反転好感度のデイバイデイズ   作:このむらりく

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第8話『世界の中心、不知火さん/不知火カヤ育成計画』

 力が欲しかった。人望が欲しかった。地位が欲しかった。

無秩序で好き勝手に闊歩しているキヴォトスの奴等を全員捻り潰せる権力。

どいつもこいつもひれ伏し、自身の掌で勝手に踊ってくれる人望。

怠惰に己の青春を貫く雑種共を権力で統一できる立場。

要するに、不知火カヤは徹底的とも呼べる――己以外の総てを考えていない利己主義だ。

だから、シャーレへと入局した際、彼女はどんな手を使ってでも、成り上がると固く決意を滾らせた。

既にその脳裏には、自分がキヴォトスで一番偉い存在になる未来を定めていた。

例え、誰に目を向けられなくとも。そんな願いは叶う訳がないと呆れられても。最後に勝つのは自分だ、と。

お前らは全員私に跪け、と。そう宣言するが如く。

 

 ……それが、私の青春でした。

 

 七面倒な派閥争いも存分にやり合った。

現状のトップである七神リンの力を削ぐべく、真実と嘘を織り交ぜながら、自身の手札を増やして、後一歩の所までやってこれた。

他者を弾圧できる武力も懐に入れた。廃校となったSRTから吐き出されたFOX小隊も引き入れた。

思わぬ拾い物――浮いていた札を手札に入れることができて、政略の幅は広がった。廃校を撤回するかはともかく、一時的な武器として彼女達は最強だ。

政だけで達成できる目的ではない、武を以て制さなければならない場面だってあるだろう。

 

 ……それが、私の存在意義でした。

 

 多額の金銭を払って、カイザーコーポレーションのPMC部門とだって手を組んだ。

嫌いで。邪魔で。憎くて。そんな人達とでさえ、利害の一致があれば同じ方角を向いて進む。

これがカヤの見てきた大人の姿だ。打算と妥協で付き合っていく間柄。そこに情とかいった不純物は存在しない。

 

 ……だって、それが生きていくってことじゃないですか

 

これまでも、これからも。カヤの野心は揺らがないし、変わらない。

孤立していた彼に救いの手を差し伸べたのもその一環だ。

甘ったるい絵空事を掲げた《大人》なんてどこまで貫けることやら、と。

呆れ混じりの観察と共に、彼と手を結ぶきっかけにはちょうどよかった。

実務と権限を兼ね備えている彼を手中に収めるのはカヤからしたら大歓迎だ。

そうして、籠絡して、自分の手札に加えて――そんな予測も明後日の方向へと投げ捨てられた。

あれよあれよと行動を共にして、いつの間にかに世界を転覆せんとする共犯者だ。

なんというか、逆にこちらが籠絡されていないだろうか。何だかもう、絆されている気がしてならない。

 

 ……最後に笑うのは私。これは既に決まっている。

 

 カヤはため息交じりに缶コーヒーを呷った。

色々と最終決戦の準備が進められている中の一夜だった。

雑居ビルのオフィス、その一室にてソファでぼんやりと窓を眺めていた。

シャーレのオフィスでない以上、自分で淹れるような手間暇かけたコーヒーは我慢しなければならない。

これはこれでいいが、やはりしっかりと高級コーヒーマシンで淹れたコーヒーが恋しくなるというもの。

その満喫については、この戦いが終わった後の楽しみとして取っておこう。

 

「決着をつけましょうか、曖昧な私達の関係について」

 

 彼は取り戻す為に戦っている。自分は生き残る為に戦っている。

他者に重点を置く彼と、己に重点を置く自分。

そんな二人の始発点は成り行きで、終着点はもう見えていた。

 

「こんばんは、先生。いい夜ですね」

 

 いつか至る、関係性の破綻と向き合う時だ。

 

 

 

 

 

 

■

 

 

 

 

 

 

