インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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望まれた生命

神殺しとラウラの間に一陣の風が吹き抜けた。

生き残りの神化人間、神殺しは、ラウラの問いに頭を巡らせた。

彼女の問いに答える必要もなければ、律儀に相手をしてやる必要もない。神殺しはラウラが普通の人間とは違うことは勘で察していたが、同時に神化人間でないことを見抜いている。

「…………」

何故そんなことを聞くのか。

お前は何者なのか。

その疑問も全て捨てて、神殺しは言った。

「後悔はしていない」

その死は、神殺しにとって必要なことだったから。

「命が軽い、重いと悩んだ事はないが、容易いと思ったことはある。普通の人間なら鋭い木の枝を目にでも刺せば、それが脳に達してあっさり死ぬ。軽い傷でも頚動脈が更に傷付けられれば出血多量であっという間だ。命ほど容易く、脆いものはない」

後悔などしない。

「シロの死は必要だった。壊れ切った裏世界を壊すのに。この腐った世界を救う為に。だから、後悔なんてしない。ただ少し……」

生きたいと願いながらも、シロは抵抗することなく死を選んだ。それがビャクの為になるならばと。

彼女は漫然と死を受け入れた。

「少しだけ、やるせなかっただけだ」

その顔に刃を突き立てた感触は、一生忘れやしないだろう。

「……そうですか」

きっと、この問い掛けを白はしない。

他人の感情の動向を、白は興味を持たないから。だからこれは、ラウラの自己満足のようなものだ。

「それで、お嬢ちゃんは何者かな?」

神殺しから殺気が溢れる。

純粋な殺意の塊は、軍人のラウラさえも凍り付かせた。

「答えによっては、殺……」

衝撃音が鳴った。

唐突な音に女性とラウラが目を丸くする。

ラウラだけは目の力で辛うじて見えていた。

拳より一回り小さな石が、弾丸の様な速さで神殺しの側頭部に迫った。それを、神殺しは素手で受け止めたのだ。

「……久し振りの再会にしちゃ、過激じゃないか」

神殺しは笑う。

嬉しむような、悲しんでいるような、複雑な感情を入り乱せて笑った。

向こうから白い影が歩み寄る。

「俺の記憶では、お前と出会う度、まともに挨拶した記憶はないな」

白が静かな口調でそう言った。

その後ろには白い少女、冬雪と黒い髪の少年がついてきている。

「生きていたのか、ナイフ使い」

「その名は死んだ。今の俺は、白だ。神殺し」

白はラウラの横に並び、ラウラの肩に手を乗せる。

「あと、俺の女に手を出すな」

その言葉に、女性と神殺しが固まった。

「は?」

神殺しは人生で初めて、一番間抜けな声を出した。まだ復活し切れない神殺し達と、動かない白達を交互に見る少年と冬雪。

冬雪が腕を組み、首を傾げ、ポンと手を叩いた。トコトコとラウラに近寄り、その手を握る。二人は同い年くらいに見えるが、ラウラの方が若干背が低かった。

ラウラは急な冬雪の行動に困惑し、彼女の目を見れば、冬雪は無表情ながらも目を爛々と輝かせていた。

「初めまして、お義母さん」

「は?」

ラウラの間抜けな声が公園に響いて消えた。

 

 

 

白は神殺しに話があると彼を引き連れて離れて行き、ベンチには四人が残された。

「まず挨拶しましょうか。私は上川恵。宜しくね」

「私はラウラ・ボーデヴィッヒです」

恵と名乗る女性とラウラがそれぞれ頭を下げた。

次に、黒い髪の少年が頭を下げる。冬雪と同い年の少年は、青い瞳を携えて快活な表情で笑う。

「オレは上川黒って言います。えーと、父さん……神殺しと母さんの息子です」

息子という単語に、ラウラは驚いた。

確かに似ているとは思ったが、神殺しという神化人間が子供を作れたということなのだろうか。

「私は白鳥冬雪。ナイフ使い……今は白でしたか。白とシロの子供らしいです。宜しくお願いします、お義母さん」

「冬雪。取り敢えず興奮しないで落ち着こうか」

目をキラキラさせる冬雪を黒が肩を掴んで押さえる。どうやらテンションが上がっているらしい。無表情だが、何となく分かり易い子である。

「えっと、どこから尋ねれば良いのか……」

聞きたいことが山程あり過ぎて頭を押さえるラウラ。恵は口元に手を当てて微笑んだ。

「ゆっくり話しましょう?あっちも、同じ話題をしていると思うし」

遠くに離れた白と神殺しの方を、ラウラは見た。

 

 

 

