Brave×Beat   作:明石雪路

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アイシールド21あるある:客席とフィールドめっちゃ離れてるのに会話が成立する。


19th down Ride on Right time

 

 

 

 

(フィッシズの攻撃……。去年の大会ではオーソドックスなスプリットフォーメーション*1だった。今回もか)

 

 

 

 クォーターバックである雲水はベンチからフィールドを見る。

 

 

 見たところ複雑な点は見受けられない。注意しなければならないのは、右サイドに構えたレシーバー雪光と……

 

 

「青柳も両面か!」

 

 

 高見の後ろに構えるランニングバックの青柳だろうか。

 

 

 高見を守るラインバッカー兼ランニングバックとはまるで王城のパーフェクトプレイヤー・進清十郎を想起させるが、まさか巨大弓(バリスタ)射手座(サジタリウス)を再現するとでもいうのか。

 

 

(しかし、雪光の身長も青柳のパワーも足りないはず。劣化版になるのが関の山ではないのか……?)

 

 

 とは言え、かつての王城のそのフォーメーションは勝利を収めた泥門ですら攻略できていないので、有効といえば有効なのだが。

  

 

 

 

 

「SET! HUT!」

 

 

 掛け声とともにプレー開始。

 両チームの壁がぶつかり合う。

 

 

「ふんぬらばーーーー!!!」

 

 

 拮抗が揺らいだのは、ディフェンシブタックル/栗田の猛ラッシュだった。

 

 

 体重145キロ、ベンチプレス160キロでの猛烈なタックルを受け切れるのは日本でもほとんどいない。

 

 

 巨体から繰り出されるトップクラスの爆発力はフィッシズのラインを破り、高見に迫る。サックなるか。

 

 

「いいや、こっちのほうが速いな」

「ふふふふ、俺が相手さ!」

「えええ青柳くん!?」

 

 

 高見の横をすり抜けて栗田に突撃したのは、なんとランニングバックの青柳だった。

 

 

 栗田にぶつかる直前、小さくステップを踏んで激突。栗田の動きが一瞬止まる。如何に日本最強クラスのラインマンといえど、全速力で体格に恵まれた男がタックルしてくれば数秒止まってしまう。それが青柳のようなガタイの良い元ラインマンならなおさらだ。

 

 

 その隙に高見はボールを投げた。高身長から放たれた高高度のボールはラインを超え、雪光の元へ。

 

 

 一方後衛では……。

 

 

「何だ!? レシーバー勢が固まって動いて……!」

 

 

 1on1で雪光をマークしていたモン太がふと周囲を見ると、両サイドに二名ずつ配置されていたレシーバーが固まっている。

 モン太は横から来たタイトエンドにブロックされ、雪光のブロックを強制的に外されてしまった。

 

 

 そして、雪光が180センチの身長でジャンプ。高見のパスが通る。20ヤードゲイン。

 

 

「ファーストダウン獲得!」

 

 

 審判のホイッスルが鳴る。

 

 

「これがフィッシズの攻撃パターンの一つ、魚群(フィッシュワーム)だ。どんな密集地でもレシーバー・タイトエンドが集結し、レシーバーを守る一つの群れとなる」

 

 

 

「レシーバーの数が多い点じゃ西部と似てるけど、コンセプトが全然違うな」

 

 

 陸はセイフティの視点からフィッシズの攻撃を分析していた。

 

 

(西部のショットガンは全員が散弾みたいにバラバラになってパスターゲットを絞らせずにパスを通す。でも魚群はパスターゲットが割れても絶対に他の選手で守るようにしているんだ。行ってみれば射手座の人数多い版!)

(メインレシーバーの雪光さんが的確に守備の弱点を見極めて走りこんで、他の選手がメスみたいに守備を切り開いて確保する!)

 

 

 攻撃権を獲得したフィッシズが再びセット。

 

 

 そして同じようにレシーバーが群れとなってパスを受け止めんと走りだした。

 

 

 肝心のコーナーバック/モン太は、一度もキャッチ合戦に持ち込めずにいた。

 

 

「キッショ、全然ボールに触れねえ……!」

「『キャッチ勝負しない』。これがモン太くんへの対策だよ!」

 

 

 雪光は桜庭ほど高く飛んでいるわけではない。ジャンプ力を含めた高さの総合計ならば互角。一対一ならばキャッチで勝てるはずだ。

 しかし、周りの選手たちが巧みにブロックして雪光を守る。ここまでボールに近づけないとなるとモン太は持ち味が活かすことが出来なかった。

 

  

「だったら、着地でつぶすだけだ! いくぜセナ!」

「うん!」

 

 

 魚群に、光速と音速が飛び込んだ。

 

 

 セナが雪光のリードブロッカーに突撃し道を開く。その隙を逃さずに陸が突っ込む。

 

 

   RIKU VS YUKIMITSU

 

 

(陸くんが来た! まずい、ボールを守らないと!)

