TRPG小説型議事録    作:古井戸の少年

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注意:この小説はエモクロアTRPG〈運命と因果、そして奇跡と〉のネタバレを含みます。GMやPLのアドリブでオリジナル要素的なのはありますがネタバレ喰らうのやだ!という方は先に下URLのシナリオを遊んでからこの小説を読むことを推奨します。
そんなの関係ねぇ!って方はぜひぜひ読んでください。作者が喜びます。

また、この小説型議事録はあくまで沢山ある結末の一つに過ぎません。結末はプレイの数だけありますから。

元シナリオ↓
https://talto.cc/projects/5vFdY5q52ZLNfKAG39m0


エモクロア
運命と因果、そして奇跡と 1日目


「運命」

 

それは人に平等な幸福と破滅を与える災厄であり、体のいい方便でもある。『運が悪かった』と言えば、その罪を天の仕業と言うことに出来る上に、その中に人の感情など介入することが無いのだから。

だがそこに、異を唱える物が現れた。

 

エモクロアTRPG-運命と因果と、そして奇跡と

 

 

ここは星運市(せいうんし)にある星運市(せいうんし)立高等学校(りつこうとうがっこう)。略称は星運高校(せいうんこうこう)

 

この高校に教師として通勤している猫宮翡翠(ねこみやひすい)は生徒たちの様子を見に廊下を歩いていた。

 

「おはようございます!」

「おはよう」

「先生おはよー!」

「おはよう」

 

教室に向かっていく生徒に挨拶を返していく翡翠(ひすい)。トコトコ歩いていると1人の男子生徒が目に入った。その男子生徒は翡翠を見つけると自分から挨拶をした。

 

「おはようございます、猫宮(ねこみや)先生」

「おはよう」

 

彼の名前は諸星(もろほし)(ひかる)

 

薄幸そうな雰囲気に加え、今年の4月から入学したにも関わらず少しよれた制服や鞄を身につけている少年、しかしそれなりに友人と仲良くしているようだ。

 

ふと、翡翠(ひすい)の耳に何か聞こえたが、声が小さすぎてよくわからなかった。

 

しかしこれだけはわかる。確実に良くない話であり、よく聞いた噂話だと。

 

「……諸星(もろほし)君。もし何かあったら先生に言ってね。力になるよ」

 

思わず心配になりついこの言葉をかけるが(ひかる)は笑ってこう言う。

 

「あはは、大丈夫ですよ先生。これはいつものことです」

 

失礼します、と言って(ひかる)は教室に向かっていった。翡翠(ひすい)は笑顔のまま彼の後ろ姿を見つめる。

 

このまま散歩しようと思ったが、その考えはたった今鳴った校内放送によって打ち消された。

 

猫宮(ねこみや)先生、猫宮(ねこみや)先生、至急職員室までおこしください』

「あらいけない。急いで戻らないと」

 

翡翠(ひすい)は少し急いで職員室に向かった。

 

 

ところ変わって(ひかる)の教室。そこには窓際の席で1人机に突っ伏して寝ている少年……いや、ここはあえて青年と表現しよう。

 

彼の名は二ノ宮(にのみや)|北斗(ほくと)《ほくと》。星運市(せいうんし)の外からきた人間で、星運高校(せいうんこうこう)の入学に合わせて引っ越してきた人間だ。

 

彼はほぼ毎日朝早く来てはこうして机で寝ているのだ。理由は今回は夜に面白いアニメを一気見したせいでこうなった。1クール12話、コマーシャルを抜いて1話約23分。そう仮定すると、23×12=276、時間にして4.6時間。見始めたのが23:30、そして起床時間が6:49、そして課題も半分残っている。完全に寝坊したのだ。

 

幸い課題の提出は6限目なので授業の合間に寝て残りの課題をやれば間に合う、といった状況だった。

 

これ以外にも理由はあるが、アニメ6:その他4の比率で寝不足なのだ。

 

なので本来であれば担任が来るまでこうして寝ているのだが、ほぼ毎日北斗(ほくと)の安眠を邪魔する者がいる。

 

「おはよう北斗(ほくと)くん!なんで寝てるの?ほら起きてー!朝だよー!もうすぐ先生が来るよ!ほら起きて起きて起きておk「だぁーわかった!起きる!起きるからやめろぉ!」」

 

その原因がこの少女、丸近(まるちか)めいだ。

 

身長148cmのちびっこなお転婆娘で、年がら年中マスクをつけているマスクの民である。なぜマスクをつけているのか聞いたところ、つけてちゃ悪いかとまるで地雷を踏み抜かれたかのような声だったので追及を諦めた。

 

一般的な(ここ重要)イメージとして、普段からマスクをつけている人間は静かでおとなしい印象があるが、この娘はその固定概念をぶっ壊したような性格をしている。

 

「ったく……毎回やって飽きねえのか。今割と眠いんだが」

「夜更かしは良くないよ〜。アニメでも見てたの?早く寝ないと健康に悪いよ」

「遅刻してねえから問題無し。つーか寝不足になる原因はそれだけじゃないぞ?なあ(ひかる)

「う、うーん……僕あんまりアニメとか見ないからわかんや、い。おはよう2人共」

「おはよ」「おはよー(ひかる)くん!」

 

ちょうど(ひかる)が来たのであいさつをする。

 

「そうだ(ひかる)くん聞いて!北斗(ほくと)くんったら夜遅くまでアニメ見て寝不足なんだって!」

「アニメだけじゃねえよ」

「じゃあなに?」

「……あえて言うならお散歩だ」

「深夜徘徊してたってこと?悪い子だぁ!」

(ひかる)助けて」

「え、えーと……今日は早く寝たらいいんじゃないかな」

「味方などいなかった……」

 

そんなこんなで、いつものようにめいを中心に3人は楽しくおしゃべりに興じると怒鳴り声が聞こえてきた。

 

「昨日拾った宝くじが無くなってやがる!当たってたんだぞ!」

 

その言葉に(ひかる)るはビクッと反応した。

 

その反応はまるで隠し事をしている子供のようだった。

 

何があったかを聞くと、(ひかる)はポケットから1枚のチケットを取り出した。そのチケットには宝くじと書かれていた。

 

「実はさっき登校中に拾ったんだ。でも交番に行くと学校に遅刻しちゃうし、かと言って放置できないと思って……ってあれ?」

 

少し怯えながら言う(ひかる)。それを見た北斗(ほくと)は音を立てずに席を立ち流れるように宝くじを手に取りその生徒の元に向かった。

 

「……お前が落とした宝くじってこれか?」

「あぁ!?」

 

生徒は北斗(ほくと)の手にあるクジの番号を確認して奪い取った。

 

(礼も無しかよ。失礼なやつだな)

「……ありがとう、北斗(ほくと)

「気にすんな。今回は俺が行った方がいいと思ったからな。それに、バレたら後が面倒だろ。んでさっきの話だけど……」

 

北斗(ほくと)は話題を逸らすために先ほどの話の言い訳を言おうとするが、それは突然(ひかる)が殴られたことで止まった。

 

「おまえが盗んだんだな!?この古着屋め!」

 

古着屋というのは彼を馬鹿にするあだ名の一つである。元々貧乏である彼は新しい制服を着ないで先輩からもらったお古を使っていたのだ。その他にも(ひかる)に関するよくない噂が(ひかる)に流れており、ひどいものではこの地域のヤクザとつながっており、盗みやらの犯罪が揉み消されているといった噂が流れたこともあった。そうういった噂により(ひかる)の虐めに拍車がかかっていた。

 

しかし、それでも友人となったのが丸近(まるちか)めいと二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)だ。

 

北斗(ほくと)は偏見を持たない性格なのと偶然席が隣だったこと、めいは持ち前のコミュ力と面白そうだからという理由で北斗(ほくと)に懐いていたため自然と3人でつるむことが多くなった。

このような2人と仲良くしていることで根本的な解決には至らないものの最近は虐めは減ってきつつある。

 

閑話休題。

 

おそらく今の会話が聞こえていたのだろう。(ひかる)に対していい印象を持たない、むしろ都合のいいサンドバックのような考えをしている彼は(ひかる)が宝くじを盗んだと考え(ひかる)を殴ったのだと北斗(ほくと)は推測した。

 

(ひかる)がもう一度殴られそうになったので北斗(ほくと)(ひかる)を庇うために(ひかる)の前に出た。

 

北斗(ほくと)は生徒の拳を右頬に食らった。

 

「ぶっ」

「!?」

 

体幹を使い倒れないように踏ん張った。手で受け止めるつもりが思いっきり頬で受け止める形になってしまったので北斗(ほくと)

 

「わ、わる「謝んのは俺じゃねえだろ」え?」

 

北斗(ほくと)の声は少し怒りが入っていた。

 

「確かに(ひかる)が拾ったもんを嘘ついて俺が渡したのは悪かったよ。でも(ひかる)は善意で拾ったんだ。それを古着屋だとか言って偏見で疑うのは違うだろ。謝れ」

 

北斗(ほくと)が怒りを込めながらいうとその生徒はバツの悪そうな顔をしながら去っていった。

 

北斗(ほくと)は人として終わってるだろ、と思いながらカバンから医療セットを取り出す。

 

「いった……医療セット持ってきておいてよかった」

 

本当は(ひかる)用に持ってきたやつだけど、と思いながら北斗(ほくと)は手慣れた手つきで消毒をし湿布を貼る。ひとまずチャイムが鳴ってしまったので心配する2人に席に座ることを促し、せめてもの抵抗として殴られた生徒に一瞬だけ殺気を送った。

 

 

チャイムが鳴り終えた廊下というのは実に独特な雰囲気を醸し出す。

 

本来であれば生徒達は教室に入り先生を待つが、遅刻確定で急ぐ意味を失った生徒や、授業をサボって校内を歩き回る生徒はまるで自分しかいない空間にいけないことをしている背徳感も相まって特別な空間のように感じる。

