日記   作:小淵良樹

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1日で書き上げたので、かなり訳のわからない内容になってしまいました。
後々解説みたいなものを出すかもです。


日記

 10月1日

 今日は私の誕生日だった。プレゼントはこの日記帳。もう中学生だし別にプレゼントはいいって言ってたんだけど、あんまりにも嬉しそうに渡してくるもんだからつい受け取っちゃった。

 まあ、別に嫌なわけじゃないんだけどね。今もこうして書いてるわけだし。

 ……日記って、意外と難しいんだね。何を書けばいいかわからないや。

 取り敢えず、今日の分はここで終わ

 

 

 

 10月2日

 昨日は危なかった。ママが急に部屋を訪ねてきたの。別にそんな大した内容じゃなかったけど。

 ノックもしないで……ってわけじゃないけど、やっぱりこういうのを書いてる間に来られると焦る。特に書いてる途中の内容なんて、絶対見られたくないしね。

 そう言えば、私の名前ってどう言う意味なんだろう? やっぱり文字通り、空に希望を持つとか、そんな感じなのかな。希空って書いて、のあ。よくよく考えれば結構難しい読み方なのかもしれない。パパは謙二(けんじ)。ママは真尋(まひろ)。どっちも結構──言い方は悪いけど──普通の名前だ。

 ……もしかして私の名前、俗に言うキラキラネームってやつ?

 

 

 

 10月3日

 久しぶりに学校に行った。……とは言っても、ただの三連休明けなんだけど。日曜日の分ってことで、みんなからプレゼントをもらった。

 お菓子だとか、ちょっとおしゃれなペンだとか、色々。

 忘れられてなかったことにちょっとだけ感動。みんなありがとう大好き愛してる

 ……なんて言ってたらすごい引かれたんだけど、なんでだろうね? わけがわからないよ。

 

 

 

 10月4日

 今日はシェルターについて習った。元々日本には殆どなかったんだけど、怪獣が出るようになってからいろんなところに設置されるようになったんだって。

 怪獣、ニュースで見るけどやっぱり怖い。いつ私たちの前に出てきてもおかしくないし、予想することもできない。そう考えると、ほんとにどうすればいいかわからなくなる。

 ……まぁ、そう言うのは考えすぎないほうがいいって言われたけどね。どうせ怪獣が来たら逃げるしかない。別に何をできるわけじゃないんだから、だったら考えないほうがマシだって。

 まあ、あながち間違ってないんじゃないかなって思う。怪獣も地震も雷も、理不尽なこと言えば全部そうだしね。

 もちろん対策はめんどくさがっちゃだめだけど。

 

 

 

 10月5日

 今日は短縮授業だった。やったぜ。

 

 

 

 10月6日

 いい加減ネタ切れてきたんじゃないかなぁ。別にそんな書かなきゃいけないようなすごいこと、起こってほしくもないし。

 ……だから、今日はパパについて書いてみる、明日はママについて。

 これはこれでまた、面白いだろう。

 パパはお医者さん。だから、夜も家にいないことが結構ある。それでも誕生日だとか、なんかの試験に終わった時とか、隙を見ては私達がいる時間に帰ってきてくれる。勿論私も嬉しいんだけど、あんまり無理はしてほしくないかな。

 それと、パパは私と話す時、いつも笑ってるんだ。すごい優しい顔で。こんなこと本人にバレたら恥ずかしすぎるけど、実は私、この笑顔が結構好き。

 

 ……やっぱりやめ、今日はここまで。恥ずかしすぎる。

 

 

 

 10月8日

 というわけで、今日は「あんたファザコンだしマザコンだね」なんて言われた私がママについて書いていこうと思う。

 ママはなんかの研究をしてるらしい。家、実は結構エリート家庭。その「なんか」については教えてもらえないけど、きっとすごいことなんだと思う。だって、家族にすら言えない研究だよ? そんなの世界を変えちゃうような……それこそ、全部の怪獣を退治できるような研究に決まってる。

