Brave×Beat   作:明石雪路

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そういえば、話数的に27クラブに間に合わなかったですね。
そういうことです


ギターヒロイン編④ ブラッドサーキュレーター

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「えー……。オープニングアクトを務めるSIDEROSよ……よろしく……」

 

 

 オープニングアクトが始まり、シデロスが演奏を始めた。がぶ飲みしたカフェインが抜け、どこぞのベーシストのようにぐったりとした様子で死にそうになりながらMCを行うのは大槻である。

 

 

(ヨヨコさん、カフェイン抜けて相当キテるっすね……)

 

 

 明らかに語彙も何もかも抜けている。普段ならもっと勝気なMCなのだが……。

 

 

「大槻ィィィィィィィ!!!」

「テンション低いのカッコいい!!!!!」

「その眼でオレを見てくれ!!! なんかこう、蔑む感じで!!! 養豚場のブタ的な!!!」

 

 

 

 だが観客は訳が分からないくらい盛り上がっている。勝気な少女のダウナーモードは中々ギャップが素晴らしいらしい。

 

 

 

 

 

 それでも未確認ライオット一位を勝ち取ったバンドのギタリストというだけあり、開会にふさわしい演奏を届けている。一番になってやるという力強さとカフェインが抜けた気分の悪さで、演奏には強さと弱さが混在して妖艶な仕上がりとなっている。

 

 

「……あっした……」

 

 

 深夜バイトみたいな挨拶を終えるとさっさと大槻は戻っていったが、会場は大いに盛り上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ぼっちちゃん、大丈夫?」

 

 

 遅れてリハーサルに戻ってきたひとりに、虹夏が心配そうに声をかけた。

 

 

「だ、大丈夫です」

「またトイレに籠ったかと思った」

 

 

 お菓子をモリモリ食べるリョウに、ズイズイお菓子を補充しながら郁代は

 

 

「それでも仕方ないですよ、だって今日やる曲、ひとりちゃんのソロがあるんだから」

 

 

 そう。今日演奏する曲『シューティングスター』、ひとりが大学に入って最初に作詞した曲で、ひとりのソロパートがあるのだ。

 

 

 

『どうせなら見せ場が欲しいでしょ』

 

 

 新テイストの曲をお披露目するということでリョウが気を遣ってくれたのだ。

 

 

(正直ギターソロ見せるの怖かったしなんなら朝まで嫌だったけど、今は違う。どうしても阿野さんに聞いてほしい……)

 

 

 演奏順がジャイアントステップより前なのもありがたい。

 

 

「結束バンドさ~ん。スイマセーン、そろそろ準備のほうお願いしますゥ^~↑」

 

 

 中々癖のあるスタッフに呼びかけられ、舞台袖に移動した。

 観客席の方を見てみると、演奏順が遅いこともあって少しダレていた。こんなことはよくある話だ。すわアマチュアの多いこういった若手中心のイベントともなれば一層よくある話である。

 

 

「うーん、あんまりよくない空気だ……」

「大丈夫ですよ!三年連続5番目だし慣れてきました!」

 

 

 Complateである。

 落ち込む虹夏を郁代が励ますが、とどめを刺しているようにしか見えない。

 

 

「そ、それじゃあ、頑張りましょう……!」

 

 

 そんな中、ひとりは冷や汗をびっしょりかきながら両手を握る

 

 

(ぼっちちゃん、前は嫌そうな顔してたのに、自分からステージに行くなんて……)

 

 

 虹夏は最初の時と変わりつつあるひとりに感慨深さを覚えていた。本人は気づいているのだろうか。

 

 士気は上々。今なら、結束バンドなら何でもできる気がする。

 だんだんとテンションの上がってきた虹夏は、

 

 

「よーしそれじゃあ、円陣組もうよ!」

「いいですね、やりましょう!」

「わ、わかりました」

 

 

 郁代とひとりが賛同し、リョウも

 

 

「……いいね、やろう」

 

 

 意外に乗り気であった。

 4人で肩を組み、虹夏が音頭をとる。

 

 

「それじゃあいくよ、えいえい……」

「ぶっころ……」

「ちょっと待って!?」

 

 リョウが物騒なことを言い出したので慌てて止めた。

 

「え、ファイヤーズのアレやるんじゃないの」

「やらないよ! ここだと危ない人みたいじゃん!」

「でもロックだよ」

 