 

 

 雪光はジャンプしてボールを掴んで着地、脇にしまい込もうとして

 

 

「遅い!」

 

 

 陸は雪光の着地の瞬間にロデオドライブを発動。急加速に合わせて手を伸ばし、雪光の腕からボールを掻きだした。

 

 

「よし!」

 

 

 こぼれたボールを掴めばそのまま炎馬の攻撃になる。内心ほくそ笑んでボールを拾おうとして……ブロックに来ていたフィッシズのレシーバーがボールを拾った。

 

 

「リカバリーが早い!?」

 

 

 射手座と違い、守る選手が多いとこんなことも出来るのか。

 

 セナと陸、2人のセイフティを突破したフィッシズの攻撃を止められるものは誰もいない。

 

 ゴールラインを超える。先制点は、集英ドクターフィッシズだった。

 

 

「先制点とられちゃった……」

「まだまだ! 取り返すぞ!」

 

 

 しょげるセナと意気込むモン太。

 

 

 続くはトライフォーポイント*2。フィッシズの加点チャンスだ。

 

 

 

 

 フィッシズのキッカーがフィールドゴールめがけてボールを蹴り、

 

 

「いくぜ栗田先輩!」

「うん!」

「せーのッ、2人高-----波(ハイウェーーーーーブ)!」

 

 

 

 身長195センチと193センチのコンビが思い切り腕を上げることで巨深ポセイドンの防御陣形をちょっぴり再現、最高クラスの防御壁がフィッシズのキックを防いだ。

 

 

「うっしゃあ、ナイスブローック!」

「これならタッチダウンですぐに逆転できんぜ!」

「これから取り返すよー!」

「ファイトー!」

 

 

盛り上がるファイヤーズに、鈴音と郁代が激励を送る。

 

 

「YEARRRRRRRRRRRR!!」

 

 

炎馬の野郎どもの士気はまだまだ十分だ。

 

 

 

「ケケケ、高見の野郎結局はやること変わってねぇじゃねぇか」

「『レシーバーを守りながら攻撃』。王城の頃の桜庭くんと進くんのコンビネーションとコンセプトは同じだもんね」

 

 

ヒル魔は河川敷の高い位置で自前のドローンをガチャガチャ操作しながらフィールドを撮影していた。川沿いで風が強いと言うのに卓越した操作スキルによってドローンは安定して滞空している。

まもりはレポート紙にシャカシャカと素早い手つきでフォーメーションと動きを記していた。

 

 

「でもその代わりにボールをこぼしても拾うことができるから、安定感は増してるのかな」

「……(ファッキン)マネ、なんでタブレット使わねぇんだ。紙がかさばって仕方ねぇだろ」

「だって難しいし……。大丈夫だよ、ちゃんと全部記録してるから」

「俺がさんざ教えたってのにまだ覚えてねえのか! ミーティングん時にいちいちペラペラ紙めくってたら効率悪ィだろうが!」

「い、いいでしょ! 紙なら一目で網羅できるんだから!」

 

 

 

 喧々囂々。騒ぐ二人の少し下の辺りに結束バンドメンバーがいた。

 

 

 

「あー、先制点とられちゃった!」

「に、虹夏ちゃんすごく熱中してますね」

「いやー、こういう試合?をちゃんと見るのって初めてだからさ〜。結構盛り上がると言うか」

「ほら、次炎馬の攻撃だからモン太がまた頑張るかもね」

「さっきボール取れなかったもんね……。モン太くーん! 頑張れー!」

 

 

 

 

瞬間、モン太に落雷が落ちたと錯覚するかのような衝撃が走った。

 

 

「次の攻撃だが……」

「俺が行くっス!」

「ランで行く」

 

 

 モン太の提案をバッサリ切り捨てて雲水が言った。

 

 

「俺なら大丈夫ッスよ! 雪さんのバンプ躱して……!」

「根性は買っているがそれだけじゃ不十分だな。パスを確実に通すためにランで行く……。って何でソワソワしてるんだ?」

「どういうことですか?」

 

 

 セナが尋ねると、

 

 

「セナと陸でランを印象付けるためだ。さっきの攻撃。雪光に気を取られがちだがフィッシズのアウトラインバッカーは外側で守ってパスを警戒していたんだ。今のままじゃ雪光を突破しても通らん。だから、ランから行く。いいか?」

