ウマドルが油断してたら大好きな幼馴染を同室の閃光に奪われかける話   作:shch

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なんと半年振りの投稿です。








6.鼓動

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いいよん…優ちゃんなら…」

 

優の目の前にはそう言いながら目を瞑り、口を窄めるトランセンド。

 

この時、優の脳内はこの異様な状況を処理しきれずにほとんどショートしていた。

 

さっきまで友達同士としてゲームで遊んでいただけなはずなのに…ちょっと魔が差して、いつもからかってくるトランに反撃しようと思ったらこれだ…甘い考えであんなことをしたことを激しく後悔をする。

 

優はショートした頭を必死にぐるぐると回しながらこの状況を処理しようとしていた。

 

だが、思考しようとしても、視界一杯に広がるトランの整った顔が理性を削る。

 

(…ダメだ…このままだと変な雰囲気に呑まれて本当にキスしかね無い……俺とトランは友達なんだから……そんなことは絶対ダメだ…………絶対ダメ……ぜったい……ダ…メ…?)

 

「……(……ん?)」

 

思考していたその時、優はあることに気が付く。

 

自分の目の前のトランがしているのは俗に言う「キス待ち顔」だということは流石の優も分かっている。

 

ということはつまり…

 

(…………トランは…俺と違って…俺とキスをしても良いと思ってるのか…?……なんでだ?)

 

長い思考を経て、優は遂にそこまでの考えに至る。

 

「絶対ダメだ」なんて考えている優とは対照的なトランの姿は優の思考をさらに揺さぶる。

 

…と、その時。

 

「……しないん?…優ちゃん」

 

目の前のトランが口を開いてそんなことを優に言った。

 

閉じていた目はうっすらと開き、僅かに潤んだその瞳は妖しくも確実に優の目を見つめている。

 

その扇情的なトランの視線がさらに優の思考を歪める。

 

『好きな子同士じゃないとキスなんてしない』という純粋な優の常識がまるで間違いだと言っているかの様なその目線。

 

(…………わ、わからない…キスをしたいということは……トランは俺のことを好きなのか?……じゃあ俺は?トランのことが好きか?……トランとは趣味も合う……それに一緒にいて居心地が良い……トランのことを嫌いになる要素は無い……じゃあなんで俺は今、キスを躊躇ってるんだ……??)

 

どれだけ思考しても『キスをしたらダメな理由』が見つからない。

 

『トランセンド』という素敵な女の子が、自分なんかとキスをしても良いと言っている。

 

この雰囲気に身を委ねても良いのでは無いだろうか…なんて気持ちが少しずつ優の中に芽生え始める。

 

(俺には…付き合っている人もいない…それに好きな人だって……それなら…このまま…)

 

優がそんな事を考えていたその時…

 

 

 

 

『優くん…?』

 

何故か優の脳内に、突然不安そうな顔の幼馴染の姿が思い浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しないよ…トラン」

 

優の口はいつの間にかはっきりと否定の言葉を吐き出していた。

 

そして、「しない」ときっぱりと断りを入れた優はトランの口元に自らの手を置いて、トランの唇を制した。

 

(…なんで…今…ファル子の顔を思い浮かべたんだ…俺は?)

 

そんな優の行動に対し、トランは一瞬だけ残念そうな……落胆したような表情を見せたが、すぐにいつもの優をからかうような表情に戻って口を開く。

 

「……優ちゃんのいくじなし……(…もうちょいだったんだけどなぁ)」

 

そう言ったトランは一息おくと続けて言葉を放つ。

 

「……まあでも…優ちゃんのそーゆーちゃんとしてるとこ…好きだよん…へへ」

 

いつものからかいの一言、きっと優なら顔を赤らめながら「からかってくんなよバカ」とでも言ってくれる、それでこの変な気まずい雰囲気は払拭される。

 

それからまた元通りの空気になって、これまで通り一緒に過ごして、またこんなチャンスを待てばいい。

 

