Brave×Beat   作:明石雪路

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ギターヒロイン編③

 

 

未確認ライオット 三次審査当日。

 

 

「ここが池袋か~……」

 

 

 結束バンドの面々は池袋駅に来ていた。

 機材車で来たかったところだが、都心で車を止められる場所なんてない。いつもの電車移動である。

 

 

「今回の審査会場ってこの辺だよね?」

「はい! たしか池袋GARDENっていう場所だって……」

 

 

 虹夏と郁代がライブ会場を探す中、

 

 

「ぼっち、この辺で首なしライダーが見れるらしい。もしかしたら懸賞金も貰えるかも。カメラ準備して」

「あの……緊張で無理です……」

 

 

 

 緊張感のないリョウと緊張感しかないひとりがウロウロしていた。

 

 

 

 

 ライブハウスを見つけて中に入ると、何人かのスタッフに話しかけられている男がいた。黒髪長髪の痩身の男。顔だちも整っており、優男といった印象である。

 

 

 彼は結束バンドを見つけると、やあどうも、と手を振りながら近づいてきた。

 

 

「やあ、君たち結束バンドだよね? 初めまして、池袋ガーデンの店長の黒上(くろかみ)です」

「は、初めまして! 結束バンドです!」

「どうもね。今少し立て込んでるから、控室の方で待ってもらっていいかな? シデロスの人たちもいるよ」

 

 

 控室に行くと、腕を組んで瞑目する大槻がいた。

 

 

「大槻さん!」

「! 伊地知さん! 結束バンド!」

 

 

 あからさまにわかりやすいほど笑顔になった大槻はバッと立ち上がった。

 

「遅かったわね。これいる? エナドリとか! お菓子とか!! おあがりよ!」

「いやいらないけど……今日シデロスのオープニングアクトなんだっけ」

「そうよ!!」

「テンションおかしくない!?」

 

「おかしいっす」

 

 ひょこっと現れたのはシデロスのドラム、長谷川あくびだ。袋いっぱいにエナドリを抱えている。 

 

「いつものように緊張して、寝不足でエナドリ飲みまくってハイになってるっす。二人は隠れてます」

「あくびちゃんは?」

「じゃんけん負けたっす」

 

 ため息交じりに袋からガサガサとテーブルに置いて行く。

 

「あら、結束バンドの方々ね」

 

 声をかけられて虹夏が振り向くと、黒髪ロングの美女が腕を組んで立っていた。

 

 あまりに堂々としたたたずまいに気後れしながら、虹夏が名前を尋ねようとしたところ、

 

 

「ええと、あなたは」

東 鏡花(あずま きょうか)。ジャイアントステップのベースよ。今日はお互いに悔いの残らないよう全力を尽くしましょう」

 

 手を差し出されたので虹夏も右手を差し出す。鋭い目つきと凛とした姿勢は若干の近寄りがたさを醸し出しているが、悪い人ではないようだ。

 

 

(お、怒ってるの? 目つきが…)

「怒っているわけではないわ。生まれつきよ」

「エスパー!?」

「表情を読むなんていろはのいよ」

 

 

 東はところで、と話を切り替えてひとりのほうを向いた。

 

「あなた後藤さんよね? この間、阿野と大槻さんと路上ライブしたらしいけど、その後何かあったかしら?」

「ヒョ!?」

 

 

 唐突に矛先が自分に向き、ひとりは目を剥いた。

 

「え、えと」(どうしようどうしようなんて言ったっけ!)

(というか正直に言っていいのかな)(こ、殺される)

 

 

 

「? 殺したりしないわ。ただ、何かあったか知りたいのよ。ずっと彼女のテンションがおかしいものだから」

「別におかしないわ」

 

 

 のそりと現れたのは希望だった。怠そうな態度は以前会ったときと似ても似つかない。東と似たようなジャケットに黒のミニスカート、ハイサイブーツと服装は決めているものの、本人からは覇気が感じられなかった。

 

 

「ああ、後藤さんか。この間はどうも。今日はお互い頑張ろうな」

 

 

 にへらと適当な愛想笑いを送ると、さっさと楽屋のどこかに消えていった。

 

