ウマドルが油断してたら大好きな幼馴染を同室の閃光に奪われかける話   作:shch

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7.恋仲

 

 

 

 

 

 

「ねぇ優?生きていく上で…努力は当然なのよ?努力が報われるかどうかってことばかり考えるのはね、まだ努力してない人の考え方…だから…優も絶対に最後まで頑張りなさい」

 

 

 

 

闘病中だった母さんが当時小学生だった俺に言った言葉だ。

 

母さんはある日からずっと重い心臓の病気のせいで入院していた、かなりひどい病気のようで母さんが生きていられる可能性は限りなく低い…

 

当時の俺は尊敬する父さんと同じ仕事をするために、中学受験の勉強をしていたが、母さんが入院してからは全く手が付かなかった。

 

俺は残り少ない母さんとの時間を減らしてまで、中学受験なんてするつもりは無かったからだ。

 

そんな時に母に言われたのがさっきの言葉…

 

「努力は当然でしょ?」

 

これは母がいつも言っていた言葉であったが、今回は重みが違った。

 

助からないと診断された今でも母はあらゆる治療を受けて、頑張って病気と闘っている、父さんだって仕事が忙しい中、母さんのお見舞いをしたり、母さんがやっていた家事を頑張っている。

 

「…分かったよ母さん…俺、頑張ってみる」

 

俺はその日から毎日通っていた母さんのお見舞いの時間を減らし、勉強に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学校に行って、家に帰って、家事をして、塾に行って、母さんのお見舞いへ行く。

 

父さんの負担を少しでも減らすために家事を覚えて、夢のために塾へ行って勉強して、母さんとの時間を少しでも長くするためにお見舞いに行って…

 

息の着く暇もない日々を送っていた、もちろん友達と遊んだりとか小学生らしいことは一切する時間なんてなかった。

 

でも俺はそれで良かった、確かにちょっとしんどいけど、俺は頑張るのがいつの間にか好きになっていたのだ。

 

父さんは俺の料理を美味いと言ってくれるし、いつも助かってると言ってくれる。

 

母さんは俺の頑張る姿を見てると、元気が出て、病気なんて吹っ飛んでしまうといつも笑ってくれている。

 

確かに友達はできなかったけど、十分充実した毎日だった。

 

そんなある日…

 

「ねぇ知ってる?ファル子ちゃんっていつもあの河川敷で一人でライブみたいなことしてるらしいよ」

 

「えぇー、なんか必死すぎてウケるんだけど、しかもそんだけやってファンの1人もいないとか、私なら恥ずかしくてできないわ」

 

「いっつもアイドルアイドルって言ってるけど、そんなことしててほんとになれるの??」

 

登校して、机に座って本を読んでいたその時、近くの女子の集団がそんなことを言っていたのが耳に入った。

 

女の子の言う「ファル子ちゃん」っていうのは同じクラスの女の子である「スマートファルコン」さんのことだろう。

 

実はこの時、俺は彼女のことを知っていた。

 

彼女がほぼ毎日ライブの練習をしているあの河川敷は塾から母さんの病院へ行く通り道だからだ。

 

ライブの練習を立ち止まっては見れないものの、毎日夢のために努力する彼女の姿を横目で見て、俺はどれだけ救われていただろうか…

 

だからこそ、彼女の努力をバカにするように笑う女子の集団が許せなかった。

 

 

 

 

 

「もうやめなよ」

 

いつの間にか俺の口は動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪~♪~♪」

 

少女の歌声が河川敷に響く。

 

…女子の集団に注意をしたあの後、スマートファルコンさんになぜかライブの練習に誘われて、今は河川敷で彼女が歌っているのを眺めている。

 

本当は来る気は無かった…ただでさえ忙しいんだ、彼女の努力は認めるけど、俺がそれに付き合う義務はないからだ。

 

でも母さんにその事を教えたら「絶対に行ってきなさい」と言われてしまった。

 

どうやら俺に友達がいなさそうなことを物凄く心配していたようで、俺と友達との話を聞かないと病気と戦えないとさえ言い出したのだ。

 

そこまで言われたのなら仕方ないということで、俺は今ここにいる。

 

