反転好感度のデイバイデイズ   作:このむらりく

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第7話『殉教者/救世主の救い方』

 きちんと説明してくれますよね?

その言葉通り、先生は花鳥風月部との一件後、ニコに詰められていた。

コクリコ達との話し合いも落ち着いて、彼女達も戦いに参加する以上、せんせいに着いていくと決まって。

其処から準備含めて諸々の時間が空いてしまった。

お誂え向きに作られた時間で、コクリコがとてもいい笑顔だったのが印象的だ。

 

 ……私がニコに絶対詰められるってわかってたんだろうなあ。

 

 ニコは当然、あの会合の時からずっとブチギレていた。

あのいつも笑顔でほんわりしているニコの顔は絶対問い詰めると書かれている。

冗談抜きに滅多に怒らない生徒がブチギレる時程、怖いものはない。

例えば、仲正イチカのように溜め込んで、我慢して、その末に、と。

正直、先生からすると、そうなってしまうと、ある程度は発散させないと対処のしようがない。

 

 故に、今回の一件について、説明をしっかりしよう。

 

 勿論、ある程度隠し事も混ぜて、うまく誤魔化してもいいが、ここで逃げてしまえば、ニコは絶対力技で止めに来る。まだ彼女の理性が残っている内に言いくるめなくてはいけない。

先生は溢れんばかりの知性と交渉術の全てを引き出して、ニコへとぺらぺらと口を回し、これにて解決。

ニコも納得をし、円満に物事を進められるように。

 

「何度も説明した通り、彼女達の助力――興味を惹かせるにはこれくらいの劇薬が必要だった。

 腹の底から彼女達を笑わせて、興を乗らせるように」

「私は全く笑えなかったですけどね。何の前振りもなく、護衛対象が自殺未遂をしでかした護衛の気持ちってわかります?

 再三言ってますけど、一応護衛なんですよ、私」

「ニ、ニコ……?」

「絶対、二度とやらないでください。忘れませんからね、今回の件」

「いや、でも時と場合によってはさ」

「あんな賭けにもなっていないことをやる状況自体、間違ってません? 私からすると花鳥風月部をそこまでして引き入れる理由が未だに理解できないので」

「そ、そこまで言う?」

「は?」

「……ごめんなさい」

 

 全然、そんなことはなかった。めちゃくちゃにブチギレている。

いつもの人懐っこい笑顔が今では能面のような無表情である。

青筋が数本額に入ってる時点で、気づくべきだった。いや、気づいていても何とか抑えてくれるかなぁ、と。

とてつもなく、甘い考えがあったことは否めない。

確かに反対の立場だったら、烈火の如く怒っていただろうから、先生は言葉を濁し、謝るしか出来なかった。

 

「だって、事前に説明したら止めるでしょ……」

「逆に止めないと思ってます? ユキノちゃんですら止めますよ。クルミ達だったら、話すら聞いてもらえないですよ?

 先生からすると、とても怒ってるように見えるんでしょうけど。まだ、私は必死に理性を働かせて抑えてるんですよ。

 そもそも、あんな無茶苦茶を私が止めないと思ってます? ねぇ?」

「でも、結果的には協力相手も得られて、私も無事だったから結果オーライじゃない?」

「は??」

「はい…………」

「護衛対象がいきなり自殺未遂した時の気持ちを考えた上でもう一度言ってみてください。

 言えたらすごいですね。その時は皆さんに今回の顛末を全部バラしますけど」

「……はい、はい……すみません……」

 

 言い訳も、今回ばかりは全く通らない。正直、平謝りをするしかない。

彼女の言う通り、ユキノならともかく、クルミ達が護衛であったシチュエーションを考えると、深く頷くしかなかった。

 

