反転好感度のデイバイデイズ   作:このむらりく

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第26話『青が、気持ち悪い/キヴォトスは青春で満ちている』

 見知った天井だ。あの世界を揺るがした一件からはずっと見慣れた天井だ。

頭をぐわんと回しつつ、視線を横に向けると、綺麗に整頓されたオフィスデスクに、無駄に洗練されたオフィスチェア。

使い手の趣味がよく出ている代物だ。ここの席に座っているピンク髪の超人擬きは形から入るタイプなのである。

それにしても、気持ち悪い。寝起き特有の茫洋たる不快感が頭をまだ覆っている。

加えて、こめかみを中心にひっきりなしの頭痛が脳内でガンガンとノックをしてくる。

胃腸も暴れ馬で、激しく身体を揺らしたら、口からよくないものが色々とまろび出てしまう。

いつも通り。これが先生の平常運転。己の身体特有の気持ち悪さは全身にしみわたっている。

更にはベッド代わりのソファで寝たせいか、身体の節々が凝りを訴えている。

普段のデスクワークに加えて、満足に眠れていないことからも、そろそろお医者様の診断に再度かかる時が来たのかもしれない。

まあ、それは向こう側も承知の上でそろそろアプローチをかけてくるだろう。

 

「……まぁだ、生きているのか」

「まだ生かしますよ。少なくとも、私との約束が果たされるまでキリキリ働いてもらいます。

 私が超人になるまではずっと、先生は私の専属です」

「専属になったつもりはないけど。本当に人使いが荒い所は治らないよね、カヤ。それで、いつからここに?」

「あのですねぇ。ここ防衛室の部屋ですよ? 私がいるに決まってるじゃないですか」

「仕事あるの?」

「ボケがいよいよ無視できない所まで来ましたか?」

 

 自嘲で濃く染められた声色は低く、掠れている。

特に配慮をする必要がない為、先生は疲れ切った表情を隠そうとしない。

呆れ声に対して、適当な軽口と手をひらひらと振ったジェスチャーで対応する。

魔女の一件から数週間。キヴォトスとほとんどの生徒達は変わらず青春で廻っていた。

 

「ほとんどの生徒達は元通り。あの時期の記憶は全部忘却で有耶無耶に。

 とはいっても、それは人に対してだけであって、業務記録や壊れた建物はそのまま。

 まったく、辻褄合わせが大変でしたよ? これで私達の記憶も消すつもりであったらどうなってたことやら」

「返す言葉もないね」

「先生の仕事なんですからね、これ。舌触りのいい言葉で私達を巻き込んで……」

「成長のチャンスと捉えてほしいな。他部署及び他学園との折衝なんて、生徒会長になる為には避けて通れない道だからね」

「物は言いようですね」

 

 最初こそ、私が総てを支配できるチャンスと意気込んでいたカヤだが、今ではため息しか出ていない。

それもそうだ、他部署とのやり取りだけでも疲弊しているのに、他学園との折衝も加えて行っている。

防衛室というより、もはや外交染みてないか、と。防衛室がやる仕事ではないが、これから先の展望を考えると経験は積んでおかなくては。

というか、先生がやる仕事をそのまま横流ししているだけだ。

もはや、防衛室とせんせいはずぶずぶの間柄であり、勝手知ったるお互いの内情なのだ。

 

「適材適所って言葉はあるけれど、超人を目指すならこれくらいはできてもらわなきゃ困る。

 そもそも、君の手札にこういった内政のプロフェッショナルはいないし」

「先生がいるじゃないですか」

「カヤの成長につながらないからね。それとも、超人願望、諦める?」

「冗談」

 

 指をさして、ジト目で見てくるカヤを何食わぬ顔でスルー。

 

「それでいつまで寝ているんですか。いい加減起きて下さい。私に回す仕事を抜きにしても、タスクは詰まっているんですよ?