ファルコンさんにグイグイ誘われて…母さんにもああ言われて…渋々足を運んだライブの練習だった…

 

しかし…

 

「~~♪~♪~♪」

 

(……来てよかったな)

 

彼女の歌とダンスはそこまで上手とは言えない拙いものだった。

 

でも俺はそんな歌と踊りにいつの間にかひどく惹かれてしまっていた。

 

彼女の歌を聞いているだけで元気が出てくる…頑張ろうと思える…そんな不思議な力が彼女の歌と踊りにはあった。

 

 

 

 

 

 

「優くん!ファル子のお歌!どうだった!?」

 

そう言って俺に無邪気に笑いかける彼女の姿…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けば…いつの間にかライブの練習に付き合うのが俺の日常の一環になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある日…母さんが亡くなった。

 

突然のことだった、昨日までは元気だったのに、夜中に急に様態が悪化したらしく、そのまま…

 

俺は母さんを看取ることすらできなかったのだ。

 

受け入れられなかった…

 

まるで俺の胸にぽっかりと大きな穴が開いてしまったかような不思議な感覚だった。

 

でも俺が母さんが亡くなったことを受け入れていなくとも受け入れていても…関係なく日々は過ぎる。

 

気が付けば俺の中学受験本番の日になっていた。

 

当初の俺は不思議なほど落ち着いていたが…事件は試験中に起こった。

 

問題を解いている最中に…どうしてもよぎる母さんの顔。

 

この中学受験のために…俺は母さんとの時間を削ってまで勉強に取り組んだんだ…父さんに塾にも行かせてもらって…絶対に失敗してはいけない…ここで失敗なんてしたら…

 

そんなことを考えていたら…いつの間にか頭が真っ白になっていた。

 

問題が頭に入ってこない。

 

(……ああ……くそ……なんでだよ…俺の……努力が…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は志望していた学校に落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部無駄だった。

 

 

母さんとの時間を削ってまでやってきた勉強を本番で全く活かせなかった。

 

受験も失敗し、母さんもいなくなってしまった。

 

「なんのために俺はあんなに頑張っていたんだろうか…」

 

そんな想いが頭にずっと残る。

 

中学校は普通の地元の中学に入学した。

 

本当は何もやる気が起こらなかったが、父さんを心配させないためだけに学校だけは毎日通っていた。

 

でもそれ以外のことには全く手がつかなかった。

 

日課だったファルコンさんのライブの練習にも母さんが死んだあの日以来行っていないし、部活もしていない。

 

学校に行って家に帰って、忙しい父さんのために家事をして、また学校に行く…そんな虚無的な日々の繰り返し。

 

父さんは中学受験を失敗したからと言って諦めることは無いと言ってくれた。

 

父さんの卒業した学校は高校からも入れる、そこで頑張ればいいじゃないか。

 

…そう言ってくれた。

 

でも俺にはもう頑張る気力は無かった…

 

前のように全部が無駄になるかもしれないんだから…もう俺に努力なんてできるはずもなかった。

 

 

 

そんな無気力な日々を送っていた…ある日のことだった。

 

 

 

「優くん!!なんで最近ファル子のライブ全然来てくれないの!?ファル子一人は寂しいよ!」

 

 

 

急に学校の廊下で会ったファルコンさんにそう声をかけられた。

 

行かなくなった要因は色々あるが…一番は努力をやめてしまった俺にとって…未だに努力をやめない彼女の存在は眩しすぎたからだ。

 

「来てよー!!優くん!!!」

 

…もう行くつもりは無かったんだけど…あまりにもしつこいから一度だけ顔を出すことにした。

 

「…わかったよ、今日は見に行く」

 

俺がぶっきらぼうにそう言うと、ファルコンさんは満面の笑みを浮かべて口を開く。

 

「やったー!!!流石は優くん、ファル子のファン第一号さんだもんね!!」

 

 

 

 

……ライブはずっと見ていたけどファンになった覚えは無かったんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~♪~♪~♪」

 

彼女の歌と踊りはまだ拙いものの、前見た時よりは格段に上手くなっていた。

 

でも…そんな歌声を聞いても、俺の心が晴れることは無かった。

 

