反転好感度のデイバイデイズ   作:このむらりく

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第6話『彼女たちの流儀/ロシアン・ルーレット・マイ・ライフ』

 花鳥風月部。百鬼夜行の中でも謎が多い――それ以前に何を主に活動しているかすらわからない部活動。

これまで、百鬼夜行の生徒達とも付き合いがあったが、この部活動の名前は口に出されることはなかった。

 

 ……出す必要がないという理解の方が正しいかな。

 

 口に出すことも憚れるといった意味合いで隠されていたのかもしれない。

これまでの経験で、何らかの接触があれば、糸口をつかめるが、現状は零。

黒服が断片的に連携した情報だけで判断するなら、間違いなく、一癖どころの話ではない。

もうこの時点で鼻が曲がる程、胡散臭さが強い。絶対、裏がある。

けれど、強い。キヴォトス全体という枠組みの中でも、戦いにおいては上澄みを誇る。

その情報だけは偽装の必要がない確かな情報として立証されている。

 

 ……それでいて、《反転》しても尚、変わらぬスタンス。

 

 FOX小隊はカヤが秘匿していた戦力で、調月リオは例外中の例外。本来であれば、ここまで強力な手札は舞い込んでこない。

最初の一手でカヤを引き込めたのが功を奏しているが、ここから先は細心の注意を図らなければならない。

あの黒服がおすすめの戦力を紹介する時点で、使いこなすだけでも苦難しそうだ。

とはいっても、この状況で、戦力拡充の一手として名前を挙げた以上、力量については間違いなく、一流なのだろう。

その部分については信頼もしている。

だが、背中を預ける――その力量とは別の部分が信頼できるかといえば、別問題だ。

自分がほぼ大体の生徒から嫌われている状況で、力になってくれるかもしれない事実がもう厄ネタだ。

造られた憎悪なんてどうでも良くなるくらいの主義主張。ベアトリーチェの思惑を軽々と踏み越えるエゴイスト。

 

 ――そんな生徒達との駆け引きとなると、色々と懸けなきゃだめかもね。

 

 これから会合場所に向かう足取りが重いのも無理はないと言って欲しくなる。

 

「さてと、先生。ここまでは難なくくぐり抜けたけれど、大丈夫?」

「問題なく」

「それならよかった。本当は小隊全員参加ってことにしたかったんだけど、流石に却下されちゃってね。

 私一人じゃ不安でしょ?」

「そんなことはないよ。まあ、この会合の過程は、隠密必須だし、ぞろぞろ連れて行くのも無理だって理解してるから。

 それに、カヤ達を手薄にするのは良くないし、戦力を置いていくのはしかたがないことだよ」

「クルミは最後まで反対してたし、ついてこようとしたんだけどね。

 隊長に首根っこを掴まれて、ようやく、折れてくれたから大変だったよ」

 

 護衛としてついてきたニコが朗らかな笑顔で言葉を返す。

声色から自分一人で務まるものなのか、と。めちゃくちゃに心配している。

 

「随分と慕われちゃってるからねぇ、先生は。護衛がクルミ達じゃなくて残念だった?」

「そういう自分を下げる質問は良くないと思うけど? 質問に質問で返すのも、それはそれでよくないか」

「いいよ、気にしてないから。まあ、でも……そこまで言ってくれると、護りがいがあるねぇ」

「頼りにしてるよ。あっちはリオとユキノが率いているから、安心でしょ」

 

そうして、軽い雑談を交わしながら、歩を進め、花鳥風月部との待ち合わせ場所――廃校舎に着いた。

罠の類はない。崩れ落ちた校門と荒れ放題の煉瓦の道は如何にもありそうだが、あったとしても、ニコが看破してくれる。

先生からすると、もうここまで来るとニコも花鳥風月部も信じ切るしかないのだ。

そういった手合であることを承知の上で、先生は此処にいる。

 

