インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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鷹鯱狼兎

写真が軍に広まる数日前。

 

ある暗い部屋の中で男の声がする。

「鷹と鯱と狼が揃うのも久し振りだ」

その声に別の男の揶揄い声が応える。

「いつも思うんだが、狼じゃなくて犬にしたらどうだ?」

低めの声が不機嫌そうに言った。

「何を言っている。それなら全員狗だろ」

「違いない」

そこに、ドアが開いて一人の女性の声が部屋に響いた。

「揃っているようね」

それに、狼が声の調子を変えずに問い掛ける。

「遅い登場だな、兎よ。緊急の呼び出しなんだ。それなりの理由はあるんだろうな?」

「ええ、白兎の件よ」

姿は見えないが、ざわりと空気が動くのが感じられる。白兎と聞いて、一気に関心が高まった。

「何かあったのか?問題が起きたなら鷹総出で狩りに出るぜ」

「こちらも恩を返せていないのだ。鯱も応じる」

「まあ落ち着け、お前ら。悪い報告か?良い報告か?」

熱り勃つ鷹と鯱を宥め、狼が冷静に応じた。兎が微かに笑うのが聞こえる。

「一応、白兎と黒兎が罠に遭遇したみたいだけど、自力で解決したようよ。それより、私が報告したいのは良い報告の方。先日、黒兎から写真が届けられてね。白兎と戯れている時の写真があったわ」

「喜ばしいことだな。しかし、それだけの事に呼んだわけではあるまい」

「ある意味そうとも言えるし、そうでないとも言えないわ。まあ、見てもらった方が早いでしょ」

暗い部屋の中で、プロジェクターが作動する。壁に映し出されたのはラウラの写真だった。

「おや、黒兎じゃないか。なんというか、随分雰囲気が変わったな」

「ああ、幼さが抜けてるというか、どこか大人っぽくなったな」

「問題は次の写真よ」

そして、写し出されたのは麦わら帽子を押さえながら微笑みラウラの写真。目敏く、全員がその左手の薬指に気が付いた。

「……おいおい、まさか」

「いやでも、これ白兎の武器だろ?何で黒兎が?」

「だが、武器でも左手の薬指だ。その意味をこの二人が知らない筈がない」

「そして、これをご覧なさい」

白の笑顔の写真。

その映像に男三人は確実に固まった。普段冷静沈着な軍人達がこうも同じ反応を示すのはなかなか面白いものがある。

「え、誰これ」

「……白いの?これ、白いの?」

「おい本名言ってんじゃねぇよ」

「いや、だってお前これ」

そこで、唐突に部屋の電気が点いた。

プロジェクターが付けられた小さな会議室に、陸軍、海軍、空軍の男がそれぞれ座っており、クラリッサがプロジェクター機器の所で立っている。

全員がドアの方へ視線を向けると、IS部隊の一人が呆れた顔で立っていた。

「会議室借りて何やってるんですか」

「やん、折角雰囲気出てたのに」

クラリッサが腰をくねらせるが、部下の白い目は変わらない。ドアの脇から空軍の副隊長が顔を見せた。

「隊長。もうそろそろ帰りますぜ」

「あー、マジで?そんな時間?」

「んじゃ解散で」

ここに陸海空が揃っているのは、元々IS部隊の演習見学の為だった。見学を終えたこの三人はクラリッサに会議室へ案内され、そこで簡単な共通報告を行っていた。

これは元々白が行っていたもので、実際には現場を回る度にこの報告を各部隊へと行っていたのだ。白が居なくなったことで、それぞれの代表者が各部隊へ演習見学を行うようにし、その後共通報告をするようにと務めていた。

その報告が終わった後、クラリッサが少し話があると、こんな変な事をし始めた。そのノリについてくる程、各部隊の代表者達は仲を良くしていたりする。

「どうでした?衝撃的な報告だったでしょう?」

「ああ、衝撃的過ぎたよ。加工とかしてないよな?」

「するわけないじゃないですか」

空軍の隊長とクラリッサが軽口を交わし合う。その光景を見ていた陸軍の男が、しみじみと呟いた。

「しかし、IS部隊と空軍が仲良くしているのは、なんというか、感無量だな」

軍にISが配備されると決定され、それ専用の部隊が出来ると聞いた時、一番嫌悪したのが空軍だった。ISの部隊と聞けば、自分達の空が奪われる様な感覚だったのだろう。最初は仲良くなどしてたまるものかとも思っていたらしい。かつて、食堂で空軍の一人が白に喧嘩を売ったが、あれはそれの残りのようなものだったのだろう。