 曖昧にしていた結論。先延ばしの破綻。終着点という決着。

お互いの生命の危機から始まった、先生とカヤの利害関係の一致。

この戦いは先生と不知火カヤが手を組んだことから始まり、今では一癖も二癖もある生徒達が揃っている。

それは本来の歴史では起こり得ない、奇跡に奇跡を重ねたイレギュラー。

わかり合うことなく。手を取り合うことなく。二人の道は平行線で終わるはずだった。

全人類皆友達、なんて。先生のような善人であっても不可能なのだから。

 

「隣でいいかな」

「距離、遠すぎないですか?」

「近かったら罵倒されるからさ」

「あ~……でも、私は違うじゃないですか。

 シャーレにいた時は周りの目がありましたが、今はほら」

「もう習慣染みているからねぇ」

「その染みは元通りになった時、大変ですよ」

「……」

「先生の口車に乗ってしまうと、ペースが崩されちゃうんですよ。

 私はあの花鳥風月部の方々と違って口下手なので」

「どの面と口で……」

「そんな事言う人にはあげませんよ、これ」

「すみませんでした……缶コーヒー欲しいです……」

 

 こんな風に気軽に会話をする未来なんて、自分達にはきっと無かった。

それはお互いに仕方ないと思っている諦観であり、二人の目指す目的が違うからといった納得もある。

己と他者。献身と我欲。水と油。

それが無理矢理に混ざった以上、どこかで落ち着いた話し合いは必要であった。

勢いだけで進めてしまう程、カヤは考え無しにはなれない。

ここから先は戦争だ。カヤはいざとなれば、ベアトリーチェの靴の裏を舐めてでも生き延びる気概だ。

そして、逆に、先生は生きているかどうかわからない。

先生とベアトリーチェ。どちらかが生きて、どちらかが死ぬか。カヤには二人が仲良く生き延びる未来は思い浮かばない。

 

「うん、うまい」

「うっわ、舌バカですか?」

 

生きてさえいれば、という言葉さえ確かではない、と。

だからこそ、今この瞬間でしか、二人は対峙できなかった。

共に対話をする意思はあるし、気まずい雰囲気も今はない。

カヤは呆れた表情でちょいちょいと指を隣に指す。もっと近づいて座れということなのだろう。

先生は隣に腰を下ろし、カヤから適当に受け取った缶コーヒーを一気に飲み干した。

 

「このチープな感じが飲みたい時、めちゃくちゃない?」

「まあ、ありますね。とはいっても、最近はずっとこれなので、いい加減お手製のやつが飲みたいですが」

「実家の味が恋しくなる感じか。それにしても、カヤも飲むんだね、缶コーヒー」

「そりゃあ飲みますよ。コーヒー好きなんで」

「こだわるタイプだと聞いていたから、缶コーヒーは邪道だ~とか言って。飲まないかもなって勝手に思ってた」

「あら。私だって時と場合を考えますよ。インスタントや缶コーヒーを飲まないというのは暴論が過ぎません?」

「確かに。私の場合、ずっとそうだ。淹れてくれる人も……あー」

「はいはい聞かなかったことにしておきますから。立て直しは勝手にして下さい」

 

 そのまま数分、無言の時間が続く。

何かを喋るべきなのに、喋れない。何から話すべきか決め兼ねた戸惑いの空気だ。

けれど、不快な無言ではなかった。

無理して喋る必要はないが、己の内側を出すには言葉にしなくては始まらない。

どちらが折れるか。それとも、どちらも折れずに共存するか。

不知火カヤは最後までみっともなく足掻き続ける。先生は最期まで願いを貫き続ける。

力があれば願望は成就する。笑って結末を迎えられる。

どこまでいっても、同じ道を進めない二人だ。

 

「……先生、私、性格悪いんです」

「知ってる」

「色々と野心盛り沢山です」

「今更話すこと、それ? というか、性格の悪さで言ったらシュロとかの方がよっぽどでしょ。

 語彙力を全部悪口と煽りに振っている性格、一回ちゃんと道徳の授業を受けた方が良いレベルだし」

「そもそも、授業に出ることを確約する所から始めないといけないですけどね。

 出ても居眠りでしょうし、労力の無駄だと思いますよ」

 