前はあれだけ励まされた彼女の歌…今はむしろ苦痛に感じる。

 

今の俺にはこの歌声は勿体なさすぎるのだ。

 

…と考えていたその時。

 

「ファル子が逃げたら~??」

 

「……?」

 

突然ファルコンさんが歌の途中にそう言って俺の方にマイク代わりの筆箱を差し出してきた。

 

何をすればいいかわからない俺は首を傾げる。

 

そんな俺に彼女が頬を膨らませながら口を開く。

 

「もう!優くん??さっき教えたでしょ?コールだよコール!!」

 

…なんのことだ…俺がぼーっとしすぎて聞いてなかったのか?

 

「なんだそれ?」

 

俺がそう聞くと、少し怒ったような表情の彼女は腰に手を当てながら俺に言う。

 

「しょうがないなあ…でもファル子のファン第一号くんのためにもう一回教えてあげるね!」

 

彼女はそう言いながら、乗っていた段ボールから降りて、俺の元に歩いてくる。

 

いやだからファンになった覚えは無いんだが…

 

「歌の途中でファル子が「ファル子が逃げたら~??」って優くんに向けて言うから、優くんはそれに対しておっきな声で「追うしかな~い!!」って返すの!これがコールだよ!」

 

「……そんなの前はあったっけ?」

 

「無かったよ!今日思いついたの!!」

 

…そう言って天真爛漫に笑うファルコンさん。

 

正直言ってそのコールとかいうのは思春期の俺にとっては凄く恥ずかしいものだった。

 

河川敷は人通りが少ないといっても人はいる…そんな中で大声を出すのはあまりにも恥ずかしい。

 

しかも俺別にファンじゃないし…

 

「じゃあじゃあ!説明もしたことだし!もう一回行くからね!」

 

彼女はそう言いながら、再び段ボールで作られた簡易ステージに上る。

 

そして、マイクを俺に突き出して口を開く。

 

「行くよ~!ファル子が逃げたら~??」

 

「………」

 

「何でなにも言わないの!?」

 

無言の俺に頬を膨らませそう言うファル子に俺は気まずそうに口を開く。

 

「………だって俺…別にファルコンさんのファンって訳でもないし…」

 

「ガーン!!!」

 

そう叫びながらうなだれるファルコンさん。

 

声に出してガーンって言う人は初めて見た。

 

「うっ…ファン第一号…まだだったの?…うう」

 

…相当ショックを受けているようだ。

 

流石に少しかわいそうだと思った俺は、気休め程度の言葉を彼女にかけようと口を開く。

 

「いやでもファルコンさんなら…」

 

「…でも大丈夫だよね!!ファル子のファンじゃないならファンにしてやるくらい歌と踊りをもっと頑張ればいいんだもん!!」

 

俺が慰めの声をかけるまでもなく、彼女は元気にそう言って立ち上がった。

 

「ファル子はトップウマドルになるんだもん!!こんなことで挫けてる場合じゃない!!まずは絶対に目の前の優くんをファンにしてみせるんだ!!」

 

一人でうなだれて…一人で立ち上がる。

 

そんな彼女を見た俺は目を丸くしていると、俺の口はいつの間にか開いていた。

 

「…なんでファルコンさんはそこまで頑張れるの?」

 

無意識に出たそんな疑問。

 

…ってなにバカなことを聞いてんだ俺は。

 

だが、ファルコンさんはそんな俺の疑問に嫌な顔ひとつせずに元気に答える。

 

「ファル子はねトップウマドルになりたいの!!キラキラでいつも輝いて…誰かに元気を与えられるようなそんな存在!ファル子はそれになるためだったらなんだって頑張れるんだ!!」

 

そう言って眩しい笑顔を俺に向けるファル子。

 

…すごいな…ファルコンさんは…それに対して俺は…

 

俺の中に暗い感情が芽生え、今のキラキラな彼女に一つ疑問が生まれる。

 

……こんなこと…聞いちゃいけない…でも…

 

俺の口は止まらなかった。

 

「…なれないかもしれないよ?」

 

「へ?」

 

俺の言葉にファルコンさんはきょとんと首を傾げる。

 

