インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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オマケ「小ネタ集」と同時投稿


授業参観

時系列的に事故前の出来事です。

 

 

私立小学校。

今この学園の生徒たちは今少しだけ浮き足立っていた。普段はおとなしい生徒も若干そわそわとしている。

現時刻は昼休みの時間。

校門からチラホラと入ってくる大人の姿が見えていた。

今日は授業参観日。親達が学校に来る数少ない日である。

「授業参観だからって、皆騒ぎ過ぎじゃないですかね」

校庭の端で木の棒を持ち、地面に何かを書いているヒカリがやれやれと呆れていた。

「まあ、親が来るからって別に特にないですしねー。悪いことしてるわけでもないしー」

百花が木の幹に寄り掛かりながら同意する。

「俺逹が良くも悪くも目立つから感覚が麻痺してるだけじゃないか?」

零がヒカリの書く文字を目で追いながら異議を唱えた。

実際、ここにいる3人は色んな意味で目立っているし、注目を浴びることが多々ある。今更親が来るぐらいどうでも良かった。

「どちらかってーと、とーちゃが来るのが迷惑というか何というか」

「ああ、一夏さんが来るだけで騒がれますしね」

一夏はIS初の男性操縦者であり、モンドグロッソの優勝者だ。有名人を見てみたいというミーハーな者もいないことはないだろう。サインや写真などは断っているらしいが、見にくる者を拒めるわけでもない。

「どうせ俺の所に来るんだろうなぁ。来なくていいのに」

今日は上級生の授業参観日となっている。その為、百花は関係ないのだが、自分の親が来ることに変わりはない。

零は両親、もとい一夏が来るかと辟易とする。一夏関連で質問や会話をされたことは一度や二度ではない。また質問攻めが来るかと思うと嫌にもなる。

「子供の事情を親は知りませんから。逆もまた然りですけど」

そう言っている内に、地面に書いていた最後の一文が完成した。小学生で学ぶ筈もない数式で埋め尽くされた地面。当然、零も百花も、そして書いている本人も理解していない。

「で、これ何なんだ?」

「ISの構築式らしいです。もちろん、ほんの極一部ですけど」

束に少し見せてもらったらしいヒカリは見よう見まねで書いてみた。

「なんつーもの書いてんだ……」

「何に役立つかも分かりませんねコレ」

3人でジッと数式を眺めていると、上から影が落ちた。

「将来、設計に携るなら役立つと思うぞ」

聞き慣れた声に顔を上げると、案の定、白の顔がそこにあった。

「お父さん」

「来たぞ」

白が後ろを指差すと、ラウラと箒、そして一夏の姿が確認出来た。一夏のという有名人に加え、外人の風貌をしているラウラと白が居る所為で余計に目立っている。

「やー、本当に私達の家族ってアレですよねー」

「そうですね」

「まったくだ」

子供同士の共感に、白は首を傾げた。

 

 

 

今日の日の為、教室の後ろには子供が描いた親の絵が飾られている。子供独特の感性で描かれた絵に、親はニコニコと笑いながらそれを見ている。

教室にいる子供は恥ずかしがったり変な緊張をしたりと親に近付こうとしないのが大半だった。

「なぁ、ヒカリ」

「何ですか?」

そんな中で、普通に話しているヒカリにラウラが問い掛ける。

「これ、私と白か?」

「はい」

ヒカリは胸を張って自慢した。

「私の両親、ピカソ風です」

抽象絵画風に描かれた人間二人が貼られていた。様々な色彩を組み合わせ、形を崩して成り立つ絵がそこにある。提出の際、教師の目が点になったことは言うまでもない。

「というわけで、評価どうぞ」

ラウラは美術に疎いが、白は裏の仕事を様々熟してきたので、こういう事柄にも詳しい。綺麗、という感想は抱かないが、どのような絵が高値であり、美術としての評価が高いのかなどは理解出来た。

