アーシア救出前編
一誠side
部室に戻った俺は、シャーワールームで後ろから部長に抱きつかれ治療を受けていた。
……っゴク。前に死にかけた時も、部長にこんな事されたとか? というより部長、背中に当たってる
「良いわ」
「あ、はい」
少し前屈みで移動しバスタオルを腰に巻きつけ、シャワールームを出る。
「完治には少し時間がかかりそうですわ」
「あのはぐれエクソシストの光の力が、相当濃いのよ」
昨夜、銃弾で打ち抜かれた箇所を、朱乃さんが包帯を巻いてくれている。
そんなに強かったのか……でも。
「はぐれって、
「教会から追放されて、堕天使の下僕へ身を堕とす者も多いんだ」
木場の言い方に、俺少しカチンときた。
「じゃあ、アーシアもそのはぐれ悪魔祓いだって言うのかよ?」
「…………」
木場は無言を突き通す。アーシアが……そんな。
「どうであろうと、あなたは悪魔。彼女は堕天使の下僕。これは事実なのよ」
「部長」
部長の言い分は正しい。でも、あの優しい彼女が堕天使の下僕であるはずが無い。
しかし、俺の我儘で皆に迷惑をかけてしまうのも事実だ。たった一人の女の子すら救えない。俺は弱すぎる。最弱の悪魔だ。
そのまま家に帰された翌日。俺はベッドの上で天井を仰いでいた。
部長から休むよう言い渡され、お昼近くまで何もしないままでいる。父さんと母さんには、部長から話をしたと言っていた。
「弱い……所詮俺は
脳裏に彼女の寂しそうな表情が浮かび、無意識に俺は拳を強く握り締めた。
無力がこんなにも腹立たしいなんて。弱いならどうする? 決まってる!
「弱いなら強くなるまでだ! 鍛えて強くなればいいんだ!」
ベッドから起き上がった俺は、動きやすい服装に着替えて、公園まで走っていき、筋トレを始めた。腕立てから腹筋、スクワット。他に鉄棒を使って懸垂など……。
途中、走りこんでいると脹脛に痛みが走りその場で跪く。
「クソ、やっぱりダメか」
そう思ったとき、クソ神父がアーシアに手を出してるのが鮮明に思い出された。あの時は一輝いて部長達が来てくれたからどうにかなったけど、俺一人だったら……。
「イッセーさん?」
え? ……この声、まさか。
彼女の声が訊こえ、振り返ると、公園の入り口にシスター服に身を包んだアーシアが俺を見ていた。
一輝side
フリードとの一件があった翌日、俺はアーシアを家に置いてオカルト研究部に来ていた。
「一誠はどうしたんですか?」
「昨日の傷が完治していないから、今日は休ませたわ。
そこまで重症だったのか。あの
「ところで一輝」
「アーシアの事ですか?」
「えぇ。彼女はどうしてるの」
「俺の家に匿ってます。結界を張ってあるから大丈夫です」(←家を出ていることに気がついていない)
昨日、俺はあのまま家につれて帰った後。そして、彼女からの経緯を一誠を除く全員に話す。
「アーシアは聖女と崇められていましたが、悪魔を治療し助けたせいで魔女と罵られ、信じていた仲間から裏切られ、教会から追放。途方にくれたところを日本のはぐれ
部室内が重苦しい空気となり静まりかえる。悪魔を治療しただけで魔女と言えるのか……世も末だな。
「教会の連中は、昔から変わっていないね」
沈黙漂う部室に言葉を発したのは木場だった。
「いつも頑なで、実験のために犠牲は問わない。僕の時も……」
その表情は、何時ものスマイルじゃなく、全身から憎悪に近いものが滲み出ていた。木場の奴……教会の奴らと何かあったのか?
時計を見れば時間が迫っていたので、俺は教室に戻った。
放課後。
今日はバイトが入っているので、そのまま学校を出たところで、スマホが鳴った。一誠からの電話だった。
「何だ? 一誠」
『大変だ一輝! アーシアが堕天使に攫われた!!」
……何?