 

 ……確かにロックかもしれない。中指立てるよりかマシかもだし。揺らぎそうになってしまう。

 

 

「っていやいや! それでもダメ!」

「じゃあ、このダレた空気をぶっ飛ばそう」

「……それならいいかも」

 

 

 気を取り直して。

 

 

「ぶっ」「と」「ばす!」「いえーーーーーーー!!!!!」

 

 

 KESSOKUBAND(けっそくバンド)  VS  MIKAKUNINN RIOT(みかくにん ライオット)

 

 

 

 

 

 

 

 希望は舞台袖で結束バンドの姿を見ていた。

 

 

 今日やる曲は『ドッペルゲンガー』と『シューティングスター』。『シューティングスター』は今年度初発表の曲だ。

 

 

 

「下北沢から来ました、最近やっとエゴサ引っかかるようになってきた結束バンドです!! よろしくお願いします!」

 

 

 

 郁代のMCの後、演奏が始まった。

『ドッペルゲンガー』は何度も聞いた。希望的に好きな曲である。

 一方で『シューティングスター』の立ち向かい続ける様を流れ星に表現し落とし込む作詞力には脱帽だが、希望は共感できなかった。

 

 

(星に何度もぶつかっても立ち向かい続ける、ね。ウチからしたらゾンビと変わらんわ)

 

 

 何度も撃たれ続けても止まらずおぼつかない足取りで、見えているかもわからない目標に歩き続ける死にぞこない。

 何も考えないまま機械的に進む様子がゾンビみたいとは、我ながら性格の悪いと思いつつも的確な表現かもしれない。

 

 なんてバカみたいなことを考えているうちに、一曲目が終わった。

 

 

 続く二曲目『シューティングスター』の演奏が始まった。

 

 

 以前よりもひとりのギターはメンバーと馴染み、一体感を持って演奏されている。

 

 

(それでもギターヒーローの時のほうが上手いな)

 

 

 曲は二番を終え、間奏に入った。

 そこで、ひとりのギターソロが始まる。

 それは、希望の想像も付かない演出があった。

 

 

 弾き始め。音がブレて安定感がない。まるで始めたばかりの時のようだ。

 抑えられていない弦。リズムの取れない音。初心者の様に聞いてられない。

 

 

 だが、少しずつ音が安定していく。合わせて動きも滑らかに、正確に、速くなっていく。

 

 

 

 音楽において音の強さや速さを比例関数的に伸ばしていく表現はある。

 

 

 だが、()()()()()()()()()()()()ことを表す言葉はあるのだろうか。

 

 走り方をまるでわからなかった少年が光の速さに到達するように。

 

 始めたばかりの少女はギターの英雄(ギターヒーロー)に至る。

 

 

(すごい)

 

 

 希望は先ほどのくだらない考えはとっくに吹き飛んでいた。

 太陽の爆発とも呼ぶべき轟く音の流星群が泣きたくなるほど眩く希望を照らす。

 

 会場はとっくにひとりのソロに飲まれていた。

 

 そしてそのギターソロが終わり、虹夏のドラム、リョウのベース、郁代のギターと歌が合流する。

 

 

 

 

 

(ぼっちちゃんと虹夏たち。意外と合ってるな……てか3人が無理やり合わせてるのか)

 

 

 普段の……と言うかひとりは基本的に他のメンバーと合わせるのが苦手だ。ずっと1人で弾いてきたからと言うのもあるが、もう一つ挙げられる理由として「誰も後藤ひとりの全力についてこれない」と言うのがある。

 演奏がアンバランスになるのだ。

 

 だが、今回の演奏は違った。

 虹夏、リョウ、郁代の3人がひとりのレベルに合わせることでハイクラスの演奏になっている。

 

 提案したのはリョウだ。

 

『3回目の参加なら、本気でできるあらゆる手を使うべき』だと。

 

 

「でもぼっちのブランドを使うわけじゃない。ぼっちの突出した実力に、私たちが合わせる」

 

 

 結論は、三人がわずかな間でもハイクラスな演奏をすること。

 

 

 リョウの持ってきた譜面を見た虹夏と郁代は絶句したものだ。

 

 

『え、これマジでやるの?』

『指足りますかね……?』

『ギリ足りる b』

『そんな親指立てられても』

 

 

 しかし誰も拒否しなかった。

 そして今、3人は全力で全力のひとりとセッションしている。

 

 

 例えるならば、最後だけリズムゲーで言うマスタークラスの譜面にしてフルコンボを目指すようなものだろうか?