 この部屋で、手伝いもしないで寝転がるなんて許しませんよ」

「起きたら吐くよ、色々と」

「起き抜け嘔吐をするなら今すぐ救護騎士団呼びますけど」

「それは許して。私が一生病院から抜け出せなくなっちゃう」

 

 おえっと。舌を出して首を絞める動作をするも、見慣れた様子で何も反応を返してくれなくなってしまった。

もっとも、彼女の性格を顧みて、先生の身を案じておろおろと甲斐甲斐しい態度を取ることはあり得ないから、いいけれど。

 

「吐くなら節度を持って吐いて下さい」

「嘔吐に節度を求めないでほしいな。それに、今更の話じゃない? お薬たくさん、優良不健康大人で真正面から病弱してるのに」

「その病弱との喧嘩にはいい加減勝ってくれないと、私が怒られるんですよ……」

 

 逆に心配でもされようものなら、その時こそ、あの一件で知己となった生徒の出番である。

こんなやり取り、もちろん他の生徒達の前ではできない。特に、ミネが見ると本気で怒られて救護コースだろう。

 

「この部屋で寝泊まりするのを許可している人は誰ですか! わ・た・し、不知火カヤでしょう!?

 はい、感謝と畏敬と憧憬をふんだんに込めて、復唱してください!」

「リンちゃん」

「張り倒しますよ……!?」

「今はリンちゃんの方が偉いでしょ。なんだかんだで支持率も向こうの方が上だし」

「いつか、私の方が偉くなりますし、人気も私が独占ですから!

 人が気にしていることをはっきり言わないで下さい! 私をもっと甘やかして下さい!」

 

 今、先生はカヤの執務室の間借りしている。一角は先生が休めるスペースとして占領中だ。

この執務室は先生がある程度占領してしまってもスペースが余るくらい、広すぎる。

カヤの顕示欲云々で広い部屋を使っているのもある。

 

「結構甘やかしてるつもりだけどなぁ」

「スペースを提供したり、先生の行方をうまくごまかしたり。私の方が甘やかしている気がしてならないんですけどね」

 

 故に、大きいソファやオフィスチェアにオフィスデスクを搬入し、ここでも何らかの業務ができるようには整えている。

ちょっとだけ申し訳なさはあるものの、元々カヤはぼっちだ。

そもそも防衛室に所属している生徒でさえ、カヤの執務室には寄り付かないので、色々と落ち着くにはうってつけの場所だ。

 

「それにしても、その弱った姿、いつまでも隠し通すことはできませんよ。

 本当、理解できませんね。生徒達にそこまで慮る必要性なくないです?」

「わかってるさ」

「わかってないから、私の執務室で入り浸っているんでしょう」

「…………」

「ま、いいですけど。いざ、生徒達の前に出ると、完璧に先生を演じるでしょうし」

 

 以前より、貸し与えられている先生の執務室は、生徒達が突発的に来るかもしれない。

それにやんちゃな生徒は色々といたずらを仕掛けているかもしれない。

もしもそれらが起因で今の先生が弱っている姿がばれてしまうと、ろくなことにはならない。

 

「追い出しますよ、本当に」

「それはちょっと、やめてほしいかな。お願い、こういうことで頼れるのはカヤしかいないんだよ」

「突然そういう顔をしつつ声色を細めるのはやめてください……!」

 

 ここを追い出された時のことを考えて、自然と表情がこわばって、声色がか細くなったのだろう。

カヤとしても、ここで先生が潰れるのは良しと思わない。

このままではいけない、と。言葉にするのは簡単だけど。

一度壊れたものは二度と元には戻らない。先生が抱えている想いも、きっと。

 

「一蓮托生なんです、私達は。こんな所で潰れられたら、私も困るので」

「そうだね。私もまだやらなくちゃいけないことが残っているし、面倒を見なきゃいけない生徒もいるからね」

 

 だから、今はまだ。こんな腑抜けた戯言を言葉にしてもいいはずだ。

そんな外面の理由で今はまだ保っている。

本当の理由は生徒達が怖い、それでも責務と立場を棄てる訳にはいかないから。

けれど、いつまでそうした強がりでやっていけるのか。はたまた、自分も存外に人間なんだな、と。

個人的感情がまだ残っていることに、自分らしさを再認識し、安心している節がある。

見るモノ総てが色褪せて、灰色となった彼女達を見ていることに何の感情を抱かなくなってしまった時が来ることへの恐怖がある。

その時、自分はまだ、先生でいられるのか。いつか、この辛さすら当たり前のものになってしまったら、彼女達に対して事務的な感情しか抱かなくなったら。

自分は彼女達を導く資格が残ることになるのか。

 