「確かに、花鳥風月部を味方につけることが絶対条件なら、取った行動は正解なのかもしれませんね。

 それが正解である人達、正直言って近寄りたくもないですけど、非常に業腹ですが、一旦は棚に置きます。

 打算も常識も誠意も彼女達には響かない以上、興味を抱かせるにはそれなりのリスクが必要です」

「だったら――」

「それはそれ、これはこれですよね? 普通はそこで諦めるんですよ。次善策を採用するか、交渉決裂で終わらせるか。

 少なくとも、アレはないです。リスクしかない行為を駆け引きと勘違いしていらっしゃいます?」

「命を転がすくらいしないと、彼女達は乗ってくれなかった。必要な代価だよ、アレは」

「あの場にいた私をのけものにして、ですか?」

 

 結局の所、問答無用で襲いかかってきた際、護衛として動いてくれたら良かった。

自分だけならともかく、ニコにまで命を懸けさせるつもりなんて想定すらない。

危険な綱渡りを彼女にも強いるなど、それは間違っている。

最悪の場合、ニコだけを逃がす為に、大人のカードを乱用することも視野に入れていた。

 

「仮に先生のロジックが正しいとして。リスクを背負うのは先生一人ですって言われて、私が納得する訳ないでしょう。

 そんなにも私は冷血に見えますか?」

「見えないよ。でも、君は生徒で私は先生だ。あの場で唯一賭けられるのは、命だけだった。

 それに、状況の元凶が私である以上、背負うべきリスクは私が払うべきなんだよ」

「…………詭弁ですね。そうやって生徒を危険から遠ざけてきたんですか」

「生徒達が避けられないモノ、私が頼らざるをえないモノ。その限りではないシチュエーションなんていっぱいあるよ?」

「それでも、真っ先に命を張って、賭けのチップとして使うのは先生ですよね」

「さてね。その推測はどうだろう。私なんて後ろで指揮を取って踏ん反り返ってるだけの臆病者だと思ってるけど」

 

 それを見て、ニコがどう思うか。知っていながら、先生はこの行動を選んだ。

理解っている。優しい彼女が快く思わないことだって、全部、だ。

それでも、けれど。それでも。こんな言葉を重ねて、自身で背負ってしまった方がきっと――――。

 

「………………水掛け論ですね。ともかく、先に手を出したのは先生ですからね。

 過ぎたことなので、もう一旦は打ち切ります。ですが、次からはちゃんと滅茶苦茶な算段でも、必ず私に連携して下さい。

 本当に、私だからこの程度で済んでいるということはお忘れなく。

 これ、護衛がクルミちゃんだったら二度と拳銃を持たせてくれませんからね」

「……本当に皆には内緒にしててね?」

「言いませんよ。クルミちゃんが過保護になったら、私も困りますし」

 

 随分と自分勝手な振る舞いだ。

これが生徒達から好かれていた先生かといえば違うだろう。

とはいえ、ここまで曖昧に崩して揺らがないことを見せてしまえば、話は終わりだ。

ニコも自分に対して、あくまでもクルミ達が少し気に入っている大人の人程度の認識であるだろう、と。

 

「本当に、どうしてなんですか?」

 

 だから、その先は踏み込まないと思っていた。

 

「先生の根幹の話です。ずっと考えていたんです。いつからそんな風に、命の値段――自分の価値が安くなったんですか?」

 

 ――笑えよ、大人だろう。その命題を笑って流せないなら、此処で一旦は行き止まりだ。

 

 ああ、けれど。それができたら、もっと楽に歩けたのだろうか。

何の気無しに放たれた言葉は、先生の動きを止めるには十分だった。

ニコの表情の裏側には悲しみが透けて見える。

 

「皆から軽んじられた時から?」

 

 言動、態度、共に。

親しかったはずの人達から冷たくされた時。

それに対して、慣れが生まれてしまった今、何も感じることなんてないはずだ。

 

「業務に集中できなくなった時から?」

 

 上記の影響からコミュニケーションが上手くいかず、仕事の効率は悪くなった。

悪循環はよく回る、それで更に非難が増えるなんて当然のことだ。

ああ、けれど。ここまでならば、容易に推測できるし、皆知っているはずだ。

 

「――――――満足に食事ができなくなってからですか?」

 

