Brave×Beat   作:明石雪路

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筆休めで番外編的なの書いたつもりなのに、すげえ時間たってる……。
ちなみに私はもうパチンコあんまり行かないデス。
トータル三万負けてるし


明日を導く銀の玉 後編

 パチンコを打つことになった。

 

「私初めてなので全くわからないのですが」

 

 了承したものの、初めての経験にリョウは手を上げる。

 

「そうか、二人とも初めてなら安い方にするか」

 

溝六はそういって4円パチンコ台のエリアを通り抜け、1円パチンコの台に座った。

 

「せんせー、4円と1円って何が違うんですかー?」

 

廣井が尋ねると、

 

「玉1つの値段だよ。1000円入れたら1000発、4パチなら250玉出てくる。その玉を弾いて遊ぶんだ」

「じゃあ、1円のほうが長く楽しめるってこと?」

「そうなるが、勝っても大した額にならないからな。同じ数勝っても4パチのほうが単純計算で4倍増える」

「それじゃあ、1万発出たら4万……!」

 

 リョウが目を輝かせるが溝六は

 

「そのかわり1000発打つには4千円入れなきゃいけないし、そもそも1万もおいそれと勝てねえけどな。つーか二人とも軍資金幾らよ?」

 

 廣井は一瞬口をつぐんだ後、

 

「……なけなしの2千円……」

 

 リョウは、

 

「千円しか……」

 

 そういったところであることを思い出した。自分が今履いている靴を脱ぐと、踵の隠しポケットを開けた。

 

「すげえ靴だな」

「昔見た映画に憧れて靴にお金隠したくて、ぼっちに頭下げて貸してもらった千円があった……!」

 

 目をキラキラさせながら千円札を掲げた。ひとりにはすでに返しているので問題はない。

 

「いくらなの、その靴?」

「19800円」

「高ェし……」

 

 いろんな要素が少しずつずれている。

 

 

 

 溝六、廣井、リョウの順番に席に着く。

 

「それじゃあ、やっていくぞ」

 

 

【CRサティスファクションプリキュア】

世界の満足を守るため、少女と巨竜がレボリューション!ついでにギャンブルともフュージョンだ!!

 満足のその先へ打ちまくろう!!!

 

 

 教わった通りに筐体の端の投入口に千円を入れる。

 玉の数が表示され、上皿に弾が流し込まれる。レバーを捻る上皿から玉が弾かれ、釘にぶつかりながら下部の穴を目指して落ちていく。

 

「「「……」」」

 

 全員が黙って玉の行く末を見ていた。

 

 クルクルと数字が掲載されたキャラクターたちがやかましく動いていく。

 時折それっぽい演出が入るものの、特に動きのないまま時間が過ぎていった。

 

 正直つまらないな、とリョウは思った。

 

 時折入る演出には舌を巻いた。焦らしている間の曲調はリョウの意識を引き寄せるが、『デデーン……』と露骨に低い音声は自分でもわかりやすいほどむかつく。映像もさることながら良くも悪くも音でここまで感情を揺さぶられるとはなかなか侮れない。

 

 しかし、結局は思わせぶりな演出ばっかで全然勝てないし、残玉数だけが減っていく。

 音楽でも聴きながらやろうにもやかましすぎてノイキャンイヤホンが仕事していない。

 

 演出が始まる。

 

 

 

 期待値低めのコーヒーおかわりリーチ。キュアキングがコーヒーのお代わりをお願いして、一杯奢ってもらえたら当たり。

 やっぱりつまらない。くら寿司より当たらない。この金が無くなったら帰るか。いや、今からでも……。

 

『しゃあねえな、今度金返せよ?』

 

 キュワンキュワンキュワワワワワ!!!! と。

 

 

 突如として大当たり。リョウの玉がみるみる増えていく。

 

「え……え?」

 

 困惑していると、溝六がリョウの台を見てニヤリと笑った。

 

「やるじゃねえか山田嬢、大当たりだ」

「あ、私も来た!!」

 

