先ノア短編集   作:くもたろー@溶脳炉

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シリーズ化に伴い再投稿です。単体のほうは申し訳ございませんが削除という形になります。読んでくださった皆様、特に評価・お気に入り・感想等くださった皆様には申し訳ございませんがご理解ください

ノア、誕生日おめでとう


目一杯の祝福を君に

 あれ、今何日だっけ?

 

 新たな妖怪MAXのプルタブを起こし、独特の刺激臭が鼻をついたところでそんな考えが脳裏をよぎる。目の前にあるのはやはり、膨大な量の書類。私が相手をするべき生徒たちは春休みのはずだが、社会人に春休みなどないと言わんばかりに書類とタスクの濁流が私の相手を務めるようになって数日。あまりの量に碌に寝ることもできず、すでに日付感覚も麻痺していた。窓の外から光が入ってこないことから、時間帯が夜であることだけはかろうじて判断できる。

 

 霞がかって一寸先は白状態の頭でカレンダーを開くと、そこには4/12と表示されていた。その隣、13日には予定が登録されていることを示す紫色の点が打たれている。はて、何があったか……なんとなく、非常に重要なことだった気がするのだが。

 

 正体不明の使命感に押されて13日の枠をタップすると、見覚えのある無機質なヘイローとともに『生塩ノア 誕生日』と書かれていた。

 

 あーはいはい、ノアの誕生日か。そりゃ大事だ。なんと言ってもこのために仕事を早く片付けようとしてこれだけ苦労しているわけだし。先生もたまにはいいのかもしれない、こうやって勝手に想いを寄せる生徒に大事な日に会いに行く口実ができるのだし。えっと、13日ってことは今が12日で……時間は22時ね。つまりあと2時間……。

 

 ………………。

 

 

 

「あと2時間⁉⁉」

 

 

 

 先ほど飲んだ妖怪MAXなど比にならない勢いで脳が再起動する。

 

ちょっと待ってほしい。え、あれ、今仕事の進捗は……まだ6割程度しか進んでないよ⁉なんなら春休みで当番生徒を呼ぶこともないし風呂最後に入ったのもいつか分からないレベルなんだけど!これで仕事終わらせてノアに会いに行って誕生日を祝わなくちゃいけない……?無理無理、どう考えても間に合わない。

 

 いや、落ち着け。まだ方法はあるはずだ。今必要なのは、何よりもまずは仕事を終わらせること。まずは少し休憩を取ろう。働きづめですでに頭は回っていないし、この状態でやっても効率が悪い。一度シャワーを浴びてこよう、そうしよう。

 

 寝不足のせいかわずかに痛む頭を振って立ち上がり、大きく伸びをする。そのまま2、3度深呼吸をしてから休憩室へ向かう。いつもよりも熱めに湯温を設定し、最後に冷水を浴びて心身ともに引き締める。サウナとは違うが、一定の効果は得られた。

 

 未だに寝不足で思考がクリアにはならないが、ノアのことを思えばこの程度どうということはない。無限ラブパワーを手に入れた私は無敵だ。一度展開されたノアへの愛を破る方法などない!

 

 ふはははは、と謎の全能感に笑いを上げ、残る書類を殲滅しにデスクへと戻っていった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 どこからかメロディーが聞こえる。暖かな世界に包まれる中、春風のように柔らかい何かが頭を、次いで頬を撫でていき、やがてどこかへ消えていく。甘い香りが流れてきて鼻をくすぐり、幸せな安らぎをもたらす。

 

 まるで穏やかな昼過ぎの花畑で一本毅然と存在する大木、その根元で微睡むような、そんな感覚。雄大な自然に優しく包まれるような、言い知れぬ安心感に誰にともなく甘えたくなってしまう。喉を鳴らすように声を漏らし、じんわりと伝わる温もりに顔を埋めようと熱源に押し付ける。

 

 

 

「んぅっ……あらあら、ずいぶんかわいらしい寝相ですね、ふふっ」

 

 

 

 わずかな振動が伝わり、それが揺り篭のような心地よさにつながる。再び、あたたかいものが頭を撫でまわしていく。幼子が感じるような絶対的な安堵に疲れや緊張といったものがすべて解きほぐされていく気がした。

 

いつまでもこうしていたいという思いに駆られる中、脳裏を白銀の髪が揺れた。そう認識した瞬間、強烈な渇きが襲い来る。それは果たして肉体的な渇きだったか、それとも精神的な渇きか。あるいはその両方だったかもしれない。いずれにせよ、急激に夢と現の狭間から引き上げられたことだけは確かだ。

 

 目を開けると、まず飛び込んできたのは真っ白な布。さらに情報を求めて視線をさまよわせると、半分だけ見えるいつもとは違う天井、そして多少無理してでも見たかった紫色の瞳が映った。

 

 

 

「おはようございます、先生。体調はいかがですか?」

 

「ノア……?この状況は……って違う、残りの仕事は!?今何時!?私いつの間に寝ちゃってたの!?」

 

 

 

 現状を理解すると、今度は冷や汗がどっと噴き出してくる。どうしよう、さっさと片付けないとノアの誕生日を祝いに行けない!今月はそれを楽しみに生きてきたみたいなところあるのに!……あれ、でもノアは今目の前に……うん?

 

 

 

「先生、落ち着いてください。そんな大混乱するほど私の膝枕が気持ちよかったんですか?」

 

 

 

 混乱する私を見ていつも通りの笑みを湛えながら、そうなだめてくるノア。だが、その内容はとても落ち着けるものではなかった。

 

 ノアの……膝枕、だと……!?