 とっくに、先生の顔からは表情が消えていた。

精巧に作られたお面でも見ているように。口元も、目元も、眉も。何も動かない。

人間がするとは思えない虚無――ロボットを表しているかのようだった。

 

「食事はこの前していたでしょ」

「そうですか。私が作った稲荷寿司、“食べてすぐに吐いたのに”?」

「…………………………………………ユキノがバラしたのかい?」

「いいえ。ユキノちゃんは約束をちゃんと守っていますよ。

 ただ、私も心配でユキノちゃんが出ていった後、見に行ったんですよ。

 二人のやり取り、私は見ていたんです」

 

 漸く出した声も白々しい優しさが透けて見える。

感情も全て抜け落ちて、置き去りにした空白。

ニコはかつてこの表情を見たことがある。

SRT廃校の際、汚れ仕事を請け負ってでも母校の復活を願った隊長の顔。

七度ユキノが総てを押し殺し決心を固めたあの時と同じだ。

杞憂であったならば、よかった。けれど、その杞憂は予想通り、最悪の的を当ててしまった。

 

「もうとっくに。先生――貴方は限界じゃないんですか?」

「そうかもしれないね」

「そうかもって……どうしてそんな他人事みたいに!」

「自分でもわからないからね。それに、現状、狂ってるのは私の方で、ベアトリーチェと世界は正しくて。

 ベアトリーチェが正しさを反転させた以上、辛うじて残った私の正しさを担保するのは私自身と、君達だけだ」

 

 皆、ベアトリーチェへの恋慕と先生への憎悪で狂っちゃってるからね、と。

自身の認識を保証してくれる人達の方が圧倒的に少ない。嘗て救ったはずの世界は先生の敵で、味方は極少数。

そんな状況で、何処まで正気を是とし続けられるか。何処まで歩き続けられるのか。

 

「…………それでも、私が足掻くのは。偏に、先生として、大人として。私はあのベアトリーチェを認めることは出来ない。

 例え、今の状況が楽園で在るとしても。例え、生徒達が望んでいるとしても。

 ……こうして理由をあげると、私も存外、個人的情動が強いのかもね」

 

 先生とベアトリーチェ。互いの存在意義を懸けた戦い。

その果てが見えるかどうか。虚空に問いかけた言葉には自嘲と呆れとほんの少しの安堵があった。

まだ、残っている。どれだけ錯綜し、暴走した世界でも、戦う意思は、この胸に在る。

 

「何もかも諦め切る事ができないからこそ、こうなった」

 

 その選択を選んだ。負ければ、今度こそ終わる。そうして、果てに待っている結末は理解できている。

全部喪って、これから先手に入れるはずだったモノすら茶番になる。

最初から手に入れなければ、喪うこともなかったのに。

 

「とりあえず、答え合わせはしとこうか。ニコの質問は全部本当だね。

 私は手作りのご飯はもう食べれない。食べたら気持ち悪くて吐いちゃうんだ」

 

 軽い口調で話すが、全然内容は軽くない。

だって、それは――どれだけ言い訳をしても変えられない真実なのだから。

 

「それは、ずっと」

「そう、ずっとだ」

 

 歪な表情だった。感情によって歪んでいるのか、それとも、元からこんな風に笑う人だったか。

嘗て、身分を隠して、先生と出会った時に見せた表情の一端が《これ》だっただろうか。

ここまで状況が変質してしまった今、もう答え合わせはやってこない。

ニコはそっと先生の手の甲を撫でて、反芻する。暖かく、まだ生きている。けれど、その表情に生が感じられないのは、どうしてだろうか。

先生も、ユキノも。正しく諦められなかった末路を今、その身を持って味合わされている。

 

「ちょっと大げさに言いすぎたかな。食生活は、既製品でカバーできる。

 カップ麺とかコンビニ弁当とか。工場製品が豊富な時代に感謝だね」

「シャーレにいたときは弱みを見せないように、うまく隠していたんでしょう?」

「まあ、ね。隙を見せたら突かれるというか、針の筵ってやつだからさ。

 見せてしまえば最後だ、嘲りのオンパレード。胃腸薬と友達さ、って」

 

