Brave×Beat   作:明石雪路

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炎馬ファイヤーズ(一部面々)、STARRYへ行く

 

 

「伊地知さん、このボタンいっぱいついてるやつも段ボールに詰めたほうがいいかな?」

「それはそのまま持って行って大丈夫だよ!って栗田くんそれ1人で持てるの?!」

「雲水、シールド纏めて」

「……山田さん。初対面でこんなこと言いたくないが君は動いてなさすぎだ」

「見てみて喜多ちゃん、これすごくかわいい!」

「ホントね、写真撮っちゃいましょう! 鈴音ちゃん寄って寄って!」

「後藤さん、この辺の積んであるポスターって捨ててもいいのかな?」

「そ、それは店長さんに聞いてみないと」

「ああ、それは良いよ。縛っといて」

「ハッ、ハハハハハイ!」

「……セナくんなんであんなビビってんだ?」

(店長さんが怖いからですかね……)

「相変わらずセナって目付き鋭い人にビビるよな」

 

 

 というわけで、今日は炎馬ファイヤーズの面々がライブハウス〈STARRY〉の片付けの手伝いに来ていた。

 

 

「こないだ配管が破れて水が漏れたからな。マンション自体の配管工事と点検やるから、ついでに機材とか防音設備とか全部点検しとこうかと思ったんだよ。あと掃除な」

 

 

 とは〈STARRY〉店長伊地知星歌の話である。

 

今回の工事で内装もある程度改修するため、中のものを全てレンタルコンテナへ移動させなくてはならない。それらをバイト総動員で行うか……しかし全員女性なのにそれは良いのかと迷っていたところに炎馬ファイヤーズの申し出があり……セナ、モン太、鈴音、雲水、栗田が助っ人に来たのである。(陸や水町、コータロー、他部員は他のバイト)

 

 

 

 

「ポスター持って、ハイチーズ!」

「Yeahー!」

 

結束バンド1の陽キャ喜多郁代と炎馬ファイヤーズ1の盛り上げ役滝鈴音は会って5分もしないうちに仲良くなっていた。

 

イソスタやチックトックの閲覧傾向を照らし合わせてみれば、最早仲良くなる他ない。

「あっ、このカフェ行ったことあるよ、アフタヌーンティーの盛り付けがオシャレで」

「え〜、じゃあ今度一緒に行かない? 新作出てるわよね?」

「やー!行こいこ! 予定いつ空いてる?」

「じゃあ明後日とか……うっ」

 

郁代は、久しく感じていなかった話……というより感性の共鳴に思わず涙を零した。

 

「えっ、どうしたの急に!?」

「こういう話でこんなに盛り上がるなんて……」

「泣くほど?」

困惑する鈴音に、郁代は零るる涙をぬぐって答えた。

 

「ひとりちゃんは『あっ、すごいですね……』って味気ない反応するし、

リョウ先輩は『量が少ない』とか育ち盛りの中学生みたいなこと言うし、

虹夏先輩は『可愛い』って言ってくれるけど一緒に行くとはすぐ言ってくれないお母さんみたいな反応するし…」

「それ結束してるの?」

 

 

温度差のあるやり取りを繰り広げる結束バンドメンバーに結束力を見いだせなかった鈴音は困惑した。

 

(でも、それでも一緒にバンドを続けてるってことは信頼とかがあるってことなのかな。それこそ友達以上の……家族とか?)

 

「一緒のバイトしてオシャレなカフェに行く約束して……今すごくきらきらきららしてる〜!!」

 

リア充青春感を求めすぎて逆に陰キャみたいなムーブをする喜多郁代を見て、鈴音はそんなことを考えた。

 

そこで、ふと思いついたので鈴音は聞いてみることにした。

 

「ね、もしかして喜多ちゃんって結束バンドってアカウントでイソスタに美容品とか色々上げてる?」

「そうだけど…もしかしてフォローしてくれてるの?」

「勿論! すごく参考になるもん! カフェとかの写真も映ててオシャレだし! たまに喜多ちゃんやひとりちゃん達のバンドの宣伝してるよね! 名前も偶然一緒だしこんなことってあるんだね」

「偶然って、え、鈴音ちゃん?」

「え?」

 

 

(もしかして鈴音ちゃん、イソスタの結束バンドアカウントは私個人のことで、私たち結束バンドの存在を別物と認識している……!)