詳しく聞けば、アーシアが町を見たくて家を出たらしく、そこで一誠と出会い町を散策。公園で一休みしていると、堕天使レイナーレが襲い掛かってきて、行う儀式のためにアーシアが連れ去られた。
クソ! 狙われてると思っていたが、こうも早く行動に出てくるなんてッ……いや、それ以前に何でアーシアに家を出るなと言わなかったんだ俺は!!
「その儀式の場所はどこか言ってたか?」
『
……この町には二か所に教会がある。一か所は前に行った教会。もう一つは、山奥にある古ぼけたあの大きな教会か。
「一誠。俺はアーシアを助けに行く。お前はこの事を部長に伝えろ……反対されるだろうがな」
『それくらい俺にだって
電話を切り、教会に向かって全力で駆け出しながら、バイト先へ急用が入ったと伝え出れない事を連絡した。待ってろ、アーシア。
教会へ向かう途中、上空高い場所から黒い翼が生えた三人が見ていたことに気づくことは無かった。
一誠side
パンッ! 部室に乾いた音がこだました。音の発生は俺の頬だ。
部長に平手打ちされた。
「何度言えば
部長の表情はいつになく険しい。
俺は学校に来て、事の詳細を部長に話した。報告した上で、アーシアの救助を提案した。
しかし、部長はその件に関して一切関わらないと言ってきた。
納得いかない俺は、詰め寄ったところ叩かれたわけだ。初めて叩かれた頬をよりも、心が痛かった。でも、やっぱおとなしくできねぇ。
「じゃあ、俺をその眷属から外してください。そうすりゃ、俺も一輝と一緒に教会に乗り込みます」
「出来るはずないでしょう? あなたも一輝もどうしてっ
部長の激昂した姿は初めて見たけど、俺にだって譲れないものがある。
「俺はアーシア・エルジェントと、友達になりました。アーシアは大事な友達です。俺は友達を見捨てられません!」
「……それはご立派ね。そういうことを面と向かって言えるのは凄いことだと思うわ。それでも、
「敵を吹き飛ばすのがグレモリー眷属じゃなかったんですか?」
俺と部長は睨みあう。視線をずらすことはなく、正面から見つめる。
「あの子は元々神側の者。私達とは相容れない存在。いくら堕天使のもとへ降ったとしても私達悪魔と敵対同士であることは変わらないわ」
「アーシアは敵じゃないです!」
俺は強く否定する。あんな優しい子が敵なわけがない!
「俺ってチェスの
「お黙りなさい!」
「!!ッッ」
部長の厳しい一言に、言葉が詰まり身体が硬直する。
「一誠は
俺は素直に頷く。
「悪魔の駒は、実際のチェスの駒と同様の特徴を持つと言ったはずよ。それが
「
「
「俺が他の皆の力を持てるって事ですか?」
「主である私が、
すげぇ。それを聞いただけで大収穫だ!
「ついでに、あなたの
「力を倍にするんですよね? 夕麻ちゃッ! ……
俺、まだ引きずってるのか。
苦い表情を浮かべる俺に、部長が頬を撫でてくれた。
「……
想いの、力……。それが
そこへ、朱乃さんが部長に何か耳打ちする。朱乃さんの報告を耳にした部長の表情がいっそう険しくなる。
「急用が出来たわ。私と朱乃は少し外出します」
「部長、まだ話は終わってッ」
「いいこと?
それを最後に、部長と朱乃さんは魔方陣でどこかへジャンプした。
残されたのは、俺と木場に子猫ちゃん。それ位、
「行くのかい?」
扉に手をかけたところで、木場が声をかけてくる。
「あぁ。止めたって無駄だからな」
「殺されるよ?」
「たとえ死んでも、アーシアだけは逃がす」
「いい覚悟……と言いたいところだけど、やっぱり無謀だ。君は悪魔になりたての新米。まして戦闘技術に関しては素人同然。出海君なら兎も角、君は殺されに行くようなものだ」
痛い所を木場に指摘され、俺は声を荒げる。
「うるせぇイケメン! なら、どうすりゃッ」
「僕も行く」
なッ。腰に剣を携えた木場を見て、俺は言葉を失う。
「お前……」
「部長はキミに、たとえ
「あぁ」
「部長は教会を、敵陣地と認めたんだよ」
! そこで俺は気がつく。
「もちろん、同時に僕と小猫ちゃんで兵藤君をフォローしろって指示でもあるからね」
「小猫ちゃんも?」
「二人では不安です」
小猫ちゃぁぁぁぁん!