さらに俺の言葉は止まらない。

 

「…そのトップウマドルってヤツに…なれないかもしれないんだよ?…ファルコンさんが凄く努力しているのは認めるけど……トップなんてそうそうなれるものじゃない…その努力は…もしかしたら無駄になるかもしれないんだよ?」

 

…だって…自分がそうだったから…

 

「……なのになんでファルコンさんはそんなに努力ができるの?……俺には…悪いけど理解できない」

 

「…………」

 

彼女は黙って俺の話を聞いていた。

 

全部言い切った後…「しまった」と思った。

 

こんなの…夢に向かって努力している人に…言うことじゃない。

 

…こんな俺に頑張ってるファルコンさんの歌を聞く資格なんてない。

 

「……ごめん…変なこと言った…忘れてくれ」

 

俺はそう言うと、踵を返してその場から逃げるように歩き出す。

 

だが…

 

「…無駄になんてならないよ?」

 

背後からそんな言葉が聞こえてきた。

 

その言葉に俺は思わずその足を止めて、後ろを振り返った。

 

そこにはさっきまでの天真爛漫な笑顔では無い、真剣な表情のファル子が立っていた。

 

「…確かに…優くんの言う通り、トップウマドルになれないことも…もしかしたらあるかもしれない…でもきっと今やってることは無駄にはならない…」

 

ファルコンさんはそう言いながら段ボールのステージから降りると、俺に歩み寄ってくる。

 

「…ウマドルはね…人に夢を与えたり、元気を与えたりするんだよ、だからファル子がここでライブの練習をしてきて…誰か1人の目にでも止まったら…それで誰かに勇気とか元気を与えられていたら…ファル子の活動を見てくれてる人がいるなら…ファル子がトップウマドルになれなくても…この活動は無駄じゃなかった…とファル子は思えると思うんだ………へへ、やっぱり難しいね、答えになってないかもだ」

 

そう言って苦笑いするファルコンさん。

 

(誰かに…元気を…)

 

…俺は思い出す。

 

(…ああ…そうだった)

 

母さんは俺の頑張る姿を見ていると…元気が出ると言ってくれていた。

 

父さんは…俺が家事を手伝っていたら…いつも助かると言って笑ってくれていた。

 

俺の努力を見てくれていた人がいる…ほんのちょっとでも…その人達の助けになれていたのなら…俺の努力は…

 

(無駄じゃ無かったのか…?)

 

そんな事を考えていたその時…

 

「…それにね優くん!」

 

ファルコンさんは笑顔に戻って俺に声をかける。

 

「もしファル子のライブが誰の助けになってなくても…確かにちょっとは残念だけど、ファル子はそれでも良いと思ってるんだ!」

 

そう言いながら、彼女は駆け足で段ボールのステージに登る。

 

「…これはファル子の夢のための努力なんだもん!努力しないとファル子自身が納得いかないよ!昔に優くん言ってくれたよね?夢のためにひたむきに努力するファル子が魅力的だって…だから、努力が報われるとか報われないとか…そんなのは関係無いし、苦じゃないよ??」

 

彼女はステージの上から俺を見下ろしながら言葉を続ける。

 

「それに何よりもさ!……自分の夢のためなら………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「努力は当然でしょ??」

 

 

 

「……あ」

 

 

 

重なるのは…今は亡き母親の姿。

 

ファル子がステージ上から言い放ったその言葉は…優がどこかで散々聞いた事のある言葉で…

 

それは優のぽっかり空いた心に突き刺さる。

 

この時の優はどこか嬉しかった…最後の会話もロクにできずに亡くなってしまった母親から、自分の努力を認めてもらった様な…もう一度頑張れと背中を押してもらった様な…

 

そんなこと絶対に無いのは優自身もわかっていたが、そんなどこか優しい感覚が優のことをふんわりと包む。

 

「よーし!じゃあライブ再開しまーす!!」

 

そんな優に構わず、ファル子は元気にそう言うと、再び踊り出す。

 

優はその姿をぼんやりと眺める。

 

そして…ファル子が歌の途中でマイク代わりの筆箱を優に向けて口開く。

 