 

名前まで同じだと言うのにこの認識とは。郁代は普段の結束バンドアカの運用について振り返る必要があるかもしれないと痛感した。

 

 

 

 

 

「栗田くん体大きいね〜」

「そうかな? 確かに僕より大きい人ってあんまり見ないかも」

「お腹柔らか〜」

ツンぽよツンぽよと栗田のお腹をつついて遊ぶ虹夏を見て、モン太はマイクスタンドを運びながらデレデレしていた。

 

 

「あ〜、虹夏さん可愛いなぁ……」

「話は聞かせてもらった」

 

雲水から渡されたアンプを置いてシュバッてきたのは結束バンドベース、山田リョウだ。

 

「山田先輩、な、なんスか急に」

「虹夏が気になる?」

「! な、なんでわかるんスか!」

 

ずっと横目に見てたら丸わかりだろうとはリョウも言わなかった。

 

「このPVを見てご覧」

 

そう言ってリョウがみせたスマホには、ドアップで虹夏が映っていた。

動画サイトOTUBEに投稿されている結束バンドのPVのワンシーンだ。

 

 

「ひょぉぉぉぉ?!」

「このチャンネルでは結束バンドのPVが投稿されている。そこにはもちろん虹夏も出ている」

「こんなに素晴らしい情報を……ありがとうございますっス!」

「そんな私にどうすればいいか、わかる?」

「何を……」

 

リョウはジャケットのポケットから1本の黄色い結束バンドを取り出した。

 

「虹夏カラーの結束バンド。特別版。4000円」

「え、高くないっスか……?」

「……これは結束バンド結成初期に作られた初版の結束バンド。試作品だから少ししかない貴重品。世界中のどこを探してもここまで保存状態のいい虹夏カラーの結束バンドはこれしかないよ」

「そッスか……いやでも……」

 

急に饒舌になってベラベラ喋るリョウに思わず気圧されるモン太。

 

だがそれでも持ちこたえているようだ。リョウはあと一押しすることにした。

 

「虹夏への気持ちはそんなもの?」

「! そんなことないっスよ! たださすがに……」

「これを買えばバンドの収入となり虹夏の生活は少しでも救われる。助けてくれる漢はいないのかな……」

「……!!!」

 

モン太は歯を食いしばって1000円札を4枚繰り出した。

 

「まいどあり」

 

リョウの1週間分の食費が救われた。

 

 

 

 

 

「ライブハウスなのにクソやかましいな」

 

物品管理用のシールタグを貼りながら星歌は独りごちた。

そこに少し手が空いた虹夏が話しかける。

 

「助っ人来てもらえてよかったね」

「正直大学の運動部とか信用してなかったんだけどな」

「どゆこと?」

 

虹夏の問いに星歌は苦虫を噛み潰したような表情で言った。

 

 

「大学生ん時、サークル棟が運動部のヤツらと隣だったんだけど、ずっと下品な話しかしてなかったんだよ。あとサボるやつ多かったから講義じゃ見たことないし。だから今来てる奴らとギャップでビビってる」

 

 かくいう星歌も授業をサボったり後輩に金やタバコをたかっていた時期があるのでどっこいどっこいなのだが…。

しらっとした目つきで自分を見つめる妹に気づかずに、

 

「まぁ、あとはぼっちちゃんがお願いしたってのがマジに驚いてるよ」

 

ひとりが「あ、アメフト部の人達が助っ人に来てくれますよ」と言ってきた時は本気で驚いた。

 

異性と仲良くなってることにも驚きだし、運動部の人間どころか1番熱そうなアメフトと来た。そしてバイトの助っ人をお願いできたことにも驚きだ。

 

店長である自分を騙そうとしてるのか、ひとり本人が騙されてるんじゃないかと思ったが、いざ会ってみると明朗快活とした人達だった。

 

 

 

「ウチにはアメフトバカしかいないので大丈夫ですよ、伊地知店長」

 

シールドやコードをキッチリ結んで持ってきたのは、金剛雲水だった。

坊主頭に精悍な顔つきをしたザ・真面目といった青年である。

 

 

「金剛くん……だっけ」

「雲水でいいですよ、双子の弟の方が呼ばれることが多くて、あまり苗字に呼ばれてる実感わかないので」

「じゃあ私も虹夏でいいよ! お姉ちゃんと同じだし」

「店長って呼べって。で、それって弟くんが有名とか?」

 

星歌の質問に懐かしむように雲水は答えた。

 

「そんな感じです。昔から努力してないのになんでも出来て、誰もがアイツを呼ぶんですよ。アメフトでも、出来るのは兄の方だろうって留学奨学金の当選ハガキが弟と間違って来たこともありましたしね、ハハ」

「お、おふ」

((え、えげつない……!))