「ようこそ、花鳥風月部へ」

 

 出迎えなのか、待ち合わせ場所に少女が一人、立っていた。

灰色の長髪に小さい見た目の愛くるしさ、くりっとした目、鈴鳴りのような軽やかな声。

それは天性の奔放さ。自由で無責任、子供っぽくて勝手な唯我独尊であって。

容貌の可愛らしさとは裏腹に、身体の至る所に貼られている絆創膏、巻かれている包帯が殺伐さを嫌でも想起させる。

着崩した着物に小さな身の丈に合わぬ長銃を担ぎ、にこりと表情を破顔させている。

 

「手前が案内役を努めさせていただきます箭吹シュロです」

「どうも。元がつくけれど、シャーレの先生だ」

「これはご丁寧に。事情諸々はお聞きしています。面識がないので、経緯も結果も手前はぴんとこないのですが」

 

 血のように紅い双眸がきょろりと此方へと向けられる。

ゆるゆるとした微笑みを浮かべながら、ペコペコと頭を下げる姿には正直、拍子抜けした。

その声色には小憎たらしさが混ざっているが、その程度許容範囲だ。

 

「まあ、そういったご事情を顧みて、お近づきの印に御心遣いを1つ――」

 

 瞬間、先生以外の二人が動く。シュロが長銃を先生へと向けるのと同時に、控えていたニコが動く。

引き金が引かれるよりも前に、ニコが長銃を強く蹴り上げる。

宙に舞った長銃は背後へと弾き飛ばされ、手を伸ばしても届かない所に転がっていく。

当然、拾わせに行く隙は与えない。ニコはそのまま、拳銃をホルスターから抜き、シュロへと向ける。

 

「随分と手荒な歓迎だね。お返しに、このまま撃ち抜いてもいいんだけど」

「それはご勘弁を。後ろで控えているだけの木偶の坊でないようで、良き哉。

 流石、噂に名高いFOX小隊の副隊長なだけはありますね」

「知っていながら、この蛮行? ああ、舐めてるの? びっくりだなあ、FOX小隊を知って、その態度は久しぶりだよ。

 花鳥風月部はこんな蛮行を風流と称する部員を抱える程、逼迫しているのかな?」

「あはは、蛮行とは人聞きの悪い。手前は、この程度の振る舞いで揺らぐお二人ではないと信じています故に。

 噂の通りならば、先生は生徒の戯れで顔を真っ赤にするような器の小さき御方とは程遠き人格者でしょう」

「買い被りすぎだね。そこまで表も裏も鉄面皮という訳ではないさ。

 こうなることもまあ、それなりに予測できていただけだから」

「流石、此方の殺気立った狐とは器が違う!

 あ、ちょっと待ってください、撃つモーション入らないでください」

「散々煽っておいて逃げ腰なんて、都合が良すぎるんじゃない?」

 

 正直、予測はしていた。あの黒服が言い淀む部活が、真っ当なはずがない。

そう思ったからこそ、単独で臨もうと考えた。

現に、ニコはもう額に青筋が数本入っている。あの温厚なニコをここまでぶちぎれさせるのはある種の才能だろう。

止めないと、引き金を引きかねないから、急いで仲介に入らざるを得なかった。

 

「それじゃあ、小粋なやり取りも済みましたし、我らが首魁――コクリコ様の所へと案内いたします。

 あ、後ろからズドンって撃つのはやめてくださいね」

「君が突然振り返って、また銃口を向けてくる方が確率的には高そうだけどね」

「あは、確かに」

 

 ああ言えばこう言う。口八丁の喉は開けば煽りばかり。

真面目な生徒であれば、彼女の言葉に絡み取られ、いいように転がされるだろう。

厄介だ。彼女達は気分次第で、此方へと害意を振り翳す。

 

「コクリコ様~。連れてきましたよ~。ひとまず、手前が追い返す愚鈍ではないことは確認済です」

「せやろなぁ。こっそり見取ったから知ってるけれど。我の見立てからしても、そないな可能性は皆無やし」

 

