一輝side
……夢を見た。夢を見る事は滅多にない。……だけどこれは夢にしてはかなり妙な夢だ。いや……そもそもこれは
身体を動かす事が出来ない。うっすらと開けた眼に映る視界がぼやけている事から自分が水中だと
だと言うのに液体の冷たさは感じず息苦しさも無い妙な感覚だ。そして……。
ピピピピ! ピピピピ! ピピピピ! ピピ。
……鳴り響く目覚ましを止め、カーテンの隙間から入り込む日の光を受け、眼を覚ます。
「……朝、か。おかしな夢だ」
ベッドから起き上がり、寝間着からジャージに着替え日課のトレーニングを始める。
ランニング中、俺は見た夢の事を思い出そうと……やめよう。考えるだけ無駄だ。俺は夢の事を頭から消し走りに集中する。
住宅街を暫く走り続けていると、反対方面から見知った二人がトレーニングをしていた。
「ほら、だらしなく走らないの」
「は、はい! ハーレム王に、俺はなる。ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
息を切らし走っている一誠と後ろから自転車に乗って声をかけている部長だった。
「おはようございます部長」
「おはよう一輝」
「ハァ、ハァ、ハァ? お、おはよう一輝。ハァ、ハァ……何してんだ?」
「おはよう一誠。見れば
「あぁ。自分の目標のために、ハァ、ハァ、ハァ。部長と一緒に鍛錬中。ハァ、ハァ、ハァ」
「ほら! ペースが落ちてるわ! 早く走る!!」
「は、はい!!」
部長の厳しい言葉に一誠はペースを上げる。容赦ないな……結構スパルタなのか?
「途中参加して良いッスか?」
「ええ。問題ないわ」
許可も得たことで、一誠の横に並走。
「ハァ、ハァ。悪魔って以外に体育会系。ハァ、ハァ、ハァ」
「ぼやかない。私の下僕が弱いなんて許されないわ!」
「が、頑張ります」
そのまま走り続け公園前で一旦休憩を挟む。既に一誠はヘトヘトで地面に座り込んでいる。隣で柔軟しながら汗を拭っていると……。
「さて、次はダッシュ百本いくわよ」
頃合いを見て部長が笑顔で伝えてくる。一誠は顔面蒼白になる。
「良い? 悪魔の世界は
「ウゥ、はい……五十三」
ランニングとダッシュ百本を終えた俺と一誠は、公園で腕立て伏せをやっている。一誠の背には部長が乗っている。ちなみに俺は岩を乗っけている。
腕がプルプル振るえて厳しそうかと思ったが偶に顔の表情が崩れ下品な表情を浮かべている。
べしっ!
それを悟ったのか、部長が一誠の尻を叩く。
「ヌゴァ!!」
呻き声と同時に崩れ落ちる。
「邪念が入っているわ。腰の動きがいやらしいわよ」
「そんな。この状況では、俺に潜むお馬さん根性がマックスになりますよ……七十!」
「腕立て伏せしながらおしゃべりが出来るなんて、成長したわね、イッセー。もう一セット追加しましょうか?」
「大丈夫です!!」
「百九十四、百九十五……それだけ話せるなら、まだいけるだろ? 百九十六」
「お前と一緒にすんなよ……こっちは元帰宅部だったんだから」
「百九十七……最初はキツイかもしれないが、徐々に慣れる。百九十八、百九十九、二百。フゥ、フゥ、フゥ……それまでの辛抱だ」
「一輝もここまで腕立てが出来るんだから、あなたも出来るわイッセー」
「無茶言わないでください。一輝の運動神経は人間離れしてるんですから」
「俺は人間だ」
転生者を除けば純人間だ。それに
柔軟をこなしていると、部長が周囲を見渡す。
「そろそろ来るころなんだけど」
「え? 誰か来るんですか?」
一誠が疑問を口に出した瞬間、「すみませーん」と聞きなれた声が響いた。
