Brave×Beat   作:明石雪路

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2月のライブ落ちました。


Reboot

 

 廣井を背負って全力で駆ける。

 腕時計で時間を確認すると、軽く見積もった到着時間までぎりぎりだった。

 

 

 直角を速度を落とさずに曲がり、新宿FOLTまで向かう。

 

 

 走りながら、セナはひとりと昨日のバイトでの会話を思い出していた。

 

 

『どうやったら勝てるのかわからないって言うか』

『明日! ライブやるんです。もしよかったら……』

 

 

 きっと、自分が陸に勝てなくて悩んでいることに気遣ってくれたのだろう。

 いい人だなと思う。まだ一週間しか経っていないのにチケットまでくれた。せっかく誘ってくれたのだからぜひとも間に合いたい。

 

 

 ただ。セナは今の悩みは走りについてであるが……

 

 

「もう一つの理由は、言えなかったな……」

 

 

 まあアメフトのことを変に言っても困惑させるだけだし……。

 

 

 セナは今の走りに集中した。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 ライブ開始30分前。

 

 

(もうみんな来たのかな)

 

 

ひとりは恐る恐る客席を覗いていた。STARRYよりも大きな箱だ、セナ達を探すのも一苦労……。

 

 

「栗だ……」

 

 

人混みの中、文字通り頭ひとつ飛び出して特徴的な栗頭が見えた。炎馬ファイヤーズ……否、日本最大クラスのラインマン栗田良寛の頭である。

2メートル以上ある彼の身長はライブハウスの中でも最大クラスだった。

近くには坊主頭やツンツン頭が見え、黒髪ショートも見える。

 

だが特徴的な黒髪の青年だけは見えなかった。

 

 

(き、来てない……?)

 

 

よりにもよって声をかけた本人が来ていないという事実。

 

鈴音にどうなっているか直接尋ねたいところだが、これから演奏をするひとりが客席に行くわけに行かない。

急いでロインを開く。『小早川セナ』のトークルームを開こうとしたところで……

 

 

(来てない人になんで来てないのかとか聞けない!)

 

 

これで『めんどいから』とか言われたらガチで泣いてしまうかもしれない。

 

 

鈴音に聞くことにした。

 

 

『鈴音チャン☆お疲れ様❤️今日はライブに来てくれてア・リ・ガ・ト❤️ 舞台袖から見えちゃったヨ〜(`ω´)グフフ 皆迷わず来れたカナ❓』

『えttっk』

『こっちこそ誘ってくれてありがとう! でもセナが少し遅れちゃうかもって。少し遅れても入れるかな?』

『大丈夫だヨ  』

 

ひとりはさり気ない絵文字でフレンドリーさを演出しつつ全員揃っているかを確認。鈴音からフリックミスしたロインが送られてきたが、ひとまずセナが向かっていることがわかって一安心した。

 

 

(鈴音ちゃんが来るって言ってるし、大丈夫か……)

 

 

だが、舞台裏ではもっとやばいことが発生していた。

 

 

 

「廣井間に合うかな……連絡来ないけどまたスマホ落としてんのか?」

「でも、タクシー呼ぶって言ってたヨ! そうロイン来てから連絡ないケド……」

 

 

シデロスのライブに客演するSickHackのベースボーカル、廣井きくりが未だに到着していないのである。

ドラム、岩下志麻は平静を失いつつあり、ギターの清水イライザがなだめていた。ひとりは普段からクールな印象を持つ志麻があそこまで追い詰められている所を見たことがないので、緊張が伝染ってドキドキしていた。

 

 

無理もない。タダでさえ赤字を取り戻すために参加したというのに、そのライブすらキャンセルしかねないのだ。急ピッチで準備してくれた銀次郎を初めとした新宿FOLTや結束バンド、シデロス、そして何よりライブを楽しみにしてきてくれるファンに申し訳が立たないだろう。

 

 

「大丈夫かしら……」

「廣井さんだし、こんなこと何度もあるかもだし何とかしてくるんじゃないかな〜……多分」

 

 

結束バンドメンバーも心配していると、新宿FOLT店長、吉田銀次郎が駆け寄ってきた。

 銀次郎は申し訳なさそうに手を合わせながら、

 