「それじゃあ、さっさとお仕事に戻ってもらいましょうか」

「嫌だなぁ」

「は?」

「こわ……」

「内容も聞かない内から嫌と言わないで下さい」

 

 こういった軽口を交えられるのも貴重だ。

カヤは図太い。とことん、彼女は己の承認欲求と権力闘争で勝ち得る立場にご執心だ。

 

「はぁ。今の先生に頼んでも、不味いコーヒーしか淹れられなさそうですし、いいですよ……。もう自分で淹れます」

「あ、仕事ってコーヒーを淹れること?」

「寝起きの貴方に頼む程、耄碌してないですよ。文字通りの仕事を頼んだとしても、二度手間になりそうですし」

「きっついなあ、さっきより殺気増し。さっきだけに」

「冗談を言えるくらいまで、目が覚めたのなら、さっさと自分の執務室に戻ってくれません?」

 

 嫉視と手を振って、自分の執務室に戻れ、と。カヤの言動が冷たい。

確かに、いつまでもこの部屋に入り浸るのはよくない。先生との変な噂が建てられたら、それこそカヤが本気で怒ってしまう。

それに、周りの生徒達への説明も七面倒だ。

 

「しっつれ~いしまーす。お、先生いるじゃん」

 

 そんな、コントみたいなやり取りをしている最中、ドアを開けてひょこっと顔を覗かせたのはオトギだった。

軽い足取りで入ってくるオトギの後ろから、FOX小隊の面々がぞろりと入ってくる。

 

「あっちの部屋にいなかったからこっちだとは思ったけど。その顔だと起きたばっか?

 今日はいつもよりお寝坊じゃない? また寝る時に手でも握った方がいいかしら」

「そうかもしれないね。クルミがそばにいなかったから夢見が悪くてさ。おかげでカヤから小言が……」

「しっかたないわね! それなら毎日もがががが」

 

 全員に羽交い絞め、口を塞がれて苦しんでいるクルミはともかくとして。

彼女の指摘通り、普段ならば、先生の執務室にいるはずの時間だ。

普段より夢見が悪かったのも、倦怠感が強く動くのが気怠かったのも、理由ではある。

それでも、普段とは違った行動パターンだと心配はされるだろう。

特にFOX小隊からすると、目を離すことも本来は嫌だと感じているはずだ。

 

「邪魔ばっかり! それにしても、本当に平気なの? 顔色悪いし、ここはやっぱり私が添い寝もげげげげ」

「はいはい、色ボケ添い寝のお狐さんは黙ってましょうね~、うっわ、グーは痛い痛い!」

 

 きゃっきゃとFOX小隊が騒いでいるのも、見慣れた光景となってしまった。

一応、カヤの直属の立場である彼女達は、この執務室に来ることが多い。

そうなると、この執務室に入り浸っている先生とも接点が増える。

 

「あのですねぇ。ここにいる皆さんは知っていると思いますが、ここは私の執務室なのですよ……?」

「いいじゃん。この執務室、カヤ室長と先生と私達しか使わないし」

「人望ないですしね。本当に誰も寄り付かない、画面上のやり取りだけで済ませたい人ばかりで」

「皆、カヤ室長の変な思い付きに巻き込まれたくないのよ」

「貴方達、もっと言い方ってものがあるでしょう! 私だって傷つくんですよ!?」

 

 忌憚のない意見は時に人を傷つける。

FOX小隊の表情は冷めきっていて、よくもここまで舐められた顔をされたものだ。

ユキノもニコ達の言葉を遮らないというのは、概ね同意しているのだろう。

仮にも、FOX小隊の上司だというのに、誰一人として敬意を払っていない。

事実、先生の手によって方向性が修正されたとはいえ、カヤの根は変わってないし、人望も全然上がらない。

あくまでも打算でカヤと手を組んでいる生徒がほとんどであり、カヤに惚れ込んでついてきている生徒は一人もいなかった。

一緒に死線を潜った先生やFOX小隊が例外なのである。

 

