「虹夏、さっきから何してるの?」
ガチャガチャと何かしらを弄っている虹夏を見て、リョウが尋ねた。
虹夏は三脚を組み立てながら、
「さっき鈴音ちゃんにお願いされちゃってさー、高いところから試合の様子撮影してほしいんだって。この位置だと全体見えるじゃん? だからほら、カメラおいてるの。……っと、出来た! 間に合ったー!」
虹夏はビデオカメラでフィールド全体が映るように場所を調整し、撮影ボタンを押した。
カメラの液晶の中で……
「あれ?! 今なにか変なの映らなかった?!」
「な、なにもなかったですよ……?」
炎馬の先行でキックオフ*2。
フィッシズがボールを炎馬の陣地に蹴りこんだ。
自陣に蹴り込まれたボールをセナがキャッチし、ゴールラインへ駆けようとして、
迫り来る巨大な魚群の幻影を見た。
大量の魚が隙間もないほどに密集して一匹の巨大魚に見せる魚群のような統率の取れた動きにセナは息をのむ。
(相手全員の対応が早い……ルートがみるみる埋まっていく!)
セナはとある試合を思い出していた。
王城ホワイトナイツ。
最高の守備力と名高い彼のチームは、素早い対応力で防御を敷いてきた。まるで大量の選手に押しつぶされるのではないかと錯覚するような圧倒力はいまだに覚えている。
そして今。それらを錯覚するほどの威圧感を持ってフィッシズの選手たちが迫ってきている。
すぐさまブロックに回る炎馬選手たち。開き始めたデイライトに従ってセナは駆け出した。
敵選手のブロックの隙間を縫ってヤードを確保していく。
しかし、
「ムッキャ、止まらねぇ……!」
「ブロックが重い、剥がせない!」
網乃のスポーツ医学によって恵まれた体格に作り上げた選手たちだ。
チームでも足の速いモン太と陸がブロックし走路を守ろうとするも、セナが抜き去る前にブロックごとセナは止められてしまった。
結果としては自陣35ヤードから攻撃開始という、まずまずの――セナがボールを持ったにしては短い――位置から攻撃スタートとなった。
残りヤード数:65ヤード
「初めの攻撃だが、パスで行くぞ」
(青柳先輩、ラインバッカーなんだな)
敵のポジションを確認しながらモン太が左サイドにセットすると、目の前を覆う影が現れた。
「よろしく、モン太くん」
「雪さん……! もしかして両面スか?」
(地味に雪さんって身長180くらいあんだよな……)
今まで立ちふさがってきたレシーバーの中で王城の桜庭春人、アメリカのバッド、太陽の風車に次いで背の高いコーナーバックである。現在のモン太の身長は168センチ。12センチの差がどうなるかは二人のポテンシャルにかかってくる。
雪光はモン太の前で腰を落として構えた。
「泥門のときじゃ考えられないけどね。僕が両面も、モン太くんとの勝負も」
「俺もっスよ」
「キャッチで勝てるかはわからないけど……持てる全部で戦うよ!」
「応っスよ! 俺だって最強のデビルバックファイアで雪さんに勝ってやる! 雲水先輩と俺のロングパスMAXコンボで!」
ベンチの郁代は不思議そうに、
「ねえ鈴音ちゃん、アメフトって最初に作戦を宣言してから始めるものなのかしら?」
「違います! モン太がバカなだけです!」
鈴音は涙目で答えた。大学に行ってもモン太は相変わらずであった。
何度かのHUTの後、栗田のスナップで火蓋は切って落とされた。
モン太は全速力で駆けだした。パスコースはジグアウト。ある程度進んでから中央に切り込むと見せかけて左サイドに戻る、フェイントをかけるルートだ。一気に走りk
「ガッハ……?!」
突如、モン太の腹部に鋭い衝撃が走った。
モン太の腹、鳩尾付近に雪光の掌が刺さっている。バンプだ。
体の中心、丁度防具の隙間にまるでメスのように的確に差し込まれた雪光のバンプは鳩尾にダメージを刻み込む。
シンプルにぶつかるバンプと違い、的確に急所を狙ったそのバンプは
(痛ってええええええ! 一歩進むたびにズキズキ痛みが響く!)
あまりの痛みに足が進まず、打合せしていたルートを進み切れない。
雲水はもう一人のレシーバー、中谷2年生の方も確認したが守備のマークを剥がせていなかった。やむなくボールを投げ捨てる。パス失敗。
「ゴホッ、まさか雪さんがバンプしてくるなんて……。しかも鳩尾狙いとか……」
「的確にダメージを与えられるように編み出した、
「うおお、黒雪光久々に見た……」
以前見たのは関東大会優勝時のパーティーの時だ。だが今の雪光の眼はあの時のようなおふざけ込みのものではなく、限りなく勝利に飢えた戦士の眼だった。
「へ、へへ。上等っスよ。いずれ世界一のレシーバーになるんだ。腹ァ掻っ捌かれてもキャッチしてやる!」
未だジクジク痛む腹を抑えて、モン太は威勢よく啖呵を切った。
「モン太、行けるか?」
雲水が尋ねた。100パーセント安全な勝ち方を求める雲水にとって先ほどのバンプのダメージは見過ごせない要素だ。
「も、問題ねっスよ! 絶対振り切ってキャッチしまっス!」
「2ndダウン10で手堅くランで来るだろうと考える相手の裏を突いていけるかもしれないが……」
ダメージを負ったモン太で行けるのかという不安はある。だがそれよりも、雲水は気になることがあった。
確実なランよりも、それを確かめるべきか。
「パスで行く。次は中央に切り込むスラントだ」
再びセット。
栗田からボールが雲水にスナップされ、モン太と雪光は駆けだした。
「うっしゃあ、気合MAX!」
モン太は雪光のバンプをキャッチして防御、未だ残る痛みを気合でごまかしながら雪光と競り合いながらパスコースを走っていく。
対して雪光はピッタリと張り付きながらモン太をマーク。
「クッソ、やっぱり剥がせねえ……!」
「あれを食らってまだこのスピードで走れるなんて……!」
「キャッチ力で勝負すっきゃねえ!」
「絶対にキャッチ勝負まで持っていかせない!」
素早く中央に切り込むパスコース、ヒッチ。
モン太が素早く進路を切り返そうとするところを、雪光が進路を妨害していく。
打合せ通りの箇所、中央に向かいたいが雪光の進路妨害によって思った場所に進めない。
競り合ううちにオフェンスラインが破られ雲水はやむなくボールを投げ捨てた。
三度目の攻撃もモン太は雪光のマークを防ぎきれず攻撃失敗。
炎馬は三度で攻撃を進めることが出来ず、四回目の攻撃でパントキックを選択した。
コータローのコントロール抜群のキックで30ヤード近く押し返して攻撃を終えた。
「雲水さん、ランで行かなかったのって……」
攻守交替の間に、陸が尋ねた。
「ああ、それはな。真ん中に走りこむパスを繰り返したのに、
「やっぱりそうですか。ずっとあの人が俺らをを見ていたのはそういうわけか」
こちらの思惑を知ってか知らずか、青柳の表情は眼鏡がぎらぎら光ってよく見えない。
(にしても高見。体力をつけたとはいえ45人もいるチームで雪光を両面で使うとは大胆なことをするな……)
「それでは、我々の攻撃ターンだ。エベレストパスこそないが……同等、それ以上の攻撃を御覧に入れよう」
集英ドクターフィッシズの攻撃。高見は眼鏡のブリッジを抑えながら、自慢したい子供の様に純粋な笑みを浮かべて言った。
お読みいただきありがとうございました。
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