レイヴェルの誕生からまた少しの時が経った
あれから俺は死ぬ気の炎の練度を高め、複合属性の使用を可能にした
さらに大空の調和を使うことで他者にもフェニックス家の再生能力を適用できるようになった
そろそろ実戦を知るべきだと考えた俺は、限りなく実戦に近い経験を積めるレーティングゲームへの出場を決めた
俺はまだ未成熟の悪魔だから原則、出場はできない。だから使い魔という形で長兄の、ルヴァルのチームメンバーとして出場することにした
最初は反対されたが、必ず兄の指示に従うことを条件になんとか納得してもらった
まずは後方支援からだったが、少しずつ前線にも出してもらえるようになった
そしてゲームを重ねるうちにいつしか「
俺が七色の炎を使うことからその名がついたそうだ
そうして俺に修行と勉強以外にやることができてからしばらく経ち、ついに
これで俺も、親衛隊とも呼べるであろう眷属悪魔を持つことができる
しかし、ここで第二の壁にぶつかった
「眷属、どうすっかな」
そう、眷属悪魔の人選をどうするかが問題だった
原作通りにする気はない。どうせなら満足できるチームにしたい
しかしだからといって人間をはじめとした他の種族から連れてくる気にはなれない。誘拐まがいのことはしたくないからだ
生来の悪魔、もしくは異形社会に関わりのある者にしぼりたい。間違っても一般の人間や死者には手を出したくない
俺は悪魔だが外道には堕ちたくない。我ながら甘いとは思うが……
「つーか、付き人もいねえしな。1人くらい貴族出身の悪魔をそばに置いときたいが……」
そこでとある人物を思い出す。面識はないが噂で存在を知った者だ
出自で考えればとても手は出せないが、境遇なら話しは別だ
「アポ無しだが、会いに行ってみるか」
善は急げ。俺はバアル領の片田舎へと向かうのだった
***
「さすがにバアル領でもここまで来ると静かだな」
(こんな辺境の地にまで追いやられているとは相当劣悪な境遇にいるようだな、サイラオーグって小僧は……)
サイラオーグ・バアル、大王バアル家の次期当主として生を受けたにもかかわらず、家系の特性である滅びの力はおろか通常の魔力にも恵まれなかった欠陥品
「くだらないな、母方に寄っただけだろうに。後先考えずに交配するからだっての」
あくまで俺の個人的な考えだが、72柱をはじめとした上流貴族同士の婚姻は子孫への遺伝という面で考えると非効率と言わざるを得ない。はっきり言って逆効果にも等しい
交配なんて結局のところミックスだ。フェニックス家やバアル家のような家系特性というある種の遺伝体質を持っている以上は番わせるべきは劣勢因子と呼べる無能力者だ
その点、フェニックス家は不死性という希少な遺伝体質を守り続けてきた稀有な一族だ。外部に流出させまいと婚姻に際して制約や条件まで設けている
原作2巻のケースで考えるならば、仮に
「女としては破格の好条件だろうに……なんで原作はああなったんだ?」
そんなことを考えながら歩いていると目的の人物はすぐに見つかった
……いじめられている真っ最中だったが
「なるほど、あれがサイラオーグか。確かにどことなくサーゼクス様の面影を感じさせるな」
前方では数人の子どもが1人の子どもを囲んでいる。多勢に無勢だ
「お前、ムカつくんだよ。欠陥品のくせに俺たちと対等みたいな顔しやがって」
(貴族らしい血統主義で考えればサイラオーグの一人勝ちだろうに……)
そんなことを考えていると――
「そもそもお前、本当にバアル家の血引いてるのか?」
「お前の母親、浮気してたんじゃねえの?」
「――」
(いくら何でも言い過ぎだな。さて、サイラオーグ、どう出る?)