「しかし、事実だ。私達も不知火室長の突飛な思い付きに何度振り回されたことか」

「まあまあ。本当のこととはいえ、これ以上事実を突きつけるのはかわいそうだよ、ユキノちゃん」

「本当に貴方達、私の部下なんですかね……」

「名目上はな。別にいつでも部下をやめてもいいんだが?

 そうなれば、先生の私兵として隊員一同鞍替えだな。むしろ、私たちの本意としてはそちらの方がいい」

「カヤのお目付け役がいなくなるのはちょっとねぇ」

「先生の温情があるからまだついているにすぎん。先生と行動を共にした方が治安維持含め、多方面に貢献できるからな」

「FOX2、賛成」

「FOX3、賛成よ」

「FOX4、大賛成でーす」

 

 全員、特に異論は出なかった。これまでの鬱憤も込められているからか、FOX小隊はカヤに対しての遠慮が皆無である。

ここまでくると、可哀そうにも思えてくるか、積み重ねというのは馬鹿にはできない。

先生が知らない所で、色々と苦労を掛けてきたのだろう。

 

「それはだめですって! 私の胃腸をこれ以上壊すつもりですか!?」

「コーヒーの飲みすぎなのよ。隙あらばコーヒー、先生と一緒にコーヒー、一人でコーヒー」

 

 FOX小隊。そして、先生。内外問わず強力な手札を有してしまった彼女は、今、周りから非常に鋭い視線を向けられている。

カフェインの摂取量は数倍。毎日、色々と胃がキリキリする。

 

「腑抜けたら、即座に私達は離脱するからな」

「好き勝手言って!!!! 私の権力でいくらでも貴方達の居場所なんて無くせるんですからね!」

「そうなれば、先生と共にFOX便利屋をやるだけだ」

「ありかも。今より先生のお世話もできるし、フレキシブルな活動も視野に入れられるし」

「FOX3、賛成」

「FOX4、さんせーい」

 

 皆、目がまあまあマジだった。

ユキノとニコが業務内容について詰めている。

ゲヘナにある便利屋を参考にだったり云々話しているが、その便利屋は特異過ぎるので、参考にしない方がいい。

クルミとオトギはノートパソコンを開いて、ホームページの作り方を調べているし、彼女達はいつでもやる気だ。

全員、行動が俊敏過ぎるし、元々カヤの下から抜け出す算段を企てていたのかと思うくらいである。

私はついていかないよなんて、茶化しを入れられる空気ではない。即座に制圧されかねない。

そこまでやられると、カヤの顔も涙目になり、先生へと助けを求めてくる。

 

「それじゃあ、私……自分の執務室に戻るから」

「あっ、逃げましたね!」

 

 部下の暴走は上司の責任。これもまた、大人になる一歩だ。

カヤにはよく学んで、強く生きてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、あの時見た光景をFOX小隊は生涯忘れることはないだろう。

決戦の後、自分達も含めた寄せ集め連合は、集められて説明を受けた。

そして、経緯と説明。先生は何度も謝って、苦しそうな笑顔で言葉を繰り返した。

 

 すまない。その四文字に彼の絶望が込められている。

 

彼に、背負わせてしまった。

背負うべき理由はあった。誰かがやるしかなかった。

自分達に背負わせるくらいなら、と。

継いで、背負って、行き着く先まで行かせてしまった。

先生はこれからも生徒を救い、世界を救い、総て背負っていくのだろう。

其処に正義があるから。其処にしか、寄る辺がないから。

事実、先生は生徒達を救って、世界も元通りにした。 結果的に、彼が齎したキセキは、ハッピーエンドを導き出したのに。

 

 こんなものが、正義なのか。

 

