないとは言わせない。盤面を整えることを極めた君が、個人的に戦力を揃えていないはずがないんだ」

「……はぁ。仮に持っていたとして。貴方につくメリットは? 今からでも、あの後任さんの靴でも舐めていた方が良いのでは?」

「思ってもいないことを言ってカマをかけないでほしいな。だって君、あの人のこと――めちゃくちゃに嫌いでしょ?」

 

自分が世界一愛されて当然で、総ての事象において優先されて。

誰からも人望があって、何もかもを操って当然と考えている無敵の存在。

突然現れて、権力も立場も人員も最上級を手に入れたぽっと出の存在。

いわば超人。いわば世界と人々を狂わせる魔女――ファム・ファタール。

 

「…………ああ、全く、お見通しですか。ええ、そうですよ、洞察力、いや審美眼?

 当たってますよ、怖いくらいに。一応、聞いておきますけど、そこまで言い当てられた根拠は?」

 

 この立ち位置に至るまで、不知火カヤは少なくとも無為に過ごしてきた訳では無い。

願って、焦がれて、飢えた。己が欲望を際限無く高め、手段へと昇華させた。

ありとあらゆる手筈を構築して、外道とも手を結んで。

ゲロを吐いてしんどいくらい働いて。そうして、ようやくこのポジションへとたどり着いた。

そうして、カヤが苦難を越えて手に入れたものを、何の苦も無く横取りされて。

挙句の果てに罷免して殺しにかかってくる? お前の総ては無意味で無価値だと切り捨てる大人など、ムカつくに決まってるだろう。

そんなクソッタレな大人――誰が尻尾を振るものかよ。

 

「カヤは中途半端に『大人』をやろうとしていたから。

 本物からするとバレバレ。完璧に演じ切れるか、骨までその世界に浸かっているならともかく。

 程度がわかる以上は、理解もできるし、利用も容易いよ」

「その発言にはまあまあ業腹ですが、アドバイスとして受け取っておきます」

「実際アドバイスだよ? 君が手を結んでる厄ネタについても、落ち着いた状況になったら、ちゃんと話そうね」

 

 もし、この不可解な状況がなければ、きっと。

自分達はこんなふうに話すことも協力し合うこともなく、お互いの行き着く先まで行っていただろう。

生徒の総てはきっと救えない。伸ばされない手を掴むことなんてできやしない。

 

「さてと、腹の内はお互いに理解した。その上で、聞くけど、私と一緒に逃げない?

 私には、君が必要だ」

「…………はぁ。ずるい大人ですね。手を取らなければ、お互い死ぬしかない状況で言いますか。

 そんな風に直球で君が必要とか、口説いてるんです?」

「カヤが此処に留まると言うなら、一人で行くしかないからね、私は。

 一人より二人。君の好きな打算も踏まえて、考えてほしい」

 

 もう、ここまで言われてしまえば、カヤに断る余地はなかった。

打算的な意味でも、情動的な意味でも。先生と真に手を結ぶ選択肢を選ばない理由がない。

カヤは表情に強い呆れを見せながらも、手を伸ばした。そして、先生は苦笑しながらもその手を取った。

 

「仕方ありません。今だけは貴方と同じ道を歩みましょう。でも、死にそうになったら、いつでも見捨てますから。

 なので、私に示し続けて下さい、貴方の非凡さ――存在価値を」

「カヤに見捨てられない程度に利用価値を提示していかないとねぇ」

 

たった二人。敵の本拠地となってしまったシャーレからの脱出。

当然命がけであるし、背中を預け合うのはこれまで紡いだ関係とは違う、利害しかない間柄。

けれど。けれど。カヤは右手を伸ばし、先生はその右手を掴み取った。

今はそれだけで十分だった。

 

「それじゃあ、脱出しようか。末端まで私達の罷免が広がらない内にね。

――正面から、堂々とさ」

「はぁ!?」

 

 早速、はちゃめちゃに付き合わせることになるけれど、そこはまあ、カヤなら着いてきてくれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 轟音が響き渡る。キヴォトスに来る前は慣れ親しんだ音だ。

軽く握ったアクセル。重根感のあるフォルム。

誰かが乗っているのか、移動手段としてシャーレの格納庫にあった大型バイク。

それは、今この場においては何よりも助かるものとなる。

シャーレに赴任してから、縁が離れていたが、乗り方までは忘れていない。

 