 廣井の歓声が聞こえて体をそらせて除くと、確かに廣井も派手な演出と共に玉の数が増えている。

 リョウの心がわずかにときめいた。

 

 そして十数分後。

 

「「「YA--------HA---------!!!!!!!!!!!!!!!!」」」

 

 三人は馬鹿みたいに大勝ちしていた。

 とはいえ1円パチンコなので金額的には大したことはないのだが、当たりは当たりだ。

 

 金色に輝く画面はリョウたちの心を激しく燃やしていた。

 

 大当たり。けたたましく鳴り響くなるファンファーレは彼らの脳髄を激しく刺激する。頭の中央から何かが出てきている感じがする。ドーパミンだ。

 

 結果出玉は1万以上。5倍ちかく増えた計算だ。

 

「初めてでこいつはすげえぞ!」

「やったねえ山田ちゃん!」

「これで3か月は食える……!」

「計算おかしくねえか?」

 

 一日100円前後だ。

 おかしいのは彼女らの食事量である。(実際は思いついたように贅沢するので1週間も持たない。)

 

 とにもかくにも、早く現金にしたくて換金所へ。戻ってきた二人の手には一万円と少しの現金が握られていた。

 リョウは胸が熱くなるのを感じた。こうやって玉を弾いているだけでこんなに稼げるなんて!

 

(またアレを感じたい。枯渇した脳に湧き出る、マグマのようなアレを!!!!)

 

 

「先生! これなら4パチに行ってもいいでしょうか!?」

 

 アルコールとアドレナリンで超ハイテンションの廣井が大声で尋ねると、

 

「おう! いってやれ!」

 

 

 

「「勝ったな、がはは!!」」

 

 

 三人はげらげら笑いながら台を移動した。

 

 

 

 

 

 そしてベーシスト二人は4円パチンコに挑み、残る出玉は50を切るところまで来た。

 ハッキリわかりやすく言うと買った分全部溶かしての赤字である。

 

 

 

「あ、あれ……さっきまで勝ってた1万を超える玉は……」

「玉になって全部飲み込まれました……」

 

 同じ機種の台で売っているのだが、全く勝てない。期待値高めの演出が出ているのに一切勝てない。

 

 廣井は過去の敗戦を思い出していた。

 競艇でスッたあの日のことを(深酒日記2巻10話参照)。

 

(あ、あの時とは違う。一発で吹っ飛んだアレと違う……! 真綿で首を絞められるような、血をゆっくり抜かれるような、ゆっくりと絶望していく感覚! それでいて演出がチョッピリ入ると期待させてくるものだから離れられない!)

 

 右肩下がりの株がすこしの間だけ持ち直すとこんな感じなのか。

 以上生成されていたドーパミンが不足したからか、はたまたストレスか頭がズキズキと痛む。

 

 2人は玉の行方を必死に追い続けていた。

 

 だがここでリョウの台に変化が訪れる。

 

 

『ジャッジメントダイス降臨!!!』

 

 

『1が出たらお前のターン!! 2から6が出たら俺のターンとなるぜ!!!』

「きた、これなら勝てる!」

 新旧対決リーチ。前作主人公が別次元の自分と戦う期待値の高い演出だ。

 期待値80パーセント越えの激熱リーチ。

 

そして、

『1が出たので、俺の番だぜ! カタパルトタートル射出!!』

『城之内くーん!!』

 

 

 

 まさかの金色演出で負けた。

 

「負けた……」

 

 

収支

廣井きくり:-2000円(上振れ時12800円)

山田リョウ:ー1000円(上振れ時13000円)

 

 2人は死に体で店を出た。

 

 日はとっぷりと暮れ、街灯や店のライトが周囲を照らしている。

 廣井とリョウの周りだけに闇がわだかまっていた。

 

 

 トータルでは大した負けじゃないのに、一度1万円以上手にしたものだから喪失感がエグい。

 というかそもそも1000円ですら大金なのでシンプルにキツい。

 

「や、山田ちゃん。雑草食べにいこっか」

「はい……」

 