 

軽く笑って話す雲水と対照的に冷や汗をかく伊地知姉妹。

星歌としては適当な雑談のつもりだったが、思わぬ暗礁に乗り上げてしまった。

 

気まずいようなその空気を察してか、雲水は続けて言った。

 

「あー……別にそこまで気を使わなくても大丈夫ですよ」

「え、あ、そうなの?」

「ええ。別に喧嘩してた訳じゃないし…勝てなかった……いや、勝てないと思ってたのも高校の時の話ですから」

 

今は違う。

 

そう言わんばかりに挑戦的で楽しそうな表情を見て虹夏はドキリとした。

 

一方で星歌はその表情に見覚えがあった。ギタリストとして活動していた時のライバル達、そして今自分のライブハウスに来るバンドマンに彼と同じような顔つきをした者が何人かいた。

野望に、夢に燃える挑戦者の目。自分も毎朝顔を洗う時に見ていたものだ。

 

本意を察した星歌は、

 

「じゃあ、楽しみだな」

「はい」

 

ニッと口角を上げて言った。この時にはもう、星歌は雲水のことを気に入っていた。

 

そこで

「雲水くーん!助けてー!」

 

 

突如名前を呼ばれて声の方を見ると、栗田がドアに詰まっていた。超重量ヘヴィボディがドアに挟まってグ二グ二潰れている。

 

必死に外に向かって押し込むモン太が叫ぶ。

 

「やべーっス雲水先輩! 栗田先輩が詰まっちまって外に出らんねぇ!」

「そもそもどうやって入ったんだお前!?」

「お腹すぼめて何とか…今はうっかり気を抜いちゃったんだよ〜…」

 

栗田と雲水の付き合いは1年にもなるが、やはり抜けているところがあるなと再認識。ため息をついて、

 

「ごめん虹夏さん、行ってくるよ」

「こっちは大丈夫だけど…」

 

持っていたシールド類を託すと、雲水は入口の方に小走りして行った。

今の雲水と星歌のやり取りを理解出来ず困惑する虹夏は、

 

「え、お姉ちゃんと雲水くん今のどういう意味?」

「お前もいずれわかるよ」

 

 

 

 

 

ひとりとセナは、処分予定のゴミを纏めて外に出していた。

「……」

「……はぁ」

ひとりは、先程からちょいちょいため息をつくセナが気になっていた。

 

(さっきからずっとため息ついてる。何か悩みでもあるのかな……)

(もしやバイトの手伝いが嫌だったとか?!)

(ありそう〜……バイト行く前の私もずっとため息でるし…)

 

今でこそ少しは落ち着いてきたものの、始めたばかりの頃はずっとバイトに行きたくなかったものだ。

というかモン太が提案してくれたと言えひとり自身が断れば良かったのではないか。そう考えるとゾワゾワと罪悪感が沸き立って止まらなくなる。

 

「あ、あの!」

「えっ、はい?」

 

ひとりに唐突に大声で話しかけられ、セナは言葉に詰まった。

 

「えっと、今日は本当にすみませんでした……」

 

ひとりはぬるりと関節を感じさせない土下座を繰り出した。

 

「ぇぇえどうしたの急に!?」

「ずっとため息ついてたので……バイト嫌だったのかなと……」

「そんなことないよ、だから土下座やめて……って頑な!」

 

土下座をとかずに話すひとりの姿勢を解除しようとするセナだが、体が鋼のように硬く解けない。

 

「じ、じゃあ何が」

 

やっとこさゆるりと頭をあげたひとりに、セナは言葉を選びながら話した

 

「最近練習で陸に……同じアメフト部の友達なんだけど、あんまり勝てなくて。

僕ってスピードなら、取り柄なら負けないと思ってた。アメリカまで行ってすごい人たちに指導も受けたし……。実際に速さは僕の方が少しだけ上だから、今勝てないってことは他に足りない部分があるんだろうなって……。

でもそれが分からないんだ。それが少し頭から離れないって言うか」

 

 

セナの心中の吐露。それを聞いたひとりは、

 

 

「な、なんなんでしょうね……?」

 

 

何も分からなかった。そりゃアメフトどころかスポーツ全般やったことの無いひとりにわかるわけもなかった。

(ひぃぃぃ、なんで大したこと言えないのに聞いちゃったの私! せっかく小早川くんが話してくれたのに滑ったみたい!)