「後ろは任せたよ、カヤ。ナビもお願い」

「はいはい。銃弾飛び交う中、逃げるとは思いませんでしたよ。ナチュラル暴力苦手なんですけどね……」

「そうは言っても、流石に、追手は来るだろうし。銃弾一発、もしくは転倒で死んじゃったら、カヤが運転もやらないといけなくなるんだよ」

「それは嫌ですね。せめて、安全圏に逃げるまでは生きて下さい。その後は死んでいいです」

「手厳しいなあ」

 

 手を組むことを決め、二人は早速行動を開始した。

取り急ぎ確保するべきは移動手段だと考えた二人は、思い当たる節を記憶から掘り起こす。

確か、おそらく。朧げではあったけれど、カヤが誰が乗ってるかは知らないが、バイクが格納庫にあることを思い出した。

その後の動きは流れるようにスムーズであった。

カヤの権限で無理やり、職員を追い出して、その間に大型バイクで脱出。

移動手段の確保まではうまくうてたが、問題はこの先だ。

 

「それで、いけますか」

「どうだろうね。合流のポイントは頭に叩き込んだ。決して不可能ではない塩梅だけど、ある程度の死線に飛び込むくらいは危険だね」

「それ、実質無理では? 死線って時点で論外じゃないですかね……」

「本気で殺しに来ているなら、とっくに私達は死んでるよ。あのベアトリーチェからすると、これからする逃走劇は戯れ――遊びなんだよ」

「人の命を何だと思ってるんですか……!」

「まあ、そうなんだけど」

 

 杞憂であったら、と。前置きを置きたくなる気持ちを抑え、先生は最悪を考える。

彼女の性格上、自分達を楽には死なせない。つまるところ、できる限り長丁場で苦しめるはずだ。

ベアトリーチェは自分達をわざと逃がして、絶望を与えてくる可能性が高い。

希望を与え、生徒に自分を殺させる。もしくは、自分が生徒を殺す。

自分の手を汚さずに愉悦と打算を引き出す手筈は天才的だ。

故に、先生達の行動は制限しない。何せ、この状況に落とした時点で、ベアトリーチェの思惑は達成しているのだから。

どちらに転んでも、あの魔女は高笑いするだろう。

 

「だからといって、贄になるつもりはない。カヤもそうだろう」

「あったりまえじゃないですか!」

 

一気呵成に殺しに来るなら、自分はとっくに死んでいるはずだ。

じわりと回る毒のように。ベアトリーチェらしく、すぐ終わらせにかからない、あくどいやり方である。

 

「今の私は諸事情で撃たれたら、すぐ死ぬからそのつもりでね」

「ちょっとぉ!? 私は荒事が苦手だって知ってますよねぇ!?」

「ははは、本当に一蓮托生だね」

 

 全然、笑い事ではない。事実、今の先生はアロナ達のサポートがない孤立無援な状態である。つまり、銃で撃たれたら死ぬ。

本来ならアロナ達が搭載されているタブレットも手元においておきたかったが、執務室に寄る余裕もなく、保管場所から持ち出せなかった。

やはり常に持ち歩くべきだったとも思うが、その場合はあの会議にて取り上げられていただろう。

どちらにせよ、ベアトリーチェの手先によって確保されてしまうことは確実であったはずだ。

そんなイフの話をしても、意味はない。今はただ、逃げ延びることだけを念頭に置いて、前を向け。

 

「や、やっぱり私はここでおろして」

「じゃあ、往くよ」

「うわ、うわあああああ!!!! どうしてえええええええええ!」

 

背中に回された重みが、今先生が背負っている唯一の命だ。アクセルを捻り、徐々に重力がかかる。

背後から響く情けない悲鳴は置いといて、加速しきったバイクは駐車場から抜け出し、公道へと躍り出た。

爆速。今の自分達はそう言えるだろう。

いきなり飛び出してきたバイクに外で待ち受けていたシャーレの警備は反応することすらできない。

カヤの悲鳴にも負けじと、生徒達は悲鳴を上げながら散っていった。

ひとまず、第一関門はクリアした。後は、目的地まで逃げ切るだけなのだが、簡単にはいかないだろう。

 

「じゅ、じゅ、じゅじゅ銃弾!?」

 