声のした方へ振り向けば、小さなバケットを持ったジャージ姿のアーシアだった。
「一輝さーん、イッセーさん、部長さーん! 遅れてしまって本当にアウゥ!!」
ドサッ!! 途中足が縺れ、前のめりにこける……悪魔になっても相変わらずか。
「お茶です」
「あぁ。ありがとう」
「サンキュウ」
水筒を持参したアーシアからお茶を頂き、一息つく。あの後、腹筋と背筋を二百回こなし、一誠は完全に脱力仕切っていて地面に突っ伏したが、今はアーシアから頂いたお茶を持ち、イスに身体を預けるように座っている。
「アーシア、どうしてここに?」
俺の質問に、アーシアは頬を染める。
「一輝さんとイッセーさんが、毎朝トレーニングをしていると聞きまして、その……私も何かお力になれないかと思って。今日はお茶ぐらいしか用意できませんでしたが」
その為にわざわざ早起きしてまで来たのか……偉いな。
「うぅぅ。アーシア! 俺はアーシアの心意気に感動した! ああ、可愛い子にそんなこと言われる時が俺に訪れようとは!」
一誠は号泣しお茶を一気に飲み干し……。
「! ゴホ、ゴホゴホ!!」
「イッセーさん! 大丈夫ですか!!」
思いっきり咽ていた。いつも慌しいなアイツは。
一口お茶を飲む。ふと部長を見ればお茶を飲まず何やら考え込んだ様子であさってを見ていた。
「部長」
声をかけても反応せず、ハァ。とため息を零す。
? どうしたんだ? 何時もと違うが。
「部長。大丈夫ですか?」
もう一度声をかけると、我に返ったようでコホンと咳払いをした。
「いえ、何でもないわ。それより丁度いいわね。今日にしようと思っていたから、このまま一輝の家へ行きましょう」
「??」
俺の家へ? 何しに行くんだ?
「何故だ?」
「
皆が困惑するなか、言われたとおり俺の家に向かう。
家に着いた瞬間、玄関前に積み置かれたダンボール箱を見て俺は呆気に取られた。
「……このダンボールは?」
出るときには何もなかったのに、帰ってきたら大量のダンボール……何だこれは? 爆弾?
「えっと……私の私物です」
「「え?」」
珍しく俺と一誠の声が重なった。何でアーシアの荷物が俺の玄関前に?
「意外に多くなってしまって……」
いや、荷物の多い少ないは関係ないが……ここまでくれば大体は予想がつくがまさか。
「アーシアの荷物って、部長!」
「そうよ。今日からアーシアは一輝の家に住むことになったの」
「よろしくお願いします」
丁寧にお辞儀してくるアーシア。
俺は偏頭痛に似た感じを覚え頭に手をやる。何でそうなった……。
「下宿先の希望を聞いたら、あなたの家が良いって言うから」
「……いやいや。ちょっと待って下さい部長。いくら何でも不味くないですか? 両親がいるとはいえ同い年の男女が一つ屋根の下で生活するのはっ」
「そうですよ部長! 一輝が我慢出来ずに襲い掛かるかもしれないですよ!?」
「死ね」
ドゴッ!
「ウゲッ!!」
俺のボディブローを受けて崩れ落ちる一誠。日常的に変態妄想が出来るお前と一緒にされるのは困る。
「あなたなら大丈夫でしょう」
笑みを浮かべる部長。何を根拠に大丈夫だと言い切れるんですか部長。
そして家に上がり、リビングで俺と部長とアーシアがソファに座り、テーブルを挟み反対側に義父さんと義母さんが座っている。余談だが一誠は自宅に強制帰還させた。
「……という訳でして、こちらのアーシア・アルジェントさんを出海家にホームステイさせて貰えないでしょうか?」
ニコニコ笑顔で両親に伝える部長。義母さんは笑顔で、義父さんは相変わらずの仏頂面で腕を組んで訊いている。
はぁ。どうしてこうなる?