 

「虹夏ちゃん、結束バンドの皆も申し訳無いんだけど……トップバッターを任せてもいいかしら?」

「間に合うか微妙ですもんね……わかりました!」

「えっ」

 

 

 虹夏は承諾し、ひとりは声を上げた。

 

 

元々はSICK HACKが1番手だったのだが、現状で廣井が間に合うかわからない。今回のライブのメインがシデロスなのだからトリは確定で、そうなると最初がメンバーが揃っているかつゲストの結束バンドになるのは自明の理だった。しかしひとりにとっては……。

 

 

「に、虹夏ちゃん。実は小早川くんがまだ来てなくて」

「え、そうなの!?」

「でも、鈴音ちゃんは来てますよね」

「栗田も頭が見えた」

「何か用事かな。でも、友達が来てないからって待ってもらうわけにいかないし……」

「そ、そう……ですよね」

 

 

 友人がこないのも心配だが、尊敬するバンドマンである廣井の安否も気がかりだ。

 

 

「わ、私外見てきます!」

 

 

 そういってひとりがライブハウスの外に出ると、少しばかり人の波が滞っている場所があった。そしてかすかに聞こえる聞きなれたうめき声。

 

 

 そして、時間は前話ラストに戻る。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 「セナくん、廣井を運んでくれてほんっとうにありがとう!」

 

 控え室にて。

 岩下志麻は、セナの手をガッチリと掴んで礼を述べた。

 

 

(すごいや、指先マメだらけ……)

 

 

 年上の女性からの熱い握手にドキマギしつつも、練習量の感じられる手の硬さに畏敬の念を抱くセナ。

 しかし志麻の握手が強くなるのも無理はなかった。

 先月の収入がやばい上に補填のライブすらドタキャンしかねない状況を救ったセナは、志麻達にとって救世主と呼ぶべき存在からである。

 

 

「いや僕も間に合いたかったらちょうど良かったというか、なんとかなって良かったというか……」

「そして何よりライブ前に廣井の酒を抜いてくれてありがとう!」

「あれはあれでいいんですかね……めちゃくちゃ吐いてたっぽいですけど」

 

 

セナがソファに座る廣井の方を見ると公園でのヘラヘラとした態度はどこへやら、波紋の消えた水面のように「無」の表情をしている。

 廣井は先ほど、長時間セナに背負われて走ったこととライブハウスに到着して安心したことでおもくそ便器にぶちまけたのだ。 

 

 

「あれはごく稀に見れる、ゾーンに入った廣井だよ。いつものだんだんアルコールが抜けるのと違って一気に吐くと不安感とかも一緒に全部出ていくからああなるんだ。今のアイツの中には音楽しか残ってないんだよ」

「打ち上げ直後とかたまに見れマース」

 

 

イライザはラッキーと言わんばかりに写真を撮っている。

 

 

 

「は、はぁ」

「お礼をしたいんだけど、今SICK HACKは近年稀に見る財政難でね……。いずれ必ず恩は返すよ、約束する」

「せめて今日は楽しんでくだサイ! 本気の廣井が見れますヨ!」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 ステージでネー!とイライザの挨拶を受けながらペコペコ頭を下げつつ控室を出たセナは、炎馬の仲間の元へ向かった。

 

 

「こう人混みだとどこだかわかんな……栗だ」

 

 人込みから文字通り頭一つ飛び出ている特徴的な先輩の頭を見つけてそこに向かう。

 

 

「あっ、セナ! 間に合ったか!」

 

 鈴音とモン太が気が付き、手を振った。モン太はドリンクを両手に持っていた。

 

 

「ワンドリンク買わなきゃなんだってよ。とりあえずコーラ買っといたぜ」

「うん、ありがとう」

「セナどうやってきたの? バス止まってなかった?」

「走ってきたよ。なんかこのあとバンドする人も困ってたから背負って……」

「炎大前から……? 人を背負って……?」

 

 

 あっさりと飛び出した情報に困惑する鈴音。距離も状況も理解できない。

 

 

「なんか今日のライブ出られないと色々マズいらしくて、つい」

 

 

 セナが頭を掻きながらそういうとモン太は吹き出した。

 そして背中をバシバシ叩きながら

 

