冷蔵庫の桃ゼリー喪失事件   作:ねむれすねむれす

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 ミステリーは初めてなので、ん?って思っても気にしないでください。作者が一番ん?ってなってます。

※アニメ見返したら星見寮の間取り全然違ったのですが、気にしないでください。


冷蔵庫の桃ゼリー喪失事件 ――事件発生・捜査――

 

 その日はいつものように流れる平穏な日常だった。

 

 NextVenusグランプリを控え、サニーピース、月のテンペスト共に各々の仕事をこなしながら、レッスンに取り組んでいる最中。

 

 今日もそんな日々の中で、私たち月のテンペストは、五人一緒に星見寮に帰っていた。

 

「すずにゃん大丈夫ー?ダンスの練習中におもいっきり転んでいたけど」

 

「転んでませんわ!ただ、バランスを崩しただけですわ!」

 

「それを転んだっていうんじゃないかな……」

 

「うるさいですわ!」

 

 すずはそのときのことを思い出したのか、恥ずかしそうにそっぽを向く。……実は私もバランスを崩していたのだけど、言わないでおこう。

 

「にゃはは!レッスン着忘れたり、転んだり、まさに忘れたり蹴ったり…だね!」

 

「それを言うなら踏んだり蹴ったりですわ!」

 

「でも、一生懸命になる気持ちは私もわかるかも。昨日食べ過ぎちゃったもんね……」

 

「夜遅くまでパーティーしてましたからね。でも食べ過ぎには注意してと言ったはずですよ」

 

「ごめんね。デザートまであると思わなくてつい……」

 

 昨夜は私たちが住んでいる星見寮でちょっとしたパーティーを行った。NextVenusグランプリに向けての決起会なんて名目だったけど、最近仕事であんまり集まれてなかったから交流も兼ねてだ、とマネージャーが言っていたのを覚えている。

 

「渚ちゃんの好きな桃のケーキもあったもんね!」

 

「うん!甘くておいしかったなぁ……マネージャーどこで買ったんだろ」

 

「渚ちゃん?しばらくは食べ過ぎ注意ですよ」

 

「う、うん、そ、そうだね。わかってるよ」

 

「なんだか返事がぎこちないですわね」

 

「すずにゃん捜査官!隠し事の匂いがします!」

 

「芽衣巡査!容疑者を確保ですわー!」

 

「確保ー!」

 

「わぁぁ!」

 

 芽衣が渚に飛びつき、その腕に絡みつく。私だってそんなに強く絡ませたことはないのに、そんなに気軽にやるのはずるいと思う。

 

 ……はっ!違う違う。今は渚を助けなきゃ。

 

「芽衣、渚が困っているでしょ」

 

「えー。でも確保しないとだし……そうだ!代わりに琴乃ちゃんが確保したらどう!?」

 

「わ、私が?」

 

「うんうん!ほら早く!」

 

 そう言って芽衣から渚の腕を渡される。割れ物を扱うかのように慎重に受け取った私は、その腕に絡ませる前に渚の顔をちらりと見た。

 

「琴乃ちゃんならいいよ……?」

 

 頬を赤くした色っぽい仕草。どきりとした私は思わず視線を外してしまう。でも、腕だけはそのままで慎重に自分の腕を絡ませていく。

 

「ど、どう?痛くない?」

 

「う、うん!」

 

 見なくてもわかる。私の顔は真っ赤になっている。

 

「……腕を絡ませるだけなのにおかしくありません?」

 

「大変大変!沙季ちゃんが気絶しちゃったー!」

 

「え!」

 

 慌てて振り返ると、無言で立ち尽くしている沙季の姿があった。大変だ、どうしたのだろう。

 

「あ……」

 

 咄嗟に渚と絡んでいた腕を外してしまう。名残惜しいが、沙季も大切な仲間なのだ。

 

「あ、目が覚めた」

 

「……うん?私は何を」

 

「……疲れているのではなくて?」

 

「体調管理は万全のはずですが……思わぬうちに疲れが蓄積していたのかもしれません」

 

 沙季は一人で納得したように呟くと、すずが呆れたような視線を送っていた。

 

「……そう言えば、渚の隠し事ってなんだったの?あ、言いたくなかったら大丈夫よ」

 

「そんなに大した事じゃないんだけど……昨日マネージャーが桃のゼリー買ってきてくれてたけど、お腹いっぱいで食べれなくて……。それで今日食べようかなぁって楽しみにしてたんだ」

 

