「集まってもらってありがとう。皆色々と調べてもらったから、それをまとめたいと思って」
「名案ですね!じゃあまず私から……」
「沙季待って。一人一人話しているとまとまりが付かなくなるから、この事件を一つ一つ紐解いていこう」
「……その通りですね。すみません、物事を急いてしまいました」
「と、言ってもですわよ。一つ一つ紐解くってどうするんですの?」
「今回の事件において、調べていくにつれて謎がいくつかあったでしょ?それを皆で話し合っていこう」
「うーん、いまいち理解できてないのですけど、わかりましたわ」
皆の視線が私に向けられる。選択を間違うわけにはいかない。
「まず、今回の事件……そうね、冷蔵庫の桃ゼリー喪失事件についてだけど、被害者は桃のゼリー。そしてそれは冷蔵庫にしっかり入れていた。それは間違いないのよね?」
「う、うん。しっかり表面に渚って書いて冷蔵庫に入れていたよ」
「桃のゼリーは被害者ですのね……」
「最後に確認したのはいつ?」
「正確な時間はわからないけど、今日の朝、私が水筒にお茶を入れているときにはあったよ。だから午前七時くらい?」
「ありがとう。その後に見たって人いる?」
「んー、芽衣が寮を出る前にお茶のみに行ったけど見てないかなぁ。どこにあったの?」
「他のゼリーの下に置いちゃったから見にくかったかも」
「ということは犯行時刻は午前七時から私たちが帰ってきた午後六時までの間。サニピが七時三十分くらいに寮を出て、その後に私たちが午前八時ごろ寮を出た」
「つまり、誰にでも犯行は可能ということですね」
「でもでも、さすがにゼリー食べている人がいたら誰か気づかない?」
「その場で食べる必要はないんじゃない?例えば洋服の裾とかに隠して、自室で食べるとかもできるし」
「そこまでして犯人は桃のゼリーを食べたかったんですの?」
「……」
「それは……わからないけど、何か理由があったのかもしれないね」
その理由は気になるけど、それを考えるのは今じゃない。
「寮はきちんと施錠されていて、その時間に外から入ってこれる人はいない。そうよね、すず?」
「そ、そそそそそその通りですわ!!!」
「すずにゃん、そが多いよ!」
……やっぱりすずが隠していることは寮の施錠関係。でも、朝寮を出た時は施錠している瞬間は見ていた。沙季も同様にそれは見たと証言していたはずだ。
だとすると、そのタイミングではない?となるとどこで……。
「……すずちゃん、気になっていたんだけど、一つ聞いていい?」
「な、渚?なんだか怖いですわ……」
「すずちゃん、合同レッスン前に忘れ物をしたって言って、どこかに取りに行ったよね?結構長かったけど、どこに行ってたの?」
あ、確かにそうだ。
『にゃはは!レッスン着忘れたり、転んだり、まさに忘れたり蹴ったり…だね!』
確かに芽衣も言っていた。私がその後に来たからその時の会話は聞いてなかったけど、忘れ物をしてどこかに行ったというのは知っている。
「そ、それは……」
「忘れたのってレッスン着だよね?すずちゃんのレッスン着って普段どこにあるんだろうね?」
すずのレッスン着の場所……。皆置いている場所は違うかもだけど、あそこしかない。
「星見寮の自室じゃない?」
「ぎくっ!」
……正解みたいだ。となると、桃のゼリーを食べたのはすずということになるんだろうか。
「……すずにゃん、ちゃんと話した方がいいよ?」
「わ、わかりましたわ……。全部説明しますわ。ですが!桃のゼリーを食べたのは私ではないんですのよ!それだけはわかってほしいですわ!」
「うん、私も信じているよ」
「うぅ、渚からの発言が全然信用されているように聞こえないのですわ……」
すずはそこで一つ間を置くと、ぽつりぽつりと話し始めた。
「確かに私は合同レッスン前、丁度午後三時ですわね。一度寮に戻りましたわ。そこでレッスン着を持って、後冷蔵庫でお茶だけ飲んで慌てて星見寮を後にしましたの。本当にこれだけですのよ!信じてくださいまし!」
「冷蔵庫、開けたんだ」
「さっきから渚が怖いですわ!!!」
……確かにこれだけ聞くとすずが一番怪しい。誰もいない時間に、星見寮に戻ってきているから一番犯行しやすいだろう。
でもいくつか気になることがあった。