 

「すげえぜセナ! 人助けた上にそんなパワーMAXな走りができるなんてよ!」

「う、うん。ちょっと痛いんだけど……」

「……」

 

 

 鈴音は高1の夏を思い出していた。アメリカ2000キロ横断死の行軍(デスマーチ)。雨の中倒れた雪光を、抱えてセナが走ったことを。

 結局、困っている人を見捨てられないんだなあ。

 

 

 鈴音もセナの背中をバシンと叩き、

 

 

「今日のドリンク奢ったげる!」

「何急に……ありがとう……?」

 

 

 満面の笑みを浮かべる鈴音にセナは混乱した。

 

 

 

 

 

 そこで、ライブハウスが急に暗くなった。

 

 

「お、始まるみたいだな」

 

 

 暗がりの中、少しばかり聞こえる楽器の音。映画の始まる前のような、〈何かが始まる感じ〉にセナは少しゾクゾクしていた。

 

 

 舞台の闇をライトが照らし、結束バンドが顕わになる。虹夏は固定マイクを近くに引き寄せた。

 

 

 

『はじめましての方は初めまして! 結束バンドです! 今日はSIDEROSのワンマンライブに来てくださってありがとうございます! 大槻さんも誘ってくれてありがとう!

 以前一緒にライブしたときはまだまだ未熟で滑っちゃいましたが……今回はばっちり盛り上げられるように頑張るので……皆も付いてきてねー!』

 

 

「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」

「声デッカ!」

 

 

 モン太が歓声をあげ……ならぬ絶叫した。

 

 

「アハハ、なんかめっちゃ声が通ってたけど……その意気でお願いします! それでは一曲目! 

〈忘れてやらない〉!」

 

 

 ドラムスティックが合図を送り、曲が始まる。

 

 

 イントロが始まり、手拍子と歓声が沸き上がる。

 全方向からくる音がセナの全身を叩いた。周囲の人間からの熱気を吹き飛ばすほどの音の衝撃。

 ライブハウスの一体感。セナは自分が大きな何かの中にいる気がした。

 

 

 ライトを浴びながら各々の楽器をかき鳴らす四人を見上げるセナにとって星のように輝いている。

 

 

 ……カッコいい。カッコいい。カッコいい!!

 

 

 会場に満たされた熱気に押され、いつの間にか手を振っていた。

 

 

 そして、各パートのソロが訪れる。ドラム、ベース、ギター……それぞれが独自の演奏を見せる中、セナはリードギターのパートに魅せられた。

 

 

 楽器素人のセナにとって何がどうなっていたら上手いかなんてわからない。だが、背中を丸めながら目視できないほどの指を繰って音を紡ぐその姿はまるで虎のような、普段のひとりからは想像もできないような強いオーラがあった。

 

 

「すごい」

 

 

 セナはその様を表す言葉がないことが悔しかった。ただひたすらに凄いと、それしか出てこない。

 鳥肌が立ち、ゾワゾワとした緩やかで確実な興奮が全身を流れ、無意識のうちに口角が上がってしまう。

 

 

 

 風においてかれそうで

 必死に喰らいついてる

 いつもの鐘の音も 窓際に積んだ埃も

 教室のにおいだって 

 絶対忘れてやらないよ

 いつか死ぬまで何回だって

 こんなこともあったって 笑ってやんのさ

 

 

 

 

 ふとなぜか……セナは高校時代を思い出していた。

 こんなにも明るい曲調なのに、懐かしさを刺激される。 

 

 

 

 緊張しながらまもりと登校した始業式。後に仲間になる十文字達のパシリから必死に逃げて、次の日にはヒル魔にアメフト部に強制入部させられて。

 初めての春大会。すぐに王城ホワイトナイツと試合。初めて喰らう骨が折れるんじゃないかと思うほどのタックルの痛み。初めて進に勝って……試合に負けた。人生で初めての、負け。

 一人っきりの教室で眺めた写真。

 

 

 

 それからはもっとあっという間だった。モン太や小結、他のメンバーが揃って。アメリカに行って2000キロ走って。秋大会。網乃、夕陽、独針、巨深、西部、盤戸、神龍寺、王城、白秋そして……帝黒。世界大会では決勝まで行って、アメリカ。