「あ、だから沙季に詰められたときに隠したんだ」

 

「う、うん」

 

「沙季、私からもお願い。せっかくもらったものだし、食べさせてあげてほしい」

 

「ゼリーであればカロリーは低いですし、それだけならば大丈夫です」

 

「やった!」

 

 渚の表情に花が咲く。笑顔を見ているとこっちまで嬉しい気分になってくる。

 

「じゃあ芽衣も食べたーい!」

 

「私も欲しいですわ!」

 

「もう、じゃあみんなで帰って食べましょうか。確か朝見た時にゼリーは冷蔵庫にいっぱい入ってましたので」

 

「わーい!」

 

「ありがとう沙季」

 

 そんないつもの日常。だけど、そんな日常があっという間に崩れる時が来るなんて、この時は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー!」

 

「ただいま帰宅いたしましたわ!」

 

 すずが門と、星見寮の扉を開けると、その勢いのまま芽衣と一緒に元気よく室内へと入っていく。その後に沙季、渚も続いた。

 

 最後に私が通り、寮の鍵を閉めると、自分の部屋に荷物を置いた後、洗面所に向かう。

 

 洗面所は入り口から右に曲がってすぐ左手にある。沙季や遥子さんがいつも掃除してくれているおかげでピカピカだ。

 

「ちょっと芽衣!私が先ですのよ!」

 

「えー、じゃあ一緒に洗おう!」

 

「それなら…とはなりませんわよ!」

 

「こら、芽衣。順番は守らないと」

 

「うう、はーい」

 

 芽衣を宥めつつ、私たちも手を洗い、そしてリビングへと向かう。

 

 畳の部屋にもテーブルはあるが、普段使っているのはこっちの洋室だ。L字型の垂直な角の下部分に扉があり、扉の正面にはオープンキッチンと、テーブル。右側にもテーブルが置かれている。初めはテーブルは一つだったものの、皆で座るには足りなかったので新しく買ったらしい。

 

 ゼリーを食べるとのことで、早速席に着こうとして気づいた。

 

「あれ?テーブルにスプーンが置いてある」

 

 オープンキッチンより一番近い位置の席。そこに一つだけプラスチックのスプーンが置かれていた。

 

「どうせなら皆の分もおいてくれればいいのに」

 

 大方、誰かがゼリーを早く食べるためにスプーンだけ取り出しておいたのだろう。誰が出したのかはわからなかったが、私は四人分のスプーンを食器棚から取り出し、席に置いていく。

 

 そうこうしていると、他のメンバーもリビングに集まってきた。

 

「あ、準備いただきありがとうございます。助かりました」

 

「いいよ、ゼリーは冷蔵庫に?」

 

「はい。私が取ってきますね」

 

「ありがとう」

 

 代表して沙季が冷蔵庫へ向かい、その扉を開く。やがて沙季は手にたくさんのゼリーを持ってテーブルに戻ってきた。

 

「一人一つでお願いしますね」

 

「はーい!じゃあ」

 

「待って。まずは渚から選ぶべきじゃないかしら?」

 

「そっか。渚ちゃん楽しみにしてたもんね!」

 

「うん!じゃあ早速……ってあれ?」

 

「どうしたの?」

 

「……ない」

 

「え?」

 

「桃のゼリーないよ!」

 

「沙季が取り忘れたんじゃありませんこと?」

 

「そんなはずは……」

 

 沙季とすずが再度冷蔵庫へと向かう。

 

「……確かにありませんわね」

 

「誰かが食べてしまったのでしょうか……」

 

「そんなはずない!」

 

 渚の叫び声が響く。思わぬ声量に私も思わずびっくりしてしまった。

 

「だって、あの桃のゼリーには名前を書いていたんだよ?間違えて食べるなんてありえない」

 

「じゃあどこへ……」

 

「……」

 

「……もしかして」

 

 誰からも答えは出ない。でも、皆なんとなくは頭に浮かんだ事があったはずだ。

 

 私は月のテンペストもサニーピースも、皆仲間だと思っている。私も初めは一人でやっていく予定だったけど、皆と会って、その考えは変わった。理由は色々とあるけど、やっぱり皆の暖かさに触れたというのもあると思う。

 

 だからこそ、皆を信じているし、これからも皆と一緒に歩んでいきたいと思っている。

 

 そして、この気持ちはきっとみんなも一緒だと信じている。

 

 だから、リーダーの私が言わなくてはいけない。

 

「誰かがわざと渚の桃ゼリーを食べた、とか?」

 