「すず、じゃあなんで、施錠の話をしたときに動揺してたの?」
「そ、それは……」
「すずにゃん……」
「話しますわよ!……実はその時に寮の施錠をしたか覚えていないのですわ。でも帰って来た時には締まっていたからきっと締めていたんですわ!」
「すずちゃん、それはよくないです。後でお話ししましょう」
「うぅ……でも締まっていたのですわ……」
締めていたのか覚えていない。仮にすずが締め忘れていたとすると、誰かが代わりに鍵を締めたということになる。それは誰なんだろう。
「すずちゃん、星見寮には月スト、サニピの皆が住んでいます。今回は誰も入っていないようですが、もし鍵を閉め忘れて、誰かが入ってきて、大変な目に合ったらどうするんですか?」
「申し訳ないですわ……」
今回は誰も入っていない……本当にそうだっただろうか。
今までの調査内容をもう一度思い返してみると、一つだけ思い当たることがあった。
「それは違うよ」
「えぇ!?琴乃まで責めないでくださいまし!本当に反省してますのよ!」
「あ、ごめん、すずじゃなくて、沙季の発言に対して」
「え?私、間違ったこと言ってましたか?」
「うん、今回に関しては確実に星見寮に入った人物がいたはず」
「ま、まさか不審者が……!」
動揺して忘れているようだけど、その証拠を知っている人は二人いるはず。まず、落ち着いている一人から聞いていこう。
「芽衣、そういえばさっきシンクに何か落ちていたって言ってなかった?」
「うん!マネージャーの髪の毛が落ちてた!」
「マネージャーは昨夜寮内に入ったけど、それ以降は来ていないはず。だとすると、シンクにマネージャーの髪の毛が落ちているのはおかしい」
「待ってくださいまし!昨夜のがそのまま残っているだけではなくて?」
あ、そっか。そういえばそこにはすずはいなかった。
「今朝、シンクは掃除してくれたのよ。そうよね、沙季?」
「あ、はい。徹底的に掃除しましたので昨夜のものであればその時に回収しているかと」
「ということは、マネージャーが寮に入ってきてたってこと?」
「そうだと思う。その証拠がもう一つある。そうよね、沙季」
「はい、先ほどは取り乱してしまって忘れてましたが、寮の玄関にマネージャーの指紋が残っていました。色々と考えてみたのですが、あれは直近につけられたものです」
「マネージャー……何しに入ってきたんだろう?芽衣の部屋に入ったのかな?」
「それだったら嫌だね……」
「おそらくですが、それはないかと。すずちゃんも言ってましたが二階に何一つ痕跡はなかった。つまり、自室方面には行ってないということじゃないでしょうか?」
「なるほど……」
「こちらも推測なのですが、おそらくマネージャーは寮の施錠ができてないことに気づいて寮に入ってきたんだと思います。寮の中には予備の鍵はありますので。その証拠に寮の予備の鍵が一つ無くなっていました。誰かが持っていったわけではないですよね?」
皆で顔を見合わせる。誰も心当たりはなさそうだ。
「ということは、つまり、すずが寮の鍵を閉め忘れて、それに気づいたマネージャーが寮の鍵を閉めるために寮に入ってきた、という認識で大丈夫?」
「はい、状況証拠にはなってしまいますが……」
でも、その場合が一番しっくりくる。これは間違いないのだろう。
「えっと、なら桃のゼリーを食べたのはマネージャーってことになるの?」
「それは……どうだろう」
「すずちゃんって可能性もまだ残っているよね?」
「私じゃありませんわ!」
確かに現状だとどちらが犯人かわからない。けれど、確実に解決に近づいていると思う。
「うーん、私はすずにゃんはやってないと思うなー」
「それはどうしてですか?」
「勘!!」
「あはは……」
でも、私もすずが犯人だとは思いづらい。何か解決するための手掛かりはなかっただろうか。
「でもすずちゃん、レッスン着を取りに来た時に冷蔵庫を開けたんだよね?」
「お茶!お茶を飲んだだけですわ!!」
冷蔵庫……そういえば、渚と一緒に調査しているとき、冷蔵庫に違和感があったような……。
「ねぇすず。冷蔵庫を開けた時、何か違和感はなかった?」
「え?何もなかったですわよ?」
「……一応確認するね。冷蔵庫はちゃんと締めた?」
