出奔貴族と追放令嬢   作:本大

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馬鹿みたいなカバーストーリー

「は? 公爵令嬢が国外追放?」

 

 親父殿が激情を押し込んだような真顔になっている。

 おそらくオレも同じような顔をしているはずだ。

 

「ロルフ。怒りはわかる。私も腹が煮えている。だが聞け。全て聞いてからお前の意思を聞かせてくれ」

 

 聖女様をお守りしていた公爵令嬢は、聖女様ととても仲良くなり、お互いに無二の親友と呼べるような間柄になったらしい。

 

 貴族と言う名の聖女様に()い寄る亡者のごとき連中を、公爵令嬢としての身分を盾に()き止め、婚約者として王太子殿下すらも防いでみせたという。

 

 御令嬢の父。公爵閣下とその派閥。宰相の親父殿が聖女様を守る公爵令嬢を支え、四男のカインを筆頭にした裏方が実行部隊として暗躍(あんやく)したらしい。

 

 

「待って。待ってくれ親父。まさか内戦になんてならないよね?」

 

「……話を続ける」

 

 やだぁ。その沈黙は怖すぎるってぇ。

 顔を両手で(おお)い、天をあおいで()()ってしまう。

 

 

 怒り、呆れ、恐怖やらで感情がぐちゃぐちゃのオレに構わず親父殿が続ける。

 

 学園内でギリギリ収まっていた聖女様争奪戦は、権謀術数蠢(けんぼうじゅっすううごめ)く社交界と王宮まで参戦したことで一気に規模が拡大した。

 

 御令嬢の父とオレの親父殿の連合は、公爵閣下と王国宰相閣下の連合だ。

 通常であれば国王陛下すら下手に手出しできず、国内ではまさに敵なしだっただろう。

 

 しかし、相手は息子を聖女様とくっ付けようする国王陛下を筆頭に、複数の上級貴族や他国の王族まで入り乱れた団体様だ。

 一国(いっこく)を丸ごと親父殿と公爵閣下で相手取ったようなもんだ。勝てるわけがない。

 

 一応の決着はした。

 決着はしたのだが、決着の仕方、落とし(どころ)が不味かった。非常に不味かった。

 

「聖女様の親友の公爵令嬢が、その立場を利用して聖女様を(おとしい)れようとした。聖女様のお心が曇らぬように内密にするが、令嬢は王太子殿下との婚約は白紙とし国外追放の刑に処する。とな」

 

「なぜ! なぜ王国がそのような非道を!」

 

「ロルフ。落ち着け等と言わん。しかし聞くのだ。お前に国家機密の依頼を出したのは御令嬢をお守りするためだ」

 

 今の今まで祖国に向けていた忠誠が崩れ落ち、落胆に変質していく……

 

 ここまで全て暗闘であったため、幸か不幸か平民であった聖女様には何も届いていなかったのだという。

 

 聖女様は友人が一人いないだけの、いつもと変わらぬ日々を送っている。

 

 内実は複雑怪奇(ふくざつかいき)紆余曲折(うよきょくせつ)を経て、王太子殿下と公爵令嬢の婚約は破棄され、秘密裏に公爵令嬢は国外に追放。

 

 そんなもん御令嬢の父たる公爵閣下の、腹の虫が収まろうはずがない。

 

 愛娘を政争に利用され、将来の王妃の座から蹴り落とされ、彼女の輝かしい未来まで()み取られたのだ。

 

 公爵閣下の怒りたるや想像もできん。

 

 公爵閣下及びその派閥は挙兵し、内戦まで半歩もなかった。

 

「それを御令嬢が自ら公爵閣下を説き伏せて止めた……ですか。とんでもないお嬢さんだなぁ」

 

「ああ、その通りだ。あの御令嬢を国母に御迎え出来ないどころか追放刑になどと……王国の歴史あるかぎり、今回の顛末(てんまつ)は我が国永遠の恥となるであろうな」

 

 持てる力を振り絞って(あらが)っただろう親父殿が、自身の無力を(なげ)くのは心にくる。

 弱りきった親父殿が見ていられなくて、話を本題に戻す。

 

「もう大体の予想は出来ているが、今回の極秘依頼は御令嬢の護衛だろうか?」

 

 ここまで説明されれば、オレが呼び出された理由もわかってくる。

 おそらく御令嬢を国外まで護衛し、現地の協力者にでも引き渡すとかそんなところだろう。

 

「ロルフ。お前が出奔して三年か。まだ未熟ではあるが(はげ)んでいるようだな。顔付きや姿勢から努力のほどが見えるようだ」

 

 親父殿が今までの会話からなんの関係もない、オレのことを嬉しげに話始めだした。

 不意討ちで突然褒められ、情緒がおかしくなって言葉が出てこない。

 

「結婚していても何ら不思議では無い年齢となったが、良い人は出来たか? 結婚は?」

 

 いや、ホント急にどうした?