「はい!」

「はいっス!」

 

 

 作戦は決まった。全員が配置につく。

 

 

(ただ一つ懸念点は中央を守る青柳の能力。さっきはフェイントの陸やセナをマークしていたみたいだが……)

 

 

 否、これ以上の考えは不要だろう。今は強引に攻めるのみ。

 

 

「SET! HUT!」

 

 

 雲水がボールを受けとり、陸、続いてセナが駆け出した。陸が受け取るふりをしながら中央に突撃。後続のボールキャリアーのセナの道を開く。

 

 

 その後ろをボールを受け取ったセナが走る。中央を栗田と陸が強引に切り開き、セナが突破。すぐさまラインバッカー/青柳が立ちふさがった。

 

 

 SENA(セナ)  VS   AOYANAGI(あおやなぎ)

 

 

(来た。青柳さん。前に会った時はラインだったからどういう守備かわからないけど……今は全力で駆け抜ける!)

 

 

 ガガガ!! とクロスオーバーステップを刻みはじめ、セナの体がブレ始める。

 

 

 デビルバットゴースト!!

 

 

 左右のどちらから抜くかを悟らせない光速のステップ。

 

 

(よし、左から走り抜けて……!)

 

 

 セナは青柳の表情を見ながら走るルートを決めた。

 対して青柳は膝を少し曲げてこちらを睨みつけている。

 

 

 みるみるうちに両者は肉薄し、ついにその時は来た。

 

 

「見せてやる。セナや陸、進といった高速のランナーを捕らえるために研究し、編み出した究極のテクニック。エースステーションを!!!」

 

 

 瞬間、青柳は極めて小さくジャンプ。

 対してセナは右にフェイントをかけながら左へ方向転換。そのステップは急な角度を刻みながら青柳を突き放す。

 

 

 抜けた。その感触がセナにはあった。

 だから、近づいてくる声がセナには理解できなかった。

 

 

「捕まえた♡」

 

 

 青柳は、左にステップを踏んで走り抜けようとしたセナに急加速で追いついてきた。

 

 

 腰の高さで右からタックルを食らい、セナは地面を転がった。かろうじて2ヤードゲイン。しかし、

 

 

(捕まった……。青柳さん。僕に追いついた……?)

 

 

 セナはその事実が理解できなかった。もしや青柳も光速の世界に入門したとでもいうのか。

 

 

「これが俺の奥義、エースステーションさ」

 

 

 

 

 

「プレジャンプか」

「プレジャンプだな」

 

 

 陸とヒル魔はそれぞれ、フィールドと客席で同じ単語を口にした。

 ハドルの間、陸は看破した内容を共有した。

 

 

「小さくジャンプして、着地時の地面との反力で加速するジャンプだ。瞬間的に超加速できる」

「プレジャンプ……ああ、バスケのやつよね? 前にバスケ部の助っ人に行ったときに聞いたかも!」

 

 

 聞き覚えのある単語から思い出した郁代に対して、陸は賛同しながら、

 

 

「ああ、バスケの他にもサッカーでも使われてる技術だよ。ゴールキーパーとかね」

 

 

 

「ケケケ、テニスでもボクシングでも、初動の加速ってのはあらゆるスポーツに応用できんだよ。さっきも糞デブにプレジャンプで加速して突っ込んで攻撃力上げてたしな」

 

 

 ヒル魔の操作するパソコンの画面には、セナにタックルする青柳がアップで映っている。まもりが見てみるとなるほど、寸前で小さくジャンプしていた。

 

 

 

 

「継続的に速くなる技じゃないけど、一瞬だけなら……セナにも追いつける」

「でも、それってつまりセナはあの守備を突破できないってこと?」

 

 

 不安そうに鈴音が言った。

 

 

 

「いや、やれます。雲水さん、もう一度お願いします」

「……わかった。もう一度行くぞ。次は右からだ」

 

 

 続けて、セナは右から走り出した。

 

 

 すると案の定青柳がブロックに駆け付けた。

 

 

(ふん、左右に光速のフェイントをかけて抜き去るデビルバットゴースト。確かに恐ろしいが、丹念に観察すればどちらから抜けるかわかるんだよ!

 へその向き、正中線の向き、肩の向き。人体の作りからどうやっても直すことのできないそれらは、人体解剖学を学んだ俺にわかりやすーく行き先を示してくれる! あとはその向きにタイミングよく飛び掛かればいい!)

 

 

 再びセナと青柳が対面。小さくジャンプの構えを取ってセナを待ち構える。

 

 

(これならどうだ!)

