Brave×Beat   作:明石雪路

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大学新生活スタート!

「ハンカチ持った?」

「はい……」

「ティッシュは?」

「ここに……」

「自己紹介用のメモは?」

「持ってます……」

「郁代が血眼になって書いてた。目を通しておいた方がいいよ」

「あっ……」

(そういえば高校2年生になった時に「勉強しましょう」って言われた……あの時のか)

 

 

ひとりは、虹夏とリョウに付き添ってもらって大学まで来ていた。

現在は大学向かいの公園で持ち物確認をしているところである。

虹夏に一つ一つ忘れ物をチェックしてもらい、準備万端の再確認。

これでひとりは忘れ物がどうこうで帰る理由が無くなった。

 

 

「それじゃおっけー! 行ってらっしゃい! 終わったら連絡してね〜」

「いってら」

「い、行ってきます」

 

 

そう言ってひとりは体をガクガクと動かして炎馬大学に向かう。

 

 

「物の見事にスーツに着られてるね」

「というか、ぼっちがジャージとかバンドT以外を来てるのが珍しい」

 

リョウはパシャリとスマホのシャッターを切る。

 

「……これで今週は食べられる……」

「リョウなんか言った?」

「いや」

 

スーツ姿のひとりの写真はとある姉へ送られる。少ししてからリョウのジャケットから電子マネーを受け取ったことを知らせるやかましい電子音が鳴った。

一人暮らしでバンド活動とバイトの収入しかない今、こういった場所で稼ぐのが下北のリョウさんなのである。

 

 

 

さて、入学式である。

 

 

体育館での式典となり、席は自由だった。学部は経済学部。(だが、授業の種類が多すぎる炎馬では学部などあって無いようなものである。)

ひとりは席を選ぶべく、体育館を視力3.0で見渡す。

 

 

 

(知り合いっぽい人達がグループになって固まっている場所はアウト。少数でも話しているところはダメ。ベストは1人っぽい人が固まっているところ!)

 

 

ギャンギャンと視点を切りかえて情報をキャッチ。

 

(席がない……)

 

 

 どこもかしこもグループが出来ているか、隣に座った人と盛り上がったりしている。

 

 

(完全ソロの人もいるけど、その人の隣に座る度胸もない……!)

 

 

 

 

隣で野球の話で周りの人間と盛り上がっているのはモン太か。

では隣の席に座ってキョロキョロと周囲を見渡している黒髪の……

 

 

(小早川セナくん! 友達が他の人と話しちゃって居なくていたたまれなくなってる動きをしてる!)

 

 

同類の動きには詳しい女、後藤ひとり。

 

 

「セナお待たせー」

「うん」

 

 

普通に鈴音がいた。

考えてみれば彼は入学式に一緒に受かったチームメイトがいるのだ。自分のようなぼっちが仲良くできるスキなどなかった。何が同類だ。

 

 

「あれ? ひとりちゃん?」

「ひとりって、後藤さん?」

「えっ、うっ、あっ」

 

 

鈴音がひとりに気づいて声をかけ、セナも振り向く。唐突に名を呼ばれてどもるひとり。

 

 

鈴音はブンブンと手を振って手招き、隣のパイプ椅子をタンタン叩く。

こっちにおいでという意味だ。

 

 

 

「は、はい」

 

(やっぱり鈴音ちゃん優しいなあ)

 

 

 初対面の時にもなんとなく思っていたが、 ひとりのような人間に対してもフラットに接してくれるどころか積極的に興味を持ってくれる人間は稀だ。

 中学も高校もバンドグッズを全身にまとっても声をかけてくれたことはなかったので、公園でギター持ってるだけのひとりに声をかけた虹夏や、なんならギターすら持ってないひとりに名前を聞いた鈴音が特殊なのではないだろうか。

 

 

「やー、ここ席が埋まっててまいっちゃうねー」

「は、はい」

(鈴音ちゃんかわいいし、虹夏ちゃんとも違ういい匂いがするし、これがJDなのかなあ)

 

 

 

 気持ち多めに鼻で息を吸うひとり。

 

 

 そんな変態的な行為に気づかず、鈴音はガンガンに話題を振る。

 

 

「どこのサークル入るか決めた?」

「スーツって動きにくいよね」

「どこから通ってるの?」

「バイト先迷っててさー」

 

 

(話が終わらない……! 怒涛に、押し寄せてくる!)

 

 

 ひとりの脳みそがグツグツと沸騰しマグマの様に湧き始めた頃、体育館の照明が消えた。

 

 

「始まるね」

(終わった……)

 

 

 なんかえらい人たちの話は湧きあがったひとりの頭に何一つ入ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 入学式後。新入生はクラスでの書類配布等の関係で各教室に割り振られた。

 

 

 黒板に書かれた席の場所に着くと、

 

 

「あ、どうも」

「えあっ、はい……」

 

 

 後藤ひとりの後ろの席に小早川セナがいた。

 

 

「さっき鈴音にすんごく話しかけられてたよね、大丈夫だった?」

「だっ大丈夫です」

「ほっとくとずっと話しちゃうんだ。すぐ慣れるよ。ハハ……」

(え、じゃあデフォであんなに話すの?! 虹夏ちゃんとリョウさんと初めて会った時だって話題ないねって話になったのに!!)