 その言葉で疑惑の視線が飛び交い始めた。こうなることがわかっていたから、言いたくはなかった。

 

 でも、月のテンペストのリーダーとして、そして星見プロのアイドルの一人としてこの謎は解き明かさないといけない。

 

 もう一度、皆で歩んでいくために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――『冷蔵庫の桃ゼリー喪失事件』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わ、私は食べてませんのよ!」

 

「芽衣も食べてないよ!」

 

「私もです」

 

「うん、私もそうだよ。でも、実際に冷蔵庫にあった桃のゼリーは無くなっている」

 

「も、もしかしてサニピの誰かが食べたの!?」

 

「わからない。でも、無暗に疑いたくはない」

 

「じゃあどうしますの?」

 

「謎を明らかにしよう。寮内を探せばなんで無くなったかわかるかもしれない」

 

「私も賛成です。やってないのに疑われるのは悲しいですしね」

 

「なるほど、名案ですわね。そうと決まれば私、名探偵成宮すずにお任せくださいまし!」

 

「おぉ!かっこいい!なんだかあれだね、み、み?みりたりー?みたいだね!」

 

「ミステリーですわ。それでは私は早速調査してきますわね!」

 

 そう言ってすずがどこかに駆けていくと同時に、各々調査のためにどこかへ歩みだす。残ったのは私と渚だけだった。

 

「渚……ごめん」

 

「もう、なんで琴乃ちゃんが謝るの」

 

 声を掛けようとしてうまく言葉が出てこず結局出てきたのは謝罪の言葉だった。あれだけ楽しみにしていた桃ゼリーを食べさせてあげれなくて申し訳なかった。

 

「渚のためにも、謎は解き明かして見せるから」

 

「琴乃ちゃん……。ありがとう」

 

 渚の表情に小さな笑顔が浮かんだ。

 

 

 

「とはいっても、何から調べればいいんだろう」

 

「あはは、謎解きなんて初めてやるからわかんないよね」

 

 うぅ。渚の手前せっかくカッコつけたのに恥ずかしい。

 

「うーん、でもミステリーの鉄板だと、一番は被害者とか現場の様子を見て色々と考えているよね」

 

「被害者……桃のゼリー?」

 

「あはは、被害者無くなっちゃったね」

 

 うう、難しい。

 

「でも、現場ならあそこじゃない?」

 

「冷蔵庫?」

 

「うん、見てみようよ」

 

 渚と一緒に冷蔵庫へ向かい、一番上の冷蔵室の引き戸を開く。中にはお茶や水といった飲み物の他、様々な調味料や食品が綺麗に並べられている。右手側の二段目に空いているスペースはゼリーが置いてあったスペースだろうか。

 

「ゼリー確かにないね」

 

「うん、どこに行っちゃったんだろ」

 

「あれ?」

 

 冷蔵室を見ていると、ふと気づくことがあった。

 

「どうしたの?」

 

「この冷蔵室、濡れてない?」

 

「あ!本当だ。ドアポケットの辺りとか水滴があるね」

 

「なんでだろ。誰かが閉め忘れたのかな」

 

「うーん……」

 

 渚も思い当たる節はないようだ。

 

 念のため野菜室や冷凍室も調べてみたが、こちらにも桃のゼリーはなく、異状なしだ。冷蔵庫はこれ以上何も探れそうなところはないかもしれない。

 

「あ、そういえばゼリー出しっぱなしだ。片付けないと」

 

「私も手伝うよ」

 

 渚と手分けしてゼリーを冷蔵庫の空いたスペースに戻していく。冷蔵庫から出したからだろうか?少し濡れている。

 

「食器も戻さないとね」

 

「うん」

 

「そういえば疑問だったんだけど、どうしてここのスプーンだけプラスチックのものなの?」

 

 スプーンを食器棚に戻していると、渚が不思議そうに透明なプラスチックスプーンを指さした。

 

 基本的に星見寮で使われているカトラリーはステンレス製の銀色のものだ。コンビニで買ってきたものを食べるときなどは貰った透明なプラスチックのものを使ったりするものの、基本的には使っていない。

 

 だから私も疑問に思っていた。

 

「私がリビングに来た時には置いてあったんだけど……誰かが置いたんじゃない?」

 

「じゃあ後で聞いてみないとだね」

 

「うん」

 

 ……リビングで調べられることはこれくらいかもしれない。そういえば、他のメンバーは何を調べているのだろう。

 