 憧れのベーシストからのディナーの誘いにしゃがれた声で答えると、

 

「おう、どこ行くんだ二人とも」

 

 後ろから声をかけたのは換金を終えた溝六だ。

 

「先生……」

「負けちゃいました……」

「お、おう。なんか誘っちまって悪かったな」

 

 あまりにも絶望的な二人を前に謝ってしまう溝六。

 仕方なさそうにため息をついて、

 

「しゃあねえ、俺がおごってやる! 飲みに行こう!」

 

 瞬間、ベーシストどもの目が輝いた。

 

 

 

 

 

「「「かんぱーい!!」」」

 

 3つの缶が打ち付けられ、三人は同時にビールを煽った。

 

「かぁ~、やっぱうめえなあ!」

「冷えたビールうめ~」

「そういえば初めて飲んだかも」

 

 近くの居酒屋の来た3人はビールひげを作って一息ついた。

 リョウは感慨深げに缶を見る。

 

「最初は苦いって聞いたけど、意外といけますね」

「あれ、山田嬢、誕生日は」

「……9月18日ですね」

「「「……」」」

 

 お酒は二十歳になってから

 

 

「で、二人とも初めてのパチンコどうだったよ?」

「いや~楽しかったけどもうやらないですねぇ~」

「私も……」

 

 目を伏せて今日の出来事から目をそらす2人。

 

 溝六はその姿をみてゲラゲラ笑った。

 

「はっは、ギャンブルなんてたまにやるのがいいんだ。ハマらないなら大丈夫なんだけどな」

「そもそもハマるほど金ないですけどね……絶対志麻に怒られるし……」

「借金あるのか?」

「そういうわけじゃないですけどぉ……」

「なら大丈夫だ、俺なんか競馬やってたら2000万借金できたことあるし」

「「ええ!?」」

「そんでアメリカ逃げてて何とかなったし、意外と何とかなるもんよ」

「「えええええ!?」」

 

 桁の違う次元の話をされて廣井もリョウも大声が出てしまった。

 

 廣井もリョウも大敗したつもりだったのだが、溝六はそうでもないのだろうか。

 

「どうやって帰ってきたんですか?」

 

 リョウが尋ねると、

 

「ええとだな、アメリカに行ってそん時面倒見てた泥門デビルバッツ……アメフトチームの選手をスカウトしに行ってて、したらヒル魔……だー、アメリカに2000キロ横断する特訓しに来た中学からの教え子がラスベガスのカジノで2000万稼いで肩代わりしてくれたから追われる心配なくなって帰ってきたんだ」

 

「「???」」

 

 今なんの話をされたのかわからなかった。2000って言葉が2回出たか。

 はてなマークが浮かぶ二人に溝六が、

 

「ああ、勿論金はそいつに返してるぞ。ローンで」

「「そっちじゃないです……」」

 

 溝六の話を聞けば聞くほどとんちきでぶっ飛んだ話が飛び出してくる。

急遽パチンコに行き、飲みに行くことになった意外なパーティだったが大いに盛り上がったのだった。

 

 

「ラストオーダーでーす」

 

 

 最後に一杯ずつ注文し、そろそろお開きの空気になったころ。

 

「あ~、そういえば曲作ってね~」

 

 酒が回ってベロベロになってきた廣井がぼやいた。

 溝六も酔い気味、リョウはきつくなってきたのでソフドリである。

 

「曲?」

「そうなんですよ~。明日試作段階でも見せるって言ったのにぃ……」

「へえ、創作系ってのは難しそうだな」

 

 音楽にあまり詳しくない溝六だが、バンドマンが曲作ってナンボの商売であることはわかる。

 

「廣井さんの新曲、期待してます!」

 

 酒のせいかいつになくフレンドリーで積極的なリョウの眼差しに、廣井は気圧される。

 

「ああ~、やめてえ、眩しい、そんなに光るなよぉ~」

「でも、好きなことを仕事にできるっていいよな」

「え? そりゃあ好きでやってますけど……」

 