「ありがとう! 俺は猛烈に感動しているよ」
少女の申し出に俺は感無量となってしまった。
「あ、あれ? ぼ、僕も一緒に行くんだけど……?」
一人放置された木場が寂しげに笑みを引きつらせていた。
分かってるよイケメン! 感謝してる。
「よっしゃ! いっちょ三人……じゃなくて先に一輝がいるはずだから、四人で救出作戦といきますか!」
待ってろよアーシア!
俺達三人は、教会へ向かって動き出した。
一輝side
学校から教会を目指している俺は町から道をはずれ、山奥にある教会を目指していた。
……大分暗くなってきたな。空はすでに薄暗く、長い時間走っていたのが
確か、この周辺だとッ! 一瞬眼の端に移った教会に足を止め、木の陰から覗き見る。
見つけた。ここにアーシアがいるなら堕天使や神父がいるはずだ…………いた。
正面に氣配は無い……いや、この強い氣配はフリードか。厄介だな……このまま正面から侵入しフリードと戦うか? 仮に感づかれてアーシアを人質に取られたらマズい。ならここから
刹那、背筋に悪寒を感じ後ろに飛び退く。
ドドドッ!
直後、俺がいた場所に光の槍が突き刺さった。
「へぇ~。人間のクセに光の槍を避けるなんてやるじゃん」
振り向くと、そこに堕天使ドーナシークと、ゴスロリ衣装を着た少女とボディコンスーツに身を包んだ女がいた。まだ仲間がいたのか。
「生憎、また見えてしまったなようだな。人間よ」
「なるほど。コイツがレイナーレ様に傷をつけた人間か」
闘級:1609(魔力835/武力507/気力267) ドーナシーク
闘級:1594(魔力450/武力499/気力645) カラワーナ
闘級:1409(魔力418/武力498/気力493) ミッテルト
闘級は1500前後か。リアスやあのクソ神父に比べれば、低いが……油断はしない。
俺はユキアネサ……いや。止めておこう。こいつ等には違う武器で充分だ。
掌サイズの魔法陣を展開し、そこから出現した柄を掴み引き抜き、
「へぇ。異空間収納魔法を使える人間がこんな極東の島国にいるなんて……面白い人間じゃん。 ねぇねぇドーナシーク、コイツ殺しちゃってもいい?」
「油断するなミッテルト、カラワーナ。この人間は魔法とは違う能力を有している」
余裕を持って会話する三人だが、先手を打たせてもらう!
「光の白刃!」
掌を向け詠唱。魔法陣から一条の光が襲い掛かる。駆け出すと同時に戦闘音が外に漏れないよう結界を張る。
「あっぶな!」
「光の魔力だと!」
「やはりこの人間は危険だ。ここで始末するぞ!!」
三人は翼を羽ばたかせ躱し、光の槍を形成し戦闘態勢を整える。
「このー! 生意気!」
逆上したミッテルトが光の槍が投げつけてきた。それを
「キャアアッ!?」
モロに食らったミッテルトは、吹っ飛び背後にあった木にぶつかり倒れこむ。
すかさず間合いを詰め、横薙ぎを繰り出す。
「させん!」
ガギイイィン!!
が、間に入ってきたカラワーナが槍で受け止める。
「意外だな。お前らに仲間意識があったのか」
「別にないさ。この儀式の間だけ協力しているだけさ。ミッテルト、早くしろ」
「
「待て」
立ち上がり、再び槍を形成し投げようとするが、それをドーナシークが止める。
「放してドーナシーク! アイツ殺さなきゃあたしの気が治まんないの!」
「それは勝手だが、また先ほどと同じようにやりかえされるぞ」
「同じ手は二度も喰らわないわよ!!」
喚くミッテルトを無視し、カラワーナに問う。
「訊きたいことがある。お前らはなぜアーシアを狙う?」
「なぜ? ハッ!
