Brave×Beat   作:明石雪路

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一部加筆修正しました。申し訳ございません。
本編の流れを大幅修正するものでは(おそらく)ございません。
ご了承くださいませ。


17th down 初陣

 

 

 

 河川敷グラウンド。

 

 

 

「いやー今日晴れてよかったね!」

 

 

 虹夏の言う通り、この日は雲一つない晴天だった。

 鮮やかな蒼穹がどこまでも広がっており、外出を好まないひとりも心なしか気分が晴れてくる。

 

 結束バンドのメンバーは、今日行われる炎馬ファイヤーズ対集英ドクターフィッシズの試合の観戦に来ていた。

 

 

「今朝喜多ちゃんから連絡来たときはびっくりしたよー。まさかアメフトの試合見に行こうだなんて」

「鈴音ちゃんが教えてくれたんです! それに、行き詰ったときは普段と違うことをするといいってネットに書いてあって……ひとりちゃんの作詞のインスピレーションになるかなって」

「喜多ちゃん……」

(やっぱり喜多ちゃんは優しいなあ)

 

 

 先日もわざわざロインを送ってくれたし、とその気持ちに心が温かくなっていると、河川敷の階段下にいた鈴音が呼びかけた。

 

 

 

「あっ、喜多ちゃんおはよー! チアのユニフォーム用意しといたよ!」

「ありがとう! 今着替えてくるわね!」

 

 

 郁代はグラウンドのそばで呼びかけた鈴音のもとにダッシュで向かった。

 

 

「もしかしてチアガールやりたかっただけなんじゃ」

「いい天気。夏フェスよりちょうどいい気候」

 

 

 

 しらっとした目つきを送る虹夏に寝袋を用意してさっそく転がるリョウ。なかなかいい感じの結束感だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「あっ!! ……な、何つーか意外と見に来る人いるんスねえ」

 

 

 

 視界に入った、シートを敷いて場所をとる虹夏にテンションが上がったのをばれないように目をそらしながらモン太が言った。

 

 

 言われてドリンクを並べるセナが周囲を見渡すとなるほど、グラウンドの丘のあたりには面白半分の見物客のほかに、ビデオや三脚付きのスマホを構えた人間もちらほら見られる。

 

 

「当然かもな。ウチは雑誌でも取り上げられているから」

 

 

 雲水が月間アメフトの大学欄を開いてセナ達に寄越す。そこには、今シーズン最も注目したいチームのデータブックが掲載されており最京大や王城、炎馬が大きく掲載されていた。

 

 

「大学はリーグ戦で、好成績を収めるごとに上位リーグに進む形になる。俺たちも集英も関東最上位リーグのTOP8だから練習試合でも見に来ようとする奴らは多いだろうな」

 

 

 

「ああ、だからこそ練習試合の意味がある」

 

 

 そういって現れたのは集英ドクターフィッシズクォーターバック、高見伊知郎だった。

 

 

「大学アメフトリーグ、次期シーズンTOP8最強の攻撃力と名高い炎馬ファイヤーズ。その攻撃を抑えることが出来たとき、フィッシズの防御力はライスボウル攻略に通用すると証明できるからね」

「高見さん」

 

 

 雲水は高見の前に立つと、右手を差し出した。

 

 

「去年はリーグ戦で負けましたが、今年はそうはいきません。必ず炎馬が甲子園ボウルを制覇する」

「ああ、『燃えるときは燃える炎馬』。今年で灰にならないよう祈ってるよ」

「ところで高見さん」

「なんだい?」

「今日の練習試合の場所と時間。文通で、しかも暗号でやり取りしてたのに見物客がやけに多いのって」

「……まあ、例の悪魔の手回しだろうね」

「「はあ……」」

 

 

 

 

 クオーターバック同士で静かに火花を散らす中(そしてため息をつく中)、セナやモン太といった泥門組が盛り上がっていた。

 

 

「雪さん!」

「あーっ! 雪さん! 久しぶりっス!」

「やあ、セナ君もモン太君も一年ぶり……ってすごいすごい」

 

 

 セナとモン太に両手を握られてブンブン振られているのは元泥門デビルバッツワイドレシーバー、雪光学だ。

 

 

 

「一年くらい前の雪さんたちの卒業式以来ですよね」

「そうそう! めちゃ嬉しいっスよ! まさか雪さんと戦えるなんて」

「うん。僕もうれしいよ」

 

 

 自然と、セナとモン太の手を掴む手がゆっくりと強くなっていた。

 

 

「クリスマスボウルを泥門の皆で制覇したとき、すごくうれしくて、同時に少し悲しかったんだ。最初から最後までずっと一緒に戦いたかったって。そうすればもっとフィールドにいられたのにって。世界大会をテレビ越しに見てた時も、あの時の僕なら当たり前だけど補欠にすら入れなかったから……。

 だからこうして、チームは違うけど一緒に戦えるのがすごくうれしいよ!」

 

 

「雪さん……」

「それは俺たちも同じっスよ! ってなんか雪さんごつくなったっスか?」

 