 

そんな廊下を歩いているのは2人の大人と少女。

 

うち1人は北斗(ほくと)(ひかる)、めいの担任である猫宮(ねこみや)翡翠(ひすい)

 

そしてもう1人は茶髪ミディアムで日本では珍しい緑色の目を持った少女。表情にはには出ていないが彼女の頭の中では緊張と不安が頭をぐるぐる回っている。

 

「それじゃあ一旦ここでまってて。私が入ってきてって言ったら入ってね」

「わかりました」

 

猫宮(ねこみや)は教室に入っていつもは開けているドアをあえて閉めた。9月とはいえ残暑が残っていて暑いけど、仕方ないよね。うん。転校生なんてサプライズだもん。

 

「起立。礼。着席」

 

日直の挨拶で誰もが通る朝の挨拶。

 

「みんなおはよう」

「「「「「「「おはようございます」」」」」」」

「今日の連絡の前に、今日からこのクラスに転校生が来ます」

 

翡翠(ひすい)がそういうと教室がザワザワし始めた。

 

「転校生?」「高校だと珍しいな」「どんな子が来るんだろう」「ちくわ大明神」「可愛い子だといいなぁ」「なんだ今の」等々の声が聞こえてくる。

 

「転校生かぁ。どんな子なんだろう。あ、唐揚げとか好きかな?」

「それは知らん。けどまあ、高校から転校なんて珍しい」

 

生徒それぞれ三者三様の反応をする。翡翠(ひすい)はそれを鎮めて話題となっている転校生を呼ぶ。

 

「それじゃあ、入ってきて」

 

入ってきたのは思わず教室の騒音が一斉に沈むほどの美少女だった。

 

まず目に入ったのは女子の平均身長より少し高い身長に、日本では珍しい緑の瞳。欧米特有の西洋人形のような容姿に日本人のような雰囲気を纏っている。

 

つまり、顔面偏差値が高い美少女である。

 

翡翠(ひすい)が黒板に名前を書く。

 

白い文字で書かれたのは、シロ・ヴェルタ。

 

「それじゃあ、みんなに自己紹介して」

「イギリスから引っ越してきました、シロ・ヴェルタです。よろしくお願いします」

 

そう言って彼女——シロは頭を下げた。

 

彼女は親の事情で星運市(せいうんし)に引っ越し星運学園の転校生である。

 

緑色という日本ではなかなか見ない瞳で、しかも人形のように顔の整った美少女を目の前に教室にいる生徒は一部を除いて興味津々だ。

 

ちなみにその一部は北斗(ほくと)である。

 

ちなみに、(ひかる)はぽーっとシロを見つめ、めいはキラキラとした目でシロを見ている。そこから読み取れる感情はそう、超コミュ強めいさんはシロと友達になりたい。

 

(仕事柄イかれた奴らを多く見てるからかな、彼女について騒いでいる奴らの気持ちがわからん)

 

この青年、こんな興味ないフリをしている隠キャ童貞なセリフを言っているが実際その通りなのだ。

 

彼は星運市(せいうんし)に来る前、文字通り世界各地に渡った経験があり、そんな中でもピンクや赤、紫といった髪が地毛である人間や毒蛇などの危険生物と共に生きている人間、水中で暮らしている人間……いや待てそれ人間か?などなど、様々な人間を見ている。

 

なので海外から美少女の転校生が来たところで大して興味はないが——

 

(まあ、この考えは口に出すのはよそう。確実に雰囲気をぶち壊すしあらぬ勘違いを招きかねん)

 

当たり前のことではあるが、北斗(ほくと)はくだらない考えだとその思考を捨てた。えらい。

 

「それじゃあ空いてる席は……二ノ宮(にのみや)君の隣かな。ほら、そこの窓側の。そこに座って」

「わかりました」

 

シロは指定された席まで歩き、席に座った。

 

「よろしくね」

「よろしく」

 

そして北斗(ほくと)となぜか(ひかる)に対してものすごい怨念(特に(ひかる)に対して)のようなものが飛んでくるが、北斗(ほくと)は軽く文字通りの殺気を込めてそいつらを少しの笑顔で軽く睨む。するとその怨念は嘘のように消えてった。

 

「みんな仲良くしてあげてね。それじゃあ今日の連絡から——」

 

 

1限目は猫宮(ねこみや)先生の授業である。

 

「今日はシロちゃんについて質問コーナー……と言いたいところだけど授業が結構遅れているから放課後のHRやります」

 

生徒たちからブーイングが上がるが翡翠(ひすい)が「ダメな物はダメ。でもちゃんと時間は取るから安心して」と言ったので渋々授業の準備を始める。

 

「じゃあみんな教科書の……そうだシロさん。あなた教科書持ってる?」

「あ、持ってないです」

「そうしたら……」

「先生、俺が見せるんで大丈夫です」

「あらそう?じゃあお願いね」

 

そんなわけで、教科書を見せやすくするため北斗(ほくと)は席を寄せようとするとめいが待ったをかけた。

 

「まって北斗(ほくと)くん」

「どうした?」

「私が見せるよ!女の子同士の方が話しやすいでしょ?」

「あー確かにそうだな。ごめんねヴェルタさん、気が利かなかった」

「ううん、大丈夫」

「先生、そういうわけで丸近(まるちか)と席交換していいですか」

「どうそれもそうね。じゃあ2人は席交換して」

「はーい」

(お気に入りの席だったけどまあいいか)

 

さようなら窓際の席、と北斗(ほくと)は思いながら席を移動した。

 

 

時は流れて放課後。めい、北斗(ほくと)(ひかる)は明日行く遊園地について話していた。

 

「——じゃあ集合場所は星運公園(せいうんこうえん)、時間は9時、持ち物は飲料水、タオル、金、おやつは800円まで……でとりあえずいいか。あと必要なのはあるか?」

「元気!」

「確かにそうだな。よしじゃあそんな感じで。(ひかる)は大丈夫か?」

「う、うん。大丈夫だと思う」

「よし。じゃあ帰るか」

 

話し合いが済んだので北斗(ほくと)(ひかる)は帰宅の準備をした。するとめいがふとこう言った。

 

「ねえ」

「なんだ?」

「明日の遊園地なんだけどさ、シロちゃんも誘っていいかな?」

「ヴェルタさんを?俺は構わんが……」

「僕も大丈夫だよ。けど……」

 

(ひかる)はシロがいる方へ目線を移した。それに釣られて2人もそこを見ると……

 

「シロちゃんどこに住んでるの?」

「シロちゃん髪サラサラだね!どんなケアしてるの?」

「ちくわぶ大明神」

「ヴェルタさん、もしこの後よかったら……」

「ねえ何今の」

 

めっちゃ囲まれてた。転校生というものもあるだろうがその人形のように整った容姿もあいまってめちゃめちゃ囲まれて……ねえ待ってなんかいるんだけど。

 

(……はぁ、仕方ない)

 

北斗(ほくと)(ひかる)を呼び耳打ちする。

 

「先に3階の階段すぐの空き教室に行ってくれるか?ちょっと考えがある」

「え?うん、わかったけど、何かいい案があるの?」

「うまくいくかどうかはわからないがな。頼んだ」

 

(ひかる)は荷物を持って教室を出た。いつもなら(ひかる)に突っかかってくるクラスメイトがいるのだが、今回ばかりはシロに人が集まっているので(ひかる)は何もなく教室を出ることができた。

 

丸近(まるちか)。今からお前に任務を与える」

「任務!?どんな任務でしょうか!」

 

めいは任務と聞いて目をキラキラと輝かせながら北斗(ほくと)の指示を待つ。その姿はまるで大好きな飼い主が投げるボールを待つ小型犬のようだ。北斗(ほくと)はやっぱこういうやつは扱いやすいなと思うと同時に将来大丈夫か?と心配になった。

 

「今回の任務は、あの人だかりにいるヴェルタさんを素早く回収して3階階段すぐの空き教室に行ってくれ。俺はその後を追う。行けるな?」

「行けるよ!私は動けるチビだからね!」

「ははっ、そら頼もしいな。じゃあ頼むぞ」

「おまかせ、あれっ!」

 

瞬間、めいが北斗(ほくと)の視界から消えた。

 

消えた、というのは比喩表現ではあるがめいは人混みを器用に避け、素早くシロの元へ近づくとシロの手を掴んで引き寄せ、かるく抱き上げるとこれまた素早く教室を出た。

 

北斗(ほくと)はあたかもシロは既に帰ったという幻覚に似たものをかけ、3人分の荷物を持って教室を出た。

 

 

「あ、あれ?シロちゃんは?」

「さっきまでいたよね……?」

「荷物は……ない」

「ちくわぶ大明神」

「じゃあもう帰ったのかな?」

「まあいいや、こいつの奢りでカラオケ行こうぜ」

「ねえなにいまの」

「おう、いいぜ!何せ宝くじ当たったんだからな!」

「あれもしかしてスルー?」

「よっしゃー!お前ら聞いたか!今からカラオケ行くやつこいつが全員分奢ってくれるってよ!」

「マジで!?」

「よっ太っ腹ー!」

「お魚大明神!」

「ごちになりまーす!」

「ちょっ、てめえふざけんなそんなでけえ額当たったわけじゃねえんだぞ!?」

「ねえ今なんかいたよね!?ねえなんか今いたよね!?」

 

 

「お待たせー!」

「え、え、え?な、何が起こったの?」

「あれ、丸近(まるちか)さん北斗(ほくと)君は?」

「後でくるって。ごめんねシロちゃん、突然連れ出して」

「え?あ、めいちゃんだったんだ……。大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど」

 

シロは少し困惑したが相手がめいと理解したことで少し落ち着きを取り戻した。

 