 廃校舎の一室。廃棄された教室にて、月光を背に一人の少女が待っていた。

花魁風の服装にオペラグラスをくるりと回してこちらへと視線を向ける。

この廃校舎に入った時からずっと、オペラグラスで自分達を観察していたのだろう。

酷薄に浮かべている微笑みといい、彼女の纏う空気は独特だった。

自分と同年代と言われてもおかしくはない程に大人びている容姿。

見るもの総てを俯瞰するかのような言動。

成る程、確かに。厄介と言われるだけの格はあると先生は判断した。

 

「お初にお目にかかります、シャーレの先生。我はコクリコ。花鳥風月部の部長や。今後ともよろしゅう」

「その呼び名、元がつくけどね。それで、ここに来た目的って大まかには聞いていたりする?」

「あの黒服からまるっと聞かされたわ。講釈が長すぎてシュロなんか居眠りしてなあ。

 ま、そういうことなんで、先生の口から説明はせんでもええよ。全部、理解っとるから」

 

 どうやら黒服は自分達の関係をつなぐ以外にも、状況と経緯を説明してくれていたらしい。

サービスが手厚い。説明をこっちに丸投げだと思っていたから、いらぬ準備をしてしまった。

 

「結論から言うと、花鳥風月部は先生に協力するわ」

「あっさりだね。もっと言葉を重ねると思っていたけれど」

「回りくどい言葉はお互い時間の無駄やろ?

 まあ、そないなことはええねん。あの黒服から聞いた話をそのまま信じると、シャーレを牛耳っているベアトリーチェって女がえらい性悪らしいやん。

 我も義憤に駆られてなあ。そういった手合を叩くのは本望やて。正義の味方をやりたいんよ、ほんまに」

「はいはい。それで、本当は?」

「風流の欠片もない野蛮な輩がキヴォトスを支配するのは嫌や。

 お山の大将が好き勝手に振る舞って、世界も人も心底舐め腐っとる。

 そんなん、我らが誅罰を与えるしかないやろ」

 

 ケラケラと笑いながら話しているが、いつでも鞍替えできる。

明るく、楽しげに。彼女はこう言ってるのだ。

お前はベアトリーチェ以下で在ってくれるな、と。

 

「それで、我ら花鳥風月部は戦力を提供する訳やけど、先生は我らに何を提供してくれるん?」

 

 ほらきた。コクリコは見定めている。

口ではうまいこと言ってるが、これで何の旨味がなければいつでも裏切るはずだ。

もしくは、彼女達を愉しませる振る舞いか。

 

「まさか。大人の立場である先生が、何の対価――手土産はなしとは思ってへんけど」

「私の誠意でどう?」

「渡世の世界で、持ちつ持たれつという概念は大事やもんなぁ。そんなん大人の先生がわからんはずないもんなぁ」

「サラッと聞かなかったことにするのはやめて……」

「おもろないこと言うからや。お気持ちとか金銭とかそういうのは求めてへんってわかってるやろうに」

「そうですとも! は~がっかりですよぅ!」

「シュロ、ややこしくなるから黙っとき」

 

 どこまでも自分勝手で無軌道に。倫理観の欠如した言葉が先生を貫いている。

彼女達の判断基準である風流に引っかからなければ、協力はご破談だろう。

誠意は通用しない。金銭は必要ない。正義は存在しない。

こういった状況になることは予測できていた為、やっぱりという言葉が頭につく。

さあ、説得はどうする。今の先生に懸けられるものなんて、1つしかない。

それをゲームのチップのように曝け出す覚悟だけが、この先を照らす極光となる。

 

「コクリコ。その腰にぶら下げている拳銃をちょっとだけ貸してくれない?」

「ええけど。銃口翻して、鉛玉をぶち込むならうまくやってな」

「御生憎様。ぶち込むのは――――自分だ」

 