 だから、ママは明日から出張なんだって。ちょっと寂しいけど1人なのは慣れてるから別に大丈夫。それに、絶対帰ってきてくれるって信じてるし。

 

 

 

 10月15日

 最近色々と忙しくて、暫く日記を開いてなかった。

 明日、ようやくママが帰って来る。パパと一緒に帰ってきたママを迎えるんだ。こういう時は、珍しくパパの料理を食べられる。普段全くしないけど、パパの料理もすごい美味しいから楽しみ。

 それじゃあ、今日はもう寝よっかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ、すごい人の量」

「そうだな……あ、お母さんが乗った飛行機、もうすぐ着くみたいだぞ」

 希空と謙二は空港内の待合室で椅子に腰掛ける。

 彼女等と同様に誰かを待っているのだろうか。待合室だけでなく、その外までもが人でごった返していた。

「全く、なんで態々出迎えなんてしなきゃいけないのよ」

 ぶつくさと不平不満を垂れる希空。謙二は苦笑しながらも注意はしない。本心を聞かずとも、彼女が母との再会を心待ちにしているのは明白だったからだ。

 つまるところ、希空は思春期真っ只中だった。

 日記を渡したのは正解だったかもな、と謙二は独りごちる。もし日記の上でだけ素直になれると言うなら、それはそれでいいんじゃないか。

 ……尤も、覗き見たわけではないので、実際のところはわからないが。

「あ、もしかしてあれかな」

 希空が指さした先に飛んでいたのは、何やら頑丈な装甲で包まれた飛行機。旅客機とはまた違うその機体は、ゆっくりと旋回しながら地上に近づいていく。

「……ねぇ待って、何よあれ」

 誰かの声が響く。

「おい、あれまさか……」

 その声に釣られて希空と謙二が顔を上げれば、遥か天空に舞い上がっていたのは。

 

「──怪獣だぁぁっ!!」

 

 誰かが叫び、また誰かが待合室から飛び出していく。そして入口に人が押しかけ、一人、また一人と押しつぶされていく。

 そんな中で、希空は決して逃げ出そうとしなかった。どれだけ謙二に腕を引かれても、その体はピクリとも動かない。

 だって、まだ、ママがいない──。

 その心を打ち砕くかのように、巨大な翼を携えた怪獣は、急降下して真尋の乗る飛行機を貫いた。

 残骸が落下し、爆風が吹き荒れる。逃げ出した人々は炎に巻かれ、そして焼かれていく。

 

 偶然か否か、希空達は生き残った。爆風は彼等のすぐ側を焼いたが、待合室には直撃しなかったのだ。

 満足気に飛び去ろうとした怪獣だったが、生き残った希空と謙二を見つけ、甲高い鳴き声を上げる。二人は自分達に訪れる未来を想像し、お互いに強く抱きしめあった。

 

 その瞬間。

 

 眩い閃光と共に、怪獣が爆散する。

 

「──何が、起きて」

 そして、轟く咆哮。

 

 彼女達の運命が狂ってしまったのは、この瞬間からだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月21日

 本当に久しぶりに開いた。どうしても、私も心の整理ができなくて。取り敢えず、ママを迎えに行った日に何が起きたのか、書いておくね。

 ……あそこにいて生き残ったのは、私と、パパしかいないから。残せる人が、残しておかないと。

 

 出てきた怪獣はラドンって名付けられたらしい。空を飛ぶ大きい鳥みたいな怪獣なんだって。だから怪鳥、なんて呼んでる人もいるとか。

 ラドンはママが乗った飛行きを

 

 

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 なん

 で

 

 

 

 ごめんなさい、だいぶ汚れちゃった。もう一回書き直すね。

 あの日、ラドンはママが乗った飛行機を壊して、そしてその直後に、ゴジラに殺された。

 まさかこんなところにゴジラが出てくるなんて。今私たちが生き残ってるだけでも奇跡。それでね、今は生き残ったみんなでシェルターに避難してるところなの。

 ……それで終わりだったら、まだよかったんだけど。

 ママが■■■

 あの時から、パパはおかしくなった。

 ゴジラが、私達を救ってくれたんじゃないかって。

 そんなことあるわけないって言っても、聞いてくれない。

 私、どうすればいいんだろう?