「はーい!行くよー!…ファル子が逃げたら〜??……ってそうだった…まだ誰も返してくれな…「追うしかな〜い!!!!」

 

悲しげなファル子の呟きを遮り、吹き飛ばす様な優の大きな声。

 

叫ぶ優の顔はどこか吹っ切れたような表情で、先ほどまでの陰りはもう見えない。

 

「…へ?…い、今…コール返してくれたの?」

 

コールを返してくれないと思っていたファル子は優の大きなコールに驚きを隠せずに、優に問いかける。

 

優はその問いかけに対して、頬をカリカリと掻きながら、照れくさそうに口を開く。

 

「…返すに決まってるだろ……だって俺は……もう…」

 

 

 

 

 

 

 

「ファル子のファン第一号なんだから…」

 

優のその発言にファル子はプルプルと体を揺らしながら言葉を漏らす。

 

「……ゆ」

 

「ゆ?」

 

「優くーん!!!!」

 

突然そう叫んだファル子はステージ上から思いっきり優の元へとダイブした。

 

「わわ!!」

 

ギュウ!!

 

ダイブしてきたファル子をなんとか受け止めた優をファル子は思いっきり抱きしめる。

 

「大好きだよ!!優くーん!!」

 

「やめろって!くっつくな!みんな見てるから!」

 

自分に抱きついてくるファル子に照れる様にそう言う優だったが。

 

そんな優の表情は…

 

 

 

 

 

「や、やめろってばファル子!!」

 

「あ!ファル子って呼んでくれた!!優くーん!!」

 

「おい!力強めるなって!」

 

 

 

 

 

…笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

…そんな俺がファル子の事を好きになるのに時間はかからなかった。

 

中学生の恋愛なんてそんなもんだ、我ながらチョロいなとも思う。

 

もちろんこの『好き』は恋愛的な意味だ。

 

いつも元気で、夢に向かって真っ直ぐ努力ができる人で、表情も愛らしくて…

 

そんな魅力的な人が隣にいて、好きにならないわけがなかった。

 

「~~♪~♪~♪」

 

目の前で踊り歌うファル子を眺めながらそんな事を考える。

 

もし…この笑顔を…この歌声を…自分だけのものにできるなら、それはどれほど幸せなことだろうか…

 

だが、この気持ちはダメだ。

 

ファル子にそれとなく恋愛の話をした時…ファル子はなぜか顔を真っ赤にしながら言っていた。

 

『ウマドルは恋愛が禁止なの!』と…

 

ファル子のおかげで父さんと同じ仕事をするという俺の夢をもう一度追いかけることができるようになった。

 

そんな俺がファル子の夢を邪魔していいわけがない。

 

ファル子を自分のものにしたいなんて考えている人間がファル子の横にいていいはずがない。

 

俺が一番にファル子の夢を応援しなくちゃいけないんだ。

 

…だから…この『気持ち』はもう忘れてしまおう。

 

『好き』という感情があるからダメなんだ…自分の中からこの感情を消そう。

 

「~~♪~♪~♪」

 

…少しだけ…時間がかかるかもしれない…でも頑張ろう…ファル子の夢のためなんだから…

 

本当は…俺がファル子の傍から離れればいいだけなのかもしれない。

 

でも…

 

 

 

 

 

 

「いくよー!!ファル子が逃げたら~??」

 

 

 

 

せめて…ファル子がトップウマドルになるところを見ていたい…

 

 

 

 

「追うしかな~い!!」

 

 

 

 

この場所(最前列)で…

 

 

 

 

 

「へへっ…ありがとー!!優くーん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『ファン第一号』として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ということがあったんだ」

 

「…なるほど…お二人にそんな過去があったとは…初耳でしたね…」

 

げんなりとした顔でちゃぶ台に顔を埋める優。

 

その対面で優に言葉を返しながら何やら考え事をしているフラッシュ。

 

この2人が優の部屋でちゃぶ台を挟んで対面に腰を下ろしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前…

 

優の部屋でベットに自分の匂いを付けるためにフラッシュが布団にくるまっていたその時。

 

「…ただいま」

 

なにやら落ち込んだ声でそう呟きながら、優が1人で部屋に帰ってきたのだ。

 

