Brave×Beat   作:明石雪路

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最速のビート

 

 

炎馬大学アメフトグラウンド。

 

 炎馬ファイヤーズ22名は攻守に別れ、試合を想定した実戦形式(スクリージ)の練習を行っていた。

 

 

 

「SET! HUT!」

 

 

 掛け声とともに栗田がアメフトボールを、股下から後ろに構えるクォーターバック/雲水に投げ渡す。

 

 同時にディフェンス側の壁選手が一斉に突撃し、オフェンス側である栗田を中心とする壁選手と激突する。

 

 

「うぉおおおお!」

「ふんぬらば……!」

 

 

 栗田たち壁に守られた雲水は敵の配置を確認し判断、即座にパスを投げる相手を選択する……ように見せかけて右サイドにハンドトス。

ランニングバックであるセナはボールを受け取り、爆走を開始した。

 

 

 40ヤード走4秒2。日本どころか世界最高クラスのスピードと走テクニックで敵選手を躱し、抜き去っていく。

 セナの視界には光り輝くデイライトが見えていた。どこを走れば良いのか直感的に網膜に映し出される最適解のルート。

 そのルートに導かれてセナはフィールドを疾走する。

 

 

 その様を見ていた溝六は、あることに気が付いた。

 

 

(躱すときのピッチが前より安定してるな)

 

 

 ピッチとは歩数のことであり、ストライドは歩幅のこと。この二つによって走りの速度が決まる。

 以前のセナは、クロスオーバーステップで抜き去る際にわずかながらに歩数を調整する癖があったのだ。

 四角ランで最高速度で勝るはずのセナが勝てなかったのも、急角度を曲がる十数回に一回微妙に歩数を調整する癖があったからである。

(進との練習時には足捌きの速さの強化に重きを置かれたため注目されなかった。)

 

 とは言え、そもそもの足さばきがトップクラスに速いため余程の選手でないと突けない隙である。

 

 しかし、炎馬には唯一その隙を狙える余程の選手が存在する。

 

 

 壁を除く5人の敵選手を抜き去り、最後に相見えるのは背番号30番・甲斐谷陸だ。

 

 

(今度こそ、陸に勝つ!)

 

 

SENA / Devil Bat Ghost  VS  RIKU / Rodeo Drive

 

 

 セナは高速でステップを刻み始め、体がブレてシルエットが朧気になっていく。

 

《デビルバットゴースト》。セナが高校1年生の頃にアメリカを2000キロ走って身につけた高速のクロスオーバーステップであり、究極の走テクニックのひとつ。

 

 

(陸との距離は空いてるけど、そんなの一瞬で詰められちゃう。だからある程度距離がある今、ロデオドライブが始まると同時に切り返す!)

 

 タイミングを測るため、無意識的にセナは速度を僅かに落とした。

 そんなセナの思惑を知ってか知らずか、陸が仕掛けた。上体を揺らし急加速する《ロデオドライブ》。その加速は消えゆく幽霊を絶対に逃がさない。

 

 

 かつて陸は、セナのスピンによって敵を躱す《デビルバットハリケーン》に敗北している。だからこそ陸は片手でどついて姿勢を崩そうとは考えない。

 

 

 体を押さえるタックル。西のアイシールド21/大和のように動きを丸ごと押さえ込む! 

 上体を揺らし、急加速。その加速から逃げられ……

 

(いや、セナのステップが速い……早い!)

 

 まるでタイミングを測っていたかのようにセナは急加速、右に切り返した。

 

 

 すでに陸は踏み込んでおり、方向転換は難しい。躱された。だが、陸は諦めなかった。

 

 

(逃がさ……ない!)

 

 

 無理やり踏み込んで体を傾け、右から抜くセナのボールを狙って腕を繰り出した。

 抑え込むことは出来なくても、ボールを弾くだけならば―――――!

 

 しかしその腕も無茶な姿勢だったためか、腕で腕を弾く防御の技、《デビルスタンガン》によって弾かれた。

 

 

 陸の腕を弾いて一瞬だけの光速破り。セナはその勢いのままエンドゾーンに飛び込んだ。

 

 

 タッチダウン。大学に入って何十回目の勝負。今回の勝負を制したのはセナだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「はーい、練習お疲れ様です! レモンスライス食べたい人ー?」

 

 

 

「「「「YEAR--------------!!!!!」」」」

「サンキューお嬢!」

「やったぜお嬢!」

 

 

 チア兼マネージャー業もある程度こなすことになった鈴音の差し入れに、2.3年生が野太い絶叫を上げた。

 というわけでみんなでレモンをかじりながら全体練習後の反省会である。

 

 