 

 

 

 10月22日

 思ったよりも早くこれを開くことになった。

 なんか、毎日日記は書いとけって、隣の部屋のおじいさんが。

「それはいつか、君のルーツになる」なんて。よくわからないけど、書かせてもらえるならそれに越したことはない。

 シェルターは結構いい人がいっぱいで、本当に良かった。

 ……みんなは、どうしてるのかな。

 

 

 

 10月23日

 学校のみんなは別のシェルターにいるらしい。無事だといいんだけどな。

 

 

 

 10月24日

 今日は隣のおじいさんからおやつを分けてもらった。久しぶりにしょっぱいものを食べた気がする。

 そういえば、シェルターってマンションみたいな構造になってるんだね。まあ部屋はせまいんだけど、もっと不便なのかと思ってた。

 ……やっぱり、風呂はないみたいだけど。

 いつになったら外に出れるのかな。

 

 

 

 10月25日

 隣の隣の……確か5番目くらいの人に、急に来てほしいって言われた。なにかあったのかな。

 

 

 

 10月25日

 もうみんないないんだって

 みんなしんじゃったって

 なんでわたしいきてるの

 

 

 

 10月26日

 さよなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10月27日

 ごめんなさい。

 ……なんて言っても、仕方がないけど。

 取り敢えず、25日からの事をまとめていこうと思う。

 まず、25日。要件は、ラジオでニュースが聞けるっていう話だった。

 ただ、タイミングが悪くて。別のシェルター……学校のみんなが避難していたシェルターが、ゴジラに壊されたっていうのをちょうどやってて。

 

 本当は、ずっと辛かった。

 ママが死んで、パパがおかしくなって。

 心の整理ができたようにしてたけど、やっぱりだめで。

 だから……って言い訳するわけじゃないけど、ちょっとタガが外れちゃったんだと思う。それから2日後だったかな、みんなのところに行くんだって、シェルターを抜け出そうとして。

 色んな人に迷惑をかけた。

 パパにもすっごい怒られた。

 死んだらだめだ、それは負けだって。

 それから、色んな人に謝りに行った。

 その時もずっと、パパが私をかばってくれて。

パパがもとに戻ってくれて、本当によかった

 

 

 

 10月28日

 パパの様子がおかしい。何かずっと、隠し事をしてるような気がする。それも、何かだめな方の……例えるなら、サプライズとか、そういうのじゃないような。

 何か悪いことはしたなら、私にも教えてほしい。

 パパが守ってくれた分、私もパパのことを守りたいから。

 ……そう言ってみたけど、やっぱりパパは笑うだけだった。

 怖い。

 ここだから書けるけど、あの日からパパは少し気持ち悪いんだ。何かに魅了されたっていうのかな? ずっとそんな感じで。確かにママが■■■からもずっと、ゴジラが救ってくれたのなんのって言ってたけど、それ以上に。

 もしかして、なにか

 

 

 

 10月29日

 パパの様子がおかしい。

 しきりに日記帳を覗き込んでくるようになった。なんとかまだ見られてないけど、このままだといつ内容がバレるかわからない。

 だから、寝る時は中身を見られないように日記を隠すことにする。

 あんまり見られたくないし、何よりパパがもう、後戻りできなくなる気がしたから。

 

 

 

 10月30日

 目を覚ましたら、部屋の中が食料だらけになっていた。パパはそれを当たり前のように受け入れている。

 どういうことか全くわからない。

 いくら大量に食料があったとして、それはここに避難しているみんなのものなはず。なんで私達の部屋だけに、こんなにいっぱい。

 パパに聞いてもよくわからない返事しかしない。捧げ物だとか、なんだとか。

 そうこうしてる内に、部屋に知らない人が訪ねてきた。

 パパが食料を盗んだのを見た人がいたんだって。

 必死に謝って、騒ぐパパを抑えて、なんとか食料を返した。

 すっごく疲れた。

 これから、どうなるんだろう?

