インフィニット・ストラトス Homunculus《完結》   作:ひわたり

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ハロウィン

ラウラはほぼ一日中台所に立っていた。

机の上にはクッキーが既に幾つかラッピングされているのが小盛りに積まれている。透明な袋に色とりどりのリボン。中のクッキーはプレーンだったりチョコだったり、様々な味がある。形も猫や狼、オバケの型など豊富であった。

「ここまでする必要あるのか?」

ラッピングを手伝っていた白は、終わり間際に今更な質問をした。

「クラス分と職員の方々に渡すからそれなりの量は必要だし、好みだって色々あると思って」

作業を終えたラウラが手を拭きながら戻ってくる。

明日はハロウィン。

生徒会によって、もとい、楯無によってある企画が提案されていた。

企画と言っても大々的な物ではなく、ハロウィン当日のみ制服でなく好きな服装で良いというものだ。

また、自由時間なら沢山のお菓子を配ったりしても問題ない。お菓子は許可を出すが、悪戯はなしということである。

ちなみに、この企画を大きく推したのは布仏本音だそうだ。

「職員の方には色々とご迷惑をおかけしてるし、少しでも感謝の気持ちを伝えたいんだ」

「そうか」

別段否を唱えるつもりもなく、単純に疑問を持っただけだったので簡単に流す。

「白は何が良い?」

ラウラがラッピングされたクッキーを持ち上げ、ニコニコと笑いながらどの味が良いかと問う。

白はラウラの顔を見つめ、真顔で答えた。

「悪戯」

「え?」

「Trick or Treatだろ」

「むう……」

からかっているのかと頭を捻るが、どうもそうではないらしい。

ラウラは解答の真の意味は分かっているのだが、少しだけそこから目を逸らしていた。

悪戯か、おもてなしか、どっちが良いか。

今この状況で言い換えれば、ラウラの悪戯が良いかお菓子が良いかの選択である。

となれば、白の選択は一つしかない。白ならば当たり前とも言える、選択すらならない選択。

「……お菓子から選んでくれ」

頬を赤く染めるラウラ。

普段はすぐに受け入れるのだが、あくまでお菓子を選ばせてみる。これは宣言通りの悪戯の行為だ。

「……駄目か?」

白は子供のように純真な瞳で聞く。

「……明日な」

結局、すぐに折れたラウラだった。

ハロウィンは明日だ。今日はまだ前日である。だから、ラウラは約束だけをした。

 