 

 3人は分不相応なレベルの譜面を弾いている。だが、そうでもしないと一位になんてなれないのだ。

 

 

 一曲全てこのような演奏は無理だ。それはわかっている。薄氷を歩くようなもの。失敗すれば全員がグダグダしたまま終わってしまう。

 

 

 きっと、こんな博打打ちは間違っているのだろう。逆にひとりが3人に合わせ、着実で忠実な演奏が最適解なのだろう。

 最高の演奏を目指して弾けないのでは本末転倒だ。

 でもそれじゃあ足りないのだ。最適解の先、頂点へは覚悟無くして、勇気無くして届かない!

 

 

(やばいやばい私もう腕動かない!)

(私はまだ平気。虹夏はギリギリ走り切れるかも。郁代が危ないか)

(………!)

 

 

リョウもうっすらと汗ばみながら分析する。

限界に近いのは3人の中で楽器経験が1番少ないかつボーカルも務める郁代だ。

 

 

郁代はもはや、何も考えられなかった。汗が目に入ったので目も開けられず、暗闇の中で歌いながら弾いている。

 

それでも焦りはしなかった。皆の演奏が聞こえていたから。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はっ……!」

 

 

郁代が気がついた時には、既に舞台袖にいた。

 

 

「あれ、演奏は……!」

「あ、戻ってきた! 喜多ちゃん意識なくなってたよ?」

「虹夏の最後のMC滑ってたね」

「余計なこと言わなくていいの」

 

リョウの蛇足にデコピンで応答する。

 

「え、私全然覚えてないんですけど……」

「いい入り方だった。ぼっちも……」

「あれ、ひとりちゃんは……」

「完全に燃え尽きて控室で溶解してる」

 

 

「やっぱり大一番で溶けちゃうのは変わんないね……

 はぁーっ……でも、今日の演奏今までで1番良かったんじゃない!? もう腕上がんないけど……」

 

 

 虹夏の問いに答えたのは、観客席からの割れんばかりの歓声だった。

 

 

 

 

 

 

 一方で窮地に立たされたのはジャイアントステップだ。

 観客席で今の演奏を聴いていた東はため息をついて控室に戻った。

 

(想像以上の演奏で完全に空気が持っていかれてる。グダついた空気を変えてくれたのは良いけど、結束バンドの空気にされては結局意味ないわね。阿野の士気なんてもう削り取られてるでしょうね)

 

 

 

 そう思って戻る途中、池袋ガーデンの男性PAとすれ違った。すれ違いざまにそのPAは困ったような顔をして

 

 

「うーん、急に変更かあ。難しいこと言ってくるなあ……」

 

 

 東が控室に戻ると、予想に反して希望はギターのチューニングをしていた。

 そして何より、先ほどまでと纏う空気が違う。

 希望は東に気が付くと、

 

 

「おお、東か」

「どうしたの、準備万端で。それにPAさんが困った顔をしていたけれど」

「それな、今さっき演出思いついて、お願いしたところ」

「なんですって?」

「安心しい、お前らは練習通り弾いてくれたらええ」

「そんなことを聞きたいわけではないわ。私が聞きたいのは心境の変化よ。さっきまで辞めるとかのたまってた人間の行動ではないのだから」

「……今の演奏を聴いてやめられなくなった」

 

 

 希望は下唇を舐めた。東は黙って続ける言葉を待つ。

 

 

「あんな風になりたい。どうしても。やっぱり諦められん。」

「わかったわ」

 

 

 震える声で、はっきりと。東は断るわけもなかった。

 

 

 

「やー、お待たせ。 やっと衣装がしっくり来たよ~」

 

 

 シャツの裾をズボンから出しながら小森が控室に戻ってきた。

 

 

「えっと、もう出番だよね?」

「ええ。小森。準備しなさい。前に練習してた()()をやるわよ」

「ああ、アレね。了解」 

 

 

 急なリクエストだったが、小森は嬉しそうに答えた。

 

 

 

 

 

 