「おい丸近(まるちか)……てめぇカバンに何いれてんだ。ばりくそ重いんだが」

 

するとそこに3人分の荷物を持った北斗(ほくと)が恨みを込めたチベットスナギツネのような顔で空き教室に入ってきた。

 

「え?教科書と筆記用具とお菓子とお菓子と……お菓子?」

「どんだけ持ってきてんだよ!つかそんなにいらねーだろ!」

「まあまあ、そんなに叫んだら喉痛くなるでしょ?はい。のど飴いる?」

「そういう問題じゃ……いやいるけどさぁ」

 

北斗(ほくと)は味はなんでもいいやと思いながら受けとる。北斗(ほくと)が息を整えてる間にめいは2人にものど飴を渡した。

 

「それで?説明したか?」

「あっそうだった!あのねシロちゃん。私と北斗(ほくと)くんと(ひかる)くんの3人で遊園地に行くんだけどシロちゃんがよければ来ない?」

「うん!行く!」

「まさかの即答」

 

めっちゃ食いついた。いや、めっちゃ、というほどではないかもしれないが目が輝いて前のめりになっている。

 

つまり、超乗り気である。

 

「あー、いいの?ヴェルタさんは今日来たばっかりだから、もし気を遣ってるなら断っても……って思ったけど大丈夫そうだね」

「うん。多分お母さんに聞いても大丈夫っていうと思うから。それに、仲良くしてくれる人たちは大事にしなさいってお母さんが言ってた」

 

お母さんすごいな。そう思いながら北斗(ほくと)は少し笑った。

 

「それならだな。ところでヴェルタさんは「そうだ!ねえシロちゃん、ラインやってる?やってたら交換しよ!」おいこら発言を被せるな」

「うん。ラインやってるよ」

「それじゃあ、はい!ほら(ひかる)くん、北斗(ほくと)くんも!」

「う、うん」

「はいよ」

 

めいに促されてシロは3人と連絡先を交換し、北斗(ほくと)はシロをグループに入れた。

 

「今日の夜持ち物で必要になるであろうものをこのグループに送るから、それを基準にして準備して」

「わかった」

「よし、じゃあ帰るか」

 

そうして、4人は帰路についた。

 

 

<  遊園地に行き隊

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  集合場所:星運公園(せいうんこうえん)

  集合時間:9:00

  持ち物:交通費(大体700円)

  チケット代(6200円)

  モバイルバッテリー

  飲料水

  タオル

  その他各自必要だと思うもの

 

  予備のお金については各自判断

  すること

 

     二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)がノートに追加しました

 

  んで遊園地に行き隊ってなんだよ

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  おっけー!(`д´)ゝ

  いい名前でしょ?

 

諸星《もろほし》(ひかる)

  わかった

 

シロ・ヴェルタ

  了解です

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  いや他に候補がないから

  なんとも言えんからいいけどさ

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  明日楽しみだね!(*´∇`*)

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

   だな。俺も超久しぶりに行く

 

諸星《もろほし》(ひかる)

  でも遊園地でよかったの?

  

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  ああ。何せ普段控えめな(ひかる)

  遊園地のポスターを見てボソッと

  「行ってみたいな」って言ってたのが聞こえたから

  俺が遊園地行こうって提案したし。

 

諸星《もろほし》(ひかる)

  聞こえてたの!?

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  うん

 

諸星(もろほし)(ひかる)

  恥ずかしい……

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  はい先生!

 

  おやつはいくらまでですか?

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  先生って言うな

 

  さっき800円以内って言った

  が、丸近(まるちか)の場合はバリクソ

  多く持ってきそうだから追加で買って

  いいのは400円で多くて1200円までにしよしよう。

  

  @めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

   あとかさばるものは1つまでな

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  ガーン∑(゚д゚lll)

                

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  忘れてないからな

 

  おめーが(ひかる)と俺の3人で

  ピクニック行った時になんも

  制限つけなかったせいでポテチ

  やらグミやらが大量に出てきて

 

  しかも強制的に持たせられた時

  バチくそ大変だったんだぞ

 

  四次元ポケットかおめーの鞄は

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  それほどでも⁄(⁄ ⁄-⁄ω⁄-⁄ ⁄)⁄テレテレ

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  褒めてねーよ

 

  あ

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  なに?(。-д・)ドシタ?

 

シロ・ヴェルタ

  どうしたの?

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  お腹壊した?(๑ ˊ͈ ᐞ ˋ͈ )ƅ̋

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  引率の大人いなくね?

 

  俺ら一応未成年だし

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  あっ( ゚д゚)ハッ!

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  俺は一人暮らしで親は遠くに

  いるから無理

  (ひかる)の親は言わずもかな

 

  丸近(まるちか)の親はどうなんだ?

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  ちょっとまってね(((((っ・ω・)っ

 

  ダメだった……(╥_╥)

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  ヴェルタさんの親御さんは

  

  いややめた方がいいな

 

シロ・ヴェルタ

  うん

  どのみちお母さん明日仕事だから無理

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  だよな。というか転校初日に

  遊園地に、しかも明日行く

  のに誘えたってだけででかい。

 

  とはいえ引率者は欲しいところ

 

  まてよ……

 

  ちょっと電話してくる

 

 

北斗(ほくと)は電話をかける。2コールして、声が聞こえる。

 

『はい猫宮(ねこみや)です』

「お疲れ様です猫宮(ねこみや)先生。二ノ宮(にのみや)です」

『あら二ノ宮(にのみや)君。どうしたの?』

「突然ですけど明日って空いてます?」

『ちょっと待ってね……空いてるけどなんで?」

「遊園地行きません?メンバーは俺、丸近(まるちか)(ひかる)、ヴェルタさんの4人です」

『遊園地?』

「はい。実は今回行くメンバー未成年だけなんですよ。高校生とはいえまだ1年生、引率できる人いたほうがいいよねって話になったんです」

『なるほど』

「それに、友達として(ひかる)のことが心配なんですよ。それについても少し相談したくって」

『ふーん……いいわよ。明日はちょうど休みだし、仕事も今日で終わらせられたしね』

「ありがとうございます。じゃあグループに招待するのでよろしくお願いします」

『わかったわ』

「はい、それでは失礼します」

 

< 遊園地に行き隊

 

     猫宮翡翠(ねこみやひすい)が参加しました

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  というわけで猫宮(ねこみや)先生に引率

  してもらえることになった

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  翡翠(ひすい)先生だー!キタ───ヽ(*゚∀゚*)ノ───‼︎

 

猫宮翡翠(ねこみやひすい)

  よろしくね

 

シロ・ヴェルタ

  先生明日大丈夫なのですか?

 

猫宮翡翠(ねこみやひすい)

  大丈夫よ、今日の分の仕事は

  全部終わらせたから

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  急な連絡だったのに

  ありがとうございます

    

猫宮翡翠(ねこみやひすい)

  いいのよ

  先生として、大人として引率

  するからよろしくね

 

二ノ宮(にのみや)北斗(ほくと)

  それじゃあ明日もそこそこ

  早いし寝るか

 

  持ち物はグループのノート

  に書いてあるんで確認して

  ください

 

猫宮翡翠(ねこみやひすい)

  わかったわ

  おやすみ

 

めいฅ^•ω•^ฅネコチャン

  おやすみ!( ˘ω˘ )スヤァ

 

シロ・ヴェルタ

  おやすみなさい

 

 

翌日。

 

現在集合時間の30分前。北斗(ほくと)星運公園(せいうんこうえん)にいた。

 

北斗(ほくと)は出かけるにしては少し大きい黒いリュックと薄着の藍色のパーカーを着ていて、その顔は険しいものになっていた。

 

(ひかる)のやつ、何があった?昨日の夜から連絡がねぇし、電話しても出やしない。あの几帳面な(ひかる)ならなんかあったら必ず連絡をくれる。一体どうし——)

 

「おはよう二ノ宮(にのみや)君、ずいぶん早いのね」

 

声が掛かった方向を見ると、白のTシャツに灰色のカーディガンを纏った翡翠(ひすい)がいた。

 

「先生でしたか、おはようございます」

「おはよう二ノ宮(にのみや)君。ずいぶん早いのね」

「ええ、今日は早く目が覚めてしまって」

 

早起きしたのは本当だが、その間(ひかる)からの連絡をずっと待っていたのだ。

 

そして翡翠(ひすい)が座ろうとしたところで公園の外から車のエンジン音が聞こえた。その方向を向くと、黒いジムニーが公園の近くに止まっていた。ドアが開くと、白のブラウスにキュロットスカートを身に纏った美少女——シロが降りてきた。

 

「……え」

「……」

「お母さんありがとう。……うん、じゃあね」

 

北斗(ほくと)は驚きで目を見開き、翡翠(ひすい)は笑顔のまま固まった。シロは公園に送ってくれたであろう母親らしきと人と会話した後、手を振って見送った。車が見えなくなるとシロはこちらに向かって歩いてきた。

 

「おはようございます猫宮(ねこみや)先生、北斗(ほくと)君」

「おはようシロさん」

「お、おはよう。送ってくれたのは親御さん?」

「うん。朝お母さんが送っていくよって言ってくれたの」

「な、なるほど……」

 

北斗(ほくと)はとてつもなくゴツい車から人形の世界から出てきたような少女が出てきたというギャップに少しやられていた。そもそもどんな服装をしてくるかというイメージをしてなかったというのもあるが、それにしたってギャップがすごくて頭がバグりかけた。

 

プルルルル

 

(……ん?)

