(外側はなんとかなった……と仮定して、問題は内側だ。大王派をはじめ古い悪魔たちをどう抑えるか、それが問題だ)
姫島朱乃の存在をどう認めさせるか
魔王としてだけではない、グレモリー家出身者としても目下の悩みだった
(二天龍の乱入という想定外の事態が起こったことで先の大戦は決着がつかなかった。つまり戦争はまだ終わっていない。水面下で続いている)
そう、それ故に件の少女にまつわる問題は簡単に済ませていいものではなかった
悪魔と堕天使が敵対関係にある以上、手厚く保護することは承認されない。しかしだからといって危害を加えるのも問題なうえに、強権で黙殺すれば不信を買うことになる
「1人で考えても埒が明かない、他の者の意見を聞いてみよう」
私はとある男の下へと向かうことにした。行き先はフェニックス家だ
***
「で、なんでよりによって俺なんですか。相談相手なら他にいるでしょうに」
アポもなしに突然やってきた魔王に対してため息混じりに返す
なんでも相談事があってのことらしい。内容については想像できるが……
「いやあ、突然すまないね。こんなことを一介の若手に相談するのは魔王としてどうかとも思うけど、ぜひとも君の意見を聞いてみたくてね」
(一介の若手と評しながら相談相手に選ぶくらいには特別視する……魔王様の中で俺はどういう立ち位置なんだ? う~む、わからん)
「例の少女のことでしたら俺に手伝えることはもうないと思うんですが……」
「そうだね。だが、この件はまだ終わらせるわけにはいかない。君もわかっているはずだ、だから来たのさ」
「それは……」
言葉に詰まる。純然たる事実故に言い返せない
「ライザーくん、率直に訊ねよう。君ならこの状況をどのように打開する?」
「……あくまで俺の視点で、俺なりのやり方になりますが、それでも?」
「むしろ、それを聞きたい。続けてくれ」
「俺ならまずは自身の置かれた状況をしっかりと認識させます。そのうえで父親の下へ帰るか、こちらに留まるかを彼女自身に選ばせますね」
「なるほど、人道的な手法だが打ちやすい一手ではあるね。それで、君自身はどちらに転んでほしいと?」
「正直に言えば、父親の下へ帰してやりたい……それが俺の素直な本音ですね」
本心だった。原作がどうとか、グレモリー眷属の戦力を減らしたいとかそんなことは微塵も考えちゃいなかった
「それは彼女が堕天使だからかい? それとも子どもだから?」
「両方ですね」
そう、周囲がどんな態度で接しようともそれは変えようのない事実
彼女は独りぼっちで、守ってくれる父親もそばにはいない
姫島朱乃という少女がそれを認識した時、果たして耐えられるのか、俺は心配だった
「……サーゼクス様、対価と言ってはなんですがひとつお願いを聞いていただいてもよろしいでしょうか」
「……なにかな?」
「話しをさせてください、彼女と」
***
籠の中の鳥
私――姫島朱乃という存在を一言で例えるならこれ以上の言葉はないだろう
五大宗家の一角たる姫島の巫女であった母
神の雷と称された堕天使たる父
そんな2人の間に私は生まれてきた
だが姫島の一族は極一部の例外を除き、私という存在を認めなかった
結界で隔離された狭い空間で、隠れるようにしながら両親は私を育てた
ひっそりとした慎ましい生活、でもそこには確かに幸せがあった
両親と私、家族3人で過ごし、時折やってきたいとこの朱雀姉様と遊ぶ。それだけが私のすべてで、それさえあれば私は満足だった
けれど世界は残酷で、母を失った私は父を拒絶して独り外界へと飛び出した。そしてリアスに出会った
当時の私にはリアスがヒーローのように見えた。そしてその手を掴んでしまった
それが新たな地獄への片道切符だと気づかずに……
リアスに連れられ冥界の悪魔領へとやってきた私
でもそこで待っていたのは明るい温かな光の世界などではなかった
私を待ち受けていたのは、自分が悪魔の敵なのだということを嫌でも認識させられる膨大な敵意の嵐だった。私のことを受け入れてくれる者はほんの一握りなのだということを実感させられた
冥界に来てからまだ間もないというのに、自分が独りぼっちなのだと、グレモリー家の庇護がなければ生きていけない奴隷なのだとわかってしまった
日に日に恐怖を覚えていく中、サーゼクス様からお呼び出しがかかった。私と話しをしたいという者がいるのだとか。拒否できるはずもなく、サーゼクス様の私室へ向かうと、待っていたのはオレンジ色のスーツを着た金髪の若い男性だった
超然とした雰囲気以上にとても澄んだ眼をしているところが目を引いた
どんな罵詈雑言を浴びせられるのかと思って、内心怯えているとそのヒトは開口一番にこう述べた
「ふむ、さすがにいとこだけあってよく似てるな。もっともいとこの方は次期当主だけあって凛々しいと感じたが君の方が幾分やわらかい。2人とも母親似か。母君の顔も目に浮かぶな」
「――え?」
一瞬、何を言ったのか耳を疑った。そして聞き間違いじゃないとわかると、私の目から涙がこぼれた
「ちょっ、どうしたんだよ。え、なに、俺の顔そんな怖かったっ!?」
「っ……違う、違います……うれしくて」
「うれしい?」
「だって……誰も、誰も母様のこと、思い浮かべてくれなかったから……」
「……」
仕方ない、といえばそれまでかもしれない。だが誰もが私を見て、私を通して父・バラキエルを見る。それが私の中では悔しかった。誰も母のことを知ろうともしなければ思い浮かべもしない。私のことも堕天使の娘としか見ない。それらがどうしようもないほど悔しくて、何より悲しかった
でもそのヒトは、ライザー様は違った。それがとてもうれしかった
それから私が泣き止むのを待つと、ライザー様は私に語ってくれた。私がどれだけ危険な状況に置かれているのか。そんな私を朱雀姉様が心配してフェニックス家を頼ったこと。そして父がどんな思いで耐えているのか
そして選択肢を提示してくれた。今ならまだ引き返せると教えてくれた
けど、私はこちらに留まることを選んだ。まだ心の整理がつかなかったから
だけどいつか、将来的には帰ると答えた。だからそれまでの間はライザー様の下で下宿させてもらうことにした
リアスには悪いとも思ったけど、彼女は彼女で将来的に私を眷属にすることを念頭に置いて私を助けた。信頼できるとは言い難かった。私自身そこまではまだ心を許していなかった。でもライザー様のことなら信じてもいいと、そう思った
サーゼクス様からも許可をいただき、身元をグレモリー家からフェニックス家へ移した
(ライザー様といると心が温かくなる、どうしてだろう。いつか父様のところに帰ったらもう……会えないのかな? いやだな)
その気持ちの正体に気づくのは、もう少し後のことだった
ライザー×朱乃……需要はいかに?