炎馬ファイヤーズ。私立炎馬大学のアメフトチームは、部員数20人程の規模の小さいチームである。
だが、規模に反比例して注目を集めるほどの力のあるチームでもある。
昨年は神龍寺ナーガから正QBの金剛雲水、泥門デビルバッツから高校最高級のラインマン栗田、盤戸スパイダーズからキック成功率100%の佐々木コータローが加入したことで攻撃力はアップ。さらに今年は西武ワイルドガンマンズから甲斐谷陸、泥門デビルバッツから雷門太郎と小早川セナ、巨深ポセイドンから水町健吾の参戦によって防御力を上げつつも炎の超攻撃チームと化したのである。
夕焼け色に染まる炎馬大学グラウンドにドパン、ドパンと割れるような音が響く。
「ふんぬらばーーー!!」
優しき巨漢、栗田がヒットバックに思い切り激突した。
「うおおおおお!?」
それを支える二人の先輩ラインマンは、ギリギリで栗田のタックルを耐える。
二人とも高校からアメフトをしてきたベテランラインマンだが、二人がかりで栗田をタックルを押さえるのもやっとのようである。
「栗田さんますます絶好調だな、先輩たちギリギリじゃないか?」
「あのタックル受けられるの峨王くんしかいないし……」
グラウンドで行われているラインのタックル練習を見て、陸とセナは戦慄した。
「栗田のやつ、相変わらずというかますます怪力してやがんな」
グラウンドの端でラインマーカーを転がしながら、炎馬ファイヤーズトレーナー、
酒寄溝六。元麻黄中学教師であり、元アメリカでビーチフットを教えるおじさんであり、元泥門高校清掃員であり、元泥門デビルバッツトレーナーであり、現炎馬ファイヤーズトレーナーである。
「酒寄さん、これから何をするんです?」
そう尋ねたのは甲斐谷陸だ。現在、陸とセナは酒寄に呼ばれて個別練習だと呼ばれたところである。
「おう、せっかく日本トップクラスのランニングバックが揃ってんだ。お互いに競い合う他ねえだろ?」
そういってグラウンドに、正方形が描かれた。
「これってもしかして」
「セナならわかんだろ、進と死ぬほどやったろうしな」
全力トップスピードでの直角ターン。これにの繰り返しによって走りのキレを大幅に高めるのである。
嘗て帝黒アレキサンダースとの試合前にセナに行われたオールスタートレーニングだ。
「陸! あの時は40ヤード走4秒5だったが、今はいくつだ?」
「4秒4です。」
(すごい、さらに速くなってる!)
4秒4。これはロデオドライブの走法を知る前の進の速度と同等であり、日本トップクラス。4秒2が光速ならば4秒4は音速の世界と呼ばれる。
「それに追いつけんのは進か大和かセナくらいだろうな」
対角に向かい合ってセットする。陸はまっすぐにセナを見た。
「セナ。高1の秋大会で負けて、2年目じゃトーナメントの都合で結局再戦は出来なかった。だから戦績は99戦1敗のままだ」
「う、うん」
「一敗だけど、俺はあの時点で1度セナに追い越されてると思ってる」
「そ、そんなことないよ、まだ一回しか勝ててないし」
「そんな情けない謙遜するなよ。アメフトやってるんなら」
陸は不敵に笑い、
「試そうぜ。どっちが速いか。俺の目標は最京大撃破とライスボウルだけどライバルはセナ、お前だ」
「!」
「始め!」
酒寄の掛け声で二人は駆けだした。
SENA VS RIKU
強引な急ブレーキと爆走で直角に動くセナに対して、洗練されたステップで直角を曲がる陸。
数字で考えてみればセナの方が速い。繰り返せばセナが追いつくことになる。しかし、《疾さ》はそう単純なものでは無い。
(最高速度は僕の方が速いはずなのに、陸に追いつけない!)
(やっぱしすぐには追いつけないか! でも!)
日本最高レベルの速さ対決。互いが互いを追い続け、10週目に入った頃に異変が起こる。
「な、陸が後ろにいる!」
「やっと追いついてきたぞ……!」
気がつけば、対角ではなくひとつ後ろに陸がいる。
セナのスタミナはまだ残っている。疲労こそ溜まっているものの、バテるほどでは無いはずだ。つまり疾さで陸が僅かに勝っているのだ。
(まずい、加速しないと!)