 

ふと携帯が鳴ったことに気づいた。頭がギャップによってバグりかけていたところに携帯がなったのでギリギリバグらずに済んだ。

 

「もしもしどこにいる?」

『おはよー北斗(ほくと)くん!私今コンビニにいるんだけど何か買ってきて欲しいものある?からあげ君買おうと思うんだけど』

 

(ひかる)だと思い電話の音に反射的に出たが、その主はめいだった。しかもコンビニで何を買うかの相談。北斗(ほくと)は電話のマイクにかからないようにどでかいため息をついた。

 

「……丸近(まるちか)、2つ聞く。お前今どこにいる、あと何時に起きた?」

『ついさ……8時に起きた』

「おい待てついさっきって言わなかったか?今8時50分だぞ!?」

『大丈夫!今コンビニに「コンビニにいるからじゃねえよ!お前以外全員来てるから早く来いや!」わ、わかってるよ!今日寝坊しちゃったから朝ごはんも兼ねてコンビニに寄ったの!何が欲しいものある?』

「……からあげクン買ってきてくれ、それ食いたい気分になった」

『からあげ君ね、わかった!』

 

そう言ってめいは電話を切った。

 

「誰からの電話だったの?」

丸近(まるちか)です。……あいつ、こういう時いつも遅れてくるんですよ」

丸近(まるちか)さんらしいわね」

 

電話からしばらくして、ようやくめいが到着した。手にはパンパンになった袋、そしてパンパンになったリュックを背負っており、遠足を楽しみにしている小学生が制限なしでお菓子を詰め込んできたみたいな(ひかる)景だった。

 

ちなみに時刻は9時10分。

 

「おせーぞ丸近(まるちか)。時計見たか?」

「遅くないよ!えーと……(ひかる)くん来てないからセーフだよ!」

「ア ウ ト だ よ このドアホ!」

 

公園を見回して(ひかる)が来てないことを確認して自分の遅刻をある種の正当化しためい。この子は一体どこがセーフだと思ったのだろうか。

 

「で、でも北斗(ほくと)くん!私買ってきたよからあげクン!あとみんなにも!」

「ありがと、後で金払うわ。つーかそもそももっと早く起きあっがぁ!?」

 

からあげクンを口に入れた瞬間、北斗(ほくと)の口の中に辛さが広がり棘が突き刺さったかのような痛みと辛さに悶えた。北斗(ほくと)は急いでリュックの中から水を取り出し、ペットボトルの4分の1の水を飲んだ。

 

「かっ辛ぇ……!おい丸近(まるちか)テメェ!何味買ってきやがった!?」

「え?シークレットのハバネロ味だよ?だってなんの味か聞いてなかったからどれ買えばいいか分からなくって、そしたらシークレットっていうのがあったらからそれ買ってきた!」

「自信満々に言ってんじゃねえぞチビ助ぇ……!」

 

北斗(ほくと)は恨みを込めた目をめいに向けるが当の本人は知らん顔だ。

 

「めいちゃん、それなに?」

「からあげのこと?食べてみる?」

「うん。イギリスではそれ見たことないから」

 

シロは生まれてからずっとイギリスにいたので、こういったイギリスでは見ないような物には興味津々なのだ。めいは〈しょうゆ味〉と書かれた箱からからあげを取り出した。

 

(こ、こいつちゃっかり普通のも買ってやがった……!)

 

顔には出さないが、恨みを込めた目だけめいに向ける。

 

「はいシロちゃん、口あけて」

「あー……。おいしい」

「でしょー?ほらもっと食べて!」

(なんか学生らしいわね)

 

翡翠(ひすい)はそんな(ひかる)景を見て顔には出さないが内心笑っていた。

 

そんなこんなで(ひかる)を待つが、一向に来ない。

 

北斗(ほくと)は公園に設置してある時計を見る。その時刻は9時30分。

 

「そうだ。丸近(まるちか)、先生。(ひかる)からなにか連絡来てませんか?」

(ひかる)くんから?」

「来てないわね」

「そうですか……」

 

北斗(ほくと)は少し落胆したが、気を取り直してもう一度電話をかけてみる。が、やはり出ない。

 

「……でないか」

「少し心配ね。今までもこういうことはあったの?」

「いえ全く。少なくとも知り合って半年、待ち合わせであいつが遅刻したことなんて1度もなかったし、仮に何かあったとしても連絡するマメなやつです。だから——」

 

プルルルルル

 

「もしもし?」

『もしもし!もしもし!聞こえますか!』

「その声は……(つき)さん?二ノ宮(にのみや)です、どうしました?」

『に、二ノ宮(にのみや)君?繋がってよかった……』

 

電話の主は(ひかる)の母親である諸星《もろほし》(つき)で、その声には焦りが含まれていた。北斗(ほくと)は携帯をスピーカーモードにして3人にも会話が聞こえるようにいsた。

 

「何があったんですか?」

(ひかる)が……(ひかる)が行方不明なんです!病院から帰ってこないんです!お願いします!(ひかる)を探してください!』

「ええと……まず、昨日(ひかる)はどこに行ったんです?最後に見たのは?」

(ひかる)は昨日の夜、私が夜勤に行く前に高名病院に行ったんです!でも家に(ひかる)が帰ってきていなくて!病院に聞いても帰りましたと言っているんです……!』

「病院だと?なんで……いいやそれはいい、その周辺は探したんですか?」

『5時間ほど周りを探しました、でも見つからないんです!無断で居なくなるような子じゃ無いはずです!』

(確かにあいつはそんな失礼な真似はしない。だからこそ、一つの可能性が浮かんでくる)

「警察には?」

『話しました!けれど他の事件があるとかよく分からないことを言って動いてくれません!最低でも3日かかるって…!』

「3日も……おいおい警察がそんなでいいのかよ……」

『だから貴方たちに電話しました!家に(ひかる)のメモがあったんです!〈僕の友達の電話番号〉って!』

「!それで俺に電話を……」

『お願いします!どうか、どうか(ひかる)を探してください!』

「それはもちろんです。けど何も手掛かりがない以上、一旦情報を整理させ——」

 

突然ブツリと電話が切れてしまった。

 

「き、切れちゃった……」

「おそらく公衆電話からかけてきたんだろう。あの家は……いや、それどころじゃないな」

 

北斗(ほくと)は3人に向き合ってこんなことを言った。

 

「3人とも、申し訳ないんですけど「いいよ!」いやまだ何も言ってないんだが……」

「だって(ひかる)くんいなくなっちゃったんでしょ?それなら探しに行かないとだよ!(ひかる)くんがいない遊園地なんて行っても意味ないもん!」

丸近(まるちか)……」

 

北斗(ほくと)はめいの、言葉にふっと笑いながらこう言った。

 

「お前そんなこと言うなら最初から遅刻すんなよ」

「うぐっ。それは……はい」

 

スン、とあげた口角を下げ真顔で言う北斗(ほくと)。めいよ、遅刻しないのは当然っちゃ当然なのだよ。

 

「2人も申し訳ないんですけどそれでいいですか?」

「ええ、問題ないわよ」

「私も」

「よし、じゃあいくつか別れましょうか。俺は(ひかる)の家に行きます。猫宮(ねこみや)先生は病院……多分(ひかる)が行ったのは高名病院ですね。そこに行ってください」

「わかったわ」

丸近(まるちか)とヴェルタさんはこの街で情報を集めてきてくれ。目撃情報ぐらいはあるだろ」

「了解!」「わかった」

「あとはそうだな……集合は夕方18時にここ星運公園(せいうんこうえん)に。それじゃあ、解散!」

 

こうして、4人は(ひかる)を探すためにそれぞれ動き出した。

 

北斗(ほくと)

 

 

それは、北斗(ほくと)(ひかる)の家に向かっていたその道中で起こったことだ。

 

北斗(ほくと)は交差点を渡ろうとすると後ろからきゃっ!と小さな悲鳴が聞こえた。その声に釣られて振り返ると交差点の反対側で少女が転んでいるのが目に入った。しかもトラックが突っ込んできている。

 

「っ!まずい……!」

 

北斗(ほくと)は少女を助けるために駆け出した。

 

その速度は獲物を追うチーターのように早かったが、トラックの方が少女にぶつかるのがはやそうだ。

 

間に合わないと思った次の瞬間、奇跡が起きた。

 

突然突風が起き、少女が飛ばされたのだ。

 

おかげで少女は轢かれずに済み、少女の元へ母親が駆け出す。少女は恐怖と安心が混ざって泣き、母親は泣きながら神に感謝している。

 

(一体何が起こった……?つーかなんか見えたような気がする)

 

北斗(ほくと)は息を整えて何が起こったかを考察しようとしたが、誰かが通報したのだろう、サイレンの音が聞こえたのでその場を後にした。

 

その場から離れた北斗(ほくと)は一息つき、ふと思いついたように携帯を取り出した。

 

「そうだ。応援を呼んどくか。人手はあったほうがいいし情報も集めやすい、人海戦術ってやつだ」

 

北斗(ほくと)は仲間を呼び出すために電話をかける。しかし、携帯から聞こえてきたのは、本来ではありえないはずの音声だった。

 

『おかけになった電話は、電波の届かない所にあるか、電源が入っていないため、かかりません』

「…………はい?」

 

電話がかからない。そんなことで驚く必要ある?と思ったそこの貴方。北斗(ほくと)が電話をかけたのは星運市(せいうんし)外にいる北斗(ほくと)の仲間なのだがそれができなかった。加えて、北斗(ほくと)達が星運公園(せいうんこうえん)に集まった際、めいや(ひかる)の母である(つき)と連絡ができている。

 

壊れたんじゃないの?とおもかもしれないが、北斗(ほくと)の持つ携帯は傷一つ無く表示されている電波も異常はない。なんなら落としてもない。

 

そして北斗(ほくと)がかけた電話主の元へ必ず届くように設定されており、仮に電話の主がいなかったとしても『ただいま離席中です』といった音声が流れてくるはずなのだ。

 

以上のことから、北斗(ほくと)星運市(せいうんし)外の連絡がつかないことに驚いたのだ。

 

こうなってしまった以上、外部からの応援はないと考えていいだろう。

 

「……チッ。しょうがない、とにかく(ひかる)るの家へ……!」

 

気を取り直して北斗(ほくと)(ひかる)の家へと向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

しばらく進んでいると、ボロボロなアパートが見えてきた。このアパートが(ひかる)の住居で、北斗(ほくと)は何度か来たことがあるので分かるのだ。

 

インターホンを鳴らすが、反応がない。

 

(……おいおいまさか!)