そんな考えの元のトランの発言だった。

 

だがしかし…

 

「…なぁトラン…その「好き」は…どっちの意味だ?」

 

優はトランの予想を裏切り、真剣な表情でトランに問いかけたのだった。

 

「…!」

 

トランは驚いていた、優の口からそんな言葉を聞くのは初めてだったからだ。

 

これまで恋愛の話をしても、それとなく受け流していた優が自分からそんな事を聞いてくるとは流石のトランも想定外だった。

 

(…どーゆー風の吹き回しだよ優ちゃん?……ってかその2択、結構ムズイんだが…)

 

きっとここでの解答次第で、今後の優との関係性は大きく変わる、優の真剣な表情がそれを物語っている。

 

まず…ここで「友達としての好き」と答えたとしよう。

 

そう答えれば、この変な雰囲気も払拭され、友達として気軽に部屋に遊びにきたり、一緒にゲームをしたり、映画の感想を言い合ったりとこれまで通りの楽しい時間が優と過ごせるのかもしれない…ただ…

 

(もう当分は…「友達」としか見てくれないかもね〜…)

 

これまでトランがちょっとずつ積み重ねてきた「トランは俺を好きなのかもしれない」という優の意識が一気に全部消える…また1から友達としてやり直しだ。

 

「友達として」の選択肢にはそんなリスクが伴う。

 

(…じゃあもういっそ…異性として好きって言っちゃう?)

 

トランがそう言って、優がトランの事をより異性として意識し始めるのならばトランにとっては大成功。

 

ただリスクは明らかにこっちの方が大きい、なんて言ったって…

 

(…でもなぁ……優ちゃんの中にある「あの子」への気持ちに…優ちゃん自身が気付いちゃうかも…)

 

そうなってしまえば、トランの勝ち目はゼロに等しい。

 

 

(はあ…優ちゃんがここまでハッキリとした2択を押し付けてくるとは思わなかった…なんか一緒に過ごしてたらなし崩し的に…なーんて考えてたウチが甘かったか……)

 

そんな事を考えながら自らを戒めるトランセンド。

 

(はぁ…まあこの場合はしゃーないよね…)

 

…もう、トランの答えは決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もちろん…『ダチとして』に決まってんじゃん?…ちょっとからかいがすぎただけだよん……優ちゃん」

 

 

戦略的一時撤退である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は過ぎ、夏休み最終日…ファル子とフラッシュが夏合宿から帰ってくる当日の昼前である。

 

「おーい…優ちゃん起きろ〜…朝飯作れ〜」

 

「いや俺は起きてんだわ、起きてないのはトランなんだよ…さっさと俺のベットから出ろ」

 

優はそう言うと、自分のベットの上で寝転がるトランの掛け布団を勢いよく取り上げた。

 

「…てか、何時だと思ってんだよトラン、もう朝飯の時間じゃなくてギリギリ昼飯の時間だ……はあ…まあ昨日は確かに過酷だったけどさ」

 

優がため息をつきながらそう言うと、トランもうんうんと頷きながら口を開く。

 

「…大変だったね〜徹夜で編集合宿…まあ優ちゃんはすぐ寝落ちしてたけど」

 

「いや5時までやったんだから上等だろ?一応手伝って欲しいって言われたとこまではやったし」

 

「ウチはそっから3時間も作業してたんだが?…寝たの8時だよ?だから……もっと寝かせろ〜!」

 

トランはそう言いながら掛け布団を取り返すべく、優に飛びかかる。

 

「…わふ」

 

「布団返せ〜!」

 

掛け布団を巡って争う2人、ウマ娘の方が力が強いのでトランがやや優勢だ…まあ側から見ればじゃれあっているようにしか見えないが。

 

「隙あり!」

 

「ひゃん!!…ちょ、優ちゃん!?変な声出たって!しかも布団取られたし!」

 

この2人はあの日の『キス未遂事件』からも特段変わりなく、2人で夏休みを満喫していた、映画とゲームで一日中家にいたり、優がどこかへ連れて行かれたりと楽しい日々を過ごした。

 

ただ変わった事もある…それは…

 

「…尻尾はズルくない優ちゃん?」

 

「うるさいぞトラン、勝手に人のベットに侵入してきたやつになにも言う権利はないのだ!」

 

優のトランの扱いが雑になった…と言うくらいだろうか?

