Brave×Beat   作:明石雪路

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20th down G→B

 さてタッチダウンを返して逆転した炎馬だったが……その流れは長くは持たなかった。

 

 

 二度目のフィッシズの攻撃ターン。

 

 魚群による確実に通すパスを止める手段が炎馬に無いからだ。

 

 

 四名のレシーバー、タイトエンドがブロックを素早く組み替えながら雪光がパスをキャッチしていく。

 細かいミドルレンジのパスを繰り返され、たっぷり時間を使って着実にフィッシズはエンドゾーン目指して進んでいた。

 

 

 試合を見ていたベンチの鈴音は、ピコンと頭上にライトを光らせた。

 

 

「そうだ! 電撃攻撃でタカミンを狙えばいいんじゃない!?」

 

 

 鈴音は閃いた! と言わんばかりだ。

 しかし、溝六はそれを否定した。

 

 

「セナか陸を向かわせればいいんだがな、そうするとセイフティがいなくなって後方の防御力が格段に落ちちまう。

 魚群はパスを受けた後の隙をなくすことである程度走って獲得ヤードを稼げる強みがある。セナと陸が高速ブロックで対応しているが、それが弱まれば一気に走りこまれんだ……」

 

 

 その上、高見の後ろに控える青柳もブリッツを行わない理由の一つだった。

 なぜかずっと前線に向かわないのだ。

 雲水は考える。

 

 

(おそらくブリッツを警戒してのことだろう。青柳ならブリッツに来たセナや陸を捕らえられる。それにしても、ランでの攻撃手段を捨ててそこまでパスに専念するか!) 

 

 

 つまり初めの陸の様に、ブロッカーを破り雪光と1対1になってから倒せば止められるのだが……。

 基本的な体格の差は如何ともしがたい。

 

 

 

 フィッシズはショートパス・ミドルパスを繰り返し、フィッシズが再びタッチダウンを獲得した。

 つづくボーナスゲームもキックを決めて13対7。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 炎馬の攻撃。

 

 

 先ほどのプレーを踏まえて、陸がメインのランニングバックとして最後尾にセットした。

 対してフィッシズは比較的真ん中に集まった防御態勢を敷いている。

 

 

「すごい……もう対応してる」

「セナ?」

「さっきまでは中央は青柳さんともう一人のラインバッカーしかいなかった。あの人がいれば僕も陸も止められるから……。でも陸が抜いたことですこし中央突破を警戒してるんだ」

「え? ああ、確かにそうだな」

 

 

 フィールドを見るとなるほどセナの言う通りかもしれない。しかしそれよりも、

(あれ? セナの奴、全体を……)

 

 

「二人とも大丈夫か? 行くぞ!」

 

 

 雲水から呼びかけられてセット。陸は少し浮かび上がった疑問をすてて試合に集中した。

 

 

 一回目の攻撃はセナをリードブロッカー、陸がボールキャリアーとして突っ込む。

 

 

 セナがアウトラインバッカーをブロックし、青柳と陸が一対一。

 

 

「陸を止める手段は二つある」

 

 

 一つは、白秋ダイナソーズの峨王のようにひたすらパワーで突っ込むことだ。しかしそれは掠るだけで破壊できる峨王ならではの攻略法だ。

 もう一つは……。

 

 

「加速する前に捕らえることだ!」

 

 

 青柳は小さく飛んで急発進。体重移動を行おうとする陸に猛チャージ。

 

 

「危ねぇッ」

 

 

 陸は腕を跳ね上げて青柳の腕を弾き飛ばした。

 腕で腕を弾く―デビルスタンガン!

 

 

「これであってるよな……!」

 

 

 先日自分のディフェンスを切り抜けたセナの動きを思い出して再現してみる。

 

 

 陸はバランスを崩しつつも青柳を躱すも、姿勢が乱れたその隙をついた後続のディフェンスによって止められる。7ヤードゲイン。

 

 

しかし続く陸のランプレー、フェイントを入れたパスも青柳と雪光に止められる。

 

 

「はぁーっ……パスは雪くんが、ランは俺が止める。そして高見さんと雪さんの頭脳を始めとした全員の連携プレイ魚群(フィッシュワーム)、これが集英ドクターフィッシズだ……!」

 

 

 青柳がバチボコのドヤ顔をかましながら言言った。

 なかなか腹立たしいツラだが、言う通り攻守ともに磐石な体制だ。

 炎馬の面々はたじろいでしまう。

 

