Brave×Beat   作:明石雪路

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あけましておめでとうございます(激遅)


明日を導く銀の玉 前編

 小早川セナの朝は早い。

 

 六時ちょうどにけたたましく鳴る目覚まし時計をとめ、モソモソと布団から体を出した。

 今日は朝練がある日なので、私服ではなくジャージに着替える。

 洗面所に向かい、3秒間鏡を見てみた。

 

 少し眠たげで童顔な自分が映っていた。髪型はワックス要らずノータッチでアトムスタイル。なんでこうなるのかはわからないが、手間が省けるのでちょうどよかった。

 

 歯を磨いて顔を洗うと意識もはっきりしてくる。

 家族と朝食を終え、家を出る前に荷物の総点検。

 

 財布、タオル、着替え、制汗剤(鈴音に押し付けられた)、筆箱、モバイルバッテリー、参考書、ノート、ハンカチ、ティッシュ、折りたたみ傘、アメフトボール、エトセトラ……。

 

「あ、忘れてた」

 

 今時珍しい提出物の手書きのレポートを掴んで鞄に放り込む。

 

(まもり姉ちゃんと離れてから忘れ物減った気がする……)

 

 大事なのは独り立ちすることだったのかもしれない。……まあそもそも、まもりが弁当や折りたたみ傘を持ってきてくれたのは昔のセナが忘れまくっていたからなのだが……。

 

 

 そんなことを考えながら机の上をもう一度チェックすると、レポート用紙の近くの写真立てが目に入った。

 

《泥門デビルバッツ・全国大会優勝‼》 

 

 写真の中ではみんなが笑っており、無理やり持たされたセナの手の中でトロフィーが眩く輝いている。

 

 見るだけであの時の熱がこみ上げてくるようだ。

 

「それじゃあ、行ってきます」

 

 おそらく玄関先ではモン太と鈴音が待っていることだろう。

 

 今日も頑張ろう、まずは朝練、そして一限の小テストだ! 

 

 

――――――――――――――――

 

 後藤ひとりの朝は早い。てか3時くらいからずっと起きてた。

 

 無理もない。

 過去のトラウマが夢に出てきて跳び起きてしまったからである。

 

「ま、まさか中学の時の給食の時間にヘビメタ流したのがフラッシュバックするなんて……」

 

 おまけに夢の中の自分はデーモン閣下みたいなメイクまでばっちりだった。当時そんなことはしていないはずである。……たぶん。

 

 そこからはずっと目はバキバキ、眠れないままだったので明日が提出のレポートを見直して書き直していた。

 そして終わったからとりあえずで布団に入ったが、5分経ったら六時のアラームが鳴ったのである。

 

 仕方がないので朝を支度をすることにした。

 洗面所に向かい、鏡をのぞく。

 

 ぼさぼさのピンクの髪の隙間から覗く目、その下にクマのできた自分が胡乱げな表情で鏡を見ていた。肌が色白なのでクマは余計に目立つ。どうしようとも思わない。ずっとこの顔だ。

 洗顔し、化粧水(郁代と鈴音と星歌とPAに本気の顔で勧められた)をつける。

 

「こんなのしてどうするんだろう……」

 

 効果はよくわからないが、これを言ったらPAと星歌が結構本気で頬をぷにぷに引っ張ってきたので大事なことなのだろう。(ちなみに星歌は虹夏に止められるまで頬を触っていた)

 ヒトリヲイジメヌンデ……。

 

 家族で朝食を食べ、家を出る前に荷物の総点検。

 

 財布、筆箱、モバイルバッテリー、参考書、ノート、一晩かけて直したレポート、エトセトラ……。

 忘れ物はなし。だが頭が重たく、陰鬱とした気分だ。

 こういう時は【アレ】しかない。

 

 ひとりは黙って部屋のサイドチェストの一番下、一番大きな引き出しを開けた。ほとんど開いたことのないぴかぴかの参考書を取り出していく。

 

 引き出しの内側には高校一年の頃に結束バンドで撮影したアー写が貼り付けられていた。笑顔が眩しい郁代と虹夏、クールな表情のリョウ、こっちを見ていないひとり。初めて撮った思い出の写真だ。

 

 ……それが小さいサイズでびっちりと張りつけられていた。引き出しに頭を突っ込むと写真に囲まれる形で。集合体恐怖症(トライポフォビア)の人間が見たら失神する光景であった。

 この写真を見ているとメンタルが回復するのだが、バレずに、且つ効率的に回復するにはどうすればいいか突き詰めた結果こうなった。

 

「ああ、回復する……」

 

 ひとりは頭を引き出しに突っ込んだ。はたから見ると引き出しに頭を食われているように見える。ネウロで見たことある気がする。

 十人十色のストレス発散方法があるものだ。

 

「行ってきます……」

 

 ちょっぴりメンタルの回復したひとりは玄関のドアを開けた。

 

「あ、今日一限目小テストだ……」

 

 ……レポートと同じ範囲だしなんとかなるか、頑張ろう……。

 

 

――――――――――――――――

 

 

 山田リョウの朝は……

 

「あ、もう6時か。寝よ」

 

 リョウはベースをスタンドに戻してパソコンをシャットダウン。デスクから立ち上がると眩しい朝日を遮光カーテンで完全カット。デスクのライトも消すとリョウの部屋に闇が充満した。