 スクリーンに全体、タブレットに各シーンのアップの映像が映し出され、後衛組と壁組でそれぞれ動きの確認の真っ最中だ。

 編集したのは鈴音。チックトック用に郁代と動画をいくつも編集したのが功を奏したようである。

 

 

「最後の勝負。どっちも前よりかなり成長したな」

  

 

 映像をスクリーンやタブレットに映しながらそれぞれの動きを確認する中、溝六は濁酒を煽りながら陸とセナの二人に言った。

 

 

「どっちも体幹がついたからか、敵さんを躱すときかなり鋭い切り返しができるようになった。最後の陸の粘りなんかは特にな」

「ありがとうございます」

「んでセナも。お前も最後の《デビルスタンガン》のとき、ぶつかる衝撃で姿勢崩さなくなったしな。それに何より……安定したリズム感が付いた。走りのピッチが一定になって、走りに乱れがなくなった」

「リズム感……ですか?」

 

 怪訝そうに尋ねるセナに、溝六が答えた。

 

 

「そうだ。スポーツなんてどこにでもリズムがある。マラソンランナーだって一定の歩数で走れるようにメトロームを使うし、サッカー選手でもサンバのリズムに乗って緩急をつけるってやつもいる。

 お前が気づいているかわかんねえどな、歩数を調整してほんの少しだけ減速する癖も無くなってたぞ」

「そんなに身近なんですか?! ってかそんな癖あったんだ……」

 

 

 しかしセナも言われてみるとこれまで相対してきた選手にもリズム感のある選手はいた。盤戸の赤羽は音楽由来の感覚で相手の踏み込みのタイミングを把握していたし、帝黒の天馬はどこかリズミカルに緩急をつけて走っていた。

 

「気づいてなかったんかい……。じゃあ陸の《ロデオドライブ》はどうやって躱したんだ?」

「そうだセナ。あの時お前、俺がいつ来るかわかってたよな?」

 

 陸にも問いただされ、セナは頭を掻きながら

 

「えっと……陸が体を揺らすとグァァァッと加速してくるから、その前のグラッと体を揺らすのと同時に踏み込んでみたって言うか……上手いことタイミングがあったから躱せたって感じで、結構ギリギリで捕まりそうになっちゃったけど」

「……!」

「無意識にタイミングを計ってたってことか。陸は元からピッチやリズムが整ってたから、何度も手合わせしてたセナは合わせやすかったんだな」

 

 相手のタイミング測れんのもリズム感だな、と溝六は付け加えた。

 

 野球でピッチャーが投げるタイミングを計ってバッターが体重移動したり、ボクサーの踏み込みからのパンチを予測するようなものだろうか。

 

 

 陸はセナと溝六の分析を聞いて、息を深く吐いた。

 

 

「小学校の時にセナに走りのテクニックを教えて、二年前に追い抜かれて、大学入ってやっと少し追いついたかと思ったのに……また離されたな」

「そ、そんなことないよ。今日だって勝てたの最後の一騎打ちくらいだし」

 

 

 悔しい。だが同時に、興奮もあった。こっちが成長しても、向こうも成長し続ける。そうやってお互いに強くなっていけるんだ。

 

 

「俺はまたお前に追いつくぞ。兄貴分として、負けっぱなしじゃ情けないんでね」

「……! うん!」

「ところで、どうやって身に着けたんだよ。ライブハウスでバイトしたからってすぐ身に着くもんか? 俺もバイトしてるのに」

「うーん……最近ずっと暇なときはけっそ……音楽聞いてるからかな……あとその曲聞きながらランニングしたり」

 

 

 セナは、人と話さないほとんどの時間で結束バンドの曲を聴き続けるくらいにはドはまりしていることは妙に恥ずかしくて黙っておいた。

 

「それでそうなるもんなのか? アメリカで学んできたのが今身になったとかじゃなく?」

「あー……あ」

 

 セナは留学時代、クリフォードにクラシックの演奏会やミュージカルに時折り連れて行ってもらったことを思い出した。

 

(あれってそういう意味だったんだ……)

 

 椅子がフカフカで寝心地が最高だったことは覚えているのだが……。

 というか一回この説明聞いた気がする。頭にはてなマークを浮かべたセナを見て、悲しそうな顔をしたクリフォードの顔を思い出した。

 確かそのあと、

 

『アメリカまで来て細かい癖治してる暇はねぇ。それよかお前にはな……――――』

 

 

 溝六は、やいやいと話し合うセナと陸を見て満足そうに微笑んだ。

 

 

 

「ホラここ、やっぱキック掠めてるって! 俺の手当たってる! 惜しかったー!」

「クソっ、通りでボールの軌道がスマートじゃなかった訳だ!」

「でも、あのタイミングで防御できるってすごいよ」

 

