わかりました、そ、それじゃあ最初から説明します……。
わ、私の名前は後藤ひとりです。
初めてギターを持って、ヨーチューブで活動を始めた時から6年間。この世にたった一人の〈ギターヒーロー〉です。
そ、そこから先は知ってる人も多いんじゃないかなーと……。
結束バンドに入って、初めてライブして、未確認ライオットに出場して、落選して。バイト先に後輩も出来ました。
それだけじゃなくて、他にもええと―――――――――――――
『ギュンギュンハローオーチューブ! ドッどーもっ、ゴトキンどぅえ~す!』
(メントスコーラがあふれる音)
『燃えるコメント欄』
そ、その動画はやめてください……!!
その後も炎馬大学に入って、アメフトに少し興味を持って、観戦したときにインスピレーションも沸いて、作詞した曲の再生回数も絶好調なんです! あ、いや、私たちがこれまで出した曲の中では良いって話で、有名バンドの『イスカンダル』や『Mrs.キング博士』とか程ではないんですけど……。
あ、後は……ぎ、ギターヒーローとしてネットですごくチヤホヤされるんですよ?
登録者も20万人を超えて、コメントでは上手いって褒めてくれて、不労所得も結構増えてて……えへへ。
あ、そういえばそろそろ前の動画から期間空いちゃったし動画投稿しないと……。
と、とにかく!
今、私はギターヒーローで、結束バンドのリードギターで、すごく楽しいです……!
だから今年も未確認ライオットに挑戦して、優勝したいです。それで、正体を明かしてみたい。
ギターヒーローの正体は、結束バンドリードギターの後藤ひとりだ! って……!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「んあ?」
朝六時。後藤ひとりは目覚まし時計が鳴るより早く目が覚めた。
(すごくいい夢を見てた気がする……)
インタビューを受けてドヤ顔で受け答えする夢だ。
随分とご機嫌な夢を見れたが、それは無理もない話だった。
なぜなら結束バンド、未確認ライオットの中間結果発表が100組中8位だったからだ。
「うへへ……」
思い出すだけでも過去一の快挙に笑いが止まらない。ニヤニヤと笑いながら布団の上を転がり、スマホをチェックする。
昨日は『ギターヒーロー』のアカウントで結束バンドの曲をアレンジしてアップしたのだ。
寝るのは遅くなってしまったが、気分が高ぶって作業が捗ってしまった。
正直、今は大学にバンド活動に忙しくて編集する時間はあんまりない。
編集を外注するというのもアリらしいが、
(どうやって会ったことのない他人にお願いすればいいかわからない……)
そもそも対面で人と話すのですら難易度の高いひとりにとって、ネット上でビジネスライクな仕事のやりとりなど空を飛ぶようなものだ。
というわけで全部内製化である。きっと、今後もずっとそうだろう。
気を取り直してエゴサを開始、ヨーチューブの検索欄にギターと打ち込んだところで、いつもと違う出来事があった。サジェストに似たような名前がでてきたのだ。
「『ギターヒロイン』……?」
ひとりの『ギターヒーロー』という名前と随分似ている。
もしかしたら自分のようなギタリストなのかもしれない。
試しに調べてみるとチャンネルがあった。一番上の視聴回数の多い動画のサムネは
「え、エッチだ……!」
水着姿のナイスバディな女性がギターを弾いていた。
ビキニタイプの黒を基調とした水着はシンプルなデザインながら艶めかしさを彩っている。
顔こそカメラに映らないようにしているため年齢こそわからないが、肌のハリから若いことがわかる。
「ヒィィィィィ」
ひとりは自分のことでもないのに恥ずかしくなってきた。両手で顔を隠しながらも指の隙間から画面をガン見する。
ギターのボディに乗っているおっぱいがヤバイ。おっぱいたゆんたゆんのお尻がぷりんぷりんである。
(な、なななななな!)
エゴサはやめた。朝から刺激が強すぎる。
スマホを投げ捨てて布団に潜った。
それにしてもギターヒロインか。自分に関係あったりするのだろうか?