 

この前までは友達として接しつつも、トランの事を女の子として扱っていた優だったが…今はどうだ?もはや学校にいる数少ない男友達と似たような対応をトランにしている、何があったのかは知らないが。

 

そして、これはトランにとって良い事なのか悪い事なのか、それは分からない。

 

だが…

 

「…罰として昼飯はお前が作れトラン」

 

「…まーしゃーなしね、いつものやつでよろしいでしょうか?ご主人様?」

 

「…メイドにした覚えはないんだけど…あ、いつものやつでお願いします」

 

「あいよ〜お客さん!チャーハン一丁!…ってね」

 

「いや中華の店長にした覚えもないよ?」

 

…まぁ2人の距離が縮まったのは事実であろう。

 

 

 

 

そんな2人でコントじみた事をしていたその時だった…

 

ピンポーン!

 

来客を知らせる玄関のチャイムが部屋に響く。

 

「え、誰よ?ウチ以外に優ちゃんの家に来る人なんていんの?」

 

「失礼だな…まあいないんだけど……あ、宅急便じゃないか?この前トランなんか頼んで無かったっけ?」

 

「お、確かに…じゃあウチの荷物っぽいからウチが出てくる」

 

「ありがと、いってら〜」

 

優はそう言いながら、玄関へと向かうトランの背中を見送った。

 

だが…

 

(なんか遅いなトラン、荷物受け取るだけなのに…)

 

しばらく経っても、玄関へ行ったトランが戻ってこない。

 

異変を感じた優は玄関に向けて声を上げる。

 

「おーい、どうしたトラン?宅急便じゃないのかー?」

 

優がそう言うと、玄関先のトランのすこし焦ったような声が優に聞こえてきた。

 

「…優ちゃん…ちょっとヤバいかも…」

 

「え?なにが?」

 

トランのそんな声を聞いた優は能天気な声を上げて、その場から立ち上がり、玄関へと足を向けた。

 

コツコツと優は玄関へと足を進めながら口を開く。

 

「…ったく、なにがヤバいんだよトラ……」

 

そして…優は玄関へとたどり着く…そこには……

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

「どうも、1ヶ月ぶりですね…それで、この状況について説明はあるんですよね………優さん?」

 

夏だと言うのにとても冷たい笑顔でそんなことを言うフラッシュさんが玄関先に立っていた。

 

「……」

 

その背後にはどこか虚ろな目をして、何も喋らないファル子の姿もある。

 

「…ひ、久しぶりフラッシュ……それにファル子も……あの…二人とも目が笑ってないけど………大丈夫そ?」

 

1ヶ月ぶりの再会は…突然だった。

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じですねはい」

 

「なるほど、ではあなた達はこの1ヶ月間ほとんど同じ空間で過ごしたのにも関わらず、男女の関係では無いと?」

 

「……はい」

 

フラッシュとファル子が赤色のソファーに座り、真ん中にあるちゃぶ台を挟んで、何故か正座をさせられている優を見下ろしていた。

 

トランは気まずい空気に耐えかねたのか途中で「眠いから」という理由で先ほど颯爽と帰っていった。

 

(…薄情な…ヤツだなあトランも…)

 

そんな事を考えながら、優は背筋を伸ばして正座をする。

 

ちなみにフラッシュとファル子の前には機嫌を取るための飲み物やお菓子が申し訳程度に置かれてある。

 