 

 向こうではキックをギリギリのところで防御しそこなって悔しがる水町と、わずかでも掠められて悔しがるコータロー、レモンを丸ごとほおばりながら顔を*マークに窄めながらフォローする栗田がいた。

 

 

 ライン組は栗田を中心に連携が整ってきたし、若干機動力に悩みがあったところも水町の加入で補強された。

 

 

「おーっ、これっスよこれ!」

 

 

 興奮気味にモン太がスクリーンを指さしており、そこには雲水のパスを《デビルバックファイア》でキャッチするモン太の姿があった。

 

 

「雲水先輩のパスもデビルバックファイアでとれるようになってきたっスよ!」

「ああ、あとは各種パスルートとロングパスの練習を繰り返していくか」

 

 

 クォーターバックである雲水とレシーバーのモン太の連携も成長しているようだ。

 現在のチームになって一か月ほどだが、チームの雰囲気は問題ないようだ。

 ドクターフィッシュ戦に向けて、着々と準備が整いつつあった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

『集いし願いが、新たに輝く星となる! キュアスターダスト!』

『王者の鼓動、今ここに列を成す! キュアレッドデーモン!』

 

『ついに現れましたか、竜の痣を持つ者たちよ』

 

『ついに追い詰めたぞ! ONE-Z!』

『天地鳴動の力を見せてくれる!』

 

 

 

 

「ふたりはいつもこれ見てるの?」

「そうだよ? 今学校で流行ってるんだから!」

 

 

 日曜日。ひとりは、妹の後藤ふたりと一緒にニチアサキッズタイムを過ごしていた。

 先日大槻からもらったロイン。普段とは違うことをするといいと言われ、試しにふたりの普段見ているアニメを見ることにしたのである。

 

 

『集いし願い! キュアサティスファクション』

 

 

 顔に消えない過去のキズを負った主人公と、王としてそしてエンターテイナーとして君臨する相棒、そのほか前科持ちの仲間たちと共に世界の満足のために戦う魔法少女モノだった。

 

 

 なんでフリフリの服を着てバイクに乗っているのかわからなかったが、どうやら今の流行りはこういう感じらしい。

 

「お姉ちゃん、面白かった?」

「う、うん。ありがとう」

 

 

 ひとりはいまいち内容を飲み込めないまま部屋に戻った。とりあえずドラゴンはカッコよかった。

 机に向き合って歌詞ノートを開く。

 

(最近ずっと歌詞を書いてて、わかったことがある……)

 

 2・3日歌詞を書いてて分かったことは、自分は言うほど『不満を抱えていない』なんてことはなかったということだ。

 

 

 学校やバイト、将来のことで沸き立つ不満は確実にあって。その代わりにそれらを打ち消す前向きな気持ちが生まれるというサイクルを繰り返しているのだ。前ほど『もうダメだ』と思わなくなったのもそのためかもしれない。

 

(そう、私はフェニックスだ……復活のF……)

 

 畳の上で平泳しながらそんなことを考える。

 

 前向きになる気持ちをなんとか歌詞にしたいのだが、どうにもうまくいかない。

 

「何か気分転換した方が良いのかな……」

 

 そう思ってギターを掴む。試しに90年代の海外のヒットナンバーでも弾いてみるかとパソコンを開いたとき、ロインがピロリロと音を立てた。

 

 

「ヒッ?!」

 

 

 ロイン通話の通知だ。ロインでも一瞬心臓が止まってドキドキするひとりにとって、通話は不整脈を誘発しかねない。

 相手の名前は『喜多ちゃん』。未だ通話はかなりの精神力を消費する行為である。深呼吸して通話を取った。

 

 

「も、もしもし」

「ひとりちゃん? おはよう! 寝てたかしら?」

「い、いえ……起きてました」

「なら良かったわ! 今日って予定ある?」

 

 

 ひとりは言葉に詰まった。『今日予定あるのか?』という質問は超インドア派のひとりにとって究極の覚悟を迫られているに他ならないからである。

 

 郁代と遊べるのは別に構わないのだが、渋谷や原宿と言った光の強い場所等によってはコーランを2時間ほど読んで五体投地してから向かう必要がある。

 

 

「スゥーッハァーッ……。大丈夫です……」

「本当?! もし良かったらなんだけど……」

 

 

 

「結束バンドのみんなで、スポーツ観戦なんてどうかしら? 鈴音ちゃんに誘われたのよ!」

 

 

 

 

 




ロックで安定したリズム感が身につくんですかね…?
まぁセナならできるしなんなら16拍子で走れるでしょう(すっとぼけ)

お読みいただきありがとうございました。
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