 

北斗(ほくと)は嫌な予感がしたのでドアを開けるが、鍵がかかってなかったのか簡単に中に入ることができた。

 

中に入ると小さな部屋の奥で一人の女性—— 諸星(もろほし)(つき)が横になっていた。

 

(つき)さん!?」

 

北斗(ほくと)は急いで(つき)の元に向かい(つき)の体調を確認する。

 

「脈は大丈夫だけど顔色は悪い、目にクマがある……寝不足?とにかく話を聞かないと。でもその前になんか食べる物。えっとたしか……」

 

北斗(ほくと)はリュックの中に何かないかと探すと袋の内側に水滴が見える袋があった。

 

中を開けると、そこにはからあげクンシークレット味と書かれていた。

 

「———」

 

その間わずか1秒、そっと袋を閉じ何もなかったかのように他のものを探す北斗(ほくと)

 

ちなみにバックの中には(ひかる)が倒れた時用の経口補水液、(ひかる)が怪我をしてしまった時用の簡易医療キット、何かあった時用に某ブロック状の栄養補助食品と某ゼリー状の栄養補助食品等々、緊急時を想定したものが多く入れてある。

 

(閑話休題(そんなことはさておき)。

 

ふと(ひかる)との会話を思い出す。これはひょんなことから(ひかる)の家に行くことになった時の会話だ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「今日家にお母さんはいないからお菓子は買わなくていいよ」

「いやそんなわけにはいかないだろ。親しき中にも礼儀ありってやつだ。あ、こいつらも買ってくか」

「ちょ、北斗(ほくと)?なんで野菜を……?」

「いやなんとなく。あと今日の夕食の気分はカレーだったから」

「そ、そう……」

「そいや母さんいないって言ってたけど共働きってことか?」

「あ……」

「?」

「……いや、父さんはいないんだ。5年前に、轢き逃げで」

「っ、……すまない、心にもないこと言った」

「大丈夫だよ、僕も言ってなかったし」

(いやそんなこと言われてもな……)

「ところで買い物は終わった?これで全部?」

「あ、ああ。とりあえずこれで大丈夫だ。……ところで(ひかる)(ひかる)の母さんは何時ぐらいに帰ってくるんだ?」

「えっと……今日は夜勤もあるから帰ってこないや」「よしわかった追加で材料買ってくる。あと今日は俺の家に来い」

「ちょっえっ北斗(ほくと)!?それは悪いよ……」

「友達の好意として受け取ってくれ。それとさっきのお詫びも兼ねてるからさ。な?」

「う、うん……」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

結局(ひかる)の家ではなく北斗(ほくと)の家に行くことになったので、後日お邪魔した時にそこで初めて(つき)に会いめちゃくちゃお礼をしかも割と大袈裟に言われて少し照れ臭くなったこともついでに思い出した。

 

閑話休題。

 

「シンプルに疲労が溜まっていたところに(ひかる)の行方不明が重なった結果こうなったって推測が1番有効っぽいな……」

 

北斗(ほくと)はそう結論づけて(つき)が目覚めた時のために何か作ることにした。勝手に人の家の食材を使うことに抵抗を覚えるものの、緊急事態のためと心に暗示をかけ使えそうな食材を探す。

 

が、少量のお米と賞味期限がギリギリの調味料や傷んでいる野菜しか見当たらなかった。

 

「」

 

北斗(ほくと)は絶句した。そして心を痛めた。

 

(ひかる)の家はまともにご飯を食べれる環境ではないことに、いやこんなに食料がないのは偶然かもしれないがそれにしたってもっとこうあるだろと思った。

 

とりあえず(つき)さんが起きたらこれの惨状について説明してもらおうと思いながら調理を始めた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

しばらくして、(つき)が目が覚める時にはすでに北斗(ほくと)が作った料理——お粥が出来上がったところで、北斗(ほくと)は勝手に入ったことと食材を使ってしまったことを謝った。すると(つき)からとんでもないと、逆に大したおもてなしもできなくて申し訳ないと言った。

 

北斗(ほくと)はそんなことないと言いかけたところでここにきた目的を思い出し(つき)にお粥を食べてもらうように促す。

 

そんなわけで、(つき)の体力がある程度回復したようなので話を聞くことにした。

 

「どうして家の鍵が空いてたんですか?入った時には寝ていたのでなんとなく理由は察せますが……」

「……仕事の掛け持ち、5時間の捜索……情けないことに動けなくなってしまいまして……」

「なるほど……」

 

やはりそうかと北斗(ほくと)は思った。(ひかる)からある程度事情は聞いていたのでなんとなく想像していたのだ。

 

「昨日(ひかる)が帰ってきた時のことと(つき)さんが(ひかる)を探しに行った場所を教えてくれますか?」

「……昨日(ひかる)が帰ってくると頬に殴られたような傷があって、何があったか聞くと転んで出来た傷だって。その後病院に行ったっきり帰ってこなくて……!」

 

(つき)は泣き出してしまった。北斗(ほくと)(つき)の背中をさすりながら情報を整理する。

 

(とりあえず時系列から整理するか)

 

まず学校の帰り道。(ひかる)は頬に殴られていた跡があったと言っていた、すなわち学校の帰り道で何者かに危害を加えられた。想像できる限り、宝くじを当てた生徒によるものだと考えるのが自然だろうか。もしそうだとすればあの時一緒に帰るべきだったか、と後悔するがそれどころではないと思考を切り替える。

 

そして家に帰って病院に行った。(つき)の口ぶりからして1人で行き、行方不明になった。病院に確認しても治療を受けてすぐ帰ったとのこと。

 

こう考えるのが自然だろうか。

 

(……まてよ?)

 

ふと何かを思いついたように北斗(ほくと)は携帯を取り出し昨日のトークを振り返る。

 

すると案の定、途中から(ひかる)からメッセージが途中でなくなっている。そこから考えられるのは、(ひかる)は病院の周辺で何かしらが原因で行方不明になった。しかしどうやって?いやそもそもどのように消えた?病院周辺は街頭が多い場所にあり、(ひかる)が帰る時には人はそれなりにいたはず。そんな中人が——

 

(……いや、今は深く考えてる場合じゃないな)

 

北斗(ほくと)は落ち着いたであろう(つき)に目を合わせた。

 

(つき)さん」

「……」

(ひかる)は俺が、俺達が見つけ出します。だから今は俺達を信じて待ってくれませんか?」

「……わかりました。(ひかる)をよろしくお願いします」

 

そう言って(つき)は頭を下げた。

 

「……ですがその前に」

「?」

(つき)さんちょっと失礼します」

「えっ?」

 

北斗(ほくと)は手刀で(つき)のうなじをトン、と落とし(つき)を強制的に眠らせた。

 

俗に言う首トンである。ファンタジーだなあこれ。

 

「マジすみません(つき)さん。でも(ひかる)のためにもちゃんと休んでもらわないとなんで」

 

北斗(ほくと)は少し罪悪感を感じながらも立ち上がり気合を入れる。

 

「さーて、(ひかる)と仲良くやらせてもらってるお礼と称して掃除諸々やっていきますか」

 

めいとシロ

 

 

めいとシロは星運町にあるホームセンターに向かった。なぜホームセンターに向かったかというと……

 

「お菓子をたくさん買うならやっぱりここだねよね!」

 

物資調達のためである。お菓子買うの?と思うかもしれないがめいが何かあってからでは遅いよね?それに腹が減ったら戦ができぬって言うし!と言う理論のもとホームセンターに向かったのである。

 

情報収集?そのうち集められるでしょ、のスタンスだ。

 

そんなわけで、2人は雑談しながらホームセンターに入った。

 

「そういえばシロちゃんって向こうではどんな生活してたの?」

「うーん……なんて言ったらいいのかな、すごく危ないところにいたかな。普通に銃弾が飛び交っていたし」

「え」

 

シロの両親はそれなりに上の階級の人間であり、その子供であるシロも誘拐や暗殺などそれなりに狙われることが多かった環境にいた。故に一種の英才教育といったところか、幼い頃から護身術や銃の扱い方を学んでおり、銃の扱いもそれなりにの技術を持っている。

 

(普段から銃を持ち歩いているのが日常だったからちょっと落ち着かないんだよね)

 

手元に身を守れるものががなくて落ち着かない状態であったため、少し上の空状態であったため、めいについて行くことにしたのだ。

 

「し、シロちゃんってすごいところに住んでいたんだね。じゃあ銃も打てるの?」

「うん、撃てるよ」

「すごーい!」

「あはは……」

 

シロはまさかそれについて褒められるとは思わず困ったように笑った。生きるために身につけたこととはいえまっすぐに褒めらてどうすればいいかちょっと分からなくなった。

 

「ところでシロちゃん、何か買いたいものってある?」

「えっ?うーん……銃が欲しいかな」

「銃?サバゲーとかで使うエアガンとかは多分売ってないと思うよ?」

「違う違う、そんなおもちゃじゃない鉄の弾を撃つ銃だよ」

「え?」

 

再度めいは固まった。その頭で考えて一つの結論に辿り着いた。

 

すなわち、シロは本物の銃を使う気だと。

 