 その悲鳴だけで合図は十分だった。ハンドルを傾け、背後からの銃弾を何とか躱す。

牽制の意味合いも込められていたからなのか、狙いもそこまで正確ではなかった。

とはいえ、すぐに追いかけてくる即断即決の判断力。そして、自ら先導を切る行動力。

やはり、有象無象の不良生徒達だけではない、実力者の面々も配置しているらしい。

公的な関係上で扱えるヴァルキューレか、はたまた荒事こそが生き様と言わんばかりのゲヘナか。

予測の内、一択はすぐに当たった。背後から聞こえてくる少女達の騒がしい高笑いと帰してという悲鳴。

出たとこ勝負の手法。そして、何故か巻き込まれているフウカからして、美食研究会だろう。

こういった荒事は彼女達は適しているし、相手取るには予測し辛い。何せ、目的の為なら、何でもやる生徒達だからだ。

 

「後ろは任せたよ、カヤ! 銃弾飛んできそうな所を予測して」

「無理に決まってるでしょう!? 私は荒事が苦手だって言ったじゃないですか!!!!」

「できなきゃ死んじゃうよ、一緒に!」

「それは嫌です! あばばばばば、かたむけ、バイクを急に傾けないでください!」

「傾けても死なないから! 死んでもこの加速だから、一瞬でミンチになっちゃうかもね!」

「ば、バカ――――!」

 

 型破り、そして、何でもやる。改めて、敵対する生徒達の中でも、引き当てたくなかった相手だ。

ヴァルキューレのメンツならば、教本通りの行動で予測しやすいし、万が一、縁を伝ってRabbit小隊が来ても同様の対応となるだろう。

そうなれば、当然、教本通りの動きをするヴァルキューレとアウトローであるゲヘナが共同して動けるはずもなく。

 

 ……まあ、相手の仲間割れを狙うのは悠長が過ぎるよね。

 

 結論から言うと、此処に集っているのはブラックマーケットで調達した傭兵達とゲヘナのアウトローだろう。

そして、ゲヘナで戦力になりそうな風紀委員会の長はベアトリスことベアトリーチェとご歓談。

万魔殿と風紀委員会の残りはヒナがシャーレに来ている以上、ゲヘナの中枢を空けていないはずだ。

そうなってくると、此処で切られるゲヘナの手札は、美食研究会以外だと温泉開発部、便利屋68か。

 

 ――あのろくでなしは自分を追い詰める為にも、知己の生徒を使ってくるはずだ。

 

 そうなると、どこまで逃げ切れるか。対抗する戦力があまりにも足りなさ過ぎる。

彼女達の苛烈さは容赦がないことを、先生はよく知っている。

 

「カヤ! 改めて、追手はどう! 仲間割れで減ってるとかないよね!」

「美食は全員揃っていて、フウカさんもいます! 後ろから色々ついてきてますが、割愛です!」

「いつも通りだね、よし! いや、フウカだけは全然良くないんだろうけど!」

 

 ゲヘナ、ゲヘナ。これでもかとゲヘナ。追手としてはとてつもなくめんどくさい面々が揃っている。

正直まともに相手をして逃げ切るには難しい。特に美食研究会の面々はゲヘナの中でも上澄みの実力だ。

バイクで蹴散らして逃走なんて簡単にできるはずもなく。

 

 ――温泉開発部と便利屋は伏せ札として使うつもりか?

 

 彼女達がいないのは単なる偶然で片付けていいものか。明らかに待ち伏せ目的だろう。

彼女達は荒事のプロフェッショナルだ。

そうなると、この先の公道では彼女達が罠を張っている可能性が高い。

人の裏をかいて罠にはめてくる傾向も考え得る。

とはいえ、半端な読みの元に行動を割り出しても、追撃の中にいる切れ者の生徒が看破して、先読みをしてくるだろうし、此方が打てる手は狭い。

 

 ……本当に敵に回すと容赦がないなあ。

 

 敵とはいっても、あくまでも《反転》しているだけ。

過った重みも、迸った痛みも、今は気にしている余裕はない。

いざ、敵対とはいっても、ここで思う存分戦うというのは拙い。

相手の土俵に立って殺し合うとなれば、それこそベアトリーチェの思う壺だ。

それ以前に、ベアトリーチェはそれを見たがっている節まである。

生徒を殺す先生、もしくは先生を殺す生徒達。

どちらに転んでも、ベアトリーチェからすると面白い――悪質で、下らない悲劇へと成り下がる。

それを座して見る彼女のことを考えると腹も立つが、今はそのような感情で揺れる状況ではない。

 

「このまま逃げ切るよ! 罠は――ある程度読み解くけど、最悪諦めよう!」

「諦めるって!?」

「目的地まで急ぐ方が安全ってこと!! 命も今は賭け時だしね!」

「嫌ですよ!!!! まだ死にたくな、おげっ、右、弾丸!」

 

 カヤの悲鳴混じりのナビは、命がかっているから、正確性が高い。

そのナビを踏まえて、完璧に読み切れるかどうかは運だ。

 

 ――四の五の言わずに、スピードを限界まで出して、ぶっちぎれ!