「どこを調べたい?」

 

「玄関、かな」

 

「じゃあ行こう!」

 

 

 

 リビングから出て、真っすぐ廊下を進んでいると和風の景観に変わる。星見寮は元々和館だったのを増設しているため、正面から見て左側と右側で和と洋が変わってくる。

 

 廊下を少し歩き、左手側にあるのが、玄関だ。

 

 そこには沙季の姿があった。

 

「沙季。何か見つかった?」

 

「あ、琴乃ちゃん。一つ不可解なものを見つけまして…」

 

 そう言って沙季は扉のガラス部分を指さす。

 

 よく見てみると、そこには黒い何かの模様が残っていた。

 

「なんで黒いのかはわからないけど、模様は指紋?」

 

「はい。ですが、この大きさのものは私達ではないようです」

 

「え、つまり星見寮に住んでいる皆の指紋じゃないってこと?」

 

「そうなります」

 

 冷汗が背筋を伝る。それはつまり、誰かがこの寮の中に侵入したということだろうか。

 

「マネージャーの指紋じゃないの?昨日のパーティーでもマネージャー来てたよね?」

 

「あ!言われてみればそうかもしれません。マネージャーの指のサイズもこれくらいですし」

 

 ほっと息が漏れる。誰かが侵入していたとなればそれこそ警察沙汰だ。

 

「あれ?でも、なんで黒いんだろう?」

 

「確かに汚れているように見えるね」

 

「指紋がしっかり見えるのもこの黒のおかげですね」

 

 なんというか意図的に付いたというよりは、偶然インクが手に着いたような黒の付き方だ。

 

「……」

 

「沙季?どうかした?」

 

「いえ……大したことではないんですが、昨日マネージャーが星見寮を出たのは午後十時前後。今の時刻を考えると、このインクの残り方は変だなと思いまして」

 

「確かに。なんだか水っぽさが残っているね」

 

 外を覗けばすでに夕暮れの空が見える。今の時刻としては午後六時前後だろう。

 

 つまり指紋がついてから二十時間は残っていることになる。昨夜ついたものならばこんなに水っぽさが残るだろうか。

 

「なんでだろ……」

 

 三人で悩んでいると、トットットッと足音が近づくのが聞こえた。

 

「あ!琴乃ちゃん、渚ちゃん、沙季ちゃん!ちょっと来て!」

 

「どうしたの?」

 

「いいからいいから!」

 

 二人と目を合わして頷くと、私たちは芽衣の後を追っていった。

 

 

 

「見て!」

 

 洗面所にたどり着くと、芽衣はシンクを指差す。

 

 白の綺麗なシンクだ。私たちがさっき使ったから、水滴が付いているのが見える。

 

「えっと、シンクがどうかしたの?」

 

「ここだよここ!」

 

 芽衣の指差した場所を注意深く観察する。よく見るとそこには黒い髪の毛が残っていた。

 

「髪の毛ですね」

 

「でも短いね。黒だけど琴乃ちゃんじゃなさそう」

 

「じゃあ遥子さんってこと?」

 

「遥子ちゃんのでもないよ!これはマネージャーの髪の毛だよ!」

 

「マネージャーの……?」

 

 これも昨夜落ちたものが残っていたのだろうか。

 

「それは変ですね」

 

「どうして?」

 

「この時期はカビも生えやすいので水回りは毎朝掃除しているんです。今日も洗面所は徹底的に掃除したはずですが……」

 

「……」

 

 今朝掃除したはずの洗面所からマネージャーの髪の毛が見つかった。これはどういうことだろう。

 

「ところで、芽衣ちゃんはなんでこれがマネージャーのだって気づいたの?」

 

「え?えっとー、なんとなくそうかなーって。たぶん他の皆のもわかるよ!」

 

「そ、そうなんだ」

 

「すごい洞察力ですね。さすがです!」

 

 確かにすごい。けど、落とした髪の毛が自分だって気づかれるのはちょっと恥ずかしいかも……。

 

「洗面所はこれくらいかなぁ。そういえばすずちゃん見てないね」

 

「すずにゃんは二階に上がっていったよ!」

 

 二階には基本的に私たちの自室がある。自室には、机やベッド、箪笥の中には私服やレッスン着等の服も入っている。お姉ちゃんと一緒に撮った写真とかもあるけど……普通の部屋だ。

 

「じゃあ私たちもいこっか!」

 

「うん」

 

 

 

「あれ、すず」

 

 二階へと階段に向かっていると、何やら落ち込んだ様子ですずが階段を下ってきた。

 

「あ、琴乃……」

 

「えっと、どうしたの?」

 

「成宮探偵事務所は今日で取り下げですわ……」

 

 どうしたのだろう?二階に何かあったとか?