「だ、ダメだよシロちゃん!日本には銃刀法っていう法律があるから銃を使っちゃいけないんだよ!」

「冗談だよめいちゃん。…………9割はね」

「ねえシロちゃん今なんて言ったの?ねえなんて言ったの??」

「ねえめいちゃん。そろそろお会計に行かない?カゴがお菓子でいっぱいだよ?」

「ハッ!ほ、ほんとだ……」

 

シロは話題を逸らすために9割ほど埋まっている買い物カゴを持ってレジへ向かった。そして無事ごまかされた。お父さんめいちゃんの将来が心配だよ。

 

「……あ。ねえシロちゃん」

「なに?めいちゃん」

「やっぱり何か武器はあったほうがいいよね。ほら、ちょうどあそこにある催涙スプレーとか、パチンコとか……あ!あの棒とか!」

「確かに……」

 

追加で買った。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

買い物を終えた2人は装備諸々を揃えてホクホク顔で星運市(せいうんし)の周りを周り、星運市(せいうんし)の周りを探索したが手がかりは得られなかった。

 

「「涼しい〜……」」

 

2人は雑談しながら街を歩き、現在地は図書館。9月なので残暑が酷く、暑くて休憩しようとしたところで図書館が見えたのだ。あとの展開はお察しである。

 

まったりしているとめいは適当に本を持ってこようと席を立った。しばらくして、めいは大量の漫画、そしてなぜか新聞を切り抜いて作られた資料のようなものを持ってきた。

 

「ねえシロちゃん。せっかくだからこの漫画一緒に読もうよ。これ知ってる?これ実はアニメ化されて結構有名なんだよ?」

「知ってるよ!私このシーンが——」

 

そんなこんなで時間は過ぎていった。そしてシロはふと気づく。

 

「ところでその新聞達は……?」

「なんとなく手にとってみた!」

 

ーーーーーーーーーーーー

 

その後、図書館で情報を探したはいいものの、1人は地頭が弱くて理解できず、もう1人はそもそも日本語の文章に不慣れなこともあってあまり有益な情報は得られなかった。なので新聞の写真を撮って北斗(ほくと)達に見せることにした。

 

ちなみにリアルでそれをやると法律やらなんやらに引っ掛かる可能性がある気もしますがそんなこと言ってたらキリがないのでこの世界では気にしない方向で。

 

翡翠(ひすい)

 

 

翡翠(ひすい)は北斗の指示通り星運市(せいうんし)内でも有名な病院である高名(こうめい)病院に向かい、まずはどの周りを観察する。

 

(怪しいところは……特にないわね)

 

みたところ普通の病院だった。しかし翡翠(ひすい)の本能がここには何かあると言っている。翡翠(ひすい)高名(こうめい)病院の中へ入った。

 

そして本能で感じたものとは違う何かを感じた。一見普通の病院にあるエントランスだがどこか違和感を感じた。よく周りを観察してみると妖しげな雰囲気の人達が多くおり、やけに傷が多い。翡翠(ひすい)はその雰囲気はまるで裏社会にいる者たちが持つ雰囲気のそれだと気づいた。

 

とりあえず光のことを聞き込もうと翡翠(ひすい)は受付へ。翡翠(ひすい)が受付に近づくと〈村上〉と名札に書かれている女性はだるそうに翡翠(ひすい)を迎え提携文を言う。

 

「……診察券と保険証をお願いします」

「こんにちは。今回は診察に来たわけではないのだけれど1つ聞きたいことがあって」

「……」

 

村上ははぁ、とため息をつく。

 

「……どんな要件でしょうか」

「昨日夕方ぐらいにこの写真の男の子が診察券に来なかった?諸星光って名前で私の生徒なんだけど」

「…………はぁ〜。貴方もですか、だからその子は帰りましたよ」

「でもこの病院を最後に行方が分からなくなってるの。本当にどこにいったか知らない?」

「知らないですね。」

「本当に?」

「しつこいなぁ……私は知りませんよ。ほら他の患者の邪魔だからどいたどいた」

 

確かに後ろを見ると何人か患者がならんでいたので仕方なく横にずれる。

 

村上はそれを確認して受付の業務をこなしていく。が、列が途切れたところで思いもよらぬ方向から声が聞こえた。

 

「あのーその時の情景を詳しく聞きたいのだけど」

「!?」

 

なんと翡翠(ひすい)は村上とキスしてしまうのではないかと錯覚するぐらい近い位置に顔があり驚いて椅子ごと後ずさる。

 

「な、なんなの貴方!?」

「私はただ知りたいのよ。私のクラスの生徒が行方不明なのは非常に良くないの。個人的に心配な生徒の1人だから余計にね。今わかっているのは夕方下校し、家に帰ってからこの街唯一の病院である高名(こうめい)病院に行って以降行方をくらませてることだけ」

「知らないって言ってるでしょ!私は忙しいからさっさとどいてよ!」

 

声をあげるが翡翠(ひすい)は何か反応するわけではなく笑ったまま、女性はその姿が不気味に感じた。

 

「質問に答えてくれたらその願いを叶えてあげる」

「わかったわよ!答えればいいんでしょ!?」

「ありがとう」

 

女性はおとなしく質問を聞くことになった。翡翠(ひすい)は周りを見てあまり人がいないことを確認し質問を投げかける。

 

「質問その1。諸星(もろほし)(ひかる)くんが来たのは夕方の何時頃?あ、身長は男の子にしてはちょっと低くて痩せ気味で怪我をしてた子ね」

「ええと……」

 

女性は入退記録の冊子を持ってきて名簿を確認する。そこには(ひかる)の名前と高名(こうめい)病院に来た時間、そしてその理由が書かれていた。

 

「これにある通り諸星(もろほし)(ひかる)は夕方6時に来ていて診察理由は怪我ね」

「ふうん……質問その2。診察したのは誰?」

「ええと確か……あった、板橋拓人先生ね。あ、ちょうどそこにいるわ。板橋先生ー!」

 

翡翠(ひすい)はその名前を確認して考える。もしかするとこの人が(ひかる)に何かしたのではと考えるが、そう決めるには本人に聞くまではまだ早い。

 

板橋先生と呼ばれた医師は少し嫌な顔をしながらこちらに向かってきた。

 

「どうしました村上さん」

「この人が聞きたいことがあるって」

「ここに諸星(もろほし)(ひかる)っていう星運市立(せいうんしりつ)高等学校の生徒がこなかったかしら」

「ああ、私診察しましたよ。殴られたであろう跡があったのに、転んだってずっと言っていて……謙虚な子でしたけど心配になりました」

「ふうん。それじゃあ質問、何時頃諸星(もろほし)(ひかる)を診察して何時にここを出たの?」

「簡単な診察だったので30分ぐらいで終わったので、ここを出たのは18時半頃のはずです」

(18時半……これまでの状況をみるに少なくともそこら辺の時間で行方不明になった可能性がたかいわね)

 

問題はどのようにして行方不明になったのか。それがわかれば(ひかる)を見つける糸口になるが、現時点では糸口を見つけることは難しそうだ。

 

「監視カメラの映像を見ることはできる?」

「え」

 

板橋は固まった。その姿を見た翡翠(ひすい)は首を傾げるが、それどころではなかった。

 

「えと、そ、それは……」

 

板橋は冷や汗をかいた。監視カメラの映像は威信(いしん)高名(こうめい)から直接絶対に見せるなと言われていて、それを破ってしまえばどんな目に遭うかわからない。そのようなことから監視カメラの映像を見せることを渋っていたのだが、村上から追いうちがかかる。

 

「ねえ板橋さん。早く見せてあげなよ、このおねーさんすごく困ってるっぽいしさ」

「どうしても必要なの。それに、その映像に映っている(ひかる)君の姿が見れればここに(ひかる)君がいたっていう証明になるし、もし見せられないのなら何かやましいことがあるって言ってるようなものよね?」

 

その言葉を聞いた板橋はハッとした。実は板橋は近日、ここ高名(こうめい)病院を辞める予定でいたのだ。理由はいくつかあるのだが、きっかけになったのは数日前とある噂を聞いたからだ。

 

それは高名(こうめい)病院の院長である威信(いしん)高名(こうめい)と副院長である猪巻哲朗(いのまきてつろう)が激しい口論をしていて、誘拐や実験などの物騒な言葉を言っていたという噂だ。

 

また、病院にたむろしている傷が多く妖しげな雰囲気の人達——彼らはこの町に事務所があると噂されているヤクザであり、板橋自身は確証を持てなかったが彼らは自分たちがヤクザであることを隠す気がなさそうに見えるのだ。

 

そして、威信(いしん)高名(こうめい)から監視カメラの映像の管理を任されていて、(ひかる)が訪れた時間帯の映像は何があっても絶対に見せるなと念を押されていたのだが、どうせ辞めるなら見せてしまおうと考えたのだ。

 

「……少々お待ちください」

 

そう言って板橋は監視カメラの映像データを持ち出した。幸い、今は威信(いしん)高名(こうめい)は不在であったので難なくデータを抽出し翡翠(ひすい)に見せることができた。

 

翡翠(ひすい)は映像を見て、板橋の言った通り確かに(ひかる)は18時頃に病院に来て18時半に病院を出ていた。

 

「も、もういいでしょ!?これ以上のことはわからないわよ!」

 

村上は耐えかねたのか悲鳴に近い声で翡翠(ひすい)に言う。

 

「……。質問に答えてくれてありがとう。すごく助かったわ」

 

そう言って翡翠(ひすい)は受付から離れ、エントランスにたむろしている怪しげな集団に足を進めた。

 

「ちょっ、嘘だろ……!?」

 

それを見た板橋は目を見開いて驚くが、それでも翡翠(ひすい)はビビる様子はなく進んでいく。

 

「ねえ、ちょっといいかしら」

「あぁ?なんだおめぇ」

 