「冷蔵庫って自動で締まるものではなくて?」
「えっ…」
「ええーー!!!」
思わずと言った様子で驚く渚と芽衣、私と沙季は一緒に頭を抱えていた。
「たまに開けっ放しな事があったのは、すずちゃんの仕業だったのですね……」
「え?え?え?」
すずはよくわからず、周りを見渡している。残念だけど、こればっかりは助け舟は出せない。
「すずちゃんの家がどうだったかはわかりませんが、冷蔵庫は自動では締まりません。……すずちゃん、後でたっぷりお話ししましょうね」
「え……」
すずの悲しそうな視線が向けられる。それを私は、見て見ぬふりをした。
でも、これで明らかになったことがあった。
「冷蔵庫は開けっ放しになっていたはず。でも、私たちが帰って来た時には締まっていたってことは……」
「マネージャーが締めたってことだね」
「うん、そしてその間冷蔵室は開けっ放しになっていた。私たちがさっき見た時に水滴がついていたのはそういうことだった」
「でもこれってすずちゃんかマネージャーのどっちが食べたかわからなくない?」
「うん……」
でも、なんだろう。ここに大きなヒントが隠されているように思えて仕方がない。
もう一度考えてみよう。
渚は桃のゼリーの表面にペンで渚と書いていた。冷蔵室は開けっ放しになっており、内部に水滴がついている状態。
……ペン?
私はさっき確認したペンを思い返してみる。
> 渚が持ってきたのはよく見る赤いロゴの黒のマジック。ロゴの近くには、水性顔料マーカー、裏うつりしません、においがしません等、商品説明が書いてある。
水とペン。これが意味することってもしかして……!
「ねぇ渚。確認したいんだけど、渚が使ったペンってあの水性のマジックペンだよね?」
「うん、そうだけど、どうしたの琴乃ちゃん?」
「水性だから、冷蔵室に残っていた水で名前が消えたってことは考えられない?」
「あっ!」
渚もその可能性に思い当たったのか驚嘆の声を上げる。
「えっと、どういうこと?」
「ペンって油性と水性の二種類あるよね?油性は水に溶けにくいけど、水性は水に溶けやすいって聞いたことない?」
「あ!あるかも!サインの練習していた時によく手を汚していたんだけど、そのときに消えにくい、消えやすいなーって思ったことあるよ!」
「うん、それで消えやすいのが水性ペン。渚が使ったのも水性のマジックペンだった。そして冷蔵室は開けっ放しだったことによって、内部に水滴が発生していた」
「なるほど。確かに一理ありますね。ですが、そんなにピンポイントで消えるでしょうか?」
それにもちゃんと答えはある。
『他のゼリーの下に置いちゃったから見にくかったかも』
「渚。桃のゼリーは他のゼリーの下に置いていたんだよね?」
「うん」
「なるほど。確かに他のゼリーが上に置いてあれば、ゼリー容器の関係上、上のゼリーの側面から水滴が零れ落ち、桃のゼリーの表面に水滴が集まってもおかしくはない。集まった水滴によってインクが希釈され、名前が消える。これならば私も納得できます」
「実際にゼリー自体も少し濡れていたよね?」
「そういえばそうですね。すみません、あまり気にしていませんでした」
「ということは、他のゼリーの底にインクが残っているものがあるってことですわよね?」
「そうだね。探したら見つかるかも」
「芽衣探してくるー!」
そう言うや否や芽衣は冷蔵室を開けると先ほどのゼリーを一つ一つ見ていく。そして少ししてあったー!と声が聞こえた。
「これじゃない?下の方が黒くなってる!」
「ナイスですわー!!」
芽衣が持ってきたゼリーの底は確かに黒のインクが滲んだような跡が残っている。このゼリーが桃のゼリーの上に乗っていたのだろう。
「名前が消えてた……うん、確かにこれだと間違えて食べちゃっても仕方ないね。ごめんね、すずちゃん」
「わかればいいので……って食べてませんわよ!!いい加減信じてくださいまし!」
確かにこれだけだと、すずが食べたかどうか判断がつかない。でも、これを明らかにする決定的な証拠はあった。
「渚、沙季。この黒のインク。どこかで見なかった?」
「……あ!」
「玄関の指紋ですね!」
玄関に会った指紋。あれは黒のインクで水が滲んだように残っていた。