 

 

 激突の寸前、セナが姿勢を変えずに一歩だけバックステップ。

 

 

 デビル4ディメンション!!!

 

 

 時間を巻き戻し、タイミングをずらして抜き去るランの究極奥義である。

 

 

 それにたいして青柳は、()()()()()()()()ただ抜き去るセナを待っている。

 それは、かつて帝黒の選手たちも思いついた攻略方法だった。

 

 

(大抵のブロッカーはランナーを押し返す、もしくはヤードを獲得させないように守る。これまでこの技に対面してきた選手は皆、積極的な守備で対応してきた。俺は違う。少し進まれるのを前提に守る! これが俺にできる守備だ!)

 

 

 そして、抜き去る寸前にエースステーション。

 二度目の攻撃も2ヤードしか進めなかった。

 

 

(ここで挑発してさらに平常心を奪ってやる)

 

 

 首をゴキゴキ鳴らして青柳はクソむかつく表情を作って思い切り言った。

 

 

「いやー、まさかあのアイシールド21の小早川セナが……こんなに遅いとは思いませんでしたーーーー!」

 

 

 モン太をはじめとした炎馬の単純な何名かは頭を沸騰させていた。

 一方でセナは、

 

 

「青柳さん、速すぎる……!」

 

 

 冷や汗をかきつつも、どこか口角が上がりそうになっていた。

 

 

(あれ、思ってた反応と違う……)

 

 

 

 

 

「3rdダウン6!*3

 

 

 

「ナイスブロック、青柳君!」

「ああ……」

 

 

 雪光がポジションについた青柳にねぎらいの言葉を贈るが、青柳は心ここにあらずといった様子で返事をした。

 青柳は、

 

 

(セナを止めるの……めちゃくちゃしんどすぎる! なんだあの速さ! 尋常じゃねえ!)

 

 

 心臓をバクバク鳴らしながら言葉を飲み込んでいた。

 

 

(事前に何度も相手の進行方向を読み取るテクを練習してなかったら守れなかった! てか割り切ったとはいえ少しは進まれるんだ、安心できない!)

(いや、弱気になるな青柳卓! この技なら炎馬のラン攻撃を絶対に止められる!)

 

 

 そして始まった炎馬の三回目の攻撃。ボールキャリアーは陸だった。再び右サイドから向かってくる。

 

 

 青柳は陸の前に立ちふさがった。タイミングを計って少しジャンプし、

 

 

(右からくる。ここd

 

 

ロデオドライブ!!!

 

 

 ゆっくりとした走りから急加速。強烈な緩急をつけた陸の走りを青柳は止めることが出来なかった。

 

 

「こんなに遅いと思わなかったよ」

 

 

 陸は続けざまにセイフティを2名躱してフィールドを疾走。エンドゾーンでボールを投げ捨てた。

 

 

 キックも決めて7対6。

 

 

 

「ふ、ふふ。ロデオドライブを甘く見ていたな……」

 

 

 青柳は汗をびっしょり書きながら精一杯の強がりを見せた。

 

 

(走り抜ける瞬間はセナと同じだと思っていたが全然違った……。

 音ゲーで言うならば、セナは最速設定で降ってくるノーツ。

 陸は途中までやりにくいほどゆっくりで、寸前で最速スピードになるクソ譜面みたいだ)

 

 

「兄貴分として、いいところは見せないとな」

「やー! ナイスりっくーーーん」

「ナイスラーン!」

 

 

 甲斐谷陸。アイシールド21小早川セナの名に隠れがちだが……彼もまた、日本でも最高クラスの超スピードテクニックを持つ韋駄天なのである。

*1
ランニングバック1名、レシーバー4名のフォーメーションだ! パスが通しやすいんだぜ!

*2
デビルバット先生! トライフォーポイントって何ですか?

いい質問だ! いいか、タッチダウンを決めた後はな……追加点を決められるボーナスゲームがあるんだよ! 敵陣3ヤードから攻撃して、キックなら1点、タッチダウンなら2点ボーナスだ! 好きな方を狙うんだぜ!

*3
次の攻撃で何ヤード進まなきゃいけないかって意味だぜ! 

攻撃側はファーストダウンまで10ヤード進まないといけなくて、今の時点で4ヤード進んでるから、三回目の攻撃で6ヤード進まないと攻撃権がもらえないってことだね!

正解だ糞ギター! わかってきたじゃねえか!




エースステーションの由来について

A:青柳 S:卓 ✙ ナースステーション= AS(ACE)ステーション(青柳の持ち場)からです。Anti Sena もあるかな?
頭文字で略さないでね


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