 

 

 見た目のヤバイ金剛 阿含や、やることもヤバイ蛭魔 妖一にすらあだ名で呼ぶ驚異のコミュ力お化け瀧 鈴音。ひとりにとって純粋な味方なのか要注意人物なのか判別できなかった。(ひとりが会話に追いつけないだけで生粋の味方である)

 

 

 

 授業登録や購買の使用、サークル参加のルール、一年目から講義サボんな等の説明が一通り終わった後。

 自己紹介タイムとなった。

 

 

 

(そうだ、喜多ちゃんメモ)

 

 

 かつて調子ぶっこいたひとりの自己紹介に教育が必要だと心底理解した喜多郁代。彼女から託されたメモを開く。

 

 

 そこには、丸っこいかわいらしい文字で

 

 

『私の名前は後藤ひとりです。趣味はギターです。結束バンドというバンドで、下北沢を中心に活動しています。よかったらライブ見に来て下さい。よろしくお願いします。』

 

 

 こう書かれていた。面白味などはない。ただ名前と趣味、そしてバンド活動の軽めの宣伝。質素な自己紹介だった。

 

 

(え、これだけでいいの……? 笑いどころとか無いのにこんなんじゃ盛り上がるわけが……!)

 

 

 期待されていないのに馬鹿みたいにデカい期待を自分から背負って潰れるピンク女は戦慄した。

 が、心でも読んだかのように続きに

 

 

※受けを狙おうとか絶対に思わないでください

 

 

 これでいいのだろうかとひとりは思う。しかし狙ってミスった高校二年の新学期初日は今でも思い出すし夢に見るし起きたら汗ぐっしょりになっている。

 

 

 ここは輝きの青春リア充、喜多郁代の天啓を受けるほかない。目を皿にしてメモを読み、自分のターンに備える。

 

 

 しかし、あと三人でひとりの番となったところでヒソヒソと声が聞こえた。

 

 

「なあ、あいつアメフトの小早川セナじゃね」

「マジ? 世界大会出てたあの?」

「そうそう、テレビとかSNSめっちゃ出てた」

 

 

(ま、まずい)

 

 

 ひとりは余計なことを考えた。

 

 

(今のところ自己紹介は地味に進んでいる。ここで小早川くんの番になったら変な空気になるんじゃあ……)

 

 

 なったって別に問題はないしひとりに関係ない。

 

 

(そうだ、あの時も喜多ちゃんは場を温めてくれたのに私が台無しにしたんだ!)

 

 

 場が温まって無くてもひとりは爆死していた。

 

 

(喜多ちゃんは今回私のためにメモを作ってくれたけど……今の私は嘗ての喜多ちゃんの様に場を作るんだ!)

 

 

 本当に余計なことしか思いつかない女である。

 

 

(! なんか悪寒が……前からする!?)

 

 

 超人たちとアメフトの世界で戦い続けてきたセナは突如として言いようのできない悪寒に襲われた。

 

《100年に一人の天才》金剛 阿含と対峙したときのような。

《パーフェクトプレイヤー》進 清十郎に捕らえられた時のような。

《恐竜》峨王 力也に突撃したときのような。

《西のアイシールド21》大和 猛の帝王の突進を押さえられなかったときのような

《光速破り》パトリック・スペンサーに追いつかれたときのような。

 

 

 そんな、感覚。

 

 

 そして。

 

 

ごっ後藤ひとりです、ぼっちちゃんって呼んでください♡ 趣味はギターなのでギター映えスポットに行くことがあったら呼んでネ☆

もっ勿論知ってると思いますけど! 結束バンドでギターしてます。宣伝すること!!!!

後ろの席の小早川くんはアメフト選手です! 足が速いので見ないと損ですヨ!(*^^)v

「え、僕も!?」

 

 

 なぜか自分の説明までされて驚くセナ。とんだ巻き込み事故である。

 

 

「え……?」

「ギター映えスポットって何……?」「楽器屋とか?」

「勿論って……知らないんだけど」「結束バンドでギター? インシ〇ロックのこと? 作って遊ぼ?」

「なんか後ろの人も紹介してたぞ」「足速いって大学生の自己紹介で普通言うか?」

「クソ怖」

 

 

 

「ひとりちゃんの自己紹介ヤバ…」

「セナこの空気で自己紹介するのかよ……」

 

 

 見たこともない空間に鈴音もモン太も脂汗を流す。自分たちのターンまでにこの空気が消えるといいが……。

 

 

 

『地獄への道は善意で舗装されている』とはヨーロッパの格言だが、『善意で地獄を作る』のも中々珍しい。

 

 

 全部話してから自分の失態に気が付いた後藤ひとりは体を量子もつれさせながら後悔していた。

(失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した……)

(小早川くん本当にごめんなさい……!)

 

 

 

 さてセナの自己紹介だが

 

 

「えっと……小早川セナです。好きなスポーツはアメリカンフットボール、です。お願いします。」

 

 

 さすがは光速のランニングバック、少ないセリフを素早く話してターンを終えた。

 

 

(すごい、もう終わらせちゃった)

「後藤さん、めちゃくちゃ緊張してたね」

 

 

 タハハと呆れつつも笑うセナ。

 想像以上に気にしていない反応にひとりは安堵のあまり光の粒子になって消滅するところだった。

 

(優しくて良かった~……)

(泥門デビルバッツ時代のシゴキに比べたらこんなもの事件にも入らないや)

 

 

 未だにビビりなところはあるものの、精神面ではどこか太くなったセナであった。

 

 

(というかヒル魔さんの脅迫食らってた人たちのネタとか仕打ちのほうがやばいよなあ…)

 

 

 

 そして番は周り、

 

 

「滝 鈴音です! インラインスケートが得意です! サークルはアメフト部に入る予定! 男子は勿論、女子でもよかったらマネージャーとかチアしましょー! よろしくお願いします!」

「雷門 太郎っす! 好きなスポーツはアメリカンフットボールでアメフト部に入る予定! よろしくお願いしまっす!」

 

 

 最後にモン太が自己紹介を終えた頃にはひとりの奇行はほとんど薄まっていたのだった。

 

 

 

……まあ結局ひとりはこの日の失敗を不定期に思い出しては悶えることになるのだが。




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