そう、このゼリーに残っているインクの滲み方と同じように。
それが意味するものは一つだ。
「犯人は黒のインクが滲んだ桃のゼリーを手に取り、そして玄関の硝子に触れた人物。そして玄関の硝子に残っていた指紋を考えると」
その人物はあの人しかいない。
「つまり犯人は――マネージャー」
「……!」
「……」
「そうに違いありませんわ!」
「マネージャー……」
私がその答えを告げると、皆の表情ががらりと変わり、思い思いに口を開く。……答えがわかって喜ばしい反面、この答えはちょっとだけしんどいものがある。
でも、私がしっかり告げないといけないんだ。未来に歩んでいくために。
「……最後に、この事件をまとめようか」
「今回の事件の発端は前日に渚が桃のゼリーを冷蔵庫に入れたところから始まる。パーティで桃のゼリーを食べられなかった渚は、翌日に桃のゼリーを食べるため、リビングに置いてあった水性のマジックペンで桃のゼリーの表面に名前を書き、冷蔵室に入れた。ただそのときに渚は重ねたゼリーの下部分に桃のゼリーを置いてしまっていた」
「翌日、皆が仕事で星見寮を後にしているときに、すずがレッスン着を忘れたことに気づき、鍵当番で鍵を持っていたこともあって、慌てて星見寮に戻った。そこでレッスン着を取り出し、そして冷蔵庫でお茶を飲んで寮を後にした。だけど、あろうことか、冷蔵室、そして星見寮の鍵を掛けないままそこを後にしてしまっていた。冷蔵室を開けっ放しにしていた影響で、内部で水滴が発生し、桃のゼリーの表面に水性のマジックペンで書いてあった渚の名前が滲んで消えてしまった」
「そしてそれに気づいたのが、今回の犯人。彼は星見寮の鍵が開いていることに気づくと、鍵を閉めるため星見寮へと入ってきた。星見寮の中には予備の鍵があるし、それで施錠しようと思っていたんでしょうね。丁寧にシンクで手を洗って、そして鍵を取りに行く途中、冷蔵室が空いている事にも気が付いてしまった」
「理由はわからないけど、そこでなぜか桃のゼリーを手にした犯人は、そのまま玄関を通って星見寮を施錠した。黒のインクが滲んで玄関に痕跡が残っているのにも気づかずにね」
「つまり犯人は、すずよりも後に星見寮に入った人物。冷蔵庫の桃ゼリー喪失事件の犯人は……マネージャー、牧野航平!!!」
「……」
辺りが静まり返った。この推理は間違っていないと思うし、皆も納得できたと思う。でも、感情的にマネージャーがやったというのを信じたくないんだろう。
無言の空間、どうすればいいか悩んでいると、ガララッと扉が開く音が聞こえた。
そして足音と同時に、リビングの扉が開かれた。
「うわっ!すまない、帰ってきていたのか……」
そこいたのはスーツ姿の一人の男性。マネージャーの姿だ。
「マネージャー……」
芽衣は一番にマネージャーに近づくと、心配気に声を掛ける。
「マネージャーはそんな人じゃないよね?」
「ええと、何の話だ……?」
マネージャーは全員の顔を見渡すと、困惑したような表情を浮かばせる。
「白を切る気ですか?マネージャー」
「そうですよ。マネージャーが犯人だってことはもうわかっています」
「白状してくださいまし!!今ならお説教だけで許してあげますわ!」
「マネージャー教えてください。どうしてこんなことをしたのか」
マネージャーは訳がわからなさそうな表情で視線を揺らしていたが、やがてテーブルの上に置かれていたゼリーを目にして納得したような表情を浮かべた。
「……もしかして桃のゼリーの件か?」
「そうです」
「マネージャー、何か理由があったんだよね?」
マネージャーはバツの悪そうな表情を浮かべると、口を開く。
「すまない。たまたま冷蔵庫を見ると、桃のゼリーの表面が黒くなっているのが目に入って。取り替えようと思って急いで買ってきていたんだ」
そういうと、マネージャーは手に持っていたビニール袋をテーブルの上に置く。いくつかのゼリーとそして桃のゼリーがあった。
というより、待った。今の発言ってもしかして……。
「黒くなっていたから取り替えようとしてくれただけ?」
「ああ、桃のゼリーは渚のために買っておいたものだから、汚れたものじゃ悪いと思って……。というか、皆どうしたんだ?」