 彼女達の虚をついたところで何の意味もない。

君達だってわかってるでしょ、と。枕詞をつけて。

軽く笑みを見せて、握った拳銃の銃口を――自身の頭へと向ける。

このまま引き金を引けば、役立たずの男が1人消えるだろう。

何の面白みもない、死体が1つ出来上がりってやつだ

もしも銃弾が発射されたならば。自分はこの世界から弾き出され、どこに向かうのやら。

そんなどうでもいい戯言を微かに考え、引き金へと力を込めた。

 

「さてと、このまま行くと、引き金を引いて死ぬだけ。

 そうならなければ、私にはまだ――物語の続きが在る、と。つまるところ、奇跡が私を盛り上げてくれるって証明になる」

 

 その姿に、その在り方に、その言葉に。躊躇はない。

死んで終わりなら安いもの、もしも、その生命で彼女達の興味を買い叩けるなら笑って払おう。

ニコは顔面蒼白で止めようとするが、シュロが邪魔をする。

 

「止めるな!!!!!!!」

「止めますよぉ! 先生の一世一代の舞台! それを潰してしまう程、手前は空気を読めぬ者ではないので!」

 

 そんな外野を他所にコクリコは先生を見定めていた。

ただの諦め切った者の自殺ではない。狂気と正気がかき混ぜた、鋼鉄の決意。

まるで、この先の結果がわかるようなふるまいだ。

それに、これは自身で用意した拳銃ではなく、コクリコの持ち物だ。

細工をする暇などなかった。つまり、引き金を引けば銃弾は発射される。

 

「――――答え合わせをしよう、コクリコ。物語と奇跡が終わるかどうか」

 

 神は、サイコロを――振らない。そんな手間をする程、神様は世界を見ていない。

 

「この証明を以て、少なくとも。君達にとって、私は見る価値はできたんじゃない?

 趣、風流。それらと対峙できるくらいにはさ」

 

 なんてことなしに、先生は引き金を引いた。其処に、躊躇はなく。

言葉は途切れず、銃弾は発射されず。彼の言葉は何処か現実味がない。

奇跡は必ず起こる。確率は収束する。

 

「約束をしよう。これから先も君達に魅せてやる。君達を腹の底から笑わせてやる。

 私の物語と奇跡が何処まで続くか。何時潰えるか。それを見て、好き勝手に茶々を入れられる特等席。

 コクリコとシュロで、チケット二枚。これで手土産の駄賃はどうだい?」

 

 ありきたりではあるけどね、と。先生は普段通りの表情でなんてことなく、言葉を投げかけた。

この狂気で此方を推し量るお前達の風流をぶち壊そう。茶目っ気のある笑顔を浮かべながら、口元を鋭く歪ませる。

 

「私とベアトリーチェ、世界がどっちを生かすのか。懸けて、賭けて、駆けて。私に預けろ、花鳥風月部!」

 

 改めて。誠意も打算も彼女達には必要ない。

唯一求められるのは、此方についたら、面白いか、面白くないか。

自分という撒き餌をどれだけ美味しく魅せられるか。

 

「……………………は、ははは、ははははははは――愛いなぁ、先生」

 

 コクリコもシュロもきょとん、と。

しかし、徐々に先生が提示しているモノに対して理解が追いついていく。

数瞬後のコクリコの心底楽しそうな声色と表情がその答えだった。

 

「なんや、シャーレのお勤め……皆から親しまれていた先生やから、品行方正で凝り固まった大人かもなぁ、って。

 正直、そんなに期待しとらんかったんよ。つまらん男やわって勝手に見下して、嫌いやわ~ってなぁ。

 あ~、我ながら恥ずかしいわ。全く、噂と立場で判断せず、実物をちゃんと見なきゃあかんわな。

 めちゃくちゃに傾いてるやんけ、先生」

 