「……取り消せ」
「あん?」
「俺のことはなんと言おうがいい……だが母上に対する侮辱は撤回しろ!」
(ほう、いい気迫と眼だ)
母親を侮辱されたサイラオーグの怒りに燃える眼はまさしく獅子を連想させるものだった
「ぐ、つまんねえの……行くぞお前ら」
リーダー格と思しき子どもが立ち去ろうとする、が……
「撤回しろと言ったはずだ!」
サイラオーグがその手を掴んで、無理やりに引き止めた
「欠陥品の分際で俺に触れるなっ!」
「がッ――まだだ、逃げるな!」
「くそ、お前ら! やっちまえ!」
そこからは先はご想像に任せよう。だがひとつだけ覚えておいてほしい
サイラオーグと言う名の
***
俺――サイラオーグは弱かった
滅びの力もなければ魔力もない、体術の才能までもなかった
同期の子息と殴り合いの喧嘩をしてもいつも負けていた
自慢できるものなんて何一つとしてなかった。自信なんてこれっぽっちもなかった
だが母は、母上は決して俺を見捨てないでくれでいた
母の存在は俺の中で譲れないなにかとなっていった
だからこそ悔しかった。弱い自分に、勝てない自分に腹がたった
「……? 俺は」
気がつけばさっきと同じ場所。俺たち親子を侮辱した連中も野次馬たちもいなくなっていた
「俺は、また負けたのかっ」
堪らずひとり悔し涙を流す
「悔しいか?」
「!」
後ろから声がかけられた
振り向くとそこにはオレンジ色のスーツを着た金髪の男が立っていた
「貴方は……?」
「ライザー・フェニックス。はじめましてだな、サイラオーグ・バアル」
ライザー・フェニックス――その名は聞いたことがあった
デビュー前にもかかわらずレーティングゲームに突如として現れたフェニックス家の三男
家系特性にも匹敵する7つの異能を持ち、七色の炎を操ることから
(この方が、噂に聞くあの……)
「もう一度聞こう。悔しいか」
俺が呆然と見つめているとライザー様は再度問われた。それに対し、俺は――
「はい……悔しいです」
素直にそう答えた、答えざるを得なかった
「何が悔しかった? 何があそこまでお前を駆り立てた?」
「それは……」
決まっている、それは――
「あの者たちが、俺の母上を侮辱したからっ」
「それで? この先、お前はどうする。何を成し遂げたい?」
「え?」
「お前が母の名誉のために目指すものはなんだ?」
言葉に詰まった。バアル家から追いやられ、先のことなどなんら考えていなかった
足りない頭なりに考えた。そして導き出した答えは――
「強くなることです。たとえ滅びの力がなくとも、魔力に恵まれていなくても」
「で?」
「強くなって次期当主に返り咲いてみせます。そうすればっ」
「みんな認めてくれるってか? 甘いな」
冷水をかけられたような気分だった。振り返ればなんとも甘い幻想だった
「確かに中には認める者もいるだろう。だが認めない者は何をしたところで認めない。仮にお前が魔王やそれに匹敵するポストに就いたところでな」
それはまだ子どもだった俺には到底受け入れがたい現実だった。だがどうしようもない事実でもあった
「……じゃあ、どうすればいいのですか。俺はこのまま、誰にも認められずに生きていくしかないんですかっ」
母上の前でも見せたことがないほどの弱さを俺は見せてしまった。出会ったばかりのライザー様に
「う、うぅ……」
ただただ、泣いた。この時はそれしかなかった
そんな俺にライザー様は、心の薬とでもいえるものを授けてくれた
劇薬ではあったが……
***
「いままで申し訳ありませんでした!」
ライザー様と別れた俺は母上に謝罪をした
自覚がなかったとはいえ、母上を苦しめていたのはこの俺自身だったからだ
「どうしたの、サイラオーグ? どうして貴方が謝るの?」
「俺は、俺はいままでバアル家の者たちばかり意識して、傍で見守ってくれている母上を見ていませんでしたっ」
そう、俺は承認欲求の塊だったのだ。ライザー様はそれを俺に教えてくれた
「……サイラオーグ、顔を上げなさい」
正直、怖かった。きっと母自身目を背けていたことだからだ。だがそんな俺の心配は杞憂に終わった
「馬鹿な子ですね。子どもが父親に認めてほしいと願うことの何が罪だというの」
「! 母上……」
母はただ俺を優しく抱きしめてくれた
***
「よう、ここに戻ってきたってことは……いいんだな?」
バアル家に対する承認欲求から目を覚ました俺はライザー様の下へと戻ってきた
理由はライザー様からの申し出に対する返事をするためだ
「はい。ライザー様、どうかこの俺を貴方の眷属にしてください」
そう、ライザー様は俺の目を覚まさせるだけでなく、眷属として迎え入れたいとおっしゃってくれたのだ
こんな凡庸な俺に……感謝してもしきれない思いだった
「そうか。ならこれからお前には俺の一翼を担ってもらう。今日からお前はこの俺――ライザー・フェニックスの
「――はいっ!」
(もう俺はバアル家の欠陥品じゃない。ライザー様の
サイラオーグのことは嫌いじゃないんですけどね
こういう見方もできるよねってお話しでした