Brave×Beat   作:明石雪路

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気弱な男の正体は

 

「あの? 大丈夫ですか…? もしかして少しぶつかってましたか?」

 

 

 いつまでも立ち上がらないひとりに、青年は恐る恐る声をかけた。

 どこかオドオドしていて、ものすごく気を使っている様子だ。

 

 

(まずい、私が勝手に転んだだけなのに気を使わせている!!)

 

 

 自分なんぞが相手を不安にさせるわけにいかない。がばりと立ち上がり

 

 

 

「いえ大丈夫です私が勝手に転んだだけですので何も問題ありません私はそろそろ合格発表を見て帰りますのでどうかご心配なく」

 

 

 通常の倍以上の高速詠唱を済ませると、ひとりはズンズン歩きだした。

 

 

(ああ~ダラダラ公園に引きこもるんじゃなかった、さっさと結果だけ見て帰ればよかった~あああああ…!)

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

 立ち去ろうとするひとりに、青年が呼びかけた。

 

 

「合格発表って僕も見に行くところなんですけど、炎馬大学ならこっちですよ…?」

 

 

 方向までミスった。ひとりは度重なるミスで体の細胞の均衡が崩れそうになってしまった。

 

 

 

「あ、あの、本当にすみません…」

「いやいやいや僕こそぶつかりそうになっちゃって…」

 

 

 

 ずーんと重たく頭を下げるひとりと、なんどもペコペコ頭を下げる青年。

 

 

 結局信号が青になって道路を渡って、大学の掲示板に着くまでお互いに頭を下げ続けるのだった。

 

 

3月2日。

 

 

 

「なんぞ背後から怪しげな視線が……」

 

 

 

 炎馬大学一般入試合格発表会場で、滝鈴音と雷門太郎は謎の視線を感じ取った。

 視線の元には頭が栗のようで、なぞに悪魔っぽい表情をしたアメフトユニフォームを着た巨漢がいる。

 

「ホンット~にこのやり方でいいのか?」

「ヒヒヒ、ヒル魔に習ったんだよ~~泥門でビルバッツ時代に…」

 

 

 

 巨漢は坊主頭の同チームと思しき男と駆け寄ると、ムッ筋!!と雷門のとなりにいた青年を思い切り投げ飛ばした。

 

 

「合格おめぬらばーーーー!」

 

 

 

 変な祝福の声と共に、銀髪の青年が真上に投げ飛ばされた。

 

 

 栗田良寛。背番号77番、炎馬大学アメフトチーム〈炎馬ファイヤーズ〉の最重量ラインである。

 

 

(栗田先輩すげえ! 大学リーグでさらにマッスルMAXになってんじゃねえか!)

 

 

 雷門は嘗て同じチームだった先輩の成長に驚喜する。

 

 

「えーとこの後は…この携帯で合格をご両親に報告しよー!!」

 

 

 栗田は自分のスマホを差し出すが、投げ飛ばされた青年はなんの苦も無く着地していった。

 

 

「その発信履歴で電話番号ゲットしてアメフト部に勧誘作戦ですか? 大学生にもなればみんな自分の携帯使いますよ、栗田さん」

 

 

 さわやかにそう返したのは、元西部ワイルドガンマンズランニングバック、甲斐谷陸だ。

 

 

「甲斐谷…!」

「陸くんー!」

 

 

 栗田の後から駆け付けた炎馬ファイヤーズクォーターバック、金剛雲水と栗田は思いがけない新入生に驚いた。

 

 

 

「モン太くんに鈴音ちゃんもウチに入ってくれるんだねー!!」

「すごい…君らがチームに加わればあの最京大破って優勝だって夢じゃない…!」

 

 

 栗田は喜びのあまりモン太と陸をバキバキと抱きしめる。

  

 

 

「でも入学前に二人死んだ今」

 

 

 躱した鈴音以外の二人は入学前から死に体である。

 

 

「あとセナ! 炎馬に入るっスよ! 一緒に合格発表見る約束だったんだけど…」

 

 

 なんとか無事に助かったモン太は伝え忘れてはいけないと声を上げた。

 

 

「えええセナ君も!? てかアメリカから戻ってきてるの!?」

「なんか飛行機の乗り継ぎで超大事な荷物忘れて遅れるって」

 

 

 驚愕する栗田に鈴音が呆れた表情で言った。

 

 

 小早川セナ。かつて栗田やモン太と同じ泥門デビルバッツに所属していたランニングバックである。彼は半年前から本場アメリカの名門ノートルダム大付属に招待留学していたのだ。

 

 

「自分の力で嘘を本当にしちゃったね、セナ」

 

 

 鈴音は感慨深いような、遠くへ行ってしまって寂しいような、不思議な気持ちだった。

 きっとアメフト選手としても、男の子としてもすごく成長していることだろう。アメリカではじめて会った時は頼りなさを感じつつも優しさとアメフトに対しては強い気持ちを持った……。

 

 

「あっ、ほらセナいた! おーい!」

 

 

 

「えっ、ホント!?」

 

 

 モン太が入口のほうを指さし、

 

 

 

「いやあの本当にすみませんでした私が全然周りを見ていなかったばかりに」

「いやいやいや僕も飛ばして走ってたところがあるので」

 

 

 

 セナは、ピンクジャージの少女と頭をペコペコ下げながら入ってきた。

 

 

「どういう状況!?」

 

 

「いや、さっきぶつかりそうになってこの人を驚かせちゃって……」

「いや私が不注意だった挙句に転んじゃって……」

 