 FOX小隊の全員が、先生は正しいことを履行していると理解している。

そして、その正しいことに対して、沸騰してしまいそうなくらい、腹立たしく思う気持ちがある。

 

「……やっぱり、嫌だ! 納得いかない!」

「結局、先生頼りってのは変わってないからね。私達が言えたことじゃないけどさ」

「私は最初から納得してないよ? 二度目はないってちゃんと言ってるし」

 

 クルミやオトギが言う通り、納得がいかないという気持ちが強い。

荷物の重さに潰れ、苦渋の表情を浮かべている恩人を見て、何も思わないはずがない。

ニコの言葉の語気が怒りで染まっている通り、全員がその犠牲を認めない。

 

「ユキノちゃんだってそうでしょ」

「当然だろう。私が存在意義を取り戻せたのは、お前達と先生がいたからだ。

 皆がいなかったら、私は嘗ての正義を忘れて、何にもなれなかった。

 その恩義を忘れるような恩知らずになった覚えはない」

 

 今のユキノがあるのはFOX小隊の隊員と先生が全てだ。

だから、誰かに苦難があるのなら全力で助けになる。

誰一人として、己の掌から零すつもりはない。

 

「私の正義は先生と共にある。ならば、その荷を共に背負うのも当然だろう。

 それに、世界と大衆を救えるのが……背負えるのが、先生だけだという事実を、私は認めたくない」

 

 正義を為した先に、彼がいなければ意味はない。

例え、その正義が、遍く世界と大衆が救われる結末であっても。

そこから弾かれたあの人がいないのなら、正義を貫く意味もない。

 

「あの人はきっと止めるだろうがな」

「そこは生徒の自主性ってことでいいと思うけど?

 荷物を奪ってがっちり背負えば、先生も奪い返すには苦労するだろうし」

 

 元々、FOX小隊は死んだように生きていた身だ。

そんな自分達をあの人が拾い上げて、嘗てのFOX小隊を蘇らせてくれた。

先生がいなければ、きっと自分達は正義の意味も忘れ、本当に取り返しがつかない所まで落ちていたはずだ。

その荷が重く、抱え続けられないものだとしても。青春を捨てる覚悟など疾うに持っている。

先生はそれを認めないだろう。

己の道が苦難に満ちて、生き急いでいるものと知っているからこそ、生徒達が同じ道を辿ることに肯定を示さない。

 

「立場なら不知火防衛室長を脅せば幾らでも作れる。これまでとは違って、裏ではなく表で活動する訳だが」

「異議はないよ。私は最初からそういった方向性で動くことを提案するつもりだったし」

 

 たぶん、もう先生の生き方は曲がらない。元から固定されていたものだったが、今回の一件で決定的となった。

彼は救い、維持する為に優先順位を決めてしまった。

何を捨てるか。何を掴むか。それは先生のエゴイズムであり、存在証明だ。

ならば、自分達もそのエゴイズムに則って証明する。

正義と先生。それらが交わる境界線を探しに行く。

それが今のFOX小隊のエゴイズムだ。

先生の好き勝手を自分達は一つ許すのだから、その逆も一つくらいは許してもらおう。

 

「いつまでもSRT再興だけに拘ってられなくなったわね」

「無論、諦めていくつもりはない。FOX小隊の居場所がSRTだということは変わらん」

 

 元々抱いていたSRTの廃校を覆すことがどうでもよくなった訳ではない。

機会があれば学園の再興は狙っていく。

ただ、自分達の居場所に、彼がいないことはあり得ない。

 

「だが、その居場所が先生を踏み台にして得る場所なら必要ない。

 私達の居場所には先生無くしてありえない。

 あの人に救われた生徒として、私達は生きるべく」

 

 漸く巡り合えた人なのだ。

各々、想いには違いがあるが、大枠は変わらない。

もう二度と、私達は己の正義を失わない。

改めて、決意を固めて邁進する。

 

「まあ、先生に一番救われた生徒は私だからな」

「は?」

「は?」

「…………はぁ」

 

 下らない言い争いができるようになったのは、きっと成長なのだろう。





次回

『黄昏を目指して/嘘』
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