全力で90度を駆けるが、間に合わない。
光速VS音速とも呼ぶべき四角ランは十何週目で陸がセナに追いついた。
「追いつかれた……」
「これで、100勝1敗だな」
汗だくになりながら陸は笑って言った。
地面に転がるセナに、酒寄が訪ねた。
「セナ。最高速度じゃ勝ってるお前がどうして勝てなかったかわかるか」
「えっと……カットのキレですか?」
「ああ、それで足が少し乱れたのもあるが……。いや、これは自分で気が付いた方が良いかもしんねえな」
「も、もっかいやろう!」
「いいぜ、いくらでもやってやる」
その日はあと2回行われたが、セナは一度も勝てなかった。
(何がダメなんだろう)
その日、夜まで考えてもセナには思いつかなかった。
次の日もその次の日も対戦した。何度かセナが追いついたが、トータルで見れば陸が9割勝っていた。
「おはよー……」
「おはよーセナって目のクマすご!」
授業前に声をかけられた鈴音は、げっそりとした姿のセナに驚いた。
「大丈夫か、授業中寝ないとだめだぞ」
「いや授業中はダメでしょ……」
よれよれになりつつもモン太にちょっぴりツッコミを入れるセナ。
講義室後ろの方で3人が話していると、超端っこの席にひっそりとピンクの影が現れた。
入学式から1週間。それなりに話すようになってきたはずなのだが、今日はこちらに近づかないで端っこに座ろうとしている。
「後藤さん?」
「うひっ」
セナが声をかけると、後藤ひとりが
「えっ、あの、どうも……」
クマを作ってげっそりとした様子で振り向いた。普段から特段生気を感じないが、この日は一層感じられない。
「あれ、ひとりちゃんこっち座ろうよー」
「あ、じゃあ、はい」
鈴音に呼ばれ、ひとりはのそのそと鈴音の隣に座った。
「なんか元気ねーな」
モン太が尋ねると、
「えっと、最近ライブハウスの改修の準備とバイトの人のシフトの都合でこれから多く入れなきゃいけなくなって……」
「それはこれから大変だね」
「休む理由が思いつかなくて……」
「行かない気だった!」
「サボりの理由にクマ出来るほど考えることある……?」
突っ込むセナと呆れる鈴音。
「あの、小早川くんも顔色悪そうですけど」
「ああ、うん、少し考え事してたら寝れなくて」
(体育会系の人たちってモン太くんみたいにサッパリした人が多いのかと思ってたけど、悩むこともあるんだ…。なんだか親近感……)
「い、意外と小早川くんでも悩むことあるんですね」
「なんか急にディスられた!?」
「後藤ってたまにすごいことぶち込むよな……」
普段から会話の内容を深読みする癖に、こういう時ひとりは割と言葉選びで損をするところがある。
閑話休題。
「なあバイトの件だけどよ、俺らで手伝おうぜ!」
モン太がサムズアップしながら言った。
「ほら、最近栗田さんがヒットバック壊したって言ってたし、新しい用具とかいるだろうし」
「あー……」
そういうモン太に対して、正直セナは気乗りがしなかった。
(宿題に出された陸に勝てない理由。あれがわからないのに他のことしてもいいのかな)
だが、モン太の提案を聞いてひとりの表情が一変した
「え、いいんですか!?」
「泣くほど!?」
ガチ泣きしながら聞き返すひとりに鈴音は驚いた。驚きと喜びが混在した表情のひとりの顔を見ると、とても『アメフトの練習で忙しいからダメだよ』なんて言えなかった。
(春大会まで少しあるし、大丈夫か)
「確かに、それじゃあアメフト部の人たちにも声かけてみよっか」
「あ、ああ、ありがとうございます!」
そういうことになった。
勝手に陸を速くしてしまった……。でも正直高校3年間もあれば成長すると思うんですよね()
お読みいただきありがとうございました。
よろしければ感想とお気に入り登録をお願いいたします。
励みになります。