 

 ここでホイッスル。前半が終了した。

 

 

 

「いいい、もう終わり!?」

「大学アメフトの練習試合は1クォーター12分。大会は15分だから前半だけで6分近く短くなっているからな」

 

 

 雲水の解説。セナはあまりの試合の早さに驚愕した。

 

 

「だからフィッシズはパスなのに時間をかけて攻めていたのか」

 

 

 陸は眉間にしわを寄せて敵の動きを理解した。

 

 

(でも、べつに圧勝しているわけでもないのになんで時間を……)

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 後半戦開始。

 

 

 後半の先攻も前半と同じチームが行う。炎馬から攻撃だ。

 何とか6ヤード獲得した三度目のラン。再び陸と青柳が相対した。

 

 

 青柳のエースステーションの直前、小ジャンプを見て陸は上体を揺らして緩急の準備。

 

 

(ジャンプの着地と同時の超加速に合わせて抜き去ってやる!)

 

 

 思い切り踏み込み―

 

 

「もう抜かせねえ……!」

 

 

 青柳はもう一度ジャンプした。陸は青柳のタックル発動後に躱すはずだったのに、タイミングを外されてしまった。

 

 

 刹那の攻防。陸がロデオドライブを発動させる。

 

 

 高速で左から駆け抜ける陸を補足し、青柳が急加速してタックル。4ヤードゲイン、攻撃権獲得だが、止めた。

 

 

「ハァ、ハァ……危なかった……」

 

 

 ゼイゼイと息を荒げて青柳は汗をぬぐう。しかし、止めたぞ。ニヤリと口角を釣り上げる。

 一方で、膝をついて立ち上がった陸は鼻に濡れた感触を覚えた。鼻血だ。

 

  

 

 

 出血した以上、止まるまで陸は出場できない。後半戦の第三クォーター、この試合の分水嶺はセナに託された。           

 青柳を突破しなくては勝利はない。

 

 

 

 攻撃権獲得後の攻撃。控えのランニングバックを用意してハーフバックに置いた。

 

 

 

 

 攻撃権獲得後の最初の攻撃。パスから入る。

 

 

 フィールドを上がるモン太に、全速力でセナがブロッカーとして駆け付けるパスプレー。

 しかし向かうセナにやはり青柳が止めに入った。モン太は振り切れずにパス失敗。

 

 

 続く二回目の攻撃もパスだ。

 

 

(陸は怪我して、セナも封じられちまってる。俺がパスでこじ開けるしかねえ!)

 

 

 意気込むモン太に、雪光の鳩尾を狙った切開バンプが伸びる。

 モン太は鳩尾付近に差し込まれるバンプを待ち構えるようにキャッチした。

 

 

「どこを突かれるかわかってりゃよ、キャッチできんぜ! 雪さん!」

 

 

 モン太は腕を払って駆けだした。

 雪光もバンプを払われるや否やすぐさま姿勢を切り替えて走り出す。

 

 

(このバンプのキモは威力じゃない。急所を狙うことで弱い踏み込みで最大限の成果を得られること。強く踏み込まないからすぐにマークに切り返すことが出来る。これが切開バンプの強みだよ!) 

 

 

 だが、ワンテンポ遅れた隙を雲水は見逃さない。鋭いパスをモン太のキャッチ範囲ギリギリに投げ込み、それを雪光と競り合いながらもなんとかキャッチ。15ヤードゲイン。

 

 

 さらに攻撃権を獲得した。

 炎馬の攻撃が続くがしかし、雪光が切開バンプをやめて徹底マークに努めたことでパスも通りにくくなった。

 

 インターセプトの可能性も踏まえると、パスに集中して攻めるのは得策ではない。やはりランも挟むことで強力な攻撃のウェーブを作ることが出来るのだが……。

 

 

 やはり、攻撃の要はセナだ。

 

 

(どうすれば勝てる……?)