ガギィン!
同時に離れると、カラワーナが話し出す。
「あれはレイナーレ様の
「あのシスターが所持してる
「そして、儀式が上手くいけばレイナーレ姉さまは至高の堕天使になれる。あたしたちには地位向上を約束してね」
……やはりレイナーレの狙いはアーシアの
そんな中、ミッテルトが何か思いついたように話し出す。
「そうだ! ねぇ、
…………?? 抜かれると?
「どうなるんだ?」
訊き返すと、クスクスと笑い……言い放った。
「
「ッ!?」
死ぬ?
俺が声を失うと、三人は笑い出した。
「あれ? 何驚いてるの? もしかして知らなかったの。アッハハハ! マジで!」
「フフフフ! やめろミッテルト。たかが人間に
「貴様もその絶望の中で死にたえろ!」
三人が同時に投げて来る槍に目もくれず頭の中で同じ言葉が繰り返される。
死ぬ? …………アーシアが、死ぬ? 死ぬのか? こいつ等の、ふざけた計画のせいでアーシアが死ぬ? ……ふざけんな。
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁ!!」
ドオォーンッ!
俺が叫ぶと同時に衝撃波が飛んできた光の槍を消し飛ばした。
「「「!!」」」
三人は何かに圧倒されたように動きを止めた。
「な、何よこの魔力!? あんた本当に人間なの!!」
「これは……上級悪魔並み、
「バカな。これほどの魔力を持った人間が存在しているとは!」
喚く三人だが、俺にとっては関係のない。
「貴様ら! そのふざけた計画を成功させるべく、アーシアを犠牲にするのか!! 人の命を何だと思っている!?」
「な、何よいきなり!! たかが人間一人死ぬってだけで怒ってさ!! バッカじゃないの!? それに、あんな役立たずのポンコツシスターが死んだって誰も悲しまないわよ!! むしろあたし達の計画の為に死ねるんだからむしろ感謝して欲しいわ!!」
プツン。
ミッテルトの言い分に、俺の中で何かが
「古の闇を支配する漆黒の翼ディニバスよ、我に力を! ……変身!」
柄を握り締め引き抜くと、黒い閃光が迸り、黒い羽が舞い散る。
瞬間、足元に魔方陣が展開し、魔法陣から出現した鳥の顔に鎧姿と共に閃光に包まれる。光が収まると、俺は鳥の顔と堕天使と同じ黒い翼を持つ黒騎士になっていた。
「な……なによ、アレ?」
驚いた声を出すミッテルト。
俺は三人に歩を進めようとした時。
「がっ! アアアアアァァァァァァアアアアッッ!!!!!!」
頭に今までにない頭痛が襲う!!
い……痛い!! 何だ、この痛みは!? 頭が……割れる!!
両手で頭を押さえ、激しい痛みに耐えようとするも……痛みは激しさを増し、同時に見覚えのないノイズ走りの映像が流れる!!
『……■■■ぞ!! ■■だ!! ■■■■■■■体№■が、■に接触!! ■の力を■■■■ました!!』
『長い■■の■に、遂に■■が■を我■■■中に!!』
『こ■■、■■■■■の■願にして■■……■■の■へ到達し、その■にあると■わ■■■伝■の■■■、■■■■を手に入れれば、■■■■■が■■を知る事が出来る!』
『バ■■!! ■故■■が■■■に動く!? ■■は■■■ずだ!』
『■■■! 我■は敵ではな……ギャアアァァァァッッ!!』
……っしっかりしろ!! 敵が目の前にいるんだぞ!!
頭を振るい、まだ視覚がぼやけたまま堕天使に視線を向け……。
「これで最後だッ!!」
ドーナシークが叫んだ直後、両手に膨大な魔力を凝縮した光の槍が俺目掛け投擲され、胴部に直撃。
ドッゴオオオオオオオオオォォォォンッッ!!
大爆発を起こし、視界が白くなり……意識が落ちた。
「……………」
次に目を開けた時には、三人の堕天使が満身創痍で倒れていた。