怪しい雰囲気を持つ男たちは翡翠(ひすい)の姿を視界に入れると一気に下賤な目を翡翠(ひすい)に向けると同時に1人の男が感たっぷりに立ち上がった。翡翠(ひすい)よりも背が高いので見下ろす形になり威圧感がすごく、大抵の場合一般人はビビって逃げだすのだが翡翠(ひすい)は違った。

 

そんな様子にビビる様子はない。

 

むしろテメエ何見下してんだ?ああん?と言わんばかりに堂々と、そして平然と話しかけている。

 

「昨日ここに男の子来なかったかしら?」

「あぁ?知らねえよ、なんでわざわざ答えなきゃいけねえんだ?」

「もう一度言うわ。ここに、高校生ぐらいの、怪我をした、男の子が、夕方来なかったって聞いてるの」

「このアマ!舐めてんのか!!あぁ!?」

「ねえ質問に答えてくれる?時間は有限よ?」

「俺は忙しいんだよ!見りゃわかるだろうが!舐めてんじゃねぞこのクソアマ!」

「……はぁ」

 

翡翠(ひすい)は大袈裟にため息をついた。

 

「もういいわ。貴方達みたいないかにも頭が悪そうな見た目をした人間の皮を被った猿に聞いた私がバカだったわ。ごめんなさいね」

 

そう吐き捨ててそこから去った。

 

そんな様子を、エントランスにいた者達とはまた違う怪しい雰囲気を持つ1人の男がその光景を見つめていた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

(あーあ。結局有力な情報は無しかぁ)

 

翡翠(ひすい)は少々落胆しながら高名(こうめい)病院を出た。

 

はぁ、とため息をついたところで病院で得た情報を整理する。

 

(とりあえずわかったのは(ひかる)君は昨日まで確実に所在がわかっていた。そして最後の目撃情報は病院を18時半に出たこと)

 

聞き込み、といっても聞いたのは受付の村上と医師の板橋の2人だけなので聞き込みと言えるかどうかは怪しいが、病院内の監視カメラの映像も確認してそれが事実であると証明された。

 

((ひかる)君を診察したのは板橋という医師。あとそこら辺にいた怪しい人達に聞いたけどまともな回答は得られなかった、得られた情報とすればああいう人達とはまともに話せないと思った方がいい)

 

板橋に監視カメラの映像を見せるようにお願いした際、なぜか戸惑う仕草をした。最終的に映像は見せてくれたが、戸惑ったということは何かしら隠しているということ。その裏の理由はまだわからなかった。

 

(行方不明になったのは18時半過ぎなのは間違いなさそうね。問題はこの区域に監視カメラの映像があれば……)

「なあそこのお嬢さん、ちょっといいか?」

「はい?」

 

情報整理中に声をかけられたことで整理していた情報が頭から抜けてしまった。それを表情に出さずに声がした方を向くと濃い髭の黒いTシャツを着た男がいた。翡翠(ひすい)は男を警戒しながら話しかける。

 

「……何か用?私今忙しいんだけど」

「お前さん、もしかして昨日夜息子が行方不明と騒いでた女性の知り合いか?」

「え?誰よそれ」

「……違うのか?じゃあ諸星(もろほし)(ひかる)の知り合いか?」

「私のクラスに所属している生徒よ。私、彼の担任なの」

 

翡翠(ひすい)がそういうと彼は驚くと同時に訝しむような目で翡翠(ひすい)を見た。そして一言。

 

「……あんた、本当に教師か?」

「ええ」

「……だとしたら随分と失礼な教師だな」

 

男は呆れたのかはたまたよくわからない表情で翡翠(ひすい)を見る。

 

「っと、自己紹介は……ここではまずいな」

 

すると彼は紙を取り出し何か書いて翡翠(ひすい)に渡した。その紙には数字の羅列と矢印で印が書かれた地図が書かれていた。おそらくその数字は電話番号だろう。

 

「この場所に来てくれ。俺の家だ」

「……は?」

 

翡翠(ひすい)はさらに警戒心を上げた。いきなり連絡先と男の家の地図を、しかも見ず知らずの女性に手渡す男に警戒心を上げないわけにはいかないだろう。

 

「気が向いたら連絡してくれ。来るのはいつでもいい、待っている」

「……そうね。仲間と検討しておくわ」

 

 

時は進み、現在は夕方。今回は全員集合時間内に星運公園(せいうんこうえん)に集まることができた。

 

「さて、全員いますね。まず俺から報告を。俺はみんなと別れた後、(ひかる)の家に向かいました。そしたらそこで彼の母親である諸星(もろほし)(つき)さんが倒れていたんです。しかも鍵もかかってなかったからすごく焦ったんですよね。倒れていた原因は過労による疲労と(ひかる)がいなくなったことによる精神的不安が重なってこうなったと考えられます。俺はその状態の(つき)さんを放っておくわけにはいかなかったから時間になるまでずっと(ひかる)の家にいました」

「そんなことがあったのね。今の(ひかる)君のお母さんの状態はどうなの?」

「とりあえず応急処置はしたんで今は大丈夫です。家が結構散らかっていたので取り置きで食べれるもの作ったり掃除したりと色々やりました。で、彼女曰く彼が帰って来た時頬に殴られた傷があったそうです。おそらく帰り道に誰かしらに危害が加えられたと考えられます」

「殴られた!?」

 

めいが驚いて立ち上がる。

 

「もしかして昨日の?」

「多分な。それとヴェルタさんにも後でまた説明するけど、そいつがやったと考えていいと思う。そして家に帰った後、病院に行き、行方不明になった。そして(ひかる)が行方不明になったのは18時半から19時の間だと思われます」

二ノ宮(にのみや)君、1ついいかしら」

「どうぞ猫宮(ねこみや)先生」

「どうしてその時間に(ひかる)君が行方不明になったって思ったの?」

 

翡翠(ひすい)の疑問はもっともだ。翡翠(ひすい)も病院の監視カメラの映像で時間を確認して北斗(ほくと)と同じ結論に至ったのでどのようにして知ったのかを疑問に思ったのだ。

 

「その結論に至った理由は、このグループメッセージにあります」

「「「グループメッセージ?」」」

「そう。そのトークのログを見て気になる点があったんです」

 

北斗(ほくと)は3人に画面を見せながら説明する。

 

「このように、(ひかる)が最後に送ったメッセージの時間は17時52分。そして猫宮(ねこみや)先生がグループに参加して以降何も音沙汰ありません。実際既読の数もグループの人数より2少ないです」

 

ちなみに2の内訳は1人は発信主で1人が(ひかる)である。

 

「そして(ひかる)が帰ってきたのが17時半頃、(ひかる)の家から病院まで徒歩で約20分、最後に発信したメッセージは17時52分、これによって(ひかる)は17時50分頃病院に到着、受付、待ち時間を10分、診察時間を30分と仮定して終わるのは18時半、そしてそこで行方不明になった。以上のことから(ひかる)は18時半から19時の間で行方不明になったと推測しました」

 

北斗(ほくと)が話終わるとめいとシロは拍手して、翡翠(ひすい)は目を見開いて驚いた。

 

(彼は頭が回ると思っていたけど……予想以上ね、確証の少ない情報で私と同じ結論に至った)

 

翡翠(ひすい)は感心していた。他の先生から引いた評判ではあるが、北斗(ほくと)は高校1年生かと疑うほど完成された意見を言う生徒ということで先生方からの評価は高い。中間考査における国語の読解力や数学の証明、理科の文章問題における回答のわかりやすさなど、まるで大人が回答したかのような解答を書くので表立ってはいないが先生方からの信頼が高いのだ。

 

「すごいよ北斗(ほくと)くん!まるで探偵みたい!」

「そりゃどーも。んで、お前らはなんか情報は掴めたか?」

 

すると2人は目を合わせて笑い合う。そして北斗(ほくと)は嫌な予感がした。

 

めいはふっふっふっと笑いながらリュックのそばにあった袋をテーブルに置いた。

 

「私たちの成果はこれだよ!」

「だよ!」

 

袋の中には大量のお菓子に、催涙スプレー、パチンコが入っていた。

 

そしてめいの手には棒が。

 

「……情報はあまり得られなかったみたいだな」

「腹が減っては戦はできぬっていうでしょ?だから色々買ってきたの!このパチンコと催涙スプレーはシロちゃんの、棒は私の武器だよ!」

「……他には?」

「その後暑かったから図書館に寄って話してた!」

「……へぇ?」

 

それを聞いて思わず声が低くなる北斗(ほくと)。そんな北斗(ほくと)を見て何かを察したのかめいは焦って携帯を出し写真を見せた。

 

「あ、あとこれ見て!北斗(ほくと)くんに読んでもらおうと思って撮ってきたの!」

「これは、新聞?えーと……5年前の記事じゃねえか。ひき逃げの記事で、監視カメラもなく加害者の車は未だ見つからず、被害者は諸星(もろほし)(よう)……?っておいこれ……!」

 

北斗(ほくと)は目を見開いて記事をよく読む。

 

諸星(もろほし)……ということは(ひかる)君の親族かしら」

「……諸星(もろほし)(よう)(ひかる)の父親です。この写真、家にあった遺影そのままの写真ですね」

「っ。そう」

 

翡翠(ひすい)はそれを聞いて顔をよく見る。

 

(確かに目元が似ていているわね)

「……。丸近、ヴェルタさん、よくやった。他に何かあるか?」

「えっと……街を歩きながら色々聞いてみたけどみんなわからないって」

「うん、みんな知らないって」

「そうか。猫宮(ねこみや)先生はどうでした?」

 

最後に翡翠(ひすい)の報告の番になったのでありのままに起こったことを話すことにした。

 

「私は高名(こうめい)病院に行って話を聞いてきたわ。二ノ宮(にのみや)君の推測がほとんど合っていて、(ひかる)君は18時頃病院に、18時半には病院を出ていたわ。この情報は監視カメラの映像に記録されていた時間も一緒に記録されていたから信憑性のある情報よ」