 

 今、目立つ公道を爆走しているのは、あえてである。

狭い抜け道、裏道は間違いなく、便利屋や温泉開発部が張っているだろう。

彼女達は色々な依頼をこなす過程で、精通していると予測する。

正直者の生徒達ならともかく、賢い生徒は絶対に其処に罠を張る。

それに、まだ他の学校面子が追手としていないとは限らない。

考えれば考える程、ドツボにはまっていく。だからこそ、閉塞しているこの状況を打破する為に、死地を最速で突っ走る。

このまま、逃げ切れたら良かったのに。

 

「こんのぉ! 誰に向けて銃を向けてるんですか! 私は防衛室長の不知火カヤですよ!!!!!

 賞味期限切れの残飯でも食べさせますよ、この舌バカ集団!!!!!!」

「なんで、煽ってるの――!?」

 

 何を言ってるんだ、カヤは。

一番言ってはならない相手に一番言ってはならない煽りをぶつけてしまった。

もう秒で予測がついた。当然、ブチギレる。

彼女達は美食研究会。自身の舌には絶対の自信を持っているし、食事に対しての敬意は尋常ではない。

怒りのボルテージが一瞬で頂点に至ったのを肌で感じる。

ぶち込まれる銃弾の鋭さが数段増しだ。彼女達から遊びの臭いが消えていく。

あ、だめだ。見たことないくらいブチギレている。

笑顔が消えて無表情で無言。軽口盛り沢山の彼女たちが一言も喋らない恐怖映像だ。

 

「うわあああああああ、なんで~~~~!」

「本当に人の心がわからないんだね、カヤ……」

 

 こうなってしまっては彼女達は地獄の果てまで追ってくる。

せっかく離した距離も、アカリが怒りのドライビングで縮めてきている。

アクセルベタ踏み、車を使い潰す勢いだ。

他面子は射程距離に入ったら即座に攻撃に移れるように、姿勢を整え始めた。

せっかく撒けそうな空気だったというのに、これでは拙い。

 

「ちょっとぉ! 追いつかれますよ!!!!」

「カヤのせいなんだけどなぁ。それはともかく、この調子だと拙いね……。

 後数分で射程距離だね。私達はお陀仏だけど」

 

 このままだと、詰みだ。

今の美食研究会に捕まってしまうのは、文字通り命まで食い尽くされてしまう。

彼女達の信条をコケにした以上、間違いなくダイオアダイである。

 

「けれど、私達の方が一手、速い。流石プロフェッショナル」

 

 先生達の到達地点は既に合流ポイントを超えている。

なればこそ、後は荒事のプロフェッショナルが総てをサポートしてくれる。

嘗て、正義という言葉を体現した部隊。悪を誅する特殊部隊――FOX小隊の武力を以て狂乱は抑えられる。

 

『FOX4、行動開始』

 

 遥か遠く。一直線に空を突き進む弾丸。そして、少し遅れて重苦しい発射音。

弾丸は寸分の狂いなく、美食研究会のトラックタイヤへと突き刺さる。

 

「……っいけません!」

 

 これ以上、アクセルベタ踏みなどできるものか。ひっくり返って全員が空中遊泳だ。

運転席のアカリは即座にブレーキを踏み、車体を急速停止。ひとまずの落ち着きを得ることにした。

 

「あちゃ~撤退ですね、これは。まあ、もう追いつきようもないですし」

「正確無比。高級料亭のような狙撃ですわね!」

「どんな狙撃よ、それ……」

 

 予備のタイヤを交換しようにも、弾丸は再度飛んでくる。また、タイヤが一つおしゃかになった。

牽制の意味合いも込められているのだろう。これだけ狙いを正確に定められる狙撃手なのだ、自分達を倒すことに手間はかからないはずだ。

目視も不可能、完全なアウトレンジ距離。一方的なワンサイドゲームだ。

主目的である先生達が爆走しているバイクにはとっくに逃げ切られているのだから、これ以上の無理をする必要性を感じられない。

歯噛みする悔しさこそあるが、此処は致し方なかった。このやりどころのない感情はシャーレに行って晴らすとして。

 

「合縁奇縁なのでしょうか、ね」

 

 それにしても、あの二人につくやり手が、いるとは。

 




次回

『正義の価値と“私”の不在証明/What a shining justice』
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