 楽しげに声が弾け、蠱惑的に笑みは深まっていく。

その笑みを邪悪と呼ぶのだろう。だって、そんなにも愉快に嗤うのだから。

お前がそうさせた。風流をぶっちぎり、無理矢理に引き寄せたのだぞ、と。

 

「必死こいて工面してくれた駄賃や。確かに受け取った。今はまだ、先生が提示した代価でええよ。

 その物語と奇跡が価値を無くすまで、我ら花鳥風月部――好きに利用するとええ」

「鋭意努力するよ、と言いたい所だけど。そういうのは君達の風流から外れてそうで怖いね」

「ええてええて、好きに傾けばええんよ。特等席で先生の紡ぐ物語と奇跡、愉しませてもらうからな?

 それにしても、こんなおもろい大人、シャーレにはもったいないわ。

 なぁ、全部解決した後、シャーレなんて戻らんで、我らの顧問にでもならんか?」

「破綻が見える間柄にそんな肩書は必要かい? いつか、私達は致命的に対峙する。

 呉越同舟って言葉があるだろう?」

「それもそうやね」

 

 どうせならこのまま先生ごと奪ってしまおうか。コクリコの言葉に嘘はなかった。

もっとも、先生からすると乗ってしまえば終わりのやり取りだ。

歪まず、弛まず、ただ、世界を取り戻す為の過程だ。

 

「しかし、なぁ。命を天運に任せてしまうくらい、想っとるんやな、世界と生徒達のこと。

 なぁ、ここだけの話や。世界と生徒達に恨みはないんか?」

「ベアトリーチェに手酷く操られただけの生徒達に見当違いの恨みを抱く程、私は教師失格じゃないよ」

「…………へぇ?」

「生徒達の青春を護る為に、私はいる。

 これは青春の物語なんだ、喧嘩の後は仲直りってのが定番じゃない?」

 

 ――地獄を浴び続けても尚、『普遍』を貫き通すのか。

 

 生徒達への憎悪が全く無いというのか。

彼が味わったのは暴と謀が溢れきった簒奪劇。そして、冷酷な排斥。

地獄の業火で全身を焼き尽くされたにも関わらず、『先生』を気取るか。

お前はこの世界が地獄《楽園》と理解っても、手を伸ばす覚悟があるのか。

彼は与えられた役割を演じ続ける。普通を履き違えた異常。正気も裏返せば、狂気だ。

 

「………………我らの間柄よりよっぽど破綻が視えてるんやけどなぁ。

 ま、ええわ。それで、この《反転》が終わった後はどうするん?」

「そうだね。後任のアレだけはどうあっても、認められない。

 だから、今の体制だけは完膚なきまでに壊さないといけない。

 それからは……状況次第ってことでどうかな?

 あれを倒した後、連動して造られた憎悪が取り除かれるとは限らないしね」

 

 イカれている。あんな経験をして、この先普通の生活などできるものか。

何度も。幾つもの夜を超えても尚。何処までその正しさを吐き捨てられるのか。

特等席を用意してくれるといった以上、最期まで見届けさせてもらう。

コクリコの考えなど承知の上か、先生も笑顔を崩さない。

 

「かわいい生徒達と顧問の先生。世界を相手に取った“部活動”。

 活動内容は歪んだ世界をぶっ壊す。ええねぇ、そういうノリは」

「だから、顧問じゃないってば」

「照れんでもえって。アンタがどこまで往けるか見たくなった。

 その時点で先生の物語と奇跡に惚れてしまった我らの負けなんやから」

 

 行きつく先が破滅であっても、面白ければ良しである。

それが、風流なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演じ切った。花鳥風月部との駆け引きは一旦は纏められた。