優の声を聞いたフラッシュはその瞬間に勢いよくベットから飛び出て、部屋の真ん中に立ち、帰ってきた優を迎えた。

 

 

「おかえりなさい優さん…ファルコンさんは見つかりましたか?……ってどうしたんですか?そんな顔して…結構酷い顔ですよ?」

 

「…なぁ…ちょっとだけ…話を聞いてくれないか…フラッシュ…?」

 

優はそう言いながら自分とファル子の昔話をフラッシュに語った。

 

 

 

 

 

 

そして、今に至る。

 

 

「それで…優さんはどうしてそんな話を急に私にしてきたんですか?」

 

フラッシュが優にそう問いかけると、優はちゃぶ台に顔を埋めたまま、ポツポツと呟き始める。

 

「……さっき…ファル子と口論になって…無意識のうちに…抑えてた昔の感情が出ちゃったんだ…それで完全に思い出してしまったんだ…ファル子への気持ちに…」

 

「…と言いますと?」

 

「俺は…やっぱりファル子が好きだ……恋愛的に……どうしようもないくらいに…」

 

悲し気な声でそんなことを呟く優にフラッシュは一つため息を付いてから口を開く。

 

「はあ……それで、その話はファルコンさんに伝えたんでしたっけ?」

 

「伝えられるわけないだろ…そんなの…だってファル子は…『ウマドル』なんだから」

 

優は先ほどのファル子との口論の後…即ちファル子に『その好きはどっちの好きなの?』と聞かれた後。

 

優は激しい鼓動と共にファル子への気持ちを完全に思い出してしまい、動揺した優は「…ごめん…考えさせてくれ…」と言ってその場から逃げ出してしまった。

 

優は独り言のように呟く。

 

「…こうなってしまったら…俺はファル子から距離を置かないといけないかもしれない…」

 

優はこの世界の誰よりもファル子が『ウマドル』であることを信じている。

 

そんな優の理論的にはファル子が夢を叶えるためには自分の存在は邪魔でしかないのだ、そして邪魔にならないように必死で忘れていた恋の感情を思い出してしまった今…

 

優の中にはもう「ファル子から距離をとる」という選択肢しか残っていなかった。

 

「…ライブの練習にも…もう行けないな……まあでも…ファル子はもうデビューしたし……もうちょっと人通りの多いところでライブをすれば………皆ファル子の魅力に気が付いてファンが集まるだろ…もうファル子が一人で練習することなんてない……」

 

自分にそう言い聞かせるように呟く優、そんな優にフラッシュが口を開く。

 

「優さんは…本当にそれでいいんですか?」

 

フラッシュがそう聞くと、優はちゃぶ台から顔を上げて答える。

 

「良いわけないだろ!?…俺はファル子の幼馴染である前に…ファン第一号なんだ…ファル子のライブをもう見れないなんて…無理すぎる…」

 

「じゃあ見に行ったらいいじゃないですか」

 

「…でも…俺は…」

 

小さくそう呟く優、そんな優にフラッシュはいつも通りの口調で声をかける。

 

「もう一度忘れればいいじゃないですか、ファルコンさんへのその気持ちを」

 

「…それができなかったから今こうなってるんだよフラッシュ…」

 

残念そうな顔でフラッシュにそう言う優、それに対してフラッシュは自信ありげな表情で言葉を返す。

 

「…それを忘れるための画期的な方法があると言ったら…優さんは興味ありますか?」

 

「あるに決まってる」

 

フラッシュのそんな一言にすぐさま肯定の言葉を返す優。

 

「…では優さん…少し私の話を聞いてくれますか?」

 

そんな優にフラッシュはそう言いながら、ちゃぶ台の上で優の手を自分の両手でそっと包んだ。

 

「…なんだよ…フラッシュ?」

 

急に手を握られた優は不思議そうな顔をしながらフラッシュを見つめる。

 

…すると、フラッシュがゆっくりと口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

「優さん…私は貴方が好きです」

 

「ええ?」

 

突然のフラッシュの告白に優は思わず声を上げる。

 

「…え、ええと…それは…」

 

「恋愛的にです」

 