 

 お互いに自分の不手際を上げて謝りあう。

 

 

「なんか似てるねこの二人…」

「てかセナはアメリカ留学してもビビりは変わんないのか……」

「久々にあってこれはなっさけないな……」

 

 

 あきれた様子のモン太と鈴音と陸。

 

 

 

「ね、あなたなんて言うの?」

「えっ、あの、えっと、後藤ひとりです……」

「私、滝 鈴音ね、こっちは」

「雷門 太郎! モン太でいいぜ」

「甲斐谷 陸。よろしく」

「で、一緒に頭下げあってたこっちが小早川瀬那ね!」

「えっと、よろしくお願いします」

「あ、お願いします……」

「そうだ、今回全員合格らしいぜ! 人数足りなくて」

「泥門と変わんないね……」

(なんかぬるっと合格わかっちゃった……)

 

 

 

 

「もしかして新入生?」

「やめとけ栗田、普通に勧誘した方が良い。」

 

 

 悪魔っぽい顔を作ろうとする栗田を雲水が制止した。

 

 

 

「金剛雲水です。主務やマネージャーも募集しているので、興味があったら炎馬ファイヤーズに」

 

 

 雲水はそういってアメフト部フライヤーを一枚渡した。

 ひとりは坊主頭のアメフト選手に見覚えがあった。

 

 

 

「あっ、大学のサイトでインタビューを受けてた……」

「ああ、あれ見たのか」

「雲水くん学年主席だもんね!ってそろそろ時間だね」

「? 何がだ?」

 

 

 雲水がなんのことかわからないとばかりに尋ねると栗田はさも当然かのように言った。

 

 

 

「みんなのデビュー戦」

「何イイイイイイ!!?」

 

 

 

「それじゃあ、えっと、後藤さん。入学したらよろしく……」

「じゃあね、ひとりちゃん!」

「あっ、はい」

 

 

 

 急げ急げとアメフトコートに全員走っていった。

 

 

(鈴音ちゃんはぐいぐい来るところが虹夏ちゃんっぽいかも。小早川……くんって、なんか私と似てたな。)

 

 

 変に気を使いまくるところとか腰が妙に低いというか謙虚なところとか……。

 

 

 自分の内に秘めるエグイ承認欲求と調子ぶっこき気味なところを棚に上げてそんなことを考えていると、

 

 

「ひとりちゃーん、遅れてごめんなさい!」

 

 

 結束バンドのギターボーカル、喜多郁代が小走りで駆けよった。

 

 

「乗り換え間違えちゃって……結果どうだった!?」

「あっ、合格でした。なんか全員受かってたみたいで」

「そんなことあるのね、とにかくおめでとう! 書類の手続き済ませて、合格おめでとう会しましょう! 伊地知先輩もリョウ先輩もスターリーでお祈りしてるんだって!」

 

 

 郁代に手を引かれ、校舎に向かう。

 

 

 

 数十分後。手続きを全て済ませて校舎をでると、アメフトコートの方から歓声が聞こえた。

 

 

 

(そういえば、小早川くんたちが試合してるんだっけ)

 

 

「どうしたの? ひとりちゃん」

「あっ、あっちでアメフトの試合やってるみたいで……」

「アメフト……結構前に世界大会とかで盛り上がってたわよね。見てみましょうか?」

 

 

 二人でアメフトコートに行くと、そこには運動にほとんど触れてこなかったインドア派のひとりでもわかるほどの熱気があった。

 

 

 

「SET!! HUT!!」

 

 

 掛け声とともにボールが後ろに投げ込まれ、掴んだ選手が前方に投げるふりをして後ろから走ってきた選手に渡す。

 

 

 ボールを受け取った選手は恐るべき速度で駆けだした。止めようと一斉に走ってくる敵選手の壁を稲妻の様に駆け抜ける。

 

 

 そしてすべての選手を躱し……

 

 

「タッチダウーーーーーーン!!!!」

 

 

 

(すごいな)

 

 

 

 素人目に見ても、今のがハイレベルなプレーだとわかる。たまに家族がルールをよくわかっていないのに野球やサッカーの試合を見て盛り上がっている理由が少しわかった気がした。

 

 

 

 よく見ると、今走っていたのは先ほど知り合ったセナだった。

 

 

 

「やべえ、セナ速ええ!!」

「やっぱり、セナ君かなり成長してるねえ」

「甲斐谷とのコンビ走はかなり厄介だな」

 

 

 

 周りに耳を傾けてみるとセナの走りに驚いていたり、研究していたり、何と言うかその、

 

 

(もしかしてあの人有名人なの……?)

 

 

 

 スマホで調べてみると、

 

〈光速のランニングバック〉

〈真のアイシールド21〉

〈東京大会ベストランニングバック〉

〈クリスマスボウルMVP〉

〈世界大会出場〉

 

 

 

(まっ、眩しすぎる!! 私なんかと比べ物にならない!)

 

 

 

 ギター一本で動画投稿サイト登録者10万人にいくひとりも一流であり、所属する結束バンドもインディーズの中ではそれなりに人気のはずなのだが、隣の芝は青く見えるものである。

 

 

「あ、終わったみたい。初めて生で試合見たけど、すごく盛り上がるのね! あれ? ひとりちゃん?」

 

 

 ひとりは親近感を覚えたと思いきや雲の上の存在だったギャップに脳みそを焼かれ、結局郁代に助けてもらってスターリーに向かうのだった。

 




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