ハロウィン当日。

多くの生徒が好きな服装での登校をしてくる。実家から通っている生徒はわざわざ更衣室で着替えていたりもした。

もちろん中には普段の制服の生徒もいる。やはりと言うべきか、箒はいつも通りの制服姿であった。

「勿体無いなぁ、折角のイベントなのに」

ドラキュラの服装をしてきたシャルロットが近づいて来る。後ろから魔女の格好をしたセシリアもやってきた。

「いや、純粋に恥ずかしいだろ……」

御免被ると首を振る。今の状況では普段の制服である箒の方が浮いているのだが、だからといって着替える気もなかった。

「一夏さんにアピール出来るかもしれませんわよ」

セシリアの魅惑的な発言に一瞬だけ箒の動きが止まるが、首を激しく振って妄想を打ち消した。側から見てても何を考えていたか分かるだけに、苦笑が浮かぶ。

「あんたはお堅過ぎるのよ。こんなのイベントなんだから参加しなきゃ」

ドアを開けてやってきた鈴が腰に手を当ててふんぞり返った。頭にネジを生やしたり、体に線を走らせたりしているのを見ると、ゾンビのようなものだと分かる。

「おはよう鈴。まだ一夏は来てないぞ」

「みたいね。どんな格好してきてるか楽しみだったんだけど」

そうやって話していると、教室に荷物を抱えたラウラが入って来た。

「おはよう」

「おはようラウラ。凄い荷物だね」

ラウラの腕に下げられた袋の大きさを見て驚くシャルロット。

「全部クッキーだ。中身は少ないんだが、ラッピングしたら嵩張ってしまってな。そういうわけで、どうぞ。好きな味を取って良いぞ」

ラウラが袋を開けたのをキッカケに、教室に居た生徒達がワラワラと集まって来る。

「味も好み毎で選べますし、量も多いですし、美味しいですし。流石ラウラさんですわね」

「しかし、トリックオアトリートを言う前に渡されてしまったな」

「でもこれ、量が多くない?」

「まあ、余ったら余ったで……」

ラウラが言い掛けた所で一つの影が飛び出してくる。

布仏本音。お菓子の申し子である。

普段からコスプレしているようなものなので、あまり変わらない本音だった。

「トリートオアトリート!!」

「……余っても本音が食べてくれるだろう」

既に腕いっぱいにお菓子を抱えている本音を生暖かい目で見て答えた。

「というか、選択肢はお菓子しかないんだね」

「お菓子を与えなければ与えないで、本気で危なそうだな」

お菓子が大好きな本音のことだ。お菓子を態と与えなければ、悪戯以上の悪戯が恐ろしい。

「そういえばラウラ。その格好なに?」

ポリポリとクッキーを噛みながら鈴が質問する。

ラウラが身に付けているのは白い布。マントのように全身をすっぽり包んでいるだけで、装飾もない簡素な物。何の格好だかパッと見分からない。

「ああ、これは……」

フードを被ると頭から足先まで見えなくなる。見た目では誰だか分からない。

「お化けだ」

酷く簡易なお化けであった。

「また随分と簡単なのにしたな」

「良い格好したら白が妬くからな。そういうのは白の前だけでする」

「はいはい、ご馳走様」

皆でラウラの惚気とクッキーを堪能していると、一夏が姿を見せた。

「おはよう、皆」

「おはよ……何それ?」

全員の視線を集める一夏は、何か変だったかと首を傾げた。

「何って……狼男だけど」

耳や尻尾。そして毛むくじゃらを見れば狼男だとすぐ分かる。

分かるからこそ、彼女達は疑問の声を上げたのだ。つまり、一夏には相応しくないのだと。

「去勢済みって看板首から下げときなさい」

「狼じゃなくて犬で良いんじゃないかな。チワワで」

「馬の被り物がありますわよ?如何です?」

「取り敢えず、定例文句といこう」

全員が声を揃えて宣言した。

「トリックオアトリック」

「トリートはないの!?」

草食系男子の悲鳴は情けなく響いて消えた。

 

 

「……というわけで、ラウラからのトリートだ」

教員達にラウラのお菓子を配っていた白は、最後に千冬に手渡した。

当然ながら教師陣は誰もコスプレなどしていない。やっているとしても、簡単な飾りをつける程度だ。山田先生は周りの教師から猫耳を装着されて、仕方なくそれで1日を過ごしている。普段できないことをするのは、成長しても楽しいことなのだ。人間ならそれは当たり前のことである。

クッキーを貰った千冬が礼を述べて受け取る。

「ありがとう。……お前からのトリートはないのか?」

「外の包み紙が俺のトリートだ」

「食えないじゃないか」

「トリートは『おもてなし』だからな。物を包む心が篭ってるだろ」

「よく言うよ。心なんか込めてないくせに」

二重の意味で食えないなと言いつつ、ラウラのクッキーを一つ口に放り込んだ。程よい甘さと口の中で溶けるクッキーの感触を楽しむ。

「相変わらずの料理上手だ。本当にお前にはもったいない」

「ああ、全くだ」

「少しは否定しろよ」

「事実だろ」

出会った時から変わらない白の反応に千冬は肩を竦めた。白はそんな反応にもいつも通りだった。

「一応俺の用意もあるが、護身用だ」

「護身用って何だ」

「子供は理論だけでは抑えられないからな」

そう言って白が取り出した物を見て、千冬は何とも微妙な顔をした。

 

 