優の言葉に被せるように表情を変えずにそう言ったフラッシュは絶句している優に向けて続けて語り始める。

 

「貴方の容姿…夢に向ける姿勢…頭が良いところ…性格…話し方…何よりも…こんな不器用な私を肯定してくれたあの日から…貴方の全てがどうしようもないほど大好きなんです……たとえ貴方が他の女性の事を慕っていようとも…」

 

「……ご、ごめんフラッシュ…話が急すぎて頭が…」

 

フラッシュの言葉に頭を抱える優にフラッシュは微笑みながら口を開く。

 

「私たち…キスしたことだってあるんですよ?」

 

「ええ!?…お、俺のファーストキスが…いつの間に…!?」

 

優は驚きながら自らの唇を抑える。

 

「ふふ♪…あのドイツ行の飛行機の中で…あまりにも無防備だったものですから」

 

「…マジか」

 

「幻滅しましたか?」

 

「いやそんな簡単に幻滅はしないけど…」

 

口元を手で抑えながらそう言う優とそれを見ながら笑うフラッシュ。

 

そんな中、優が口を開く。

 

「…それで…なんでフラッシュは急に告白を…悪いけど俺はファル子が…」

 

と言いかけた優の口元を今度がフラッシュがその手で制した。

 

そしてフラッシュは口を開く。

 

「…そのファルコンさんへの想いを忘れるための提案を今からします、聞いてください」

 

そんなフラッシュの言葉に優は口を閉じて、耳を傾ける。

 

「人への恋心…それは簡単に抑えられるものではない…それは私にもよくわかります…でもこういう話は聞いたことがありませんか?」

 

フラッシュは続ける。

 

「彼女に振られて未練がまだあったけど…新しい彼女ができて、その彼女と過ごすうちに…いつの間にか前の彼女のことを忘れていた…とか」

 

「…まあ良く聞く話かもな」

 

フラッシュの言葉に素直に賛同する優。

 

そんな優にフラッシュは微笑みながら口を開く。

 

「優さんもそれをしてみたらいかがでしょうか?」

 

「…ええと…それって…つまり…」

 

優はそう言いながら目線を前に戻すと、優の顔をまっすぐに見つめるフラッシュとバッチリ目が合う。

 

するとフラッシュは再び、優の手を握りなおして言う。

 

「…優さんにファルコンさんとは別の恋人ができれば…ファルコンさんへの想いを少しずつ忘れることができる…どうでしょうか?昔のように根性で忘れようとするよりは絶対効果があると思いませんか?」

 

そう言いながらフラッシュは優の対面からその隣へと移動し、その身をピッタリと優に寄せる。

 

「…近い…フラッシュ…で結局何が言いたいんだ…??」

 

「ここまで言えば流石の優さんもわかってますよね?私に言わせようとしていますか?」

 

「………」

 

「ふふ♪…案外意地悪なんですね優さん」

 

そう言って優の目を見つめるフラッシュ。

 

その瞳はどこまでも黒く染まり、綺麗な黒髪は部屋の照明を反射してキラキラと輝いている。

 

初めて会った時に…優が見惚れてしまったあの時と変わらないその表情。

 

フラッシュが沈黙の中、ゆっくりと口を開く。

 

 

「ねえ…優さん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と…恋仲になってくれませんか??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手の届くところまで迫っていたと思っていたその背中が…実は周回遅れでぶっちぎられていた。

 

…だが、閃光にはそんなことは関係無い…どこかのウマドルとは違い、ただ実直に…止まることなく…着々と…ゴールを目指して駆けるのだ。

 

そうすれば…足踏みをしている先頭をいずれは交わすことができるかもしれない…

 

それでもダメなら、彼女の友人の黄金の不沈艦よろしく途中でワープでもなんでもしてしまえばいい…まだまだ何があるかはわからない。

 

 

 

 

 

 

なんて言ったって…この競走(レース)は…超長距離戦なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

例によってこの先…この競走(レース)がどうなるのか、それはまだ誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 







前回は久しぶりの投稿だったのに、多くの感想いただきありがとうございます。

やる気が出たので気付いたらもう一話書いてました。

7話時点勝敗予想(希望あり)

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