 

 

 

 10月31日

 今日の分の私達の食料はなし。昨日訪ねてきた人が倉庫の管理者だったらしくて、盗んだやつに食べさせるものはないって。

 パパが娘には食べさせろって怒ってくれたけど、誰も味方してくれなかった。

 なんでこんなことになったのかわからない。

 

 隣のおじいさんからこっそり食料を分けてもらった。

 パパに勧めても食べてくれない。ゴジラ様がどうとか、ずっとよくわからないことを叫んでる。なんなの、一体。それに、また誰かが訪ねてきた。例の管理人さんだ。何しに来

 

 

 

 11月1日

 なんでこんなことになったの

 

 

 

 11月2日

 取り敢えず、起こったことをまとめよう。

 私達が食料をもってると、誰かから聞いたんだと思う。管理人さんは私の手から食事を奪い取って、そのままパパに怒鳴り散らした。

 狂信者だの、なんだの。

 それにカッとなったパパは、管理人さんの顔を殴った。それだけならまだ喧嘩でなんとかなったんだけど、それからが問題で。

 パパは管理人さんの首を絞めたり、何度も何度も殴りつけたり、本気で殺そうとして。

 結果、私達はシェルターを追い出された。

 ゴジラ様がなんだとか騒いで、物を盗んで、挙句の果てには殺人未遂。そんな私達に、味方してくれる人なんているわけがなかった。

 誰が悪いってわけじゃない。みんな、おかしくなってただけなんだと思う。

 

 結果、私達は今こうして、廃墟でサバイバル生活を送っているというわけだ。

 パパはまた捧げ物がなんだのかんだの言って、どこかに行っちゃったし。

 寝づらいけど、今日はこのトンネルの中で寝よう。ここなら何かあっても大丈夫。道の先は高架で、逆の方面は地面で。行こうと思えば、どこにでも行けるから。

 

 明日からどうなるかはわかんないけど。

 ほんの少しでもいいから、なるべく幸せな未来が待っていますように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻を刺激する臭いに、少女──希空は目を覚ました。確かに風呂にこそ入れていないが、多少体を拭くくらいはしていたから、ここまでは臭くならないはず。では、この異臭はどこから?

 朧気な意識で周りを見渡し、希空は絶句する。自分のすぐ横に置かれていたのは、既に腐りきっている肉。それも一個ではない。鳥、豚、牛、挙句の果てには羊の肉までもが高々と積み上げられていた。

「うそ──」

 思わず距離を取ろうとするも、希空の体はまるで何かに括りつけられたかのように動かない。

 ……否、比喩ではない。彼女は現に、大荷物を運ぶ為の台車の上に乗せられ、その四肢は固く結びつけられていた。尤も、肉はただ隣に重ねてあっただけらしいが。

「ちょっ、どうなってんのよこれ!? 離しなさいよ!!」

 しきりに叫ぶ希空だったが、その悲鳴に応える者は誰もいない。彼女を乗せた台車が、ゆっくりと動き始める。

「アンタ一体、誰な……の……」

 希空が必死に視線を動かした先で台車を押していたのは、彼女がよく見知った顔。どれだけ道を間違えようと、決して彼女だけは見捨てないでいてくれたその人が、表情の見えない顔で彼女を見下ろしていた。