そんな状況で優がフラッシュに向けて口を開く。

 

「でも本当になにもないんだよフラッシュ、トランは俺にとって一緒にゲームや映画を楽しめる俺の数少ない良い友人なんだ」

 

学は真剣な表情でそう言うとフラッシュの目を真っ直ぐに見つめた。

 

「……フラッシュなら俺の目を見れば嘘じゃないことくらい分かるだろ?」

 

そして優がそう言うと、対するフラッシュは大きくため息をつきながら気の抜けたような声を出す。

 

「はあ…全く貴方と言う人は…」

 

こう説明するのもかれこれ何回目だったか、流石のフラッシュも観念したのか、一つため息をつくと口を開いた。

 

「…もういいですよ、優さん…正座を崩しても」

 

「え、…あ、ありがとうございます」

 

優は辿々しくそう言うと足を崩した、そして痺れる足を押さえながら口を開く。

 

「やっと分かってもらえたんだなフラッシュ」

 

「…まあ…今回は1ヶ月くらいなら大丈夫かなと油断していた私の落ち度もありますから」

 

「油断?なんの油断だよ?」

 

「いえコチラの話です、それよりも優さん、さっきから話しているように今後は簡単に女の子を部屋に上げてはいけませんからね、ましてはウマ娘ですよ?」

 

「はい」

 

「それと…何回も言いますが、女の子と遊んでて私たちが合宿から帰ってくる日を忘れてたなんて言語道断です、諸々反省してくださいね…!」

 

「…はいぃ」

 

優はフラッシュの言葉に素直に頷くと、次はフラッシュからずっと黙っているファル子に目線を移し、恐る恐る口を開く。

 

「…おーい…ファル子〜?…えっと……久しぶりだな、元気だったか?」

 

「……」

 

優がファル子にそう言うも、ファル子の目には光がなく、まず優と目が全く合わない。

 

「ファル子?」

 

優が心配そうな声を出して、ファル子の顔を覗き込む。

 

その瞬間…

 

「……ッ!!」

 

ダッ…!

 

ファル子は何も言わずにその場から立ち上がり、物凄いスピードで部屋を飛び出し、どこかへ走り去ってしまった。

 

「ファル子!?」

 

急な出来事に優は驚きの声を上げながら立ち上がる。

 

「…あ、あんなファル子初めてだ……フラッシュ!俺ちょっと追いかけてくる!留守番頼む!」

 

「……あ、は、はい…」

 

あまり聞かない、優の大きな声にフラッシュは驚きながらも返事をした。

 

「あ…ですが優さんの足ではファルコンさんには……」

 

「行ってくる!!」

 

フラッシュの忠告も聞かずに優は部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 

「……はぁ…全く…優さんはファルコンさんの事になると本当に必死なんですから」

 

1人優の部屋に残されたフラッシュがポツリと呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」キョロキョロ

 

1人で優の部屋にいるフラッシュは何やら無言でキョロキョロと部屋を見渡す。

 

そして、部屋にある優のベットに目をつけると、そのベットをジィーっと見つめ出した。

 

「…………ちょっとくらい…良いですよね」

 

フラッシュはそう呟くと思いっきり優のベットに飛び込んだ。

 

…だが。

 

「むぅ…」

 

ベットにダイブしたフラッシュは少し怒ったように頬を膨らませる。

 

(…………優さんの匂いがあんまりしませんね…あのウマ娘の匂いでしょうか?……気に食わないです……私の匂いで上書きしないと……)

 

…それから優が帰宅するまで、フラッシュがベットから離れることは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ファル子!!ファル子!!……どこ行ったんだ……てか…よく考えたら追いかけても…ウマ娘に俺の足で追いつけるわけなかった…」

 

慣れない運動と大声を出したせいか、優は息を切らしながら手を膝に置いて、痛む喉元を抑える。

 

「…はあ…はあ」

 

(……結構走って…近くは探したんだけどいない……さっきのファル子…明らかに様子が変だった……心配だ…)

 

優はそう考えながら、周囲を見渡す。

 

(……マジでいないな……あ!…もしかしたら…!)