 

「そ、そりゃそうだよね。いきなりこんなこと話してごめんっていうかすいませんっていうか…」

(後藤さんアメフト分からないんだから困るだけじゃん、い、要らないこと言った〜…)

 

お互いに似たようなことを考えていた。

 

セナはタハハと薄く笑ってライブハウスへの階段を降りる。

 

ひとりはその姿が、あの合格発表の日の試合や過去の映像の中で輝かしくフィールドを駆けていたアイシールド21の姿と違って驚いた。

畑こそ違うものの、観客を埋め尽くすスタジアムはひとりが結束バンドのメンバーと共に立ちたいステージに匹敵する場所で、タッチダウンを取って歓声を受ける姿はある意味目指すべき姿だ。

そんな彼が俯く姿をひとりは見たくなかった。

 

「ま、待ってください!」

 

ひとりは反射的にジャージのポケットから、チケットを何枚か取り出した。

明日公演のライブチケット。STARRYが改修の間、1度新宿で一緒にやろうとSIDEROSのギターボーカル、大槻ヨヨコから血眼で誘われたのだ。

 

 

「こ、これ」

「チケット?」

「あ、明日ライブやるんです。あの、よかったら……みなさんで」

「え、あ、ありがとう、じゃあ折角だし行ってみようかな」

 

セナはそう言ってチケットを5枚受けとった。

 

 

そして2人で階段を降りようとして

 

「助けて〜……」

 

STARRYのドアから巨体と足がはみ出ていた。まるで怪物に上半身が飲み込まれているようだ。

 

「「ナニコレェ?!」」

 

2人して普段出さないような声を上げてしまった。

 

「僕だよ〜……」

 

挟まっている巨デブは栗田である。

 

 

結局、栗田は全員で体を押し潰して外に出し、栗田はずっと外で荷物を車の後ろに積み込む係となった。

 

 

「今日は助かった、ありがとうな」

 

アメフト部の頑張りもあって機材等の運び出しは2時間ほどで終わり、その日は解散となった。

星歌から人数分の―普通のバイトの倍近くの時給を受け取り炎馬ファイヤーズ全員が歓喜し、

 

「ここから部の活動費を徴収するぞ」

 

雲水が9割徴収し、残った端金に全員が落胆した。

 

 

一方で

「伊地知店長、肉体労働をこなした私たちへのボーナスは」

 

キリッとした表情で請求するリョウに対して、

 

「いつも通りの振込だぞ。てかお前1番サボったろ」

 

黙って地面を殴った。何も起きない山田は無力である。

 

 

 

かくして炎馬ファイヤーズの初バイトは幕を下ろした。

 

帰り道。

 

 

「あの、さっき後藤さんからライブのチケットもらったんだけど、よかったら一緒に行かないかなー、なんて」

 

セナがおずおずと切り出すと

 

「あ、セナも貰ったんだ。私も喜多ちゃんからほら」

「鈴音もか、俺も山田先輩から貰ったぜ」

「虹夏さんから」

「僕も店長さんから貰ったよ」

 

彼らの手元に25枚チケットが揃った。

 

そして

 

2000円のチケット×25枚無料譲渡=5万円の赤字也

 

 

物が全て運び出されたSTARRYで結束バンドの面々はお通夜みたいな空気を充満させていた。




正直金剛兄弟は親が伊地知母みたいな人だったらあんな複雑にならなかったと思うんですよね。


お読みいただきありがとうございました。
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承認欲求モンスターの糧になります。


2024年11月22日追記
二次創作日間ランキング66位
総合日間ランキング92位でした! とても嬉しい!

これも感想や評価を下さった方々、そして何より読んで下さった皆様のおかげです、YA—HA—!
今後も頑張って彼らの大学生活を記して行きますので、よろしくお願い致します!
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