 会話の口切りはしょうもない性根の暴露から始まった。

意を決したカヤの表情とは裏腹に、先生は特に気にした素振りすら見せない呆れ顔だった。

だって、そんなこと――先生は、とっくに知っている。

自分の生徒のことなのだから、当然と言わんばかりに、先生は小さな溜息をついた。

不知火カヤという生徒が打算で動き、権力大好き、承認欲求最強の利己的を鋭く尖らせた少女だということくらい、多少の知古であれば知っているだろう。

まさか、彼女は隠せていると思っていたのだろうか。

彼女の頭上に浮いているとさえ錯覚する『!?』と動揺に動揺を重ねた汗ダラダラな表情が、本当に小悪党である。

 

「ああ、話がそれました。というか……もっと、驚いてほしいんですけど。ほら、衝撃の真実~的な感じで」

「その性根、隠しているつもりだったの? 一応言っておくけど、多分周りにはバレバレだよ。

 ある程度の付き合いの人なら、皆察してるでしょ。

 FOX小隊の皆や……何なら、カイザー達でさえ、カヤの性根を知った上で付き合ってるんだろうしさ」

 

 カヤ自身、大人と対等に渡り合っているつもりだが、まだ甘い。

狡猾で乾き切っている大人。曖昧にごまかして、嘘八百。そんな大嘘ばかりの中に真実を織り交ぜて生きていく。

言葉にするだけでも、面倒くさい生き物であり、いつか、そういう腹芸を含め避けられぬ時が来るけれど。

ただ、その時は今じゃない。まだ、モラトリアムを楽しんでもいい年頃に求めることではない。

 

「…………まあ、前置きはここまでにして」

「マイナス要素しかない前置きだったね。ここまで酷い頭出しは……まあ、色々あったけれど」

「話の腰を折らないで下さい。怒りますよ」

「それ、もう怒ってる人が使う言葉じゃないか」

「怒ってますから、黙って下さい。改めて思った訳ですよ。先生の言う『ベアトリーチェ』を討伐した後のことについて」

「私もカヤもシャーレに戻るだけじゃないの? きっと変わらないよ、これまでと」

「そんな訳ないでしょう。言ったじゃないですか、野心盛りだくさんだって」

 

 もう何となく予想はついているが、あえて先生は続きを促した。

打算盛り沢山で隠し切れないあくどい笑みを浮かべているカヤに対して、生暖かい視線を送る。

本当にカヤは腹芸ができないんだなあ、と可愛ささえ感じてしまう。

ナギサ辺りに政治の弟子へと殴り込みしてほしいと思いつつも、まあ無理だろう。

そして、今その未熟さを指摘した所で、カヤがまっすぐに聞いてくれるとも思えず。

ひとまずは、聞く姿勢を崩すことなく、カヤの調子を持ち上げることにする。

できる大人は煽てて、人をいい気分にさせることもできるのだ。

 

「元々手を結ぶ予定はありましたが。今回の一件で確信しました。

 危険分子の人員すらも自陣に取り込み、絶対的な逆境を覆してしまえる主人公。

 状況の判断力も卓越していて、これからキヴォトスを牛耳るのに相応しい身内です」

「はぁ…………それで?」

「先生が必要なモノは総て用意します。人、権利、立場、金銭。ああ、叶えられるかどうかはともかくとして、ひとまずは何でも言っていただけると。

 これは先行投資。貴方を縛る契約ですので」

 

 もうあからさまな懐柔だ。ゲーム開発部と一緒にやったことのあるこてこてのRPGさながらの言葉が羅列されている。

こんな言葉でハイヨロコンデー!なんて言うはずもないだろう。

今まで自分の何を見てきたのかと、カヤの審美眼に対して不安にさえなってくる。

 