 

 山田リョウの朝は終わった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 山田リョウの朝は15時ごろから始まる。

 一人暮らしを始めて以来、リョウの生活リズムは大いに狂っていた。

 朝4時に寝て10時に起きればいい方だ。たまに夕方まで寝ている。さすがに20時に起きたときは軽く後悔したが、後悔しただけだ。

 

「……腹減ったな」

 

 最後にご飯を食べたのは伊地知家の夕飯時。胃袋がちぎれるくらい掻っ込んできたが流石に尽きたらしい。

 

 さっさと身支度を済ませると外に出た。

 

 近所の河川敷をしっかりした足取りで往く。

 

 ほとんど身支度に時間をかけていないのに肌は陶器のように白く綺麗で、肩で風を切って歩くさまは絵になるものだ。

 

 途中で足を止め、草木を撫でる。

 

 儚げな表情を浮かべて草木をめでる様はまるでエルフの貴族のようである。

 プチ、と草木を摘むと持参した手提げに入れた。

 そして、

 

 「これは食べられる」

 

 

 昼食集めである。

 リョウは慣れた手つきでプチプチと手際よく可食植物を集めていく。ゆでてポン酢で合えればそれなりに食えるのだ。天ぷらにしても美味いらしいが、揚げるための設備がない。

 

「…………」

 

 優雅だったその様はだんだん飢えた獣の様になってきた。無理もない。ここで採れなきゃ飢えて死ぬのだ。

 

 以前は適当に雑草を食べていたが、キチンと精査すれば問題なく食べられることが分かってからは時たまこうして食材を集めている。

 

 めぼしいところを漁ったのち移動した。ここはあくまで前菜。大量に採取できるレッドスポットはこの先にあるのだ。

 

が、しかし。

 

 

「……! な、ない……!」

 

 なんとすべてなくなっている。あり得ない。以前生えたての群生を見つけ、育つまで待とうと思ってから手はつけていないはず……。

 

「よーし、皆採取できたかー?」

 

 ふと話し声が聞こえてみてみると、大学生の一団がいた。彼らの手元にはビニール袋いっぱいに食草が入っている。

 

「それじゃあこれから戻って、成分を分析していくからなー」

「「「はーい」」」

 

 どうやらどこかの大学の研究室がサンプルとして成長したものは根こそぎ持って行ったらしい。

 残っているのはちんまりとした小物のみ。

 

「そんな……」

 

 リョウは絶望した面持ちでその場を去った。

 

――――――――――――――――

 

 気が付けばリョウは繁華街にいた。

 

 ここを抜けたあたりにあるパン屋で耳を貰うのだ。正直最近パンの耳を食べすぎで見るだけで吐き気がするくらい嫌いだが仕方ない。

 

 歩いていると目端に見覚えのある人間が見つかった。紫っぽい三つ編みにスカジャン、カラカラと下駄を鳴らしてギターケースを背負う彼女はSICK HACKのベースボーカル、廣井きくりその人だった。

 

(廣井さんだ、なんでここに)

 

 このあたりにライブハウスはない。また電車を乗り過ごしたのか。

 

 だが一緒に並んで歩くその人を見た時、リョウの心臓はバクンと跳ねた。

 

 侍のようなモヒカンツンツンヘア、白のタンクトップに腹巻をまいて下駄を履いた小柄な中年男性だ。手には瓢箪を握っており、ごくごく煽っている。

 彼らはなにか言葉を交わし、時折ゲラゲラ笑いながら一緒に歩いていく。

 繁華街を歩く異色の男女コンビにリョウは悪寒が走った。

 

(もしかして、P活というやつでは……!)

 

 憧れのベーシストがそういうことになっているのはかなり心に来るものがある。だがあり得ない話ではない。廣井は金がないのだ。

 

(せ、せめて決定的なところを見るまでは……!)

 

 リョウは気づかれぬよう、そして見失わないよう距離を置きながらつけて行くことにした。

 相変わらず二人はなんだか楽しそうにしゃべりながらカラカラカラカラやかましく下駄を鳴らしている。

 だがこれからホテルに向かうかもしれない人間の雰囲気ではない。

 なんなら普通の人間から漂う臭いでもない。

 ふわりと異臭がしてリョウは思わず顔をしかめた。

 

(臭い……)

 

 キツいアルコール臭に鼻の粘膜が焼かれそうだ。

 ただ歩いているだけなのにうっすらダメージが入ってくる。これはどっちから匂っているのだろうか。

 

 二人が急に右に曲がったので、猫背気味のリョウはすかさず駆けだした。そこは。

 

 

ピカピカキュイーンキュワワワワワジャラジャラジャラジャラ……。

 

 

「パチンコ……?」

「あれ、山田ちゃんじゃーん?」

「なんだ、お嬢の知り合いか?」

 

 そこには、不思議そうにリョウを見る廣井と、中年男性……酒寄どぶろくの姿があった。

 

「廣井さん、えっとこの人とはどういう」

「ああ、酒寄せんせーね~。居酒屋で仲良くなってさぁ」

「パチンコ打ってみてえっていうから連れてきたわけよ」

 

 

P活(パパかつ)じゃなくてP活(パチンカツ)だった……」

 

 次回、打つのか!?





お久しぶりです、遅くなって申し訳ありません。


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