Brave×Beat   作:明石雪路

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デビルバットの飛ぶ先は

 

 

炎馬アメフトグラウンド

 

 

 

「ドラゴンフライ行くぞ!」

 

 

 炎馬ファイヤーズは、以前から開始されたドラゴンフライの練習をしていた。

 

 

 クオーターバックにセナと雲水。ランニングバックは陸の一枚。

 

 

 栗田がボールをスナップし、セナが受け取る。

 今回の作戦は、ランニングバックの陸が上がってからショートパス。

 

 

(よし、躱しながらこのボールを陸に……!)

 

 

 そして陸がロデオドライブで躱しながらフィールドを上がり、

 

 

(今だ!)

 

 

 セナがボールを投げた。……陸から右に3メートルの位置に。

 

 

ボボンボンボン。誰もいないところにボールが転がった。

 

 

 

「もう一度行くぞ!」

 

 

 再びセット。ボールを受け取ったセナが投げようと振りかぶる。

 

 

 

シュルボロリア~ン

 

 

 手からすっぽ抜けたボールは地面を転がっていった。

 

 

 

 

 

 

「「ぜんぜん上手くいかねえ!」」

 

 

 休憩タイム。コータローと水町が絶叫した。

 

 

「びっくりするほど連携とれないな……」

「連携というか、セナがノーコンすぎるんじゃ」

「ご、ごめんなさい……」

 

 

 陸と鈴音が脂汗を垂らしながら呟き、申し訳なさにセナが縮こまってしまう。

 

 

「泥門の2年目もオレにしかパス通らなかったしな……」

 

 

 セナのヘロヘロボールでは飛距離も足りず、回転はめちゃくちゃ、コントロールもなかった。パスのほとんどをキャッチ抜群のモン太にショートパスで回すしかなかったのだ。

 

 

雲水(すいっちゃん)が投げ方教えてあげないの?」

 

 

鈴音が提案するも、雲水は困ったように

 

 

「俺とセナでは体格も筋力も違うからアテにならないだろうな……。俺と同じ投げ方で無理に投げれば肩を壊すだろう。アメフトボールは野球ボールと違って重いしな」

 

腕を組んで雲水はうなる。

 

「しかしこれでは相手に選択肢を押し付けるドラゴンフライにならないし、練習をしないわけに行かない。セナは走りながら投げる練習と上半身の筋トレを増やしながら投げ方を見つけていこう」

「はい!」

 

 

 

 大きな課題だが、これをクリアすればさらに進歩できる。

 セナは力強く答えた。

 

 

 

STARRY、上階練習スタジオ

 

 

 

 以前にも説明したが、伊地知星歌が営むライブハウスの上階は楽器練習スタジオになった。

 部屋数は6部屋。17時から翌昼の12時まで練習ができる。楽器は各種レンタル可能。

 その日の夜勤バイトメンバーはリョウ、ひとり、セナの3人だった。

 

「受付しとくから、二人は楽器のメンテよろしく」

 

 大先輩山田様の命を受け、ひとりとセナは客が出た後の個室を清掃していた。

 

 

 忘れ物確認。備品の補充に清掃。楽器のメンテナンス。

 クロスでキーボードやギターの弦の汚れを拭き取り、弦楽器はチューニングを整える。

 かなり地味な仕事だ。リョウもめんどくさいから二人に投げた節がある。

 

 

 

 だが口下手な二人は人と話さなくてもいい作業なので非常に好きだった!!!

なんならお互いに無理に話さなくても良い相手と認識しているので、黙っていて苦しくなることもない。

 

 

……はずなのだが、ひとりはやけにソワソワしながらチラチラとセナの方を何度もチラ見する。

 

(ど、どうしたんだろう後藤さん……)

 

 お互いに喋り下手なところがあるので、黙々と作業していればいいのだ。

 

 

似た光景は前にも見た。入学してしばらくした頃、セナ達ファイヤーズ組の誰とも被らない講義に出ていたひとりを見かけた時である。

結束バンドTシャツにリストバンドにサイリウムリングをつけて音漏れしまくったイヤホンをつけて周囲をキョロキョロ見回していたのだ。

 

 

(ぎゃーッ! なんで私は高校と同じことを!? き、気がついたらこんな姿に……?)