「なあ、どこに投票するよ?」

「結束バンドでしょ! めちゃすごかったじゃん!」

「次のバンドは?」

「さぁ……よくわからないし。もう結束で決まりでしょ!」

 

 

 

 

 

「さあ、ラストはネット発のダークホース、果たして足跡を残せるか『Giant Step』!」

 

 

 司会の紹介を受けて、希望は快活に観客席へ呼びかける。

 

 

「えー、どうも! ジャイアントステップです! こうして実際に表に出たことってほとんどないんで、めっちゃ緊張しとります!」

 

 

 緊張しても明るく話せるのは経験だろうか。東は自分の性格的に無理だろうなと思う。

 

 

「そいじゃあさっそく言ったりますか! ……頼むで」

 

 

 最後、希望は振り返ってBa/東とDr/小森に言った。

 

 

 二人は頷き。その後、衝撃が観客席を包み込んだ。

 

 

 

 

 突如として疾走感のあるドラムとベースの演奏が会場を迸る。会場全体に広がっていた、疾走した後の様な充足感、『もう終わりか……』的ないい感じに落ち着き始めた会場に叱咤するかの如く再点火した。

 

 

 

 ベースとドラムのリズム隊によるセッションは会場の空気を『結束バンド最高!』の空気から『いい演奏に盛り上がっている』空気に塗り替えていく。これで少なくとも自分たちが最後の消化試合と見られることは無くなった。

 

 

(それじゃあ、僕らで道を作ったところで!)

(自分のスタイルで続きなさい! 阿野!)

(せえのっ……―!) 

 

 

 ドン!

 

 

 希望も合流し、ジャイアントステップの演奏が始まった。

 

 

 小森の安定感のあるドラムに、東の歌うように曲の骨子を組み立てていくベース。そして希望の忠実で正確なコードを奏でるギター。

 

 結成して半年も経っていないバンドにも関わらず、ジャイアントステップは息の合った演奏をしていた。

 

 

 星歌は、生の演奏を聴いていてあることに気が付いた。

 

 

「ギターの子、腕前は普通だとしてもよく結成間もないバンドでここまでこれたな。ネックになるのって連携とかあるだろ」

「ああ、それはいくつものバンドを乗り換えてきたからだね。即興のチームプレイは得意なんだよ」

「……そっちのスキルも相当すごくね?」

「本人は気が付いてないし、夢と噛み合ってないけどね。一流のギタリストになりたいのにソロじゃ無理だなんてやりづらかったと思うよ。

 やる気ないバンドは論外だし。上手いメンバーの揃ったバンドじゃ難度の高いフレーズを弾けずに下手扱いだし。同じレベルでそろっても総合値は平々凡々になるだけだし」

 

 

 

(おまけにアドリブだって出来ん!)

 

 

 その中で、希望は汗びっしょりになりながらピックを振るう。

 緊張で手が震え、気を抜けば音を外しそうだ。

 それでも逃げない。一歩を踏み出し、エフェクターを起動させる。

 

 

 これは先ほどとっさに考えたアドリブではない。普段の練習でコツコツと積み重ねた、〈土壇場で差し込んだらカッコいいだろうとずっと考えてきた譜面〉だ。

 

 

 どこぞの陰キャギタリストのように唐突にギターソロなんて希望にはできない。

 鈍い頭を鋭く回し、ずっと前から準備をする。

 

 

 

(これがさっき言ってた演出ね。じゃあ……()()()()()()

 

 

 音を聞くや否や、東はそれに合うメロディに切り替えた。

 その間わずか0.11秒。神速とも呼ぶべきリアクションタイムで希望の演奏を、全体の演奏を弾き立てていく。

 そのベースによる演出は、究極的にはしなくても良い。無理に合わせると失敗するリスクの方が高いし、そもそも他を変えなくても影響がないように考慮したうえでの希望の演奏なのだから。

 

 

 80点の演奏をノーリスクのアレンジで90点出せるところを、リスクをぶち上げたうえで120点を狙うような危険な賭け。

 それでも東は成し遂げる。それは、希望の覚悟に答えたいが故に他ならない。

 

 

 希望はその策に気が付いて内心舌を巻く。小森も当たり前の様に東についていくし、彼女も東も『あっち側の人間』なのだと痛感する。

 かたや自分はあらかじめ決めた演奏をこなすのも一苦労だ。

 

 

(こんな小手先の思いつきじゃ追いつけん。わかりきっとる)

(でも、やってみたい。成りたい。本気で!)