「白鳥冬雪は何者だ」

離れたベンチで、白が開口一番に問う。

「俺としちゃ、お前が生きてる理由とか、あの女の子の事とか聞きたいんだが」

「死んだと思ったら平行世界に落ちて、そこでラウラと出会って、愛し合った。以上だ」

「簡単過ぎるぞテメェ。しかも意味分からん。相変わらず自分の聞きたいことだけ聞く奴だな」

まあ後で良いかと、神殺しは気を取り直して口を開いた。

「裏政府に居た、コードネームが紅蓮という男を覚えているか」

「知らん」

「一応、お前の上司だったんだが……。兎に角、紅蓮が保管されていたシロの遺伝子と、お前の遺伝子を使って作った子供が白鳥冬雪だ。裏世界が滅びる前に奴個人で回収していてな。今はもう、俺が裏世界の虱潰しも行ったから安心しろ。ああ、ちなみに、ちゃんとサフィアが人体に宿して産んだんだぞ?……サフィアの事は?」

「…………」

「あー、うん。分かった分かった。覚えていないなら良い。取り敢えず、あの娘は遺伝子こそお前とシロを受け継いでいるが、ちゃんと人体を通して産まれたって事だ」

勘違いしないように先に言っておく、と注意を入れる。

「あの娘は望んで産まれてきた。俺達のような存在ではなく、普通の人間として産まれて、育てられ、生きてきた。もっとも、俺も白鳥冬雪の事は最近知った。俺の息子が同じ高校でな。白鳥冬雪が紅蓮の神化人間の資料を見ちまったらしく、こっそりと自分の正体と両親の事を探っていたそうだ。そして、偶然俺に辿り着いたってわけだ」

「何故作った。……いや、何故産んだか、分かるか?」

「直接聞きに行った。罪滅ぼしのようなものだと」

神殺しが目の前に落ちてきた葉を掴み取る。

「マトモに接してやる事が出来なかった、シロとお前に対する罪滅ぼし。せめて子供だけは幸せであれと願ったそうだ」

「自己満足だな」

「理解の上だろうよ。実際、白鳥冬雪は幸せそうに生きてる。ちゃんと紅蓮が義理父として育て上げた。ま、無表情なんか変な所はお前に似ちまったようだけど。だが、喜ばしい事だろ?」

「知らんな。正直どうでもいい。というか、どうすれば良いのか分からん」

いきなり自分の子供と言われても受け入れられはしない。

白が知りたいのは彼女が作られた理由であり、彼女の人生ではないのだから。それを知った所で、いきなり父親と言われても、白としては困惑するばかりだ。

「……お前、感情を出せるようになったのか?」

白の雰囲気と、彼の言動を見て、神殺しは問う。

「ああ、二重人格は死んだ。そして、ラウラによって、俺は人間として生きる事が出来た」

「……そうか」

頑張ったなとも、辛かったなとも、神殺しは言わない。白の心情を完全に知ることなど、出来はしない。上辺だけの言葉で語るような真似は、神殺しはしなかった。

「なぁ、ナイフ使い……じゃないか。白」

「何だ」

神殺しは手にした葉を放り捨てた。

「俺を恨んでいるか?」

「?」

白は首を傾げた。

「何故恨まなければならん?」

「……。シロを殺したことだ」

「アレは必要な事だっただろ」

「……そうだな」

神殺しはそれ以上シロの事で何かを言うのは止めた。白の中で、シロの事は終わったものに過ぎない。どう言おうが、どう問おうが、答えは変わらないし、変えもしないだろう。

「そう言えば、神殺し。情報屋を見たか?」

白の疑問に、神殺しは思い出しながら答える。

「ん?奴か。奴のコピーなら何人かにあったぞ。本体は既にこの世界に居ないとか何とか」

「そうか。礼を込めて一発ぶん殴りたかったんだが」

「どういうことだよ」

白は自殺したこと。平行世界に落ちたこと。ISと呼ばれる機械が存在する、技術が発展した世界だったこと。ラウラとの出会い。トラウマの克服。情報屋の因子が平行世界へ行ってしまった原因だったこと。自分の中から情報屋を消したこと。その後の展開も、今自分達がここにいる理由も全て話した。

「成程。流石は知識に貪欲な神様だ。巻き込まれたお前は迷惑であり、救いだったってことか」

しかし恐怖洗脳だけで、自分の中にある情報屋を消すとは。

流石は

「流石は、破壊神」

神化人間を神と例えるならば。

知識に貪欲で世界を渡り歩いてでも、全てを知ろうとする情報屋は知恵の神であり。

多くの神化人間を殺し、情報屋の強い思念でさえ壊してしまう白は、破壊の神なのだろう。

「俺を神と言うのなら、殺してみるか?神殺し」

「残念だが、神殺しは引退した。それにお前は人間だろう?」

さてと、と神殺しが車輪を掴む。

「行こうぜ。時間ないんだろ?」

「どこに行く気だ」

白達の目的がシロの別れであることは告げたが、場所は特に指定していない。

「墓参りだよ」

「墓?」

「ついてくりゃ分かるさ」

神殺しが先に進む。

白は立ち上がり、神殺しの横に並んで歩いた。

「押してくれないのか?」

「背中を押してくれる奴は、もういるだろ」

「それもそうだな」

お互いに支え合う存在が居るのだから。

だから、彼らはこうして自分の足で進んで行けた。

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