 

ダッ…!

 

何か心当たりを思い出した優はもう一度息を整えてから、走り出した…

 

「頼むからあそこに居てくれよ!ファル子…!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ファル子!!」

 

場所は…いつもの河川敷、ファル子がたくさんライブの練習をして、優がたくさんペンライトを振った思い出の場所。

 

「…やっと見つけた」

 

…そこにファル子はいた。

 

「……」

 

無言で河川敷の坂に座り、川辺を眺めている。

 

いつもの活発な笑顔を絶やさない彼女からは想像もできないほどの無表情、優は少し心配の表情を浮かべながら、ファル子の元に歩み寄った。

 

「……」

 

そして座っている彼女の隣に無言で腰を下ろした。

 

「……」

 

「……(…なんて声をかければ良いんだ)」

 

隣り合って座る2人の間に沈黙の時間が流れる。

 

優はいつもファル子といれば、ファル子が勝手にマシンガントークをかましてくる、だから優にとってはファル子と2人きりなのに、こんなに静かな状況は初めてだ。

 

故に優は何を話せば良いのかわからなかった。

 

…と、その時。

 

「……優くん」

 

先に沈黙を破ったのは…意外にもファル子だった。

 

「…ファル子?」

 

優は心配するような声色でファル子の名前を呼び返す。

 

すると、ファル子は優の方は見ずに川辺に目を向けたままポツポツ…と話し始めた。

 

「…あのね…優くん…最近ファル子怖いの…」

 

「…怖い?何が怖いんだ?」

 

ファル子の言葉に優がそう返した。

 

それに対してファル子はさらに言葉を続ける。

 

「…怖いの…優くんが…ファル子の元からいなくなっちゃうんじゃないかって…」

 

「そんなことは…」

 

「…フラッシュさんとも…あんなに仲良くなっちゃって……それにあのトランセンドさんって人とも……ファル子は今日まで部屋になんて入れてもらった事もなかったのに……」

 

「……」

 

優は何も言わずにファル子の話に耳を傾ける事にした。

 

ファル子がこんなことを言うのは初めてだったからだ。

 

「…楽しいよね…フラッシュさんやトランセンドさんと一緒にいるの……ファル子気づいちゃったんだ……あの2人はファル子と違って頭も良いし…優くんと同じ趣味を持ってて……絶対優くんはファル子よりもあの2人といる方が…楽しいんだなって……」

 

「…これまでファル子は全部…優くんに押し付けてた…ライブの練習に付き合わせて…服だってファル子が選んだの着てもらって……ファル子の好きを強要して……優くんの好きなものを全然共有しなかった……ずっと優くんに甘えてたんだ………優くんならファル子がどうなったって、何をしたって……ずっと隣にいてくれるって……でも……今はもう違うんでしょ?……だって…もう…ファル子なんて………」

 

ファル子はそんな事を言いながら、少しずつ声が小さくなり、やがて顔をうずめて、何も言わなくなってしまった。

 

ファル子の言葉は…本当に思っている事をそのまま口に出した様で…ぐちゃぐちゃで…整理されていない……でもその言葉は…

 

(…これが…ファル子の本心なのか…?)