 

「ちょっと待ちなさい」

 

 東は希望の後を追っていく。

 

「ぼっちちゃん、あの人、前の路上ライブのときもあんな感じ?」

「い、いや、違ったと思います……」

 

 

 対面で一度しか会ったことはないが、ここまでやる気がない人ではなかった気がする。

 

 

(もしかして、最後に言ったやつがダメだったのかな……)

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

『なぁ、どうすればギターヒーローみたいになれるん?』

 

 

『あの、わ、わからないです……

 そ、そもそも私は阿野さんが思ってるほど、すごい人じゃないです……。

ずっとバンドで演奏したかったのに誰にも話しかける勇気がなくて、ずっと1人で練習してたから……。でももしそう見てもらえてるなら……多分、ずっと練習したからだと思います……。そ、それ以外してこなかったからわからないです、すみません……」

 

 

(ああ、そうか)

 

 

 阿野はひとりの解を受け、ただ理解した。

 

 どもりまくりキョどりまくりで聞き取りづらかったが、結局「たくさん練習した」だけなのだ。

 捻くれた見方をすれば、「練習を極限まで突き詰めてそのレベルなら才能ないよ」ということである。

 

 

(『ろくに練習せずなんとなくそうなってました』、とか言ってくれたらよかったんに)

 

 

 そう聞けば、全く別の存在だと割り切れたのに。それはそれとして努力すれば辿り着けると望みを持てたのに。努力する天才にどうやって勝てばいいのか。

 

 

(今日はもう適当に流して解散するか)

 

 

 心が、折れていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 会場にて

 

 

 伊地知星歌は妹の三度目の未確認ライオット挑戦を見に下北沢から池袋に足を運んでいた。

 

 

 

「随分でかくなったよな。お前んとこのライブハウス」

「やあ、星歌さんか」

 

 

 星歌が話しかけると、黒上は薄く笑って手を振った。

 星歌と黒上は大学時代によくライブハウスで別のバンドのギタリストとして顔を合わせていた、知り合い以上友達未満の関係である。

 

 

 急にバンドをやめると言ったとき、バンドメンバーもファンも大なり小なり星歌に憤りや失望や悲哀の声が上がったが、黒上だけはあっさりと『いいじゃない。頑張ってね』と笑顔で応援してくれた気がする。

 バンドが違う希薄な関係ゆえにどうでもよかったのかもしれないが、結構その言い方がありがたかった記憶がある。

 

 

 

「最後のライブ以来か。まさかお前もバンド辞めてライブハウスやるなんてな」

「音楽は相変わらず好きだけどね。自分で演奏するよりルーキーをマネジメントする方が合ってるみたいだ」

「へえ、じゃあ推してるバンドとかあんの?」

「まあ、頑張ってほしいのは阿野さん……というかジャイアントステップかな。彼女上京してここで初めてライブしたときから知り合いだし。まぁ…かなり厳しいと思うけど」

「なんで? ……まあ結束バンドも出るし仕方ないか?」

 

 

 若干得意げに星歌に対して、黒上は目をそらして

 

 

「ああいや、周りがどうこうと言うより……才能がないからね。あの子」

 

 

 淡々と言い放った。その言い方は、あえて感情的にならないように努めて無感情で言ったようだった。

 心情は察せられたものの、あんまりな物言いに星歌の語気が少し強くなった。

 

 

「才能が、ない?」

「ああ。五年以上練習してきたのに、新曲一曲通しで弾けるまでみっちり練習して最低一週間はかかる。そうじゃなくても難度の高いコードは弾けないから演出の幅に制限がある。口が裂けても一流なんて言えない。二流もいいところだ」

 

 

 ズラズラと並べられる欠点に星歌は鼻白む。

 

 

「でも、今は準決勝にいるじゃんか」

「健気な阿野さんの売り込みと、演奏はほとんどベースとドラムのおかげだよ。特にベース。彼女は二人の演奏を辛うじて『邪魔してない』から成り立っている」

 

 

 ホラ、とイヤホンを渡されて星歌はジャイアントステップの動画を聞いてみる。高品質な黒上のイヤホンは寸分たがわぬ演奏を聞かせてくれた。

 