 

 

 いつだって全力で走り続けて、楽な試合なんてなかった

 

 

 それでも。蛭魔妖一に無理やりアイシールド21の称号を背負わされて始まったアメフトは汗と泥と……楽しさで満ち満ちていた。

 

 

 

 

 

 だから、2年目を思い出すと少し胸が痛い。

 

 

 ヒル魔、栗田、ムサシ、雪光、まもり(あと石丸)が引退し新たな泥門デビルバッツキャプテンとなったセナは必死にチームをまとめ上げ、秋大会に臨んだ。

 

 

 

 

 時代の最強ランナー、〈アイシールド21〉の称号を背負っていた。数いる強敵たちとの戦いの中で積み重ねられてきた誇りとわずかばかりの自信。

 

 

 結果は関東大会準決勝敗退。

 

 

 打ち壊された。

 

 

 そして痛感するヒル魔の凄さ。

 

 

 いつだって強気で。

 いつだって狡猾で。

 いつだって賢明で。

 

 

 そんな彼がいたから勝てたんじゃないのか。自分じゃ絶対になれない存在。

 

 

 すごい選手だからこそ、ヒル魔さんに勝ちたい。

 

 

 そう思って炎馬に入学したが、自分がさらに強くなる鍵が見つからないままで果たして勝てるのか……。

 

 

(せっかくライブに来たのに余計なことばっかり考えちゃうな)

 

 

 

 

 

 

 

 頭を振って顔を上げると、すでに2曲目が始まっていた。

 

 

 

 

 天才だって信じてた バカみたいだ

 小さな自信 溢れ落ちて割れた

 

 

 

 

 まるで自身の心中を透かされたかのような歌詞にセナはどきりとした。

 郁代が歌い上げる曲は、図々しいかもしれないが何処か共感できて、心に刺さる。

 

 

 

 

 一生全身全霊 限界を超えていけ

 何回間違えたって 指を止めるなよ

 敵わなくても 叶えたいと願って

 奏で続ける

 敗北宣言の未来を進んだ

 

 

 

 ふと小さな笑みがこぼれた。

 

 ずっと薄ら心に張っていた膜。『このままで勝てるのだろうか』という不安。

 

 

 

 ()()()()()が何だっていうのか。

 

 

 

 一度、アメリカ戦でわかっていたことじゃないか。

 

 超えられないとわかっていても挑んで戦い続ける。

 

 

(きっと僕も、ヒル魔さんも、進さんも。今目の前で演奏をする結束バンドの人たち――後藤さんも。

アメフトだけじゃない。叶うかどうかじゃない。戦い続けるんだ)

 

 

 

 天才だって信じてた それでもまだ

 

 

 

 演奏が終わる。同時に、歓声と拍手がライブハウスに溢れた。

 セナもモン太も鈴音も栗田も雲水も。全員が拍手していた。

 

 

「やべえ、今の演奏凄かったな!」

「喜多ちゃん超かっこよかった!! ってセナ?」

「うん、すごかった……本当に」

「ねー! 今のセナなんかすごくスッキリした顔してるよ」

「そ、そう?」

 

 

 

 自分で顔がどう変わったかなんて自覚はないが……そうもしれないな、と思う。

 

 

 郁代は汗を拭うと、マイクスタンドを掴んだ。

 

 

『ありがとうござました! 2曲目〈月並みに輝け〉でした! っと、最後に後藤から……』

 

 

 ひとりはマイクを掴むと、目を泳がせながらあう、えっと、と言葉をひねり出し、

 

 

『わっ、私は無責任に背中を押すことが出来なくて……。夢は絶対叶うとか、そんなこと心の底から思ったことないし……でも、だから、だからこそ私たちは自分たちで叶えられるように頑張り続けます。まずは、今年の未確認ライオット優勝を目指して……!』

 

 

 どもりながら、緊張しながらひとりは自分の思いをぶちまけた。客席からは、

 

 

『よく言ったぞ後藤ーーーー!!』

『絶対優勝しろよーーー!』

 

 

 

 やっぱりそうなんだ。あんなに凄い演奏をする後藤さんも挑戦し続けてるんだ。

 再確認できてよかった。

 