 

 

 以前の雪光ならば二人で腕を掴んでぶん回したら飛んでいきそうなものだったが、今の雪光はなんだかんだで軸がしっかりとしていた。

 細身でありながら、しなやかさがある。

 

 

「ああ、それは去年はほとんど基礎トレと体作りに専念してたからね。あとは……」

「フン、俺が持ち寄ったあふれるスポーツ医学知識のおかげさ!」

 

 

 聞き覚えのない、そして自信満々なデカい声が聞こえてそちらをみると、もじゃもじゃロングヘアの眼鏡の巨漢が腕組みして立っていた。

 

 

 

「……誰?」

「誰だ?」

「フゥン……」

 

 

 思い出すのを待つかのように顎を上げている。

 

 

 え、マジでわからない。

 炎馬の他のメンバーもなんだなんだと見に来たが、やっぱり誰もわからなかった。

 

 

「誰なの? 怖いよおッ」

「誰だお前は?」

 

 

 雲水が尋ねると、もじゃもじゃ男は心外だとばかりに声を荒げた。

 

 

「俺だよ! 元網乃サイボーグスラインの! 青柳卓(あおやなぎすぐる)! てゆーか雲水、お前は去年のリーグ戦で会っただろ!」

 

 

 まさかの青柳だった。

 

 

「ああ、青柳か! 去年リーグ戦の最後の方に出てた」

「そうだ! ふふふ、やっとこの日が来た……待ちわびたぞ」

 

 

 鋭い目つきでセナとモン太を睨みつける。

 

 

「あの日負けたあの時からずっとこの日を待っていた。再び泥門を打ち砕くこの日を!」

「あれ、でも二回目の秋大会はエントリー自体……」

「網乃はアメフト部じゃなくてスポーツ医学部って名前で毎年スポーツを変えるからアメフト部がなかったんだ! 網乃大にもないからな」

「まさか俺たちと戦うために集英医大に……!」

 

 

 モン太がその執念に戦慄していると

 

 

「いや、希望進路変わったから」

「普通の理由だった……」

 

 

 

「まあいい。全ては試合で見せてやる。行こうぜ雪くん」

「一応僕も泥門だったんだけど、青柳くんは妙に僕に親しげだよね……」

 

 

 青柳は雪光の肩を組んで歩いて行った。

 

 

「何はともあれ、雪さんが相手になって試合できるなんて二年前は想像できなかったな」

「うん、何かワクワクするね」

 

 

 旧友との戦い。初めての経験にセナとモン太は今までにない興奮を覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「見ろよあっちベンチ。チアガールいっぱいいるぜ」

 

 

 ラインマンの1人、スポーツ刈りの国木田二年生は防具を付けながら不満げに漏らした。

 国木田の言う通り、あちら側には看護師の制服を改造したような青色のチア衣装の美女がポンポンをもってキャッキャうふふしている。ナースよりも露出度が低いはずなのになんかこう、控えめな感じが逆に素晴らしい。

 同じくライン、山崎もうんざりした様子で、

 

 

「練習試合だってのに、気合十分なこって。あー羨ましい

 

 

 欲望にまみれたジャガイモどもの士気が若干下がり気味になっていた。しかし、ここに聖女来る。

 

 

「お待たせー!」

 

 

 

 チア衣装に着替えた鈴音がインラインスケートで登場した。

 

 

「YEAR------!!」

 

 

 さらに

 

「初めまして、喜多郁代です! チアは初めてですけど、頑張って応援します!」

 

 

「YEAR------------------------------------!!!!!!!!!」

 

「ちょ、私との熱量違くない?」

 

 

 初めて見る美少女に大興奮の馬鹿どもをギロリと睨みつける鈴音。

 

 一方で郁代は、

 

「私一度チアやってみたかったのよ! 鈴音ちゃん、本当にありがとう!」

「う、うん」

(なにこのかわいい娘は)

 

 

 同性でもびっくりするくらいビジュアルがいい。何だこの肌、人魚か何かか? 鈴音は郁代のポテンシャルにごくりと唾を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 郁代は虹夏ら結束バンドメンバーがいる方を向いて手を振った。

 

 

「伊地知先輩たちも! チアしませんかー?」

 

 

 ボーカルならではのよく通る声で誘う。

 

 

 炎馬の馬鹿どもは「なにっ、あっちにもかわいい女性の方々がいるじゃねえかよ、えーーーっ」と大興奮である。

 モン太は興味がないように腕を組みながらチラチラと様子をうかがっている。

 

 

「え、私達も~?」

 

 

 虹夏は(正直悪くないかもな……)と思いつつリョウとひとりを見ると、二人とも頭をぶんぶん降って拒絶していた。やっぱり。

 

 

 この二人を置いていくわけにもいかないので、

 

 

『おーい』右手を大きく振る。

 

 

『遠慮しとくよ』頭の上でバッテンを作る。

 

 

『ごめんね』両手のひらを合わせる。

 

 

 ジェスチャーを返した。

 

 

 

 

 

「虹夏先輩のメッセージだ!」

 