「……アーシアさん」
「は、はい」
唐突にアーシアに声をかける義父さん。緊張の面持ちでアーシアは背筋をビシっと伸ばしたまま応える。
「本当に家でいいのかな? ホームステイするなら、同じ女性同士の方が良いんじゃないかな?」
「……その、一輝さんは私の命の恩人ですから」
「恩人?」
「はい。一人海外から日本にやってきて、道が
……なんだか少し恥ずかしいな。そんな大層な事をしたわけじゃないんだが。
「でも……ご迷惑なら、諦めます」
「あらあら。誰もご迷惑だなんて思ってもいないわよ、アーシアさん。ね、徹さん?」
「うむ。ダメではないが……しかしなぁ」
声を落ち込ませるアーシアに声をかける義母さん。隣で腕を組み渋る義父さん。まぁ、そう簡単に同居させるのは出来ないよな。
そこへすかさず部長がダメ出しの一言。
「でしたら、
「…………」
…………は? 花嫁修業? いきなり何を言うんだ部長は?
義母さんは口に手を当て、義父さんは眼を見開き言葉を失っている。
「?」
当のアーシアは、話について行けいないのか、首を傾げ疑問符を浮かべている。
静寂がリビングを支配する。数十秒後。先に義母さんがハッと我に返り、ウフフと笑い切り出す。
「花嫁修業を兼ねてのホームステイ……良いじゃない。私はいいと思うわよ。徹さんはどう?
「ん? ……う~ん。まぁ、それなら良いんじゃないか」
ただし!! と力強く言い、膝の上で手を組み鋭い視線でアーシアを見る。
「アーシアさん。これだけは確認したい。一輝の
「ど、どう思うとは?」
困惑するアーシアに、義父さんに続いて義母さんが続ける。
「一輝はね……アルビノを持って生まれたため、元の両親から孤児院に捨てられたの」
「え!?」
その言葉に、アーシアは驚きで眼を見開き俺を見てくる。隣の部長も驚いている。そこまで驚くことか? 人間は醜悪な
「十年前、私と徹さんが偶然通りかかった孤児院で、引き取ったのが一輝なの。生まれつきのアルビノのせいで孤児院では孤立、学校で虐められることが多かったから何回も転校したわ。クラスでもハブられて、中々お友達が出来なかったから人付き合いにはとても慎重なのよ。だから、アルビノ持ちの一輝をどう思っているのか、あなたの正直な気持ちが聞きたいの」
そう言う義母さんの表情は、いつになく真顔で訊いている。あんな義母さんの顔、初めて見た。
そこで俺は、アーシアが俺を見ていることに気がついた。視線を合わせれば、アーシアは真摯な言葉で返す。
「私は……一輝さんがアルビノ持ちだろうと、関係ありません。一輝さんは強く優しくて、気品にあふれている素敵な方です」
アーシアの答えに、両親は顔を見合わせ一つ頷き、義母さんホッと一息つき、表情を柔らかくし、義父さんは腕を組み直した。
「こんな真似してごめんなさいアーシアさん。私も徹さんも一輝を心から愛しているの。だから、貴方の素直な気持ちが訊きたくて、問うような形になってしまってごめんなさい」
でも。と言うと、次に発した言葉に、義父さんを除いた俺らは驚愕した。
「この町を管理してる、
「っ!」
……何で、義母さんが部長の事を悪魔だって知っているんだ? 部長も驚愕したようで眼を見開いている。
「私の家は大昔から続く由緒ある退魔師の家系なの。でも見てわかると思うけど、私も一輝と同じアルビノ持ちよ。そのせいで両親から……って、私の話はどうでもいいわね。簡潔に言えば、家内で唯一味方だった、私の兄が退魔師兼