 

 

 

 最高速度ならこちらの方が上だ。しかし、青柳は抜き去る一瞬だけは同じ速度まで追いつく。

 

 

 天を仰ぐ。今の自分の技、取柄。出来ること。

 ふと目端に着いたものが気になってそちらを見ると、そこには大学で出来た友人がいた。

 

 

 目が合った。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 後藤ひとりはセナの姿をみて、心臓の鼓動が速くなっていくのを感じた。

 

 

 追い抜きそうなところを止められて地面を転がるセナを見るたびに惜しい、あと少し、と見ていて悔しいと思わずにいられない。

 

 

 これが戦い続けるということなのか。

 

 

 ひとりは知らなかった。セナはクリスマスボウルでMVPに選ばれたものの、その実は何度も負けた果てにようやく掴んだ一勝で受け取った称号だということを。

 

 

 動画サイトの『アイシールド21スーパープレー集1~3』と合格発表の日の走りしか見たことのないひとりは、セナが試合では圧勝しているものだと思っていたからである。

 試合に出ては軽やかに敵を躱して得点を稼ぐ。そんな超人を想像していたひとりは、今のセナの姿がとてもそうは見えなかった。

 

 

 

 画面の向こうのスーパーヒーローなんかじゃない。雲の上の存在でもない。

 何度も地面に転がりながら、常に前を見据えて立ち上がる泥だらけの男の子。

 

 

「頑張って」

 

 

 思わず言葉を漏らす。本能的に呟いて、両手を握る。勝利を、祈る。

 

 

 そのとき、―アイシールドで見えないが―21番の選手がひとりを見た。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

(あ、後藤さん来てたんだ……)

 

 

 

 あの特徴的な上下ピンクジャージはよく目立つ。

 

 

 鈴音が郁代をチアに誘ったと言っていたし、流れで見に来たのかもしれない。

 隣り合ってバイトの先輩たちも座っている。

 

 

(そういえば、入学してから後藤さんのお世話になってばっかりだな……)

 

 

 試合も後半、集中が切れてきたのか余計なことばかり考える。

 

 

(ライブのチケットを貰ったり、バイト先紹介してもらったり、そこで仕事を教えてくれたり……なにより、すごいライブを見せて貰ったり)

 

 

 翻って自分はどうだ。何度も負けては地面に転がっている。情けないことこの上ない。

 

 

(こんなんであんなに凄い後藤さんにアドバイス的なことをしようとしてたなんて恥ずかしいや)

 

 

 初めて見たライブでのひとりのMCはなぜか鮮明に覚えている。

 

 

『私は、無責任に背中を押すことが出来なくて……。夢は絶対に叶うとか、そんなこと心の底から思ったことないし……』

 

 

 意外だった。あんなに上手くて、カッコいい演奏をするひとりが夢が叶うと思えないなんて。

 そして、少し共感できた。

 

 

(僕も、そうだよ。絶対勝てるなんて思ってない。ただ、絶対に勝ちたいと思ってるだけだ。だから、人の背中を押すなんて僕には……)

 

 

 刹那、セナの脳裏に一つのアイデアが爆発した。背中を押す。……誰の? それは

 

 

 陸は先ほどデビルスタンガンでタックルを凌いだ。

 青柳は一瞬だけセナを捕らえられるほど加速する。

 

 

 だとしたセナの走る道は。

 

 

(これだ。これなら……いけるかもしれない)

 

 

「セナ」

 

 

 話しかけたのはモン太だった。

 

 

「もう3年以上の付き合いだ。わかんぜ。見つけたんだろ?」

 

 

 何を、なんて言わなかった。そんなものがいらないくらい通じ合っている。

 

 

「雲水先輩。次の攻撃、セナで行かせてくださいっス」

「……」

 

 

 雲水は黙った。何が最善策か。どうすれば100パーセント勝てるのか。セナの思い付きが確実に勝てる保証なんてない。『新しいことを思いついたから実践したら勝てました!』なんて少年漫画じゃないのだから。

 だが、セナなら。クリスマスボウルMVP……そしてあの阿含を破ったセナなら。

 

 

 雲水はしばし黙ってから、

「モン太。全速力で、ロングパスを待つように走れ。モン太が突っ走れば守備を集められるかもしれない。その隙にセナは青柳を抜いて走れ。頼むぞ」

「はい……!」

 

 

 全員が配置に着く。

 

 

 

(俺は嘘なんかつけねえ。こんなの嘘だってバレるに決まってら。でも、雪さんは無視できねえはずだ!)

 

 

 

「うっしゃあ行くぜ! ロングパスMAX!!」

 

 

 できるだけ自分に注目が集まるよう、ブラフの作戦を思い切り口にする。

 

 

(モン太君、さっきと違ってわざとらしすぎる。ランで来るかな。……いや、関係ない。僕は全力でマークするだけだ。ランは、青柳くんが止めてくれる!)