 

「きゅ、急にどうしたんだよ。んー、まぁ冒険者としてもまだまだだと思うし、結婚とかは全然考えてなかったかな。もちろん良い人もいないよ。そんな余裕は無かったから」

 

 今の努力が認められたことで、嬉しさやら誇らしさやらで情緒がおかしくなっていたからか。

 素直に話に乗っかってしまうオレは、ちょろいのだろうか。

 

「ロルフ。依頼なんだがな。公爵令嬢と結婚して他国に渡ってくれんか?」

 

「え? 結婚?」

 

「そう。結婚」

 

「誰が?」

 

「お前が」

 

「誰と?」

 

「聖女様をお守りしていた公爵令嬢と」

 

「……マジで?」

 

「マジで」

 

 マジかぁ。聞き間違いじゃなかったかぁ。

 

「ぉぅぅぅ」

 

 再び両手で顔面を覆って仰け反り、変な(うな)り声が喉の奥から出てきた。

 

 これはあれだ。断れないやつだろうなぁ。

 見ず知らずの冒険者と結婚させられるなんぞ、御令嬢がかわいそうじゃないか。

 国家も聖女様も全てを守ろうとした、英雄のごとき御令嬢にあんまりな仕打ちじゃないか。

 

「断ったり、出来る、だろうか」

 

 顔面を両手で覆ったまま、震える声をなんとか振り絞って最終確認。

 

「断ることは出来る」

 

「え」

 

 予想外の返事に驚いて顔面を覆った手を下ろすと、なにやら覚悟ガンギマリの表情の親父殿がいた。

 

「正直に言おう。断った場合、想定出来る最悪は、王国滅亡だ」

 

 一言一言噛み締めるように告げられた言葉に、絶句するしかない。

 さらに親父殿がどうしてそうなるのかを話してくれた。

 

 まず、なぜ公爵令嬢と結婚するのか。

 聖女様の無二の親友たる公爵令嬢が国外に出ることの理由付けである。

 正直に政争の落とし処でした。などと説明出来るはずもない。

 

「公爵令嬢は想いを寄せていた貴族子息が貴族籍を抜け、他国へ行くことを知ってしまい、想いを捨てられずに駆け落ちした」

 

 という馬鹿みたいなカバーストーリーを聖女様にお伝えするためらしい。

 

 次に、なぜオレが選ばれたのか。

 

 一番の理由は共闘したことで意気投合した公爵閣下が、親父殿に信頼を寄せていること。

 

 また上級貴族から平民に降り、冒険者や傭兵など護衛出来る職に就いていて、年齢的にも合致するのがオレしかいない。

 下級貴族以下の出まで含めると候補者は数名いるが、出身や元の家柄などで信頼度が低すぎるらしい。

 

 最後に、なぜオレが結婚を断ると王国が滅亡するのか。

 

 箱入り娘の公爵令嬢が、一人で他国まで行けるはずがなく、道中で命を落とすことを想定されているから国外追放は刑罰にされている。

 

 公爵令嬢が命を落としたら、今度こそ公爵閣下の激怒を止められる者はおらず内戦は確実。

 

 内戦が起これば聖女様に真実が伝わる可能性が高く、親友の顛末(てんまつ)を知った聖女様が王国に絶望することは確実。

 

 国家滅亡エンド。

 

 そこまで滅亡を恐れるなら、公爵令嬢を国外追放しなければいいじゃないかと思う。

 

 しかし、そこは単純なことを、より複雑に、より面倒にすることが大好きで大得意な、上流階級のお歴々(れきれき)

 貴族間の面子、王族の威信、社交界と王宮の複雑怪奇なあれやこれやで、これでもかなり譲歩させた結果だって言うんだから呆れ果てるしかない。

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