「配色も形もまだ甘い。低評価だな」

率直な感想にヒカリは項垂れるわけでもなく素直に受け止める。親である白のこういう所は慣れっこなのだ。

「厳しいですね」

「飴も鞭も愛故にだ」

何だかとんでもない家族だなと、周りは遠巻きに眺めていた。色んな意味で近付き難かった。

 

そんなこんなで、授業が始まる時間となる。

授業内容は算数。今日は短い時間の中で授業内容が二つに分かれており、前半の授業と後半の作文の発表がある。

「この問題が分かる方はいますか?」

この時ばかりはと元気良く手を挙げる子供が多い。我はと先に手を挙げる中、ヒカリはノートに黙々と数式を書いていた。

「…………」

周りに比べて精神が一回り大人なヒカリは、答えは分かっていても手を挙げない。

授業を聴きつつ、片手間で先程のISの式を隅っこに書き出し、式の意味や関係性を頭の中で巡らせたりしていた。自由である。

「えーと、ボーデヴィッヒさん、分かるかな?」

全く反応を示さないヒカリに、気を遣った教師が話を振ってみる。

「え、リーマン予想についてですか?」

リーマン予想とは数学者最難関の問題。小学生どころか、数学者が人生を賭けて解けない問題である。

「誰もそんな数学の難問は聞いてないよ!?」

ヒカリの反応に焦る教師。

ウンウンと後ろで白が頷く。

「アレの証明には時間が掛かったな」

「解けたんですか!?」

思わず白にも反応を示さずにはいられない教師であった。

授業が終わり、次は生徒達の作文『両親』が発表される。

「次は、ボーデヴィッヒさん」

「はい」

ヒカリが立ち、一礼する。

「私のお父様とお母様について……」

ヒカリは読み上げようとして、ふと口を閉じる。顎に手を当てて暫し悩んだ後、トコトコと両親の元まで歩いて行った。

「あの、コレどこまで喋って良いですか?」

ヒカリの質問に、白が手に取ってザッと確認する。ラウラも横から覗き込んで確認を取った。

「この辺りは駄目だな」

「ここからここも無理だろう」

「んー、あとは……」

ウンウンと3人で話し合い、一つ頷いたヒカリが席へと戻る。

そして、声を大きくして宣言した。

「私の家庭は幸せです!以上!!」

「終わり!?」

思わずツッコミを入れた教師にボーデヴィッヒ一家が返答する。

「すみません」

「諸事情があるので」

「これで御勘弁を」

見た目よりも不思議な一家だと、その場にいる全員が思ったのだった。

 

 

「あー、疲れた」

放課後。

下駄箱で合流したヒカリと零と百花。

親達は体育館で学校側からの合同説明会に呼ばれており、それが終わり次第揃って何処かへ行こうという話になっていた。

「ヒカリの所はどうだった?」

「何も問題ありませんでした」

実際は色々と問題だったのだが、やってる本人が自覚あるわけでもなく、ましてやその場にいない零と百花がそれを分かる筈もなかった。

「そうかー」

「にーちゃは問題あったのか?」

「毎度の事だけど、父さんが注目浴びるからなぁ。終わった後が大変だったよ」

「毎度のことだなぁ」

百花も体験があるので神妙に頷いた。

「精々、私が大変だったのは、お父さんやお母さんが他の親御さん達から注目を浴びていたことでしょうか」

美形の男女で見た目も若い。子持ちでも見惚れた者は少なからずいた筈だ。

「終わった後も、皆にお父さんとお母さんについて聞かれもしましたし……」

「何だ、俺達と同じじゃないか」

「全くですね」

全員が深い溜息を吐いた。

そこへ、説明会を終えた白達がやってくる。

「どうした皆、暗い顔で」

箒の質問に、何でもないも首を振る。

「そうそう。折角だし、これから皆で一緒に何処かへ行こうと思うのだが、何処が良い?好きな所で良いぞ」

ラウラの提案に子供達は顔を見合わせ、声を揃えて答えた。

 

「静かな場所でお願いします」

 


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