皆の視線が交差する。なんだか色々とすれ違いが起きていたみたいだ。
「……じゃあもっと早くそうと言ってくださいまし!」
「えぇ!?わ、悪かった」
「それと、マネージャーは勝手に冷蔵庫の中のものに触らないでください」
「すまない、沙季」
「別に怒らないので、取り替えるのならちゃんと言ってくださいよ」
「わかった。これからはちゃんと連絡する」
「芽衣は信じてたよ!」
「あ、ありがとう?」
「安心しました」
「それは、えっと、よかった……でいいのか?」
「はい、もしマネージャーの仕業だったら辞めてもらおうかなって思ってました」
「そんな一大事だったのか……」
ふふ。冗談だけど、マネージャーの反応が可愛くてつい揶揄ってしまった。
でも安心したのは本当だ。誰のせいでもない、ただのすれ違い。マネージャーを含めた皆を信じられないようにならなくて、本当によかった。
「さて、事件も無事解決ということで、祝賀会ですわ!!」
「わーい!」
元々、皆でゼリーを食べようとしていたのだ。やっと元の日常に戻った気がする。
「そうね。皆で食べよっか。マネージャーも一緒に」
「お、俺もか?皆がいいならいいけど……」
周りを見渡すが反対意見はない。
「じゃあ、改めて渚から、ゼリー取っていこう」
「うん!」
皆にゼリーが行き渡り、皆で手を合わせる。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
「んー!甘くて美味しいー!」
「お、意外とうまいなこれ……」
「マネージャーも中々センスありますわね」
「皆、一つまでですからね」
皆、思い思いにゼリーを摘まんでいく。その表情は笑顔で、今というこの時間を楽しんでいるようだった。
ふと、渚の方に視線が向く。
「んー!!!」
桃を口に運び、頬に手を当て全身で喜びを表現している姿。そのとびっきりの笑顔を見て、私も思わず笑みが浮かんだ。
私の前に置かれたフルーツゼリーを口に運ぶ。
「美味しい……!」
果物の酸味と甘さ、ゼラチンのプルプルとした触感は、とても美味に思えた。
月ストとゼリーを一緒に食べた後、マネージャーこと、牧野は星見寮を後にして、いつも寝泊まりしている近くの物置小屋に来ていた。
一人になった瞬間、そこにふわっと少女が姿を現す。
『牧野君、ダメだよ。女の子の寮に勝手に入るのは』
「仕方ないだろ。鍵が開いていたんだから。そっちの方が問題だ」
『そういう問題じゃありません』
「……」
『ごめんごめん、ちゃんと気づいて皆に心配かけないようにしているのは立派だよ。でも、悪いところがあったらちゃんと注意しないと』
「……そうだな。気を付ける」
『それにしても、よかったね。あれがバレなくて』
「あれ?」
『テーブルに置いてたプラスチックのスプーンだよ』
「あれは麻奈が食べたいって言うから用意したんだろ」
『でもざんねーん。私の体は物を透けちゃうのです。頑張ればつかめると思ったんだけどね』
牧野はため息を吐くのをこらえる。麻奈の駄々も慣れたものだ。
『あ!今牧野君すごく失礼なことを考えたでしょ』
「考えてないぞ」
『嘘。牧野君が嘘つくときいっつも目線が横を向くから』
「ほ、ほんとか?」
『嘘でーす』
ふふと笑う麻奈の笑い声に、牧野は頭を抱えた。
『でもいいなぁ。私もゼリー食べたかったー』
麻奈は幽霊になってから、全てのものが透けるようになった。だから食事の一つもすることができない。
「……実はいくつかゼリー持ってきたんだ」
袋から取り出したのは表面が黒くなった桃のゼリーと、さっき買ってきたゼリー。
『わぁ気が利く!さっすが私のマネージャーだね!食べられないけど!!!』
「麻奈の分も俺が食べるよ」
『何それー!ずるーい!』
麻奈に文句を言われつつ、牧野はゼリーの蓋を開けると、透明なプラスチックのスプーンでそれを掬う。
『ぶーぶー』
甘く、柔らかな感触。心地いい感触ながらも、どこか物足りなくて、切なくなる。
「今度、麻奈のお墓に飾っておくよ」
『目の前にいるんですけどー!』
牧野は麻奈に文句を言われつつも、ゼリーを再度口に運んだ。
読了感謝いたします。
ミステリー書くのって難しいですね......。