 褪せた笑顔が、ユキノと被る。否、これは更に悪化し、拗らせてしまった末路だ。

先生の肩にかかっている比重はキヴォトスという世界だ。SRTよりも重くて、広い。

 

「こうなった理由とか環境とか。話してて気持ちの良いモノではないし、聞く方もしんどいと思うから、端的にいうね。

 ――異物混入、よくある手筈だよね。まあ、皆が冷たい態度の中で、優しい態度で接してくれた生徒から貰った差し入れの食べ物が、“アレ”だった。

 そんなことを何度も経験しちゃうと、反射的にね? まあ、精神的にも駄目なんだけどさ」

 

終わっている。心中で吐き捨てた汚い雑言は誰に向けたものか。

先生? 生徒? ベアトリーチェ? 過去? 世界? 

何に向けた所で、言葉で解決できる範疇はとっくに越えてしまっているのに。

そんなやり場のない苛立ちや不幸の背比べをした所で何の意味がないと知りながらも、抑えられないのは、ニコも噛み締めている自身の幼さか。

 

「…………」

「そんな顔をしなくても、ニコが気に病む必要はないよ。嫌悪に焦がれてる生徒を考えると、仕方がないことでもあるし、予測できなかった自分も悪い。

 それに、毒見役を任せられる人なんていないしね。私が全部、うまくやればいい」

 

 もっと、怒ってくださいよ。笑顔を交えて話すことではないでしょう。

空々しい、絞り出した声色で、自分を心配なんかしないで。

ふざけたやり取りだ、これは。気を使うべきは自分の方なのに、何故先生が気を使ってくれている。

まるで帰り道がわからない迷子の子供を励ます大人みたいだ。

 

「じゃあ、私に対しても、そう思っているんですか?」

 

 だから、咄嗟に出た言葉は、癇癪染みた子供の極みだ。

それは絶対に口に出してはいけない、禁句だった。

今、自分は何を言ってしまった? 言った瞬間、これは失言だと気づいてしまう。

 

「――違うよ。いや、こんなことを話した後じゃ信じてもらえないんだけど。

 ちゃんとわかってはいるんだ。ニコがそんなことしないって信じてるけれど。

 信じてる、んだ、信じなくちゃ、いけないんだ、私は、先生で、大人だ。

 それでも、何かが燻っていて。疑う心は当然生まれてて。

 じゃあ、私はもう、とっくに……生徒のことを、子供のことを、疑って、しまえば――――――私には、何が残るんだろう?」

 

 煤けてしまった瞳はニコではない、喪ってしまった何かを見ていた。

それは、キヴォトスという世界か。それとも、生徒達という人々か。

やっぱり、先生はユキノよりも、よっぽど壊れかけている。

 

「………………取り乱したね。わかっているんだ、頭でも、心でも。信じるべきだって知っているし、それが私の役目なのに。

 もうそんな簡単なこともできなくなってしまった。どこかで綻びと齟齬が出て、私を否定するんだ。

 どんなことがあっても。生徒を信じなくちゃいけないのにね。聖人足ろうと務めても、埋めきれないモノがある……ははっ、情けない話だ」

 

 そうでなくちゃ。生徒を信じなくちゃ。自分の居場所は、存在意義は、どこかへと消えてしまう。

壊れて、汚れて。諦めてしまえば、まだ笑ってくれる生徒達を今度こそ裏切ってしまうことになる。

 

「重ねて言うけれど。こんな私の内実を話したくはなかった。

 クルミも、オトギも、ユキノも、ニコも。君達が私を見てくれていたから。手を伸ばしてくれたから。

 君達の信頼が嬉しすぎて、私も響いちゃったんだろうね」

 

 今にも泣き出しそうな笑みで言われて、受け入れられる訳がないだろう。

嬉しいのに、苦しい。わなわなと震える唇は先生の言葉に碌な返しも出来やしない。

 

「ありがとね、ニコ。でも、ほんと、大丈夫だから! さっきも言った通り、既製品で乗り切れる範疇だからさ!