「あとでみんなに聞いてみよう……」
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STARRY
「これがギターヒロインか~」
「露出きわどいですね……」
その日の珍しく結束バンドしかシフトがいないバイト時間、お菓子を広げてちょっとした祝勝会が行われていた。
そんな最中、ひとりが話題に上げたギターヒロインをみんなで見る。
虹夏と郁代が赤面する中、リョウだけが顎に手をやってうなずいていた。
「やっぱりビジュアルでのインパクトは効果抜群。結束バンドでも……」
「「絶対やらないから(やりません)!!!」」
リョウは目を小銭にしながら未開の金脈に想いを馳せ、虹夏と郁代は全力で否定した。
「冗談だよ。コメント欄見ても視聴者の雰囲気がウチのファンと全然違うし、私たちの目指してる方針と合わないから」
「本当かなあ……」
「なんで
「参考にされてるんじゃない? 他の動画でもたまにギターヒーローの名前見るようになったし! 『この曲ギタヒに弾いてほしい』ってさ」
「そ、そうなんですかね、えへへ」
そう考えるとひとりとしても悪い気分ではない。しかし
(ピンクのジャージはやめてほしいかも……私がむ……胸出してるみたい)
「あれ? この人よく見たら同じバンドの曲をよく弾いてますね」
郁代が指摘した通り、ギターヒロインは不定期であるものの特定のバンドの曲を他より頻繁に弾いていた。
「ば、バンド名ジャイアントステップ……?」
リンク先に飛んでみる。
チャンネル名に
【Giant Step@未確認ライオット三次審査出場決定!】
どうやらこのバンドも未確認ライオットに出場するらしい。
「てことは、今度の東京でもライブ審査で会えるかもねぇ」
「私達、ランキング8位ですもんね!」
郁代が声を弾ませた。
「それにしてもここまでランキング上がったのは初めてですね~」
「そりゃあファンが増えてるだろうし、お前らが力を付けてきたからな」
そっけない感じで言い放ち、そっぽを向いてパソコンを叩くのはスターリー店長、伊地知星歌だった。
「あとは単純にこれまでいたシデロスやケモノリアみたいな上位層が去年までで優勝したり、今回は参加してないってのもありますかねえ」
まったりと笑いながら的確に指摘するのはPAである。彼女は日中は割と低血圧故にあまり話しかけてこないのだが、積極的に話に入るあたり今回は結束バンドが上位であることにある程度興奮しているのかもしれない。
「参加しないってあるんですか?」
虹夏が尋ねると、
「別に絶対参加ってわけでもないですし~? 結局は自分たちのバンドを知らしめるのが目的のバンドって多いですから。もうレーベルから声がかかっているのならわざわざ何度も出る理由ないですからね~。後は年齢の都合とかもありますけど」
「むー、なんか繰り上げ当選みたいな感じ……」
「お前らが地力をつけたってのは確かだよ。素直に喜んどけ」
「今年こそ優勝できるかしら……」
「それでも、まだまだ実力派バンドが多いことには変わらない」
リョウがスマホをポチポチして候補のバンドを上げた。
「前回も聞いたことあるようなバンドがいくつかあるけど……ああ、やっぱさっきの〈Giant Step〉が注目株だって。順位ギリギリだけど結成半年もたってないのに30位だから」
「リョウそれは?」
「サイトに書いてある」
「現代っ子だなあ」
「あと最近検索するとめちゃくちゃ出てくる」
「どういうこと?」
「チックトックにイソスタにトゥイッターにニヤニヤ動画にヨーチューブに……とにかくあらゆるSNSに投稿されてる。あとはチックトックで印象的なサビの曲がバズってから爆発的にランキングあげたみたい」
見せてもらうと、全てのアカウントがあらゆるSNSのアカウントページに飛ぶようになっている。ひたすらに門戸を広げ、多くの人に見てもらおうとする情熱がネット越しに伝わってくる。
「わ、私よりも投稿がマメ……!!」
「ほんとだ、喜多ちゃんよりも頻度高い」
軽く目を通したSNSの申し子、郁代が絶句した。全てのアカウントが頻繁に投稿を続けているのだ。
「私も負けられません! 行くわよひとりちゃん!」
「え、あ、ちょ」
「バイトまでには帰ってきてねー?」
郁代はスマホとひとりの手を掴むと店の外に飛び出していった。稀によくある、喜多郁代の〈バズ探し〉である。スペースレンジャーでも見つかるかもしれない。
「おっ、おおおお……!」
虹夏ママが呆れる中、パソコンを見ていたリョウが不器用な悲鳴を上げた。映っているのはジャイアントステップの演奏動画だ。
リョウは極めて珍しく鋭い目つきで演奏を見ていた。
「どうしたの、リョウ?」
「……うーん。まあ。別に」
虹夏の質問に対してそっけない態度で返すと、リョウはパソコンをしまった。
急にテンションが下がるなんてよくあることだ。虹夏はそれ以上追求しなかった。
虹夏は先ほどのジャイアントステップのSNSを思い出した。
(それでもここまで宣伝してるなんて……。私たちもここまですればもっと人気になれるのかな?)