北斗(ほくと)くんすごーい!」

「天才じゃん」

 

最近真っ向から褒められることが少なかったせいか心に照れが生まれる北斗(ほくと)。それを出さないようにしつつ他にないか聞き出す。

 

「……。他に何かありますか?」

「あと病院にいるヤクザっぽい人たちに喧嘩売ったわ」

「先生何やってるんですか!?」

 

あまりにも衝撃的なカミングアウトに北斗(ほくと)の中にあった照れが衝撃に変わった。

 

「あと知らない男性から電話番号と家の地図も貰ったわ」

「何してるんですか先生!?!?」

「だって聞きたいことがあったから聞いたのに向こうからオラついてきたのよ?だったらその喧嘩は買わないとでしょ?」

「あんた何やってんのバカなの!?いやもうバカだよ!うましかだよ!!」

 

思わず先生に対してタメ口になってしまうほど北斗(ほくと)は荒れた。いや、荒れたという一言で表すのもアレだが基本的には無口で気だるげな雰囲気を纏っているのだが、そんな北斗(ほくと)が荒れた。北斗(ほくと)は頭を抱え嘆く。

 

「ああもう、どうして俺の周りにはこんな血の気のたぎったバカ連中しかいないんだよ……それで、大丈夫なんでしょうね?ヤクザの報復は怖いっていいますし」

「大丈夫よ二ノ宮(にのみや)君。私はそれなりに戦えるしなんとかなるわ」

「さいですか……」

 

北斗(ほくと)は目元を押さえて体にあるモヤも全て吐き出す勢いで大きく息を吐いた。

 

「なんか最後にどっと疲れた気がする……。とりあえずその渡されたものを見せてもらえますか?」

 

翡翠(ひすい)は男からもらった地図を取り出し広げる。

 

「……」

「どうするの?北斗(ほくと)くん」

 

北斗(ほくと)は一言つぶやいた。

 

「……流石に明日にしよう、今行ったら帰るのが遅くなる。明日はどうします?また同じ時間に集まりますか?」

「それでいいと思うよ」

「うん!」

「私も大丈夫」

「よし、じゃあ解散。また明日」

 

こうして各々帰路についた。

 

北斗(ほくと)はめいの頭をガシッと掴む。

 

「次遅れたらそのお菓子ボッシュートな」

「そ、そんな!殺生な!」

「だったら遅れんなよ。ああそれと猫宮(ねこみや)先生、帰り道気をつけてくださいね?なんか嫌な予感がするんで」

「大丈夫よ、心配してくれてありがとう北斗(ほくと)君」

「先生さよーならー!」

 

 

そして事件は起きた。

 

帰り道、翡翠(ひすい)が今日起こったことを頭の中で整理していると後ろから視線を感じた。振り返るとドスを持った男2人がいて、翡翠(ひすい)を睨んでいる。

 

「……何かようかしら?」

「「……」」

「だんまり?無視なんて酷いわね」

 

その言葉を皮切りに男2人は翡翠(ひすい)に襲いかかった。

 

相手はドスを振りかぶるが翡翠(ひすい)はギリギリで回避、そして回避。

 

「いきなりねぇ」

 

しかし翡翠(ひすい)も負けてはいない。アクロバット のように塀を走り男A(仮称)に蹴りを入れる。

 

「ぶっ……!」

 

しかし着地したその隙を狙って男B(仮称)がドスを振りかぶるがバク宙で避けられてしまう。

 

「おらぁ!」

「ぐっ!?女の子を痛めつけるなんてひどいわね……!」

 

それによって男Aを視界から外してしまい、迫ってくるドスに気づくことができず腕に傷を負ってしまう。

 

「はあっ!」

「がはっ……!」

 

翡翠(ひすい)はお返しと言わんばかりに男Aの懐に潜り込み腕を軸にして回し蹴りを放つ。

 

(ダメね、このままだとジリ貧だわ)

 

決定打になるものを習得しておくべきだったわ、と翡翠(ひすい)は後悔した。決定打を打てず、しかしそれは相手も同じ。相手も翡翠(ひすい)に攻撃が当たらずイライラしていた。

 

 

「むむっ、何やら翡翠(ひすい)先生が危ない予感!大丈夫、私は動けるチビだ!今行きますよ翡翠(ひすい)先生!うおおおおおおおおおお!!」

 

 

「くっ……!」

 

翡翠(ひすい)の体に少しずつではあるが傷ができていた。しかし相手も同じ。

 

翡翠(ひすい)が電柱を利用して男Bの頭に蹴りを入れようとするがからぶってしまい、その勢いのまま転がってしまった。

 

「いったぁ……」

 

隙だらけの翡翠(ひすい)に向けて男Aがドスを振りかぶった。

 

「とりゃー!」

「ぐはっ!?」

 

しかし男Aの後ろから蹴りが炸裂。蹴りを入れたのは帰宅したはずのめいだった。

 

「丸近さん?」

「先生大丈夫!?ちょっとボロボロじゃん!」

「……どうしてここに?」

「なんとなく嫌な予感がしたから!」

 

そこに男Bのドスがめいに向かってくる。しかしそれはめいの蹴りで弾かれ男Bは逆にカウンターを喰らってしまった。

 

「ほら先生立って!こいつらを追っ払おう!」

 

めいは翡翠(ひすい)に手を伸ばす。

 

「……ええ、やりましょうか丸近さん」

 

翡翠(ひすい)はめいの手を取り立ち上がった。

 

4人は対峙する。最初に動いたのはめいだ。

 

「はあああああああああ!」

 

めいは男Aに向かって拳を振るうが、避けられてしまう。もう一度殴ろうとすると男Aに足を引っ掛けられ転んでしまう。

 

「ふっ!」

 

翡翠(ひすい)は男Bに壁を使って背後を取り蹴りを放つが避けられる。

 

「おらっ!」

「ぶがっ!?」

 

それどころか顔面を殴られた。ぐらつく頭を押さえながら距離を取る。

 

(頭に直接来てる……最悪丸近さんを囮に……いやそれだと後に響くわね)

 

めいは慣れない痛みで動けず、翡翠(ひすい)も顔面に一発もらったことで頭がぐらつき上手く動くことができない。客観的に見て最悪なことを考える翡翠(ひすい)だが、2人の男の様子を見るに逃してくれる様子はない。

 

万事休すかと思ったその時、男A後ろから強い衝撃が入った。

 

男Aの意識が一気に暗闇に落ち倒れた。

 

「……は?」

 

男Bが気を取られている隙に黒いナニカは手に持っている武器——小太刀の持ち手の(かしら)で男Bの顎を打ち上げる。

 

男Bは声を出すこともなく倒れた。

 

よく見ると、その黒いナニカは丈が長く夜の暗闇のような黒で染められたローブを着た黒ずくめの人間だった。首にマフラーのような黒い布と顔を覆い隠す黒い仮面にフードを深く被っていて性別がわからない。ローブの中は一瞬しか見えなかったがビーカーや黒い刃物のようなものがあった。

 

「……」

 

男はめいと翡翠(ひすい)の元に近づき2人の様子をじっと見る。

 

「あ、あなたは……?」

「……」

 

めいの質問に答えることなく黒ずくめの人間はじっと2人を見ている。すると前触れもなく突然めいを俵のように右腕で持ち、翡翠(ひすい)をワイアマンズキャリーで持ち上げ高く跳んだ。

 

「「……へ?」」

 

黒ずくめの人間はそのまま住宅地の屋根を速いスピードで駆けた。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

気がつくと高名(こうめい)病院の前にきており、2人はそこに降ろれた。

 

「えっと……助けてありがとう?」

「……」

 

黒ずくめの人間は喋らず縦に頷いて答えた。

 

「……」

「……?」

 

翡翠(ひすい)はじっと黒ずくめの人間を見つめる。正確には目と思われる部分をじっと見つめている。

 

「あなた、どこかで会ったことある?」

「っ」

 

黒ずくめの人間は懐から5000円を出して翡翠(ひすい)に手渡し、暗闇に消えた。

 

「あの目、どこかで見たことあるような……」

「えっと……ありがとー!黒ずくめの人ー!」

 

この後2人は診察を受けて家に帰った。

 

 

黒ずくめの人間はアパートの窓から自分の部屋に入り窓を閉め、周囲に何もいないことを確認して布、仮面、フードの順に装備を外した。

 

「……間に合ってよかった」

 

黒ずくめの人間——北斗(ほくと)は安堵しながら装備を脱いでいく。

 

北斗(ほくと)翡翠(ひすい)の元に駆けつけたのは、翡翠(ひすい)がヤクザのような人間に喧嘩を売ったことを聞いて、それがずっと心残りで帰宅したのだが、家事をやっても勉強していても愛刀の手入れをしてもそれが心のしこりになっていてモヤモヤが溜まっていたのだ。

 

そして北斗(ほくと)の危機察知センサーが発動し、これは行った方がいいと考え、いつも自分が着る装備に着替えて翡翠(ひすい)の元へ向かったのだ。

 

めいが追加でいたのは想定外だったが、見知った気配が近くにいたので簡単に翡翠(ひすい)の居場所を見つけることができたのだ。

 

ちなみに全身黒ずくめで顔も全て隠したのはただの高校生が自分の武器である小太刀やたんとうを持つのはおかしいしそもそも銃刀法に違反するため全身を、特に顔を隠す必要があったためだ。

 

北斗(ほくと)はシャワーを浴びて倒れるようにベットに入り、翡翠(ひすい)(ひかる)に一言メッセージを入れて眠りについた。

 

 

夢の中に誰か居る

 

貴方の夢では無い、誰かの後ろ姿

 

普段は大人しい諸星(もろほし)(ひかる)

 

その怒りの声が聞こえた気がした

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