 美食研究会みたいに、食に魂を懸けてる訳でもないし、全然我慢できるから!

 それに未開封だと変なモノを混ぜられる心配をしなくて済むしね!」

 

 ここまで何一つ安心できない大丈夫は初めてだ。何を担保に大丈夫としているのか。

これまでも、そしてこれからも。先生が放つ《大丈夫》には頭を悩ませていくことだろう。

 

「もう、逃げてしまえば……自分のことだけを考えて、逃げて……!」

「そう在れる程、私は強くなれなかった。それに、ベアトリーチェを放置して逃げたら、真に最悪……取り返しがつかなくなる。

 例え、私がどうなろうとも、疑いや恐れがあっても、逃げることで、ベアトリーチェの思惑に乗るのは駄目だ。

 信じることを諦めたら、本当にこの世界は壊れてしまう。

 ――――賽は投げられた。結果の出目がどうであれ、私が死ぬか、ベアトリーチェが死ぬか。どちらか片方が破滅するまで永遠に続くよ」

 

 何か言いたげなニコの空気を読み取ったのか、先生は言葉を続ける。

 

「もう二度とあの日々が戻らなくても。命が賭け金で残っている。なら、私は最後まで勝負をするよ。

 あのベアトリーチェを倒さない限り、この世界は地獄のままだ。

 世界の底が抜けようっていうのに、私だけ一抜けなんてできるはずもない」

 

 ニコは怖くて聞けなかった。

世界を正す為に、ベアトリーチェを倒す。生徒達の青春を取り戻す。

その先の物語を彼は決して語らない。世界は続いていく。生徒達は青春に戻っていく。

それじゃあ、先生はベアトリーチェを倒した後、彼は救われるのだろうか。

 

「確かに、こんな言葉だけじゃあニコも信じられないよね。それじゃあ、私の命を懸けて」

「さっきあんなにも言ったばかりなのに…………もう忘れるなんて、怒りますよ?」

「もうとっくに怒ってるじゃないか」

「そんな賭け金なんてなくても、とっくに信じてますよ……。

 先生は簡単に命を賭けすぎです。正直、私は先生程他人を愚直に信じられないし、お人好しにもなれませんけど。

 それでも、そこまで生き急いでいる人を見て、何も思えない程、人間やめてないですし。

 あれこれ考えすぎて置いてけぼりってのは嫌なんですよ」

 

 “気づかざるを得ない”。

その答えは、先生の表情が導き出している。

褪せてくすんでいても、尚。真っ直ぐに前だけを見たその瞳は世界と生徒の行く末を見ていた。

 

「きっと、皆救ってしまうんでしょうね………………私達FOX小隊に不知火カヤ、調月リオ、花鳥風月部も。

 全員地獄行きが決まっていたとしても。それでも、先生は手を伸ばすんでしょうね」

「伸ばすさ。君達が手を伸ばしてくれるなら」

「はいはい、わかっていますよ。本当にお人好しが過ぎるんですから。

 重いんですよ、信頼が。重すぎて、私なんか胸焼けするんで」

 

 盲いてしまえば、救われたのに。

そこまで阿呆になれなかった自身の半端さがこの上なく憎い。

貴方が見ていないだろうが、私が見ている。

その苦しみを、その歪みを、その褪せた瞳の中に、私が映っている。

 

「ともかく。こんなお人好しの大人が、世界と生徒から嫌われたままなんて、私も嫌なんで。

 力を貸しますよ、先生。…………やっぱり、私も大概ですね」

 

 この世界で救う対象に貴方を選べない事実が、重い。

どうして。先生も、七度ユキノも。

 

 ――――助けてくださいって、言ってくれないのだろう。

 




次回

『世界の中心、不知火さん/不知火カヤ育成計画』
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