 

 

 雪光は全神経を集中させてモン太の一挙手一投足を観察する。

 

 

 

「SET! HUT!」  

 

 

 プレー開始。雲水の手から、セナにボールが渡る。

 そして青柳は、驚くべき光景を目にした。

 

 

(セナが、左から……フィールドの内側から走ってくるだと!)

 

 

 本来負けているチームは時間が進まないように、外から攻めることが多い。フィールド外に出れば時計は止まるからだ。だからこそ守備側もそれを察して外側に守るのだが、今回のセナは違った。

 

 

(普通だったら負けてる攻撃側は時計を止めるために外から攻める。フィールド内で倒れると時計は止まらないからだ。()()()()()()()()()()()()! )

 

 

 そうすることで、比較的守備の薄いほうから一気に攻めあがることが出来る。

 

 しかしそれは倒されてしまえば大幅なタイムロスになるということであり、セナを倒せる唯一の男もそれに気が付いている。

 

 

「逃がさん……!」

 

 

 セナの動きだけを見張っていた青柳が来ていた。

 

 

 SENA(セナ)  VS   AOYANAGI(あおやなぎ)

 

 

 セナは全神経を集中して相対する。

 

 

 

 ガガガ!! と高速でステップを刻んでフェイントをかけ始める。

 

 しかし青柳はセナがどちらから抜いてくるか理解できた。

 

 

(右からくる!)

 

 

 だが、青柳はなにか嫌な予感がしていた。何かわからないが、凶暴な牙を向けられているようなゾワゾワとした嫌な予感が脊髄をなぞる。

 

 

(なんだ、セナは、何をしようとしてる!?)

 

 

 

 もうそこに、セナが来る。

 

 

 セナは超人的なステップで右に爆発的に駆ける。

 動きを察知していた青柳も同時に加速。セナに右手を伸ばして進路を塞ぐ。

 対してセナは、腕でタックルを防いだ。

 

 

(デビルスタンガンか。だが、体格的に押し切れるぞ!)

 

 

 腕で腕を弾くデビルスタンガン。王城戦で編み出したセナの攻撃的な防御技だが、弾くだけでは足りていない。

 先ほどもベンチプレス60キロの陸を止めることに成功している。ベンチプレス40キロのセナならなおさらだ。

 

 

 だからセナは、()()()()()()

 腹の底、丹田に力を込めて姿勢を崩さんと耐えながら青柳の腕を後方に送るように動かす。

 

 

 だけではない。

 防いだ左腕で青柳の背中を捕らえる。

 そして、思い切り押す!

 

 

 簡単な事象だ。

 

 走りながら障害物に手をかけて泳ぐように押すとどうなるか?

 

 

 青柳の恵まれた体格を支点に、セナはダッシュ板を踏み込んだかの如く推進した。

 

 

 足だけでなく、腕も使って光速破り。

 

 

 爆発的な加速力を得て、セナの体は前進する。

 

 

 

「ぐ……また負けるのか、デビルバッツに……セナに!」

 

 

 勉強しかないひょろがりオタクを脱却し、筋肉をつけてやっと自信が付いたのに……体格的に劣っていても諦めずに戦う彼らに敗北感を植え付けられた高校2年。悔しくて、忘れられなくて、大学に入ってもアメフトを続けて。

 

 

 同じく勉強しかしてこなくて運動音痴だった雪光と、足にハンデを持つ高見と一緒に練習しながらディフェンススキルも磨いて……。やっとここまで来たのに。

 

 

 青柳はセナに思い切り手を伸ばす。届かない。

 

 

 エースステーションは瞬間的な加速力を生み出すが……、一瞬だけだ。常時光速のセナの背中を見た時点で届かない!!

 

 

 

 エンドゾーンを超える。

 

 

「タッチ、ダウーン!!!」

 

 

 これで、14対13。

 

 

 

「すげえぜ、セナ! まさか手で押して速くなるなんてよ!」

「すごいよセナくーん!!」

 

 

 ベンチに戻ったセナはモン太をはじめとして炎馬メンバーからバシバシと背中を叩かれた。栗田に叩かれて病葉当然に吹っ飛ばされた。

 

 

 

「まさか、敵とぶつかって速くなるなんてな……大したタマだぜお前はよ!」

 

 

 酒寄はぐびりと煽って転がったセナをねぎらう。

 

 

「デビルバットゴーストでフェイントをかけながら、腕で防ぎつつ押しのけて加速していく。そうさな言ってみりゃ……『デビルバットブースト』だ!!」

 

 

 





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時間たつのはえーな……どっちも……。
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