 

「すずちゃん、何があったか聞かせて?」

 

「…………何にもなかったですのよ」

 

「えっと、何が?」

 

「二階には手がかりが一つも無かったですのよ!」

 

 あぁ、なるほど。それで落ち込んでいたんだ。

 

「すずちゃん、大丈夫ですよ。何もないということも手掛かりの一つですので」

 

「どういうことですの?」

 

「何もないということはつまり、犯人は二階に足を踏み入れてないということです。これで犯人の予測行動範囲を狭めることができました」

 

「よかったね!すずにゃん!」

 

「え、えぇ……」

 

 すずはどことなく不満そうな表情で頷く。これで一歩前進したはずだけど、すずの表情が浮かないのが気になる。もしかしてまだ何かあるのだろうか?

 

「すず、もしかして他にも何かあるの?」

 

「えっ!な、なんでもありませんわ!」

 

「すずにゃん怪しい!!」

 

「何もないですのよ!!」

 

「待てーー!」

 

 そう言ってすずはリビングへと逃げていった。その後を芽衣が駆けていく。

 

 すずの隠し事……状況的に二階に行ったこととは関係なさそうだから、何かを思い出した?だとすれば何をだろう。

 

「そういえばすずちゃんは今日の鍵当番でしたね」

 

「うん」

 

 星見寮の鍵は最年長である遥子さん、そしてサニピ、月ストのそれぞれのメンバーの一人が順番に管理することになっている。もちろん、仕事の都合上とかで変わったりするため予備の鍵が寮の中に置いてあるけど、基本的な方針としてはこれだ。今日もそれに例外はなかった。

 

 そして今日月ストで鍵を持っていたのはすずだった。

 

「……もしかして鍵を閉め忘れたとか?」

 

「ううん、それはないはず。今日星見寮を出たのは月ストが最後だったけど、すずが鍵を閉めるところは私も見てた」

 

「私もです。だとすれば、鍵は関係なさそうですね」

 

 うーん、本当にそうだろうか?何かを見落としているような……。

 

「……とりあえず私たちもリビングに行こっか」

 

「うん、一度皆に聞いてみたいこともあるし、すずにもちゃんと話してもらわないとね」

 

 

 

 リビングではすでにやってきていたすずが、芽衣によって隅っこに追いつめられていた。

 

「すずにゃん。芽衣にはお見通しだよ!」

 

「え!?」

 

「ふっふっふー、すずにゃん捜査官。詰めが甘いですなぁ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 ……何やら話がよくわからないが、すずは追いつめられたらしい。何の話だろう。

 

「あ、そういえば確認したかったのですが、渚ちゃん、桃のゼリーにはペンで名前を書いていたんですよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「そのペンってどれを使ったか覚えていますか?」

 

「リビングに置いてあったマジックを使っただけだけど……これだよ」

 

 渚が持ってきたのはよく見る赤いロゴの黒のマジック。ロゴの近くには、水性顔料マーカー、裏うつりしません、においがしません等、商品説明が書いてある。

 

「なるほど。ありがとうございます」

 

「沙季、何かわかったの?」

 

「おおよそは」

 

「さすがだね」

 

 沙季は本当に頭がいい。私なんてちっとも理解できてないのに。

 

「皆そろそろ調べ終えたよね?一度皆で集まって話し合うのはどうかな?」

 

「私も賛成です。確認したいこともありますので」

 

「私も。じゃあすずと芽衣呼んでくるね」

 

 私はすずと芽衣を呼んで、リビングのテーブルへと着く。

 

 ……本来ならここで、皆でゼリーを食べて、いつものように渚と話して、すずがやらかして、芽衣が茶化して、沙季に怒られるそんな日常があったはずだ。

 

 でもそんな日常は、桃のゼリーが消えるという事件で無くなってしまった。

 

 それだけじゃない。今まで積み重ねてきた星見プロ全員への信頼も揺るぎかねないものになっている。

 

 そんな状態を私は、月のテンペストのリーダーとして、星見プロダクションの一員として、認めるわけにはいかない。私が変えていかないといけない。

 

 ――この事件は私が解決して見せる。

 

 渚の笑顔を、皆の笑顔を守るために。

 

 

 

 

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