 

優はファル子のファン1号であり、幼馴染、そんな好きな事を押し付けられてるとか、好きなものを共有していないとか…考えたこともなかった。

 

そのせいで…

 

(…かける言葉が見つからない)

 

ただ、目の前で悲しむファル子を放ってはおけない優はなんとか口を開く。

 

「ファル子…!そんな事ない!俺がファル子から離れるなんてそんなの……「じゃあファル子だけを見てよ!!」

 

優の声を遮るような、ファル子の声が河川敷に響く。

 

「…え」

 

そのファル子の怒った様な大声に優は唖然として立ち尽くす。

 

そんな声聞いたのは初めてだったからだ。

 

だが、そんな優に構わず、ファル子は言葉を続けていく。

 

「これまでは優くんはファル子だけを見てくれてた!優くんにはファル子だけだった!!……でも…今は…フラッシュさんとかトランセンドさんのことばっかり!!ファル子のことは全然見てくれない!!でもそうだよね…だってあの2人は…優くんにとってはファル子なんかより全然魅力的なんだもん!」

 

「……っ!!」

 

ファル子の悲痛とも取れるそんな声…優はそんなファル子の声は聞いてられなかった。

 

…ガシッ…!!

 

優は無言でファル子の両肩を掴む。

 

「…えっ」

 

優の突然の行動にファル子は驚きの声を上げて、反射的に顔を上げてしまった。

 

…そして、顔を上げたその時、自分の両肩をガッチリと掴む優とバッチリと目が合った。

 

「そんなわけ無いって言ってるだろ!ファル子!」

 

ファル子の目を見つめながら、優はそう声を上げた。

 

だが、それだけで今のファル子が納得するはずも無く、再びファル子が口を開く。

 

「嘘だよ!だってもうファル子と一緒にいる意味ないもん!!ファル子があの2人に勝ってるところ無いもん!!」

 

「なんでそんなこと言うんだ!ファル子らしくないぞ!?」

 

「だってホントのことなんだもん!!フラッシュさんなら優くんの好きなケーキを作れるし勉強も一緒にできるよ!?トランセンドさんなら映画一緒に見ていっぱい語れるしゲームも一緒にできるよ!?」

 

「それとこれとは話が…」

 

「ファル子はバカだし…ケーキも作れないし…映画も一緒に見ても途中で寝ちゃうし…ゲームも得意じゃ無い…」

 

「だーかーら!!それとこれと話が違うって言ってるだろ!?」

 

「違くないよ!!」

 

もはや口論である、2人は至近距離で思っている事を吐き出し合う。

 

「もうファル子いらない子だもん!!優くんに捨てられちゃうんだ!!」

 

「捨てないってば!…拾った覚えもないけど…」

 

「ほら!それならファル子といる時間なんて減らして、フラッシュさんやトランセンドさんたちと一緒にいる時間を増やした方が絶対優くん楽しいもん!!ファル子と一緒にいる意味なんて……」

 

「話が戻ってる!俺はファル子からは離れないって言ってるだろ!?…俺とファル子の趣味が一緒じゃ無いとか別に関係無いから!」

 

とめどなく溢れ出す…ファル子と優の本音。

 

…だが、この口論はついに終焉を迎える。

 

「……じゃあなんで!?なんで優くんは今もファル子と一緒にいるの!?答えてよ!!優くんはちゃんとした理由言えるの!?」

 

「……っ!」

 

「ほら!やっぱり言えないんだ!……優くんのバカぁ!!」

 

(…違う…違うんだファル子…なんて伝えれば良いんだこの気持ちを…俺がファル子と一緒にいるのは……ファル子が隣にいてくれるだけで俺は……俺は……)

 

「もういい!!理由がすぐに言えないんだもん!!優くんはもうファル子のことなんてどうでも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「好きだからだ!!!」

 

 

 

 

 

ああ言えばこう言うファル子に痺れを切らした優の大きな声が、河川敷に響く…

 

 

 

 

「…へ?」

 

 

 

突然の優の言葉にファル子の言葉は止まり、キョトンとした表情で優を見つめる。

 

 

 

「……ゆ、優くん?」

 

 

 

そんなファル子の目を優は真剣な目で見つめながら、再度口を開く。

 

 

 

 

 

 

「…ファル子とずっと一緒にいる理由だって…?……ああ…いいさ…分からないならもう一度……いや、ファル子が納得するまで……何度だって言ってやる………」

 

 

 

 

 

河川敷に穏やかな風が吹く…

 

 

 

「俺が…ファル子とこれからも一緒にいる…理由…それは………」

 

 

…優がファル子の両肩を掴み…その大きな瞳を見つめながら……大きく声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…俺が…黒木優が……!!」

 

 

 

 

 

 

 

(…ゆ、優くん!?)