 じゃれる2人を見て、溝六はぽつりとそんなことを言った。

 

「俺は元々大学アメフトで日本一になりたかった。でも、死の行軍(デスマーチ)の末に膝ぶっ壊して夢はおじゃん。仕方なしに教師になったようなどうしようもない男だ。でも、中学でアメフト好きの馬鹿に会って、そいつがアメフト好きの悪魔と大工見習を見つけて、いつの間にかそいつらのチームが優勝するのが夢になってた。しかも優勝しちまった。

 いっぺん仕事クビになって、借金つくってアメリカに逃げる羽目になったりしたけどよ……結局今も大学アメフトのトレーナーしてる今が好きだ。色々あったけど後悔してないし、アメフトは好きだし、俺は恵まれてるって断言できる。今のメンバーで優勝したことはないが、少なくとも今この瞬間は幸せだ。

 

 2人も、そうなれるといいな」

 

 

 酒寄溝六という酔っ払いの独り言ちてこぼれ出た言葉は廣井とリョウに届き、

 

「「溝六せんせ~」」

 

 気づけば2人は金八先生みたく溝六に抱き着こうとして、

 

「「ウッ、臭ぇ」」

「何だお前ら」

 

 鼻どころか首も曲がった。

 

 

 

 

 

(今日は楽しかったな)

 

 溝六と廣井に自動ドアまで送ってもらったリョウは、自室の鍵を開ける。

 初めてのパチンコで初めての勝ちと負け。初めてのお酒。全く違う世界の話……。今日感じたどれもがリョウには新鮮で、感じたことのない刺激だった。

 

 リョウは家に帰ると、初めてのアルコールでふらつく頭を押さえながらパソコンを開いた。ヘッドフォンを付けて思いつくままにコードを刻む。

 

 正直この曲が良いものかはわからない。だが、今日の経験で思いついたコードを残しておきたくなったのだ。

 

(もしかしたら誰かのインスピレーション刺激するかもしれないし)

 

 それに仮に出来がダメでも結束バンドが解散するわけじゃない。

 

 未だに音楽だけでご飯を食べられないし、出した曲も打率はそこそこレベル。だが、結束バンドでいる今は幸せだ。勿論売れたいが、もし仮に、万が一売れなくても……まあ、何とかなるんじゃなかろうか。2000万の借金があっても元気なオッサンだっていることだし。

 だったら気にせず、手当たり次第に曲を作るだけだ。

 

 

 

「リョウ先輩、新曲もう一個あるんですか?」

「うん、昨日思いついたから。曲というかフレーズだけだけど」

 

 後日、リョウはSTARRYでの打ち合わせに昨晩作ったいくつかのフレーズを持ってきた。

 

「珍しいね、リョウがこの段階で見せるなんて」

「前から適当に思いついたフレーズはいっぱいあった。見せてなかっただけ」

「じゃあそんとき見せてよ」

「クオリティ高いのじゃないと納得できなかったから」

「じゃあ、今回は自信あるんだ?」

()()()

 

 ハッキリ言うリョウに虹夏は鼻白む。

 

「じゃあなんなのさ」

「意見欲しかったから……皆で演奏するんだし」

 

 リョウが目線をそらしながら言うと、虹夏はポカンと口を開け……破顔した。

 

「そっか」

 

「あれ? このフォルダは……」

「あ、それは……!?」

 

 パソコンをいじっていた郁代のとなりで、ひとりは謎のフォルダを目撃した。

 

『パチンコ激熱』『パチンコ負け』『酩酊感』

 

 あの時聞いた音楽や、イメージにリズムや音を入れたプロトタイプの音源だ。

 別フォルダに隠していたつもりだが、どうやらパソコン内の閲覧履歴で見つかったらしい。

 急転直下、さきほどまで微笑んでいた虹夏の顔が絶対零度に凍り付く。

 

「これは、何?」

 

 

 はたしてこれから始まる説教は果たして音楽にできるのか。

 山田リョウの感性と紡いできた力量にかかっている。

 あと弁解力。




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