「パパ……?」

「お父さんな、気付いたんだ」

 愕然とする希空とは対象的に、謙二は淡々とした口調で告げる。

「どうしたら呉爾羅(ゴジラ)様に守ってもらえるかって。よくよく考えれば簡単な話だったんだよ。希空、どうしてお母さんがあそこで死んだのかわかるかい?」

「ねぇ、何言って」

「お母さんはな、生贄だったんだ。呉爾羅様に僕等を守っていただくための。犠牲なくして勝利は得られない。僕等が勝って、生き残るためにはそれ相応の対価が必要なんだ」

 希空の額に脂汗が流れる。この男が本当に生贄が必要だと信じ切っているなら、私が運ばれている理由は。

「だからな、希空──」

 そうして彼は、()()()に見た、とびきりの優しさを込めた笑顔で。

「──お前に、生贄になってほしいんだ」

 

 嫌、誰か助けて。

 そう叫ぼうとした希空の口に丸いものが押し込まれる。

「駄目だろ、希空。死んだらそこで終わりなんだぞ」

 それは恐らく、ただの新聞紙か何かだった。しかし、いくら紙と言えども、丸められて固くなったものを噛み切るほどの力は希空にはない。

 そしてまた、彼女の父親にも、生贄になることと死ぬことが同義であると気付けるほどの理性はない。

 

 彼女達がトンネルから出たその瞬間、()()は訪れた。

 

 大地を揺らす地響き。

 大量の水が地面を叩く音。

 そして、聞いた者を一人残らず震え上がらせる、低い唸り声。

 

 それは黒い巨体を隠すこともなく、突如として海上に姿を表した。まるで、自分を止められる者が誰もいないと知っているかのように。

 

 その姿は、恐竜のようで、それでいてどこか人間味もあるようで。

 

 ある人は、それを怪獣王だと表現した。

 またある人は、それを破壊神だと表現した。

 

 どちらも間違ってはいないのかもしれない。事実、それの力は、王や神を遥かに凌駕している可能性すらもあるのだから。

 

 人間は、畏怖を込めてそれの名を呼んだ。

 並の怪獣では、ましてやただの人間では足元にも及ばない、(GOD)の名前を持つ存在。

 

 

「──ゴジラ」

 

 時空を切り裂く咆哮が轟く。

 怒りの中に、どこか哀しみが混ざった咆哮が。

 

「……呉爾羅様!! 今暫くお待ち下さい、今生贄をご用意しますので!! ほら希空、早く準備するんだ!! あんまり待たせちゃ駄目だぞ、僕達は守ってもらう側なんだから!!」

 

 咆哮の衝撃か、正気に戻った謙二が希空の拘束を解いた。これなら脱出できるかも、と希空が僅かに希望を抱いたのもつかの間、彼女は謙二に羽交い締めにされる。

 細いシルエットからは想像できない程の力。どれだけ藻掻いても、彼は希空が逃げることを絶対に許そうとしない。

 

 その時だった。

 

 温度が、上がっている。

 それに気が付いたのは、希空が先か、謙二が先か。

 

 謙二は希空の首を潰さんばかりに締め上げた。コヒュ、と間の抜けた音がなり、希空が更に激しく藻掻き始める。そうしている内にやがて、彼女の動きが鈍くなっていく。

 謙二はその時を狙っていたのだ。いくら歩みが遅いとは言えど、ゴジラの体高は約100m。一歩で進む距離があまりにも長過ぎる。既にゴジラは彼等のすぐ近くまで迫ってきていた。

 それに、()()()()()()()

 

 謙二は抵抗が弱くなった希空を抱え、高架から放り投げる。

 彼の表情には一点の曇りもなかった。ここで希空が生贄になれば、何もかもが元に戻る──。

 

 希空は、自分を投げ落とした謙二の顔を見ていた。時間がゆっくりと進み、彼の窶れ切った顔が鮮明に見える。どれだけ手を伸ばそうと、もう彼に届くことはない。二度と、彼の笑顔を見ることはできない。彼女は静かに目を閉じた。そうだ、きっとこれは悪い夢。目を開けたら、パパとママがいて、「おはよう」って、言ってくれるんだ──。

 