黒服がこの状況に対しての鬼札といっただけはある。彼女達は掛け値なしに、革命という舞台が似合っているし、戦力になる。

ただそれだけに、彼女達と対峙するにあたって、難点はあった。

最初の問題として、花鳥風月部及びコクリコとシュロの興味をこちらへと惹く必要があった。

彼女達は刹那主義に快楽主義を重ねた破滅主義者だ。

彼女達が囁く《風流》に自分が当てはまらない限り、力を貸してくれなかったはずである。

少なくとも、カヤ、リオ、FOX小隊は常人故にお眼鏡に叶うことはないと予測できていた。

 

 ――普通の人間であれば、彼女達は従わない。

 

 だからこそ、彼女達の情緒を揺らし、最高で最悪の“青春”を演出しなければならなかった。

腹の底から笑わせる口説き文句――動乱の舞台へと引きずり出す言葉と矜持を投げつける。

誠意とか信頼とか打算とか。そういった類は欠片も通じないし必要ない。

 

 ――判断基準はきっと、――――“面白い”か、それに尽きる。

 

 総てを得るか。総てを失うか。賢者か、愚者か。

何もかもを取り立てられ、現状の先生に残ったモノなど、生命しかない。

賭けのテーブルに乗せるチップは1つ。当然、全部を懸けることを選択肢として表示させた。

そうして、彼は“冷静”に生命を投げ捨てた。

一億分の一。最後に残った当たりを初手で引き当てられる可能性を信じ抜いた。

“大人のカード”。いつの日か、黒服から聞いた覚えのある、御都合主義の権化。もしくは奇跡の擬似的な顕現。

シャーレの先生という立場。生徒達からの信頼。奪われたモノは多々あれど、唯一遺っていた武器。

奇跡により、因果律は操作できる。たまたま拳銃から銃弾が発射されないという確率を引き寄せられるのではないか。

 

 ……まあ死ぬならそこまでだ。

 

 弾丸全装填済の拳銃でロシアンルーレット。

世界が自身に奇跡を与えてくれるなら生きて、与えてくれなかったなら、死ぬ。

単純な二者択一で正解を引き当てた自身の勝ちだ。まだ自分は愚者にはならずに済んだらしい。

失敗するしかない未来を。億は至るだろう破滅を。

黒を白に変えるには、絶対避けられない結末を無理矢理に変える必要があった。

 

 それに、コクリコたちは必ず乗ってくれると信じていた。

彼女達を引き込んでしまった以上、この先の展望についても考えなくてはいけない。

花鳥風月部を御しきれるか。彼女達は切れ味が鋭すぎる両刃の剣であることを承知の上で、扱えるか。

まあ、どうにかなるだろう、と。精々、気合を入れて彼女達を愉しませるしかない。

 

 唐突に、気分が変わって風流だから、なんて理由を携えて、敵対するかもしれない。

裏切ることも、やり過ぎることも、理解った上で、彼女達は戦力になると判断した。

一学園は勿論のこと、世界を相手に取ったって揺らがぬ強さと狂気。

これから起こる戦争を考えると、此方側に引き入れる価値がある。

せめて、ベアトリーチェ討伐までには彼女達の矛先を此方に向けさせないようにコントロールをするしかないが、出たとこ勝負は変わらなかった。

生命の賭け金が高い内に次の策を考えておこうと決め、先生は後ろを振り向いた。

 

「それで、その……いつまでも黙ってついてこられるのは怖いというか」

「…………」

「無言の圧と笑顔が怖いんだけど」

「誰がそうさせたんですかねぇ。眼前でロシアンルーレットをやった人の言葉は難しいですねぇ」

 

 めちゃくちゃにブチギレているニコがいた。

思えば、護衛の前で散々に好き勝手振る舞ったのだ、怒られて然るべきだが、もしかすると――それ以上。

これまで見たことがない、本気の本気。つまるところ、ニコはかなりキレている。

 

「少し、お話しよっか、先生?」

 

 お手柔らかに。もしくは、許して下さい。そう言える空気ですらなかった。

 




次回

『殉教者/救世主の救い方』
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