 

 モン太は興奮気味に今の虹夏のジェスチャーを読み取った。

 

 

『ボールデッド*1』右手を大きく振る。

 

 

『計時停止*2』頭の上でバッテンを作る。

 

 

『セイフティ*3』両手のひらを合わせる。

 

 

「ど、どういう意味だ?! 自殺点の時ってあんな感じだっけ?」

「モン太多分それ間違ってるよ……」

 

 

 セナが防具を装着しながら呆れてツッコんだ。 

 

 

 

 

 

 

 ガチャガチャと炎馬のメンバーが装備を整えていく中、敵チームとの体格の違いが気になって郁代が口を開いた。

 

 

 

「アメフト選手ってあっちの人たちみたいに大柄な人が多いのかと思ってたけど、甲斐谷くんやセナくんたちはそうでもないのね?」

「俺は筋肉をあんまりつけたくないってのもあるけど」

「僕はそもそもつきにくい体質みたいで。最近やっと55キロ超えたんだよね」

「セナ高校のときから細いもんね。155センチに48キロだっけ」

「え?!」

 

 高一の時点で158センチ44キロだった郁代は目をむいた。

 

 

「私アメフト選手と大差ないの……?」

 

 

 外れ値も外れ値、例外中の例外と比較して戦慄する郁代。ちなみに、高1のころのセナと高2のころの虹夏は大差ないことは誰も知る由のないことだった。

 

 

 

 

 

 

「しかし、フィッシズの奴らの体格は誰も彼もたくましいな」

 

 

 雲水は険しい目つきで相手チームを見た。

 

 

「平均的な体格は圧倒的に集英の方が上ですね。学生とは思えない」

 

 

 陸も賛同する。

 

 

 おそらく網乃のスポーツ医学によって最適な栄養価とトレーニングを行って体を仕上げてきたのだろう。

 加えて、王城で司令塔として守備力を発揮させてきた高見に、最強の攻撃力を誇った泥門の司令塔ヒル魔と思考をシンクロできる雪光が揃っている。

 そして何より王城と泥門が持っていた勝利への執念に賛同した者たちが集まったのが集英ドクターフィッシズというチームなのだ。

 

 

 

 

 

 

「去年は終始翻弄されて負けてしまったからな。必ず勝つぞ」

 

「じゃあさ、あれやろうよ!」

 

 

 栗田が言った。理解したメンバーは円陣を組み始める。セナが

 

 

「アレってなんですか?」

「僕らがずっとやってたやつ! ほらモン太くんも」

「……もしかしてアレっすか!」

 

 察したモン太は嬉しそうに円陣に加わった。

 すでに構えている国木田は、

 

「世界大会でもやってたろ? 去年の最後の試合、これやったら勝てたんだよ!」

「……ああ!」

 

 セナも気づき、円陣に加わった。

 

「雲水! 頼む!」

「俺が号令か……」

 

 

 雲水はあきらめたようにため息をつき、口角を上げた。

 神龍寺ではこんなことやらなかったが正直……悪くないと思う。

 

 息を大きく吸い込んで、叫ぶ!

 

 

 

「ぶっ」「こ」「ろす!!」「「「「YEAR!!!!!!!!!!!!」」」」

 

 

 

 

 炎馬ファイヤーズVS集英ドクターフィッシズ   試合開始!!

 

 

 

 

 

 

 河川敷。グラウンドを一望できる場所にて。

 

 

「ケケケ、高見どころか雲水の野郎まで狡いことしてくれるじゃねえか」

「ヒル魔くん、どうやって場所と時間突き止めたの?」

「普通に解読した。ブラフの可能性もあったから最京の一年坊主どもをこのあたりのアメフトグラウンド全部に派遣したけどな」

「偵察タワーカーでくれば上から観戦できたのに」

「他のグラウンドで高台ないところに派遣した。別にドローンにカメラつけて適当に何台か飛ばしちまえば問題ねえ。その辺でドローン飛ばしてる学生っぽい奴ら。モーター弄って航空法違反で150m以上の高度飛ばしてる証拠突きつけたら快くカメラマンを名乗り出てくれたぞ」

「はあ……変わらないなあ……」

「記者どもに情報流しといて正解だったな。奴らも自分らの持ってる情報と突きつけて勝手に分析してくれっから」

 

 

 金髪のツンツン頭、エルフ耳にピアスを付けた青年は極悪な笑みを浮かべて言った。

 

 

 

「俺らが偵察に来てるのは察してるだろうが……さあて、思う存分に戦ってもらおうじゃねえか」

 

 

*1
ボールがプレー中でない状態のこと。プレーの終了を意味する。この後のプレーは無効となる。手と左右に振っている場合はタッチバックの意。

*2
試合中にレフリーが試合を中断させるためのタイムアウトのこと。

*3
オフェンス側が自身のエンドゾーンでタックルされてしまうこと。ディフェンス側に2点入り、攻撃ターンになる。




マネモブ出てんじゃねえか! すみませんでした。


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次回こそ試合します。
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