 

 ……その後、自分の姿に気がついて戦慄していたが。

 

 鈴音の分析によれば『会話待ち』状態らしい。

 

 見るに堪えなくなったセナは話しかけることにした。

 

 

 

「あの、後藤さん最近何かあった?」

 

「あ、やっぱりわかっちゃいますかねえ……えへへ。わ、私としてはそんな気はないんですけど」

 

 

 ニタニタと気色の悪い笑みを浮かべて体をくねくねさせるひとり。本来ならばついつい自慢したくなるようなかわいらしい光景なのだろうが、一人の動きは明らかに骨がない人体工学的に不可能な靭やかさだ。

 

 

「こ、この間未確認ライオットってライブで準決勝突破したのは言ったんですけど、まだ応援コメントとかあって……」

「へ、へえ、すごいね……」

 

 

 やっぱりこの話題であった。もう何度目だろうか。

 

 セナや炎馬組のバイトメンバーはすでに未確認ライオットで本選に出られることを知っている。なので別にさして驚くべき話でもないのだが、ちょっと応援コメントが増えたり音楽系のサイトに名前が上がるとすぐに報告してくるのである。

 

 

 まるで付き合って一か月ごとに祝おうとする彼女のような面倒くささであるが、邪険にするわけにもいかずセナは肯定している。

 

 

「じ、自慢するわけじゃないんですけどね? でへへ」

 

 

 そしてセナも甘やかすからひとりも調子に乗ってベラベラ自慢してくるのである。

 

 

(それにしても後藤さん、今バンド活動調子いいんだ。僕も負けてられないや)

 

 

 そんなことを考えていると、

 

 

「いやそれ自慢やろ」

 

 

 あきれた少し低いトーンで声がしてセナとひとりが振り返るとパープルピンクのボブカットの美少女が立っていた。

 

「あ、すみません。もうすぐ清掃終わりますから……」

 

 お客さんかと接客モードに切り替えるセナに対して、ひとりは面識のある人物に驚いた。

 

 

 

「あ、阿野さん」

 

 

 そこに立っていたのは未確認ライオットで結束バンドと競ったバンドのギタリスト、阿野希望だった。

 

 

「ど、どうしてここに」

「どうも。ミュージックテクノから電子楽器とアンプのメンテナンスにきました。よろしゅう」

 

 

 そういえば大槻と三人で路上ライブしたときもアンプを直していた。まさか仕事にしていたとは。

 

 

「お、お願いします」

「後藤さん一週間ぶりくらいやね。かしこまらんでええよ。お兄さんも、すぐに終わるから気にせんとって」

 

 

 工具箱を置いて作業を始めようとしたところで、思い出したように立ち上がってセナに近づいた。

 

 

「なんか見たことあるような……。もしかしてお兄さんってアメフトやっとる人? いつだか優勝してたチームにおった?」

「そ、そうですけど」

「やっぱな。ウチ帝黒出身やけ話題になっとったわ。学校にも来てたよな」

 

 

 まさかまさかの帝黒出身。思わぬところに縁はあるものだ。

 

 

「そんな有名なんですか」

「まあ、創部から負けなしの部が初めて負けたわけやしそら話題になるわ。ウチとしては珍しいモン見れて楽しかったけどな。ウォルター・キャンプ(アメフトのおっさん)の像見た? あの像うちの学校にしかないらしいよ」

「は、はあ」

(すごくぐいぐい来るタイプだ……)

 

 

 セナが若干気圧され気味なことに気が付かず、 

 

 

「せや、花梨知っとる? 今度アメフトのマンガ描くらしいで」

「花梨さんとも知り合いなんですね」

「あいつピアノやるし、たまに合わせとったよ。アメフト始めてからは全然やけど」

 

 

 小泉花梨。帝黒アレキサンダースの一軍クォーターバック。157センチ、ベンチプレス35キロにもかかわらず止まって見えるほどの見事な回転のかかった花片(フローラル)のシュートをなげる実力者である。

 ただでさえ正確なパスを投げるというのに栗田の猛チャージを躱す俊敏性もあるものだから、パスを中々止められずに苦戦したものだ。

 

 

「今はアメフトのマンガ描いてるんやって。今度選手に取材したい言うとったよ」

 

 ……!

 

 セナは天啓が降り、希望に話しかけた。

 

 

「あ、あの!」

「へ、急に呼び捨て?」

「あ、いや、そうじゃなくて……阿野さん、花梨さんの取材受けるので、代わりというか……クォーターバックとしての投げ方を教えてもらうようお願いしてもらってもいいですか?」

 

 

 小柄な体躯に足のあるスピード型。クオーターバックとしてはポケットパッサーではあるが、セナと共通点の多い彼女から学べるものは多いはずだ。

 

 

「聞いてみるけど、まずは薄ら笑いで影を薄めてる後藤さん直すとこからやな」

「え? あ、後藤さーん!!」

 

 

 2人が自分の知らない話題で盛り上がり始めて気まずくなり、透過率50パーセントに低下させたひとりは安らかな表情でたたずんでいた。

 