(それになにより、なれなそうだからやめました、なんてあの日のウチに言いたくない!!)

 

 

 

 きっと、ずっとこんな感じなのだろう。すごい演奏を見るたびに自分じゃできないって落ちこんで、それでも諦められずに立ち上がる。

 まさしくゾンビのようだ。折れる癖にそのままになってくれない心が何度も希望にギターを握らせる。

 

 

 そういうものなのだ。夢に憑りつかれた人間は。

 

 

 

 

 曲が終わった。正直かなりミスをした。歌詞も噛んだ。正確性も再現性もない演奏だった。

 

 頭の中は集中が切れ、乳酸が溜まった右腕は動かない。

 

 でも、最高だった。倦怠感と充足感が全身にくすぶり続けていた。

 

 

(ああ、ウチ、まだやめられないんだ……)

 

 

 

 

 

 

 ジャイアントステップがステージから降り、結果発表を待つべく客席に向かうとすぐに結束バンドがいた。

 

 

 

「ううう、不安だ……。なんでリョウは平気そうなの?」

「前に言ったじゃん。私たちがでっかいフェスでライブしてるの見たって」

「私もリョウ先輩の心臓の大根みたいな剛毛分けてほしいです……」

 

 

 一人を除いてグロッキー気味な面々に希望は少し引いた。

 さらにひとりは顔面蒼白でブツブツ呟いている。

 

 

(ソロは私が提案した演出だったけど、正直思い上がりだったかも)

(あえて下手に演奏するってわけわかんないし)

(オエ……緊張しすぎて頭が冷えてきた……)

 

 

 合格発表の時より緊張している。バクバク動きすぎて心臓の形がよくわかる。というか出てきてる。ひとりは胸部から隆起した心臓を両手で必死に揉みほぐすことにした。

 

 希望はそんな右心房を撫でながら宣告の時を待っているひとりの横に立った。

 

 

「後藤さん、カッコよかったで」

「ハァ……ハァ……あ、阿野さん……」

「ウチ、やっぱやめへんから」

「それって……」

 

 

 そしてMCが壇上に立ち、スポットライトを浴びながら結果を発表する。

 

 

「それでは結果発表! 最終ステージに出場できる栄えあるバンドは……

 結束バンドとX4s(エックスフォース)だ!」

 

 

 結束バンドが、決勝進出。

 

 

 

 初めは何を言っているかわからなくて、全員が黙ってお互いを見合った。周りの観客や参加者は大盛り上がりしている。

 

 だんだんと意味が分かってきて、

 

 

「「や……ったああああああああ!!!!」」「ウェーイ」「うぇ、へへへへ」

 

 

 4人は歓喜に包まれた。

 

 

「夢に近づきましたね、虹夏ちゃん……」

「うん! ありがとうぼっちちゃん! みんなも!」

「私はわかってたけどね」

「もー、リョウ先輩めちゃくちゃにやけてますよ!」

 

 嬉しいのに、まだ決勝もあるのに涙が止まらない。曲を出すときともまた違う、結束バンド初勝利の味は彼女たちを充実させた。

 

 

 

 

 

 壇上に上がり挨拶をして、拍手を受けて準決勝が終わった。

 

 

 各バンドが変える中、結束バンドも荷物を纏めてその場を離れようとしていた。

 ひとりは忘れ物に気が付いて1人楽屋に戻ったところ、希望がひとりに近づいた。

 

 

「後藤さん」

「あ、阿野さん……。そういえばさっき言ってたのって」

「ああ、それな。やっぱ音楽やめないことにしてな」

「ほ、ホントですか……! よかった」

「というか、ウチはやめられん。らしい。その……後藤さんのソロ見てカッコいいなって……ああなりたいなって」

 

 

 推してるギタリストを前にしたからか、希望は少し頬を赤く染めながらいった。

 

 

 

「だから、ウチはやめん。辞めたくなるかもだけど、頑張るよ。だから後藤さんたちもやめないでな」

「はっはい! あの、前に大槻さんと阿野さんと一緒に演奏したとき……合わせやすくて、弾きやすかったです。だから、また一緒にやりましょう」

「……~~~~~も~~~~後藤さん可愛すぎか!!」

 

