先ノア短編集   作:くもたろー@溶脳炉

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シリーズ化に伴い再投稿です。単体のほうは申し訳ございませんが削除という形になります。読んでくださった皆様、特に評価・お気に入り・感想等くださった皆様には申し訳ございませんがご理解ください

エイプリルフールでいい感じの嘘も思いつかないしなぁと思いながらXを見ていたところ、ふと思いついたので書きました。もともとXで書くつもりだったのですが、Xで書くには長くなりそうだったので……。実際1,000字程度のつもりで始めて3000字超えましたからね。どうして……


嘘と言葉は使いよう

 4月1日はエイプリルフールで嘘をついてもいい。そんな文化が、キヴォトスにもあるらしい。

 

 

 

 朝から真偽問わず会話が飛び交う世界はいつもよりも賑やかで、楽しそうな人々の様子に私もテンションが上がる。嘘といっても玉石混交で、盗み聞きしているわけではないがユーモアのある嘘が耳に入ってくるとクスッとさせられる。逆に下手な嘘は場の空気を凍り付かせたり、そもそも嘘と気付いてもらえなかったりしているので見ているこっちがいたたまれなくなるのだが。

 

 

 

 生徒たちも例に漏れず、直接、あるいはモモトークで様々な嘘を言ってくれた。もちろん全員が全員というわけではないが、やらなくちゃいけないものでもない。こういったイベントごとは各々楽しめる範囲で楽しむべきだろう。

 

 

 

 そういえば、アルの嘘はなかなかベタだったな。アルらしいといえばアルらしいので、敢えて信じ切ったふりをしたら逆に慌てていた。後ろでサムズアップしているムツキと心が通じたように感じたのは気のせいではあるまい。

 

 

 

 だが、一番多かった嘘は私のことが好き、という嘘だった。年頃の女子が恋愛しようにも相手がいないような環境で日々を過ごしていることを考えれば、この嘘が多発したのも納得だろうか。生憎と私は男で大人でそもそもキヴォトスとは違う世界で育った身なので、彼女たちの思惑の本当のところは想像するしかないのだが。

 

 

 

 それにしても、みんな非常に演技がうまかった。真っ赤な顔や震える声など、本当に想い人に告白しているかのような必死さを醸し出しており、嘘とわかっていてもグッとくるものがあった。直後に慌てたようにエイプリルフールだからと念押しするように言う生徒が多かったのも、それらしさに拍車をかけていた。薄給で激務という代償を引き換えに、たまにこういう役得があるのは神からのせめてもの温情だというのは考えすぎだろうか。

 

 

 

 そんな一風変わったイベントも午前中でおわり、すでに午後の業務も折り返しの現在はいつも通りの日常となっている。

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です先生。コーヒーでもいかがですか?」

 

 

 

 

 

 

 パソコンに向かっていると後ろから聞き覚えのある声がする。振り向くと、微笑みながらきれいな姿勢で立っているノアがいた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、ありがとう。それじゃあお願いしようかな。ちょうど休憩にしたかったし」

 

 

 

「わかりました。少しお待ちくださいね」

 

 

 

 

 

 

 返事を聞いて給湯室へ向かうノア。なんとなくその背に揺れる白銀の髪を眺めていると、ふとノアには今日嘘を言われていないなと気付く。

 

 

 

 普段から私を揶揄っているノアが嘘の一つも言わないというのは少し違和感がある。エイプリルフールだと気付いていない可能性……は、記憶力に優れたノアに限ってないだろう。

 

 

 

 しばらく考え込んでいると、コト、と音がする。いつの間にか戻ってきていたノアが私のデスクにマグカップを置いてくれた音だ。ふわりと漂うコーヒーの深い香りとノアの清涼感のある甘い匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 

 

 考えてもわからないなら、聞くしかない。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう。ところで、ノアは私に告白してこないの?」

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 

 

 

 ……間違えた。

 

 

 

 違う、ただ嘘を言わないのか聞きたかっただけなんだ、本当なんだ。今日嘘告白を受けすぎて、ノアに言われたら一番変なリアクションするであろう嘘告白がくると思い込んでただけなんだ。

 

 

 

 脳内でそんな言い訳をまくしたてたせいで、逆に言葉が詰まって一瞬何も言えなくなる。一方ノアは、白い肌を真っ赤にして固まっていた。もう少し室温が低ければ彼女の顔から蒸気が立ち上がるのを観察できたに違いない。

 

 

 

 って、そうじゃなくて。

 

 

 

 

 

 

「ごめん間違えた!ほら、今日はエイプリルフールだったから!嘘を言ってからかってこないのかなって……いやごめんね本当に!?」

 

 

 