……何てこった。二人には悪魔関係に関与してほしくなかったのに。まさか知っていたなんて。
「じゃぁ義母さんは、最初から部長が悪魔だって事を……」
「えぇ。知っていたわ。私に隠し事は通じないわよ? 一輝」
ウフフと、ニコニコで笑う。義父さんの方を見れば、コクリと一つ頷く。
……はぁ。両親に隠し事は通じないか。
「アーシアさん。家のバカ息子の事、お願い出来るかな?」
「お父様。一輝さんはバカ息子なんかじゃありません。とても素敵な方ですよ」
義父さんの問いに、ニッコリと微笑み返すアーシア。
隣では、お茶を飲みながら微笑む義母さん。
「リアスさん。アーシア・アルジェントさんを我が家でお預かりさせていただきます」
義父さんの快諾を聞き、リアスも微笑む。
「ありがとうございます。お父様……というわけで一輝。これからアーシアをよろしくお願いね。アーシア、これから一輝のお家にご厄介になるのよ。失礼のないようにね」
「……でも。やっぱり私みたいのがご厄介になるのは……迷惑なんじゃ」
「アーシア。義母さんも言っていたが、誰も迷惑じゃないって言っていただろう?」
「それに、日本の文化・生活に不慣れなら、我が家で慣れなさい」
「炊事洗濯も
「一輝もお父様もお母様も、こうおっしゃっているのだから安心しなさい」
部長の笑みを見て、アーシアが笑顔を見せる。
「は、はい! お父様、お母様、一輝さん。不束者ですが、これからよろしくお願いします!!」
「よろしくアーシア」
「うむ」
「よろしくね、アーシアさん」
こうして、俺の家にアーシアがホームステイすることが決まった。
「じゃぁ、今からアーシアさんの部屋を用意しないと。確か一輝の向いの部屋が開いていたわね? 掃除してくるわ。あ、ご飯ならテーブルに用意してあるから。アーシアちゃんは私の分食べていいわよ。私は後から自分で食べるから」
義母さんはいつの間にか用意した掃除道具を持って二階に駆け上がる。あの掃除道具、どっから取り出した?
「一輝。お前も時間が差し迫っているんじゃないか? 近くまで送っていくから早く用意しなさい。アーシアさんも。リアスさんは?」
「私は大丈夫です。急いで帰れば間に合いますので」
「そうですか。道中気をつけて」
「はい。それじゃ一輝、アーシア。また部活でね」
「
「は、はい。部長さん、ありがとうございました!」
笑顔を浮かべるリアスだが、部屋を出る際……。
「……花嫁、ね」
ポツリと。
横顔だったが、寂しげな表情を浮かべている部長が気にかかる。
「アーシア・アルジェントと申します。なれないことも多いですが、よろしくお願いします」
「「「「「「オオ――――!!」」」」」」
朝礼時。アーシアが俺と一誠のクラスに転入してきたことで、男子が歓喜の声をあげる。
「金髪美少女きた――!!」
「バスト82 ウェスト50 ヒップ81! グッド!!」
特に松田と元浜の声が一番響く。後クソ
そして、アーシアが次に言った発言にクラス中に一斉に戦慄を走らせる。
「私は今、出海一輝さんのお宅にホームステイしています」
「「「「「「何!?」」」」」」
クラス中の男子から殺気の篭った視線が送られるが、すぐに諦めた様子で嘆息を一つ。ここにいる
「「一輝ぶっ殺す!!」」
バキッ! ズドォッ!!