 

 

数日後。

 

 

 

「ええと、私なんかがセナ君の指導係とかでええんやろか……」

「向こうが教わりたいいうとったわけやしええやろ。後藤さん、グラウンドってどっち?」

「た、多分こっちだと思います。……あってた、よかった……」

 

 

 炎馬グラウンドに、普通なら絶対にありえないことに美少女が三人来ていた。

 

 

 はんなり俊足クオーターバック、小泉花梨

 なにわグラマラスギタリスト、阿野希望

 下北沢のツチノコ、後藤ひとり

 

 

 むさくるしい炎馬アメフト部にありえない来客に、ジャガイモどもは色めき立つ。

 ラインマンの国木田と山崎は、

 

 

「おいおい、誰か声掛けに行けって!」

「俺じゃ無理だ、中村ァ! 行け! 非モテ同盟唯一の遊撃隊のお前なら上手く話せるだろ!」

「俺はいいよ、こないだ彼女できたし」

「「誰かこいつを殺せッ!!!!」」

 

 

 ラインの馬鹿どもがぎゃあぎゃあ騒ぐ中、花梨は申し訳なさそうに

 

 

「セナ君に呼ばれてきたんですけど、おりますか……?」

 

 

「「セナテメェ!!!」」

 

 

 セナは袋叩きされた。

 

 

 

 

 

 

 

 近くのベンチでは、

 

 

「へえ、アメフトってこういう練習するんやね」

「あ、阿野さんは帰らないんですか……?」

「せっかくだし見学しよかなって。一緒に見ようや。あ、鈴音ちゃん」

「のんちゃんいらっしゃい! ぼっちちゃんも!」

 

 

 ジャージのマネージャー姿の鈴音が大きめのビニール袋にお菓子とジュースを抱えてローラーブレードで滑ってきた。

 

(2人ともいつ仲良くなったんだろう)

「どしたん? その荷物」

「先輩たちが『奢りさ☆』だって」

 

 

 バーでウイスキーを滑らせるノリで寄越してきたお菓子で、ちょっとした女子会が開かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あふぇ、ほうははりはほうはりんはん」

「大丈夫なんですか……?」

 

 

 数分後顔面をパンパンに腫らしながらセナと花梨の投球練習が始まった。

 ちなみにぶつかりあう練習をするわけではないので、花梨はジャージ姿である。

 

 

 

 一緒に、雲水と陸、モン太も近くに準備している。

 

 

「しっかし、セナが小泉に教えを乞うとは思わなかったぜ」

「たまに飯行くし、キッドさんに聞いてもよかったのに」

「まあある意味最適解かもしれないな」

 

 

 モン太と陸に、雲水は腕組みしながら答えた。

 

 

「新しい戦術を考案するうえで下手に現役選手の元へ行くとどこぞの悪魔に補足されかねない。そうでなくてもどこのチームも偵察するものだしな

 小泉さんはもうアメフトはやめているし、マークもされていないはずだからちょうどいいだろう」

「……確かにそうかもしれませんが」

「それに、キッドの投げ方(早撃ち)は彼のセンスによるものだ。陸から見て、セナが習得できると思うか?」

「いえ、難しいと思います」

「バッサリ言うなぁ……」

 

 

 陸の即答にモン太が鼻白む。

 だが陸には間近であの投げ方を見てきたからわかる。

 早撃ちをマネするには、腕の動きとポケットパッサ―として敵をギリギリまでひきつけながら状況を把握する胆力が必要なのだ。

 申し訳ないがセナが出来ると思えない。

 

 

「だが、それでもいいと思う」

 

 

 雲水は力強く答えた。

 

 

「ただ単純にマネをしたって、下位互換になるだけだ。試行錯誤してセナだけのQBスタイルを身につければいいんだ」

「オウっすよ!」

「はい!」

 

 

 

「それで、セナ君は知りたいこととかって……」

「えっと、僕の手が小さいからかどうしてもボールがすっぽ抜けちゃうんです。RBの持ち方にすると投げにくくて」

「あー……」

「そういやセナって泥門時代からよくボール落としてたよな……」

 

 

 モン太が昔を思い出してみるとなるほど、結構すっぽ抜けてた気がする。クリスクロスとか……。

 

 

「あとはレシーバーに投げるときに僕の背が低くてモン太の場所が見えにくいから、どうやって探してるのかなとか」

「全部対策したヤツや……。ウチがなんか言ってどうなるかわからんけど、帝黒でやってた練習をしていきましょうか」

 

 

 かくして、小泉花梨によるセナのQB修業が始まった。

 

 

 

 

 




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ついに作中トップクラスの(ある意味)超人の登場ですな
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