白が軍にいた頃、訪問の頻度が多かったのは空軍だった。これは単純に空に関する事柄が多かったのもあるが、アデーレが空軍と繋がりを持つ為にしたことでもある。

白が来た当初、空軍は歓迎とは言えない雰囲気で出迎えたが、白は媚びるわけでもIS部隊について何か言うでもなく、淡々と仕事をして帰っていった。それも完璧に仕上げ、大量の量を終わらせて。数日もそれが続けば、逆に強情になっている自分達が段々馬鹿らしくなってきて、逆に白が何も言わないことが気になり話しかけるようになった。

アデーレの思惑とは少し違ったが、他の部隊でも白は同じような事をし、繋がりを得て帰ってきた。彼は元々他人に興味がなかっただけだが、無口ではないので、話し掛けられれば返す。口の利き方には気をつけるが、誰でもどこでも在り方を変えない彼は割と気に入られ、仕事の出来も優秀なので信頼を得ていた。

今の光景も、白が残していったものに間違いはない。

「おう、そうだ嬢ちゃん。この写真コピーしてくれよ」

海軍の言葉に陸軍が呆れる。

「お前、自分の部隊に爆弾落とす気か?」

「いやさ、俺達は普通に話せるようになったが、他の奴らにはまだ蟠りみたいなもんはあるからな」

そう言って、結局全員が写真のコピーを貰うこととなった。

「いやしかし、コイツも変わったな」

「もう会えないのが惜しいな……」

「ああ、それなんですが……」

クラリッサがニンマリと笑みを作った。

「皆様にご協力を願いたい事がありまして」

 

 

 

 

「何か知らんが、軍から来るように催促されたからドイツへ行こうと思う」

ラウラがドイツへ行くと決めた時、白は仕事を最速で終わらせた。いきなりの休暇を得るのは本来難しいことだが、数週間分の仕事を一日で出されては文句を言いたくても言えなくなる。

「ま、良いでしょう」

白と同じ用務員であり、実際はIS学園の裏の経営者である轡木十蔵は、そう言って許可を出した。

元々イレギュラーな人員ということもあり、多少の融通が利くのも功を奏したのだ。

白とラウラは飛行機のチケットを予約し、簡単に荷物を纏めた。元々持っている物が多くない二人だったが、旅行ともなればそれなりに物入りとなり、意外と荷物は多めとなった。

出る時に千冬から軍の連中に宜しくと言われ、日本のお菓子を持っていくよう頼まれた。

飛行機で海を渡り、ドイツへと到着する。急ぎの旅でもないので、ホテルで先に数日間の宿泊のチェックインを済ませ、翌日にドイツ軍へと赴く事にした。その旨をドイツ軍へ伝えると、迎えの者を寄越すとの返答が来た為、その時間にホテルの前で待つことにした。

「そろそろだな」

「ああ」

白は行く所まで見送ろうと外まで一緒についてきていた。

そこから少しすると、軍事車両が見えてきた。優雅な街中では割と目目立っている。

ラウラ達の前で止まり、窓が開いて顔を出したのは

「よう、お二人さん」

白の書類を破棄するのを手助けし、ラウラが学園へ通う事を手配した大佐だった。

「た、大佐殿⁉︎」

予想だにしなかった人物が顔を出した。ラウラは狼狽えながらも敬礼をする。白は軍人ではないので、敬礼はしなかったが、何故大佐がと眉を寄せた。

それを見た大佐は、内心かなり驚いた。

白が眉を寄せるという表情を作ったことは、白を知る彼にとって、充分に驚愕に値する事だった。

「迎えに来たぞ」

「わ、わざわざ大佐がいらっしゃるとは。恐れ入ります」

「運転手はコイツだけどな」

「お久し振りです。隊長、白さん」

クラリッサが運転席から顔を出して敬礼した。

「クラリッサか」

ISを持つ彼女が大佐の運転手なら、安全性は保証される。

「じゃ、乗りな」

「分かりました。じゃあな、白」

「ああ」

白とラウラが別れの挨拶をした所で、大佐が首を傾げた。

「何言ってんだ。白も乗れ」

「え?しかし、白は軍人ではあるませんよ」

「知ってるよ。良いから乗れって」

催促する大佐に白とラウラは顔を見合わせた。何を考えているのかと二人して首を傾げた。その様子を見て、大佐は口の端で笑った。強面の男が笑うとなかなか迫力がある。

「今のご時世、秘匿はどうたらこうたらと煩いからな。一般人でも見学可能な所くらいあるさ。確かに軍施設の本拠地には入れんが、そこまでくらい良いだろ?」

軍の主要な施設とは別に、一般人公開用の施設もある。軍の歴史だったり、昔の演習風景を見れたり、お土産が売ってたりと、軍施設というよりは博物館に近いものだ。

「……そう言う事でしたら。しかし、本当に良いのでしょうか?」

「んまあ、寧ろ来い」

白は何となく嫌な予感を持ちながら、ラウラと共に軍へ運ばれて行った。

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