 そして同時に、ゴジラの背鰭は煌々と輝きを放っていた。まるで地球全体を支配してしまうような、淡くて、眩い群青の輝き。それが口元まで広がった時、ゴジラの目が憎々しげに細められる。

 その目が映すものは、己に歯向かう敵の姿か、それとも。

 

 次の瞬間。

 

 世界が、爆ぜた。

 そう錯覚する程の閃光が、世界を染め上げる。

 そしてその閃光──放射熱線は、嘗て希空達がいたシェルターに直撃、辺り一面を爆風で焼け野原にしていく。

 既に崩れかけていたビルが、文字通り吹き飛ばされる。駅も、公園も、道路も、何もかもが一瞬にして炎に包まれていく。

 炎は留まることを知らず、ただ燃える範囲を広めるのみ。もしこの場に大勢の人間が残っていたとしたら、一体何割が生き残れるというのだろうか。

 

 やがて立ち昇る、巨大なキノコ雲。

 ゴジラはそれを睨みつけ、巨大な咆哮を上げる。

 まるで自分が創り上げたキノコ雲を威嚇するかのように、もしくは憎むかのようにゴジラはいつまでも咆哮を続ける。

 怒り、嘆き、哀しみ。

 全てが詰まったその慟哭は、世界中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻を刺激する臭いに、希空は目を覚ました。今度は腐った肉の臭いではない。もっと悍ましい、様々なものが焼ける臭いだ。

 嘗てシェルターがあった方角を向くと、そこにあったのはゴジラの巨大な後姿。既に遠く離れたゴジラは、ただゆっくりと歩み続ける。

 周りを見渡しても、謙二の死体は見つからなかった。当たり前だ。死体など、疾うの昔に吹き飛ばされているだろう。寧ろ希空が生きてることの方が異常なのだ。

 

「────────────ッ」

 

 そして再び、咆哮が響く。

 それがゴジラのものだったか、それとも希空のものだったかはわからない。

 

 どうして、ママが死ななきゃいけなかったんだ

 どうして、パパが死ななきゃいけなかったんだ

 どうして、シェルターのみんなが死ななきゃいけなかったんだ

 どうして、私だけが生き残ったんだ

 

 希空の心に湧く叫びはいつまで経っても収まらない。寧ろ時が経つごとに、涙までもが溢れていく。

 

 そうだ、ゴジラのせいだ。

 ゴジラが現れなかったら、ママは死なず、パパはあんな思想に染まらず、そもそもシェルターに避難することなんてなくて。

 そこまで考えて、希空はゴジラの方を見やる。

 ゆっくりと首を動かし、ゴジラは希空を睨みつける。

 

 ──あぁ、似てるな

 

 ふと、希空はそんな事を思った。

 どこが、と聞かれれば、恐らくそれは、()だったのだろう。常人の視力だったら、遠く離れたゴジラの目など見えるはずはない。しかし彼女には不思議と似ている、と言える自信があった。

 

 自分だけが、孤独に生き残って。

 悲しくて、辛くて、憎くて。

 それなのに、どこか冷静になってしまった自分もいて。

 それがまた怖くて、憎くて。

 そんな気持ちがグチャグチャになって、いつの間にか光も闇もなくなってしまった、そんな瞳。

 

 ゴジラは再び背鰭を光らせる。まるで、行き場のない怒りをぶつけるかのように。

 希空は涙を拭い、ゆっくりとゴジラに向かって歩き出す。まるで、そこに答えがあるかのように。

 

「何が怪獣王よ、何が破壊神よ」

 くだらない。そう吐き捨てながら、希空はゴジラへと手を伸ばす。

 決して、その手が届くことはない。それでも。

 

「アンタも、私達と変わらないんじゃない──」

 

 その光の先に、何かを掴んだ気がして。

 

 ──あぁ、日記帳、どうなったのかな

 

 そんな事を考えながら、彼女は、静かに微笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──11月3日。かくして、ゴジラ(GODZILLA)を殺した少女は、群青の光へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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