そして放課後、白が学園を歩いていると、向こうから満足そうにお菓子を抱えている本音がやってきた。

「あっ、白さん!トリートオアトリート!!」

こんな時だけ間延びせずにテンションの高い本音である。白は選択肢がないことにツッコムこともなく、懐からある物を取り出す。

先程話していた、理論の通じない相手に使う護身用。

それを本音の手に渡してやった。

「…………飴?」

手に乗せられたのは一つの飴。封には喉飴の文字が書かれている。おまけにハッカ味だった。

「甘い物ばかり食うなよ」

白は生徒達に言い寄られた時の為にコレを持ち歩いていた。相手が教師なら口だけで何とかなるが、テンションが上がっている生徒は抑えられないだろう。それなら大人しくお菓子を与えてやるのが一番手っ取り早い。

それでも、市販の、しかも甘くもない無難以下の喉飴を選ぶ所が白である。

「色んな意味で台無しですよー……」

本音はがっくりと肩を落として喉飴を口に入れた。

なんだかんだ食べはするんだなと思いつつ、白はそのまま離れて行く。

「じゃあな」

「はいー。お達者でー」

……何処行くんだろうなー。まあ、彼女さんというか、嫁さんの所でしょうねー。

「……あ、今日結構叫んでたから、意外と喉飴良いかもー」

本音は喉飴を口の中で転がしながら、新たなターゲットを探しに行くことにした。

 

一方、本音と別れた白は学園の屋上へと向かう。

ドアノブを開けた向こう、屋上の手摺に寄りかかりながら空を見上げる銀髪の少女が座っていた。

一呼吸置き、彼女の名を呼ぶ。息を吸うと、肌寒い空気が肺に流れ込んだ。

「ラウラ」

ラウラが白へと振り返る。ラウラが何かを言う前に、白が先に口を開いた。

「Trick or Treat」

「……お前が言うんだな」

「俺は昨日答えたからな」

白がラウラの前まで歩み寄る。

「私がお菓子を持ってたら如何するんだ?お菓子を渡して終わりだぞ?」

「お菓子は持っていないだろう。匂いと空気で分かる」

「外にいるのに分かるのか。流石というか何というか……」

「それで、どうする?」

ラウラはジッと白の目を見つめる。白も目を逸らさずに見つめ返す。

「…………」

ラウラは無言で自分の隣の床をポンポンと叩いた。白はそれに大人しく従い、彼女の隣へ腰を下ろす。

「えい」

ラウラは着ていた白い布を広げて、白を巻き込んだ。ゴソゴソと布地を分けて、一つの穴から顔を出す。ラウラとくっ付いたまま、二人でマントを着ている状態となった。

「これが私からのトリック」

そしてこれが。

「貴方への、トリート」

そっと頰へ唇を当てる。触れるだけの簡単なキス。子供のような小さな愛情表現。

「こうしてると、温かいだろう?」

「……そうだな」

夏は過ぎ、気温も下がってきた。葉は紅葉に変色し始め、冬の気配を肌で感じる。

「日本は四季の国と聞いたが、こうして季節を巡るというのは、とても心地良いものだな」

「そういうものかな」

世界を転々としていた白に、季節感や世界観は特に持ち合わせていない。

そんな白に、ラウラはそういうものだよと優しく答えた。

「なぁ、白。ここからだと星の光は見えないな」

「人工光が多いからな。星が見え難いのは当たり前だ」

見上げた空に星は少ない。太陽が落ちるのが早くなったが、星はまだ完全に出てはいないし、都会の中では山の中のような星は見えない。

「うん。でも、前を見てみろ」

素直に前に顔を向ける。

屋上から見えるビルや家の人工の光。人々が暮らしている光が世界を明るく照らし出していた。

「自然の光も良いけれど、人工の光は現代で人々が生きている証のようなものだ。この光も温かいものだと、私は思うよ」

人が生きているからこそ、そこには温もりがある。

白は黙ったまま、隣にある温もりをそっと抱き締めた。優しく添えられる手にラウラは身を委ねる。

「折角だ、ラウラ。俺からも、お前へのトリートを贈ろう」

ラウラはクスリと微笑んで、静かな口調で尋ねた。

「Trick or Treat?」

「Hear you go」

二人は光に包まれながら、互いの唇を重ねた。

 

 

 




Happy Halloween!
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