……訂正。バカ二人が突っ込んで来たから、
その間、アーシアは女子と楽しく会話をしていた。
「一輝さん、この家がそうです」
「
夜。俺は住宅街を自転車に乗って疾走している。後ろにはアーシアが座っていて、目的の家の前に止まると、ポストへチラシを投函した。
「完了です」
アーシアが乗るのを確認し、ペダルを漕ぎ出す。
あの家に投函したのは悪魔を呼び出す簡易アイテムだ。契約者となる人間の前に現れ、代価を貰う代わりに願いを叶える。
それを配るのが下僕悪魔の役目。一定期間これを配るのが慣わしとなっている。俺は人間なので、関係がないのだが……。
「一輝さん、チラシ配りのお手伝いをしてくださってありがとうございます」
「気にするな」
アーシアの言う通り、俺はチラシ配りの手伝いをしていた。……本来は一誠が手伝ってあげてるのだが、生憎と依頼が入り込み代わりに俺がやる事になった。
「学校って楽しいですね。クラスの皆さんが親切にしてくださいますし、イッセーさんのお友達の松田さんや元浜さんもとっても面白い方ですね」
「そうか」
何気ない会話をしていると、ふいにアーシアが腰に手を回し、頭を背に当てる。
「アーシア?」
「一輝さん。『ローマの休日』を見たことがありますか?」
「……昔の映画だろ? 確か王女と市民の恋愛を描いたものだったな」
「はい! そうです」
俺の応えに嬉しそうな声音だった。
「その映画がどうしたんだ?」
「……ずっと、憧れだったんです。こうやって……。あれはバイクでしたけれど。それでも私……。うふふ」
とても嬉しそうに笑い、腰にまわした腕の力が少しました。
……よく
「チラシ配り、終わりました」
俺とアーシアは無事チラシを配り終え、部室に戻ってきた。一誠以外のメンバーが顔をそろえていた。
終わった事を報告するが、部長は返答もなくあらぬ方向を向き深いため息をついている。
「? 部長! チラシ配り終わりました」
「……あ、ごめんなさい。少しボーっとしてたわ。二人ともご苦労様。アーシア、一輝」
……妙だな。最近の部長は一人で考え込む時間が多くなったな。普段はいつも凛々しく命令を下すが、少しでも眼を離すとため息も吐く回数も多くなった気がする。
まぁ、部長は
俺とアーシアが揃った事を確認すると、部長がアーシアに告げる。
「今夜はアーシアにデビューしてもらおうと思っているの」
「デビュー……ですか?」
首をかしげるアーシアに補足する。
「魔方陣から契約者のもとへジャンプして、契約してくるのさ」
「わ、私がですか?」
狼狽しながら自分を指差す。
「しかし早すぎじゃないですか? まだ悪魔になって数日しか
「大丈夫ですわ」
俺の問いに答えたのは、朱乃先輩だ。
「私が調べた限り、眷属悪魔としては、部長と私、そして一輝君に次ぐ魔力の持ち主でしたわ。魔力の潜在キャパシティが豊富ですわ」
ほぅ。アーシアは魔力に秀でているのか。まあ、部長達が気づかない程の結界を張るのだから。
「……凄いです」
「
「凄いじゃないか、アーシアさん」
「あ、いえ。そんな……」
みんなに褒められ恥ずかしそうにしていると、魔方陣が光出す。
「あらあら、さっそくアーシアちゃんがこなさせそうな願いを持った方が私達を召喚しようとしていますわ」
朱乃先輩の報告を受け部長が微笑む。
「それは都合がいいわ。初めての依頼、頑張りなさい」
アーシアは緊張した面持ちで魔方陣の中央に立つ。
「頑張れ、アーシア」
「はい、一輝さん!」
笑みを浮かべると、光に包まれ契約者のもとへジャンプした。
一時間もしないうちにアーシアは帰還。同時に一誠も戻ってきた。依頼はスムーズに事を終え、無事に終了。ちなみに一誠だが依頼はまた破談し落ち込んでいたが、アーシアの励ましのおかげで元に戻った。
「ねえ、一輝」
「はい?」
皆が帰宅し、俺も帰ろうとした時、不意に部長が呼び止めてきた。
振り返ると、そこには何時もの凛とした部長とは違い、何処か寂しげな……悩める年頃の女の子と言った雰囲気を纏っている。
「……
……唐突な質問だな。好きな人と結ばれるか。
「幸だと思いますよ。互いに好き同士ならば、結婚して幸せな家庭を築き生涯幸せなんだと思います。俺を孤児院から引き取ってくれた両親がいい例だと思います。自慢じゃないですが俺の義両親っておしどり夫婦だと有名なんで」
「幸せ……そうよね。幸せよね」
「ええ。俺が言えた義理じゃないですが、好きじゃない相手と一緒になっても幸せになりませんよ。互い不満が溜まってぶつけあって破局……上手く言えなくてすみません」
「ううん、ありがとう。応えてくれて」
俺の答えに満足したのか、笑みを浮かべていた。だが、瞳には僅かながら寂しさを見せていた。
「それじゃまた明日。お疲れ様です」
「えぇ、お疲れ様。またね」
挨拶を交わし、部室を出る。