「先生。私のモノになって下さい」

「嫌だけど」

「はぁ!?」

「……私のモノになってくれません?」

「嫌です」

「耳が悪くなりました? 耳鼻科、おすすめしないと駄目ですか?」

「御生憎様、聴力検査で異常が見つかったことは今までないんだ」

 

 この前フリからの提案で、頷く程自分は汚い大人と見られていたのだろうか。

少し――否、かなりショックである。というか、ここまであからさま過ぎると、逆に罠を疑うまである。

これはもう当然のことではあるが、魔王《悪役》のお誘いはお断りするのがセオリーで。

何のラグもない即答で返す。カヤは全く想定をしてなかったのか、怪訝な表情をしている。

 

「私が誘っているのですよ……?」

「カヤには恩はあるけど、そこまでは売り払わないよ」

「欲しいものは何でも用意しますよ……?」

「その言葉で即答する程、俗じゃないよ。というか、自分で勝ち取れるモノは自分の手で勝ち取るしね。

 カヤだってそうじゃないの? 他者から与えられるがまま、それで満たされなかったから、自分で動いてる。

 だからこそ、私という手札を増やして野望を叶える手段を盤石にしたい。そう思ったんじゃないの?」

「ぐぬぬ、私のこと、よくわかってるじゃないですか」

「ぐぬぬって言う人、今時は三流悪役くらいだよ」

「煽ってるんです?」

「それはまあ」

 

 軽妙な軽口のやり取りも、シャーレ逃亡時から慣れたものだ。

それでいて、ここまでずれた認識なのだからいろいろな意味ですごい。

というか、シャーレ脱出からここまでの付き合いでこの理解度なのは、本当に人を見る目がないのだろう。

まあ、カヤだしなぁ、と。声に出したらカヤが悲しみそうなので言わないけれど。

 

「は~~~~。思い通りにならないものですねぇ。まあいいです。やり方は如何様にでも――」

「はいはい。話を終わらせるにはまだ早いんじゃない?

 確かに、カヤの誘いである手駒にはならないけれど。君を助けないとは言ってないよ」

「私の掌で踊る以外にあるのですか……?」

「普通にあるでしょ。何をそんな理解できないって声色出してるんだい?

 カヤの言う妥協っていうのはここから擦り合わせていくものだよ?」

 

 カヤは表情をきょとんと呆けさせるが、すぐに表情を引き締め、続きを促した。

当然、先生も何の考えなしに軽口混じりの否定を述べた訳ではない。

にこやかな表情を浮かべながら肩を竦める姿は出来の悪い生徒に教授する先生の本領発揮だ。

 

「それで、元シャーレの先生はどういった形で私を助けてくれるんです?」

「私がカヤの手札になるんじゃなくて、カヤが私の手札になるんだよ」

「嫌ですけど」

「意趣返ししないで。ちゃんとメリットを提示するから最後まで聞いてね」

 

 アイロニーが多分に含んだ言葉と声色に、むむむとカヤは言葉を詰まらせる。

顔に感情が出やすいのは、性分なのだろう。もうこの逃亡劇で情緒豊かな彼女と数え切れないやり取りで熟知していた。

 

「まず一つ目。私が君を大人へと育てる。せめて、カイザーコーポレーションの人達と渡り合えるくらいにはね」

「はぁ?」

「言葉の意味、そのままだよ。交渉のスキルを鍛えてあげるって言ってるの」

「私はもう完璧です。鍛える必要なんてないんですが?」

「どこが? 対抗戦力を潰せない、人の気持ちはわからない、周りとの軋轢は起こす、部下に裏切られそう、そもそも皆にめちゃくちゃ舐められている。

 今のまま野望だ超人だって云々言っても、すぐ転覆されるよ」

 

 不知火カヤは間違いなく、やらかす。

慢心と油断。そもそも超人で完璧と自称する奴がその通りな訳がない。

その後もズバズバと欠点を挙げたが、既に半泣きである。

普通に自省してほしい欠点なのではっきりと言ったが、煽てて持ち上げる太鼓持ちならスルーだろう。

 