 

 

 

 

 

いつもとは違うただならぬ様子の優の目を見つめるファル子の鼓動が早まる……

 

 

 

 

 

「ずぅっっと前から……どうしようもなく……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優が大きく息を吸う…そして…口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スマートファルコンのことが大好きだからだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へ……へええええええええ!?ゆ、優くん!?」

 

今度ははっきりくっきりと優の発言を認識したファル子は驚きの声を上げながら、その顔をギュンと真っ赤に染める。

 

「え、え、えへ…」

 

いつもの優が言ってくる「好きだよ」という軽い言葉とは明らかに違う…そんな優の言葉にファル子は驚きを隠せない。

 

「……はあ…はあ…はあ」

 

一方、大きな声を立て続けに出し続けた優は息を荒げながら、ゆっくりとファル子の肩から両手を離す。

 

「……」

 

「……」

 

そして、お互い無言で向かい合う2人。

 

ファル子は恥ずかしいのか、赤面で優の顔から目を逸らす。

 

(……あ、あれ…俺……今なんて……言ってた…?)

 

…様子のおかしいファル子を元に戻そうと奮闘し、頭に血が昇っていた優の頭が冷え始め、自分が口に出した事を冷静に分析し始めた。

 

(…『好き』…って…言ったのか?…無意識で?)

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな、戸惑う優にこれからファル子が()()()()を聞いてくるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ねぇ…優くん……聞いても…良いかな?」

 

 

ファル子はモジモジと身をよじりながら恥ずかしそうに優に問いかけた。

 

 

 

「…?」

 

 

優はそれに対して、無言で首を傾げる。

 

 

 

「あのね……」

 

 

 

…すると…ファル子がゆっくりと…口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…優くん………その『好き』って……どっちの意味なの…??」

 

 

「あ」

 

 

ファル子のそんな問いかけに優の体が硬直する。

 

『…なぁトラン…その「好き」は…どっちの意味だ?』

 

優の脳内にリフレインするのは…自分がトランにかけたあの言葉…

 

無意識に出た自分の『好き』はどっちだったのか…優は思考する。

 

「………俺は…」

 

…そして優は気付いてしまう。

 

 

 

 

(……え……あ、あれ?……じ、じゃあ……俺って……もしかして……)

 

 

 

 

優は頭を回しながら…目の前のファル子の姿を今一度、まじまじと見つめる。

 

 

「……優くん?」

 

 

急に優に見つめられたファル子は少し不思議そうな顔をしながら、優にむけてあざとく首を傾げる。

 

そして、その時…

 

 

 

(…ああ……マズい……)

 

 

 

 

ドックン…!

 

 

 

 

自分に向けて首を傾げながらも、先ほどよりもさらに顔を赤らめているファル子の姿に……

 

 

 

 

(…忘れていた…ハズなのに……)

 

 

 

 

 

ドックン…!!

 

 

 

 

 

 

 

()()()と変わらない、キラキラと輝く綺麗な栗毛…自分を見つめるその可愛いらしい大きな瞳…そして、ほんのり赤く染まったその愛らしい表情に……

 

 

 

 

 

(… ()()()を……思い出すな……俺………)

 

 

 

 

ドックン……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優の心臓の高まる鼓動は止まる事は無かった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 








沢山の感想や評価をいただいていたのに半年も放置してしまい本当にすいませんでした。

今後もゆったりと更新していくと思うので、何卒よろしくお願いします。


6話時点勝敗予想(希望)

  • ファル子さん
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