「あっ、あぁ、そういうことでしたか。私はてっきり先生に見透かされてしまったのかと……。…………。何でもありません……」

 

 

 

 

 

 

 慌てすぎてなにかの儀式なのかと言いたくなるようなめちゃくちゃな身振り手振りと共に弁明する私をよそに、ノアはさらに真っ赤になってしまった。ついに顔を覆って私に背を向けてしゃがみこんでしまう。

 

 

 

 

 

 

「えっとえっと、あ、そうだ、ノアが淹れてくれたコーヒー美味しくて好kあっつ!?」

 

 

 

 

 

 

 話題を逸らそうとコーヒーに手を伸ばすが、落ち着きも何もない状態でそんなことをしたのがよくなかったらしい。マグカップは私の胸辺りで指からするりと抜け出し、その中身を私に浴びせかけてくれた。

 

 

 

 

 

 

「きゃっ!?あっ、先生、大丈夫ですか!?」

 

 

 

 

 

 

 私の悲鳴に反応したのか、ノアからも短くかわいらしい悲鳴が上がる。幸い私はデスク前の椅子に座っていたので、マグカップは私の膝の上でとまり、割れることはなかった。コーヒーがノアに掛かることもことも。

 

 

 

 テンパったふたりであわあわと掃除や着替えに取り掛かって、それら終わるころには双方落ち着くことができた。

 

 

 

 

 

 

「本当に、申し訳ない」

 

 

 

「いえ、私も混乱していましたし……」

 

 

 

 

 

 

 一息ついたところで謝ると、ノアは少し困ったように両手を小さく振った。頭を上げるとノアと目が合い、なんともいえない可笑しさにどちらからともなく笑いが漏れる。

 

 

 

 

 

 

「さて、私が今日嘘をつかなかった理由、でしたか」

 

 

 

「そういえばそんな話が原因だったね……」

 

 

 

 

 

 

 一連の騒動ですっかり忘れていた。

 

 

 

 

 

 

「先生は既にいろいろな方から嘘を言われているでしょうから、まずエイプリルフールなんじゃないかと疑ってかかりそうでしたし。その状態であまり面白いことにはならないじゃないですか。……何回でも騙されてくれるユウカちゃんと違って」

 

 

 

「つまりユウカには嘘をついたんですね」

 

 

 

「さぁ、どうでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 ふふ、と笑って明言こそしないが、誤魔化そうという気もあまりないらしい。おそらく彼女の頭にはユウカのかわいい姿が記録されていることだろう。

 

 

 

 

 

 

「そんなわけですから、必要のない嘘をつく気も起きず、結局何も言わなかったということになります。私はついた嘘もつかれた嘘も、すべて忘れられませんから……」

 

 

 

 

 

 

 わずかに苦みを含んだ笑顔でそう結論付けるノア。彼女を見ていると、記憶力が良すぎるというのも考え物だと感じる。同時にノアの過去を知りたいという気持ちが湧くが、そこに踏み込むのは「先生」の役目ではない。大人として、自分勝手な好奇心は抑えるべき時には抑えなくてはいけない。

 

 

 

 そんな内心を知ってか知らずか、ノアの笑顔の質が変わる。最近少しずつ分かるようになってきたが、これはノアがイタズラを楽しむときの笑顔だ。そのまま身を屈め、座っている私のすぐ横まで顔を近づける。口元に手を添えたノアは、囁くようにつづけた。

 

 

 

 

 

 

「それに、先生のお望みの告白は、今日しちゃったら使った言葉ごと『嘘』になっちゃうじゃないですか」

 

 

 

 

 

 

 ゾクリと背筋に走るものを感じて身を引く。そんな私を見ながら、ノアはやっと望むものが見れたといわんばかりにくすくすと笑っていた。その顔に妖艶なものを感じたのは私の気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

「ノ、ノア、それって……」

 

 

 

「さぁ、なんでしょうね?ただ、少なくとも私は先生のことを憎からず思っていますから。仮に『先生のことが好き』なんて言って、それが嘘になってしまうのは……私としては、寂しいですね。……その『好き』が、一体どのような意味だとしても」

 

 

 

 

 

 

 最後に意味ありげな笑顔を浮かべてから、仕切り直しというように手を鳴らして体を起こすノア。

 

 

 

 

 

 

「それでは、コーヒーを淹れ直してきますね。お仕事、頑張ってください♪」

 

 

 

 

 

 

 そう言って、再び給湯室へ歩みを進めていく彼女の背を見送る。未だ暴れる心音は、コツコツと響く彼女の足音にかき消されていることを願いながら。

 

 

 

 もちろんその後、ノアの言葉を反芻しては悶々としていたため仕事は捗らなかった。




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