 

 大好きなギタリストに褒められて感極まった希望は、我慢できずにひとりに抱き着いた。

 

 

「あ、阿野さん?」

「あっ、ひとりちゃんが抱き着かれてる!」

 

 

 帰りが遅くて楽屋に戻った虹夏は声を荒げ。

 

 

「すげぇぜ、体がのけ反ってる」

 

 

 脅威の合計値180センチのハグに冷や汗をかいたのはリョウだ。

 

 

「ひ、ひとりちゃん何を……」

「仲良くなってよかったねえ」

 

 その光景によくわからない感情が芽生えたのは郁代で、微笑ましそうに眺めるのは小森だ。

 

 

 

「あなた何セクハラかましてるの?」

 

 

 最終的に首根っこを引っ掴んで希望をひとりから引っぺがしたのは東だった。

 

 

 

 

 

「うちの阿野がご迷惑をおかけしました」

 

 

 毅然とした態度で謝罪をし、希望を引きずって東はその場を後にした。

 

 

「全く、負けた人間の態度じゃないでしょう」

「まあ、意外と単純な人間だったってことやね」

「ずっとしょげてるより全然いいよ」

 

 

 荷物を纏めてライブハウスから出ると、少しぬるい風が三人を叩いた。

 

 

「このあとどうしようか。打ち上げ行く?」

「そうね。私はどちらでも。阿野は?」

「あー、そのまえにええか」

 

 

 希望は二人を呼びとめると、

 

 

「一応ウチが二人を雇って、契約的に『未確認ライオット敗退したら終わり』にしてたから今日までってことなんやけど……」

「ああ、確かにそうね」

「忘れてたや」

 

 

 希望は両手を何度も絡ませながら、慎重に言葉を紡ぐ。今までバンドを結成しては解散や脱退を繰り返した希望にとって覚悟のいる行為だった。

 

 

「あの、これからもバンドを……」

 

 希望が言い切る前に東が割り込んだ。

 

「私からお願いするわ。小森と三人でバンドやりましょう。今度は金の関係抜きで」

「続けてくれへん……ってなんて?」

 

 

「私も組みたいと思ってたのよ。貴女も思ってたのね。ちょうどよかったわ。よろしく。小森も」

「ん、いーよ」

 

 

(東さんてば、阿野さんが言い切る前に言ってトラブル避けたね。言わせたらまだお金の関係が残っちゃうし、誘った立場的にお金抜きでって阿野さんの立場からは言えないしね)

 

 

「え、あ、じゃあ、よろしく……?」

 

 

 結構一世一代のお願いだったのだが、ストンと上手くいってしまった。

 初めて相手からお願いされてバンドを結成できたことにだんだんと感動していると、東が口を開いた。

 

 

「それじゃあ、この後ファミレスでご飯食べてからバンドの方向性と拠点を決めていきましょう。バンド名は変えなくていいわよね。まあ直近の課題は阿野のスキル不足だから、一旦は合わせの練習を増やしましょう。近場に夜までやってる練習スタジオあるから、この後で予約しておくわね」

「え、この後? いつまでやるん?」

「貴女確かバイト三日は空けてるって言ってたわよね?」

 

 

 うそでしょ。

 

 

 背負ったギターバックを引っ掴まれて連行されながら、これから行われる練習地獄にさっそく心が折れそうになった。そして……一緒に歩いてくれる仲間が出来たことに希望は口角が上がることを我慢できなかった。

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 それじゃあ、もう一度だけ説明するか。

 

 ウチは阿野 希望。ジャイアントステップのギターボーカル。

 

 6年前に見たライブの映像にあこがれてから、ずっとその姿を追いかけ続けてる。

 

 後は知ってると思うけど。ベースとドラムを雇ってバンドを組んで、派手な格好でギターを弾いた。

 

 一流のギタリストたちと路上ライブをやってやめてたくなって、結束バンドの演奏を聞いてやりたくなった。

 

 きっとこれからもギターやバンドを続けて、何かの拍子に辞めたくなるかもな。

 

 

 

 

 そんな時は仲間と好きなバンドの曲を聞いて……あの日の流れ星を思い出す。

 

 新しくできた仲間と、友達と一緒に。

 




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