「私たちはそこまでしなくていいと思う」
心を読んだかのようにリョウは虹夏の懸念を否定した。
「なんで今わかったの? てゆーかなんで?」
「付き合い長いし。SNS充実させるくらいなら練習して腕磨いた方が良い。今の結束バンドは十分名前が売れてるんだから、あとは腕前の問題」
(普段ガチで何も考えてないくせにこういう時は鋭いな……)
しかしハッキリ言われると心強い。
「ありがとね」
「別に」
少ししてから郁代とひとりは戻ってきた。
撮影できたのはソフトクリームの形の雲。無理やり投稿したがその見た目がなんかその、うn……みたいで、
後日SNSで謝罪した件については割愛しておく。
「「私たちが間違ってました」」
都内某所
「ほーん、うちらの曲もええ感じに伸びてるやんけ」
とあるレンタルスタジオで、一人の少女がスマホを見て歓声を上げた。
豊かな胸に押し上げられたダークピンクのジャージに黒の細身のパンツ。ピンクパープルのボブカットが特徴的だった。
「ねえ阿野さん。そろそろ練習を始めたいのだけど」
鋭い口調で言い放つのは同じバンドのベーシスト、東だ。腰まである黒髪ロング釣り目も相まって非常にいら立っているように見える。
「そんな殺気立たんでもええやんけ、まだスタジオ入って5分もはいってへんぞ」
「私は1分でも多く演奏したいのよ。このスタジオの時間のケツは決まっているんでしょう?」
「そうは言うてもドラマーがおらんやんけ」
「もう来るわ」
「やあ、待たせちゃったかな?」
スタジオのドアを開けてきたのはドラマー、小森だ。銀色に染めたボーイッシュな髪形に上下スポーツジャージ、四角いリュックも相まって運動部じみている。
「いやあ、最近はコンビニスイーツのバリエーションが多くて迷っちゃうね。流石におでんプリンはキワモノすぎると思うけど。スパークリングおでんはありかもね。二人とも食べたいものある?」
「全部いらん……。いやちょお待てや。そのゲテモノ写真撮るわ」
「はあ……。さっさと準備して頂戴」
「ごめんごめん」
小森が椅子につき、ダダダと軽くキックペダルを鳴らす。
阿野がカシャカシャと劇物の写真を撮る間、小森が思い出したように言った。
「そういえば、私達のランキング出てたね」
「ええ、30位ギリギリだけれど」
「結成6か月でそこまできたら上等やろ。……まあ、目標のバンドとはまだまだ差はあるけどな」
各種機材をセットし、合わせの準備が整った。阿野は、
「メジャーなSNSには片っ端から投稿したし、別アカ作って宣伝も続けとる。切れるカードは全部切った……はずや」
「あとは演奏のクオリティかしらね」
「せやなあ。特に結束バンドには負けられんわ」
「あなた契約の時から言ってるわね」
「そりゃあその一心でバンド組んだからな」
阿野は写真と適当な文言をSNSに投稿すると、ギターを構えた。
「そのために腕のあるお前さんらを雇ったわけやし。ほな、練習はじめまひょか?」
満面の笑みで、阿野はギターをかき鳴らした。
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