「二つ目。君には断る理由がない。

 だって、いつか敵対するかもしれない相手《先生》の手筈を教えてくれるなんて。

 それで、私を御せるまで成長するかはともかくとして。リターンの比率が高い誘いに、カヤが乗らないはずがない」

 

 カヤの抱く野心と先生の抱く願い。方向性が違う目標だし、道も違う。

それでも、まあ――頑張って付き合っていこう。

たぶん。めいびー。イフですらない不確定要素は、先生ですら断定を濁らせる。

その逡巡を悟らせないのは、大人が故の矜持だ。

 

「三つ目は」

「まだあるんです?」

「そりゃあ、ね。最後が一番強い理由なんだけどさ。『先生』が『生徒』を導くのって当然じゃない?」

 

 何を当たり前のことを聞くのだ、と。

先生として。大人として。相変わらず放つ言葉は気取っている。

それを手放してしまえば、もう何も残らないと知っているから。

 

「シャーレから脱出する時のような偶然じゃない……今度こそ本当に、君の手を取りたい。

 君に後悔をさせるつもりはない。君の夢を叶える手伝いを、私にさせてくれないかな?」

 

 とびっきりの口説き文句。断る余地は与えない。

傲慢なまでのその確信めいた笑みに、カヤは暫く目を見開き、呆然としていた。

それでも、一度だけため息を付き、もう一度呆れたような表情を取り戻す。

 

「人誑しにも程がありますね。それ、私のような超人でなければ、すぐに頷いていますよ」

「カヤも頷くだろうから問題ないんじゃない?」

「はぁ、仮に頷いたとして。後悔しますよ。私は貴方の絵空事をまるっと受け入れるつもりはありませんので」

「そういった部分を妥協して、境界線を作るのが、交渉だよ」

「いつか裏切る相手に交渉を持ちかけるのは良い判断とは思えないんですけどね。

 先生の理想と私の理想は絶対に噛み合わない、わかっているでしょう?」

「私が君の総てを読み切れば裏切りにはならないし、互いの理想なんて噛み合わないのが当然だからね。

 まあ、そのさ………………四の五の言わずに。カヤが持ち得る打算と妥協で――――――私に懸けてよ」

 

 打算と妥協。これが根も葉もない虚言であったら、一蹴できたのに。

この大人は最期まできっと突き進む。約束を果たす為。

選んでみせろと突き出された右手を、カヤの左手はぎゅっと握り返す。

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ! 嗚呼、本当に! もう、何なんですか!

 そこまで口説かれて、断れる訳ないでしょう! あのですね、私にそういう事言う人いないのに!

 そういうの、とっっっっても、卑怯じゃないです!!???!!!!??

 すごく! すご~~~~く! 業腹ですが! 取ってあげますよ、貴方の手!

 いいですか、私が超人になる手助けをさせてあげるんです、半端は赦しません!!

 シャーレ、取り戻しますよ!!!!!」

「流石、超人志望。いい啖呵だ。いいよ、やろう。シャーレは――――私“達”の居場所だって、証明しよう」

 

 最初に彼の手を取った時点で、カヤの負けだったのだ。

どうしようもなく。自身と彼は先生と生徒という枠組みにはめられていて。

手を握り合いながら、歩いていく。

 

「……もう、口先がうまいんですから。ああ、でも! 一つだけ言葉はやり返します。というより、先生の提案に乗る以上、言わせていただきますが」

 

 だから、カヤはらしくない手助けをすることにした。

 

「その《自壊願望》、早く治した方がいいですよ。私の手を取るのでしたら、健康体でお願いします」

 

 ひらひらと手を振ってカヤは寝床の部屋へと戻っていく。

此処にはもう一人だけ。誰も弱音を認めてくれない孤独の空間。

 

「………………知ってるよ、そんなこと」

 

 ボソリと呟いた言葉に、先程見せた輝きはどこにも存在しなかった。

 




次回

『明日を信じられる私達はまだいない/あなたと明日を見る為に』
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