 

「ベースは飛びぬけて上手い。ドラムも安定感がある。ギターはなんというか、普通だな」

「でしょ? 学校の文化祭くらいなら褒めてもらえるだろうけど、プロとして鎬を削れるかというと……。まあ、この審査で分かるのかな……」

 

 

 多くのスタッフによって会場が組み立てられていく。果たしてここは栄光の表彰台になるのか。絶望の断頭台になるのか。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 希望と東は、ライブハウスの裏側、薄暗い路地裏にいた。

 室外機の吐き出す生ぬるい風が気持ち悪い。

 

(着いてきてしまった……。阿野さん大丈夫かな)

 

 

 ひとりは、その路地裏の話しているところを覗いていた。

 スニーキングに緊張して息が荒くなっていて気持ち悪い。

 

 

「ねえ、その態度何なのかしら。体調でも悪いなら早く言ってちょうだい」

「鬱陶しいな、オカンか」

 

 

 少し強い口調で東に問い詰められ、希望は諦めてポツポツと話し始めた。

 

 

「ウチは、超凄い一流のギタリストになりたかった。例えば路上でいきなりギター弾いて、誰もが立ち止まるような……演奏するだけでその場の空気を変えるような魅力的なギタリストにな。そんで、その理想に近かったんはギターヒーローやった。前の路上ライブで確信した。ほんまにカッコよかったで?」

 

 

 

「それはよかったわね。私も見たかったわ」

「でもそれで、ウチじゃああはなれないってわかっちゃった」

「……それは」

「少し違うか。『無限に生きてればなれるかもだけど一生かかっても届くかわからない』やね」

「そうかもね」

 

 

 

 

 ひとりは、最近友達と似たような話をしたのを思い出した。

 ただ、彼の得た答えは……。

 

 

『立ち直ったというか……結局超えられないかもしれないと思った。今でも思ってる。それでも、挑んで戦い続けたい思ったんだ、何度も。一生』

 

 

 

「正直ウチ下手すぎてバンド何度も解散するレベルで才能ないし、これ終わったらやめよかな、バンド」

「そういう話はこういう時に話さないで頂戴」

 

 

 結構な悩みを正論で蹴散らす東。

 

 

「それにしてもあなたって『真面目』かと思ったけど、『純粋で卑屈』のほうがあってるわね」

「うっさいわ」

 

 

(でもあの時の路上ライブじゃ阿野さんは……)

 

 

「やめるかどうかは今はどうでもいいわ。せめて私たちの演奏が終わるまではしゃんとしなさい。みっともないから」

「……わかった。もうリハ始まるか。そろそろ戻ろか。小森は?」

「もう着くって」

 

 

 東はよどみない足取りでその場を去った。隠れていたひとりには気が付かなかったようだ。

 

 

 

(私は、なんて言えばいいんだろう?)

 

 

 罪悪感で辞めようとした郁代と違う。

 

 親の七光りだとアンチに叩かれたAmeとも違う。

 

 自分で自分に区切りをつけている彼女に……。

 

 

「結局、頑張った6年間は無駄か。ギターに出会わんかったらよかったな」

 

 

 希望がぽつりとつぶやく。

 

 

「ぁ、阿野さん!」

 

 

 気が付けばひとりは声が裏返りながらも希望を呼んだ。

 

 

「うわ! なんや、聞いとったんか」

「す、すみません……」

 

 

 本気で驚き、そして話を聞かれていたことを察して目を伏せた。

 そんな希望にひとりは、

 

 

「や、やめるんですか」

「まあ……そのつもり」

 

 

 なぜだか、ひとりはそれがすごく嫌だった。

 

 

 

「わ、私は……。誰とも話さずにギターしかしてこないこともありました。でも、ずっと頑張ったからあの日虹夏ちゃんに、結束バンドに会えたから。無駄だとも、なかったことにしたいとも思いたくないです……。

 阿野さんが頑張ってきたことも、なかったことにしたいなんて、悲しいこと言わないで、欲しいです。

 せめて、やめる前に聞いてください。今まで積み重ねた私達の、私の、演奏を……」

 

 





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