 

「ありがとう」

 

 

 セナが自分でも聞こえないくらいにつぶやいた言葉は歓声に掻き消えた。

 

 

『えやっ、は、はい……!』

『ぼっちちゃん弱気になってない~? というわけで、結束バンドでした! 未確認ライオットにも参加予定なので、応援お願いしまーす!!』

 

 

 虹夏のMCで締められ、結束バンドの出番は終了となり、ステージが暗転した。

 

 

 そして。

 

 

『ここに未確認ライオット優勝経験者が二組揃ってるところにその宣言とは大きく出たね』

 

 

 

 酒焼けを感じさせないよく通る声がライブハウス全体に広がった。

 

 ベースを背負い、マイクを持って現れたのはSICK HACKの廣井きくりだった。

 恐ろしいほどの穏やかな様子でカラコロと下駄をならしてステージ上に立つ。

 

 

『もう参加できないとはいえ、この熱意に負けるわけにいかないね』

 

 

 

「みろ、激レア廣井だゼ!」

「ああ、めったに見れねえ廣井強者マシアル抜きだ、ラッキーだゾ……!」

「うぁぁ、ひ…廣井が素面でステージを練り歩いてる」

 

 コアな観客はなんか盛り上がっている。

 

 

 

 その後、炎馬の五人はSICK HACKとSIDEROSの演奏も最後まで楽しんだのだった。 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「いやー、楽しかったね、ライブ! 初めて来たけど、すごく活気があって……試合の時みたいだったね!」

 

 

 満足げに栗田が言った。

 

 

「ああ。それにアイコンタクトでタイミングを連携していた。おそらく何度も練習しているはずだ」

 

 

 雲水はどこか別の部分に感動していた。

 

 

「喜多ちゃんかっこよかった~」

「虹夏さんかっこよかった~。ついアルバムも買っちまった、バイトしねえとやべえかも」

 

 

 鈴音とモン太は似た感じだった。

 

 

「うん。本当にカッコよかった」

 

 

 そう言ったセナの手に持つビニール袋には結束バンドのミニアルバムが入っている。セナも最後の曲が気になって買ってしまったのだ。

 

 

 セナはそういって歩いていると、一人だけ反対側の道に曲がった。

 

 

「セナ、駅はこっちだぞ」

「う、うん。なんかライブでテンション上がっちゃったって言うか、何駅か走ろうかなって」

「! それいいな! 先輩たちもどうっすか?」

「賛成だ、やろう」

「僕も実は興奮してて体動かしたかったんだよ!」

「しょうがないなあ」

 

 

 鈴音はそういって鞄からローラーシューズを取りだした。

 

 

 新宿、夜八時。五人は三駅分走り続けた。彼らの手首には、それぞれ色違いの結束バンドが巻かれていた。

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

(今日のライブは上手くできたかも…SNSの評判もいい感じだ~!)

 

 

 SIDEROSのライブの最後のあいさつに参加したひとりはスマホを見てウキウキしながら控室に戻っていた。

 

 

(ここでお姉さんみたいに何かカッコいいこと言えば……完璧!)

 

 

 イメージするのは常に最強のバンドマン(酔ってる廣井きくり)。彼女の様にやれば超カッコいいバンドマンだ! 今のうちに昔の鬱々としたエピソードを回顧する。

 

 

「おっ、お疲れ様で~す……」

 

 

 ひとりが意気揚々と控室に入ると、沈黙が出迎えた。

 

 

「あれ、誰もいない」

「ぼっちちゃ~ん、どうしたの?」

 

 

 後から戻ってきた虹夏に尋ねられ、

 

 

「い、いや、小早川くんいないなって」

「そりゃライブ終わったら帰るんじゃない? 終わったらこっち来てって言った?」

「あっ!!」

 

 

(そういえばライブ前はドタバタしててロイン送ってなかったかも……)

 

 

「じゃ、じゃあこれから打ち上げに呼びますか……?」

「ひとりちゃん、明日大学でしょ? 早めに帰って準備した方が良いわよ?」

 

 

 ぐにゃあ……!

 

 

 さらに郁代に指摘され、ひとりの〈廣井流元気出してプラン〉は木っ端みじんに瓦解した。

 





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