 

 ふと先ほどまで自分の頭があった辺りを見れば、そこは確かにノアがベッドに腰掛けている位置であった。見慣れた制服姿ではない。ゆったりとした白い上下一体のこれは、パジャマだろうか。楽な服装ながらどことなく高貴さを感じさせるような服がいかにもノアらしいと感じるのは私の贔屓目だろうか。

 

 柔らかそうな太ももとお腹、そして主張する胸に囲まれたあまりにも理想的な空間に先ほどまで私の頭があったというのか?……確かに、目を開けて最初に見えたのは白い布だったはずだ。ベッドのシーツは水色だし、視線を動かしたときに一部天井が見えなかったことからも……。

 

 

 

「……先生?さすがにそこまでその、お腹や腰を凝視されると恥ずかしいのですが……」

 

「あぁごめんねノア。今薄れゆく感触を必死に脳内に焼き付けているところだから」

 

 

 

 なんで私にはノアみたいな記憶能力がないんだ!道理であれほど心地よい微睡みにあったわけだ、この感覚を忘れるわけにはいかない……!

 

 目が血走っているのではないかというほどにじっとひたすら見ながら脳にさっきまでの感覚を刻み込んでいると、最初は居心地悪そうに身じろぎをするだけだったノアが立ち上がった。

 

 

 

「はい、ここまでです!これ以上はセクハラということにしちゃいますよ?」

 

 

 

 顔を赤らめながらそんなことを言って髪をいじるノアはそれはそれでなんともかわいらしい。

 

 

 

「そんなに残念そうな顔をしないでください。……そんなにお望みでしたら、後でまたやってあげますから」

 

「本当!?……って違う、ゴホン。気持ちは嬉しいけど、やっぱ先生としてそういうことはよくないと思うよ、ノア。自分のことはもっと大事にしなくちゃ」

 

「それでごまかせると思ってるのは先生とユウカちゃんぐらいのものですよ……?コユキちゃんでもしません」

 

 

 

 仕方ないじゃないか漏れちゃったものは漏れちゃったんだから。多少の本音は聞かなかったことにしておいてほしい。

 

 半眼で呆れたようなまなざしを寄越していたノアだが、数秒もしないうちに破顔し、見慣れた微笑みを浮かべた。

 

 

 

「それで、先ほどの質問についてですが」

 

「質問?なんだっけ」

 

「仕事や時刻、いつ寝たのかなどです。……もう忘れちゃったんですか?」

 

「ノアの膝枕はそれだけインパクトがあったってことにしておいてください」

 

 

 

 嘘ではない。男にとって好きな人の膝枕にはそれほどの価値があるものだ。果たして聡明なノアがどれほどこの価値観を理解しているのかははなはだ疑問ではあるが。

 

 それにしても仕事、そうか仕事か……。もうノアと楽しく過ごせてるんだしいいんじゃないだろうか。いや、でも後でリンちゃんから叱られるのは簡便だな。仕方ない、ノアに状況を教えてもらって続きをするとしよう。

 

 

 

「まず、仕事に関しては無事終わったようですよ。連邦生徒会からも受領した旨のメールが来ていました」

 

「あぁ、そう……え?終わったの?」

 

「昨夜、ひどい隈を付けたままフラフラで喝采してたじゃないですか」

 

「記憶にない……」

 

 

 

 そもそもいつ寝たのかも記憶にないのだから当然といえば当然だろうか。だが、かろうじて仕事は終わらせていたらしい。やればできるじゃないか私。

 

 

 

「覚えていないようでしたら、昨夜の記録を読み上げましょうか。まず、4月13日の午前9時18分と午後4時ちょうどに私から先生へモモトークのメッセージを送ったものの、返事どころか既読すらつきませんでした。そのため、私は先生の様子を見るべくシャーレに伺い、午後19時36分に先生が半狂乱で騒いでいるのを発見しました。その時の先生の発言がこちらです。『おっしゃあ終わったァ!一昨日出直してきやがれ!いや嘘ですもう出てこないでください後生ですから。とにかくこれに懲りたら二度とシャーレに逆らうんじゃねえぞわかったか!』」

 

「待って私そんな口悪かったの?しかもそれをノアに聞かれたの??」

 

 

 

 ノアが言うからにはそうなんだろうが、それにしてもにわかには信じがたい。いや、信じたくない。先生としてあまり生徒たちの悪影響になるような言動……は控えてないかもしれないが、言葉遣いに関してはそこそこ気を遣っていたというのに。

 

 私の悲鳴とも静止ともわからない声を無視して、ノアは記録の再現を続ける。

 

 

 

「私が部屋に入ってから157秒後に私に気付いた先生は、千鳥足で私に歩み寄って私の肩に手を置き、笑顔でこうおっしゃいました。『ノアぁ、仕事終わったよぉ褒めてよぉ。誕生日おめでとうよぉ。大好きだよぉ。』と。」

 

「本当にそんなこと言ったの……?睡眠不足はよくないね」

 

「私が先生の言葉に面食らって何もできずにいると、先生はそのまま私にもたれるように脱力してしまいました。その13秒後、先生のデスクからメールの着信を知らせる通知音が鳴りましたので、必要であれば起こそうと思ってデスクに近づき、メールの件名を確認したところ、仕事の完了を確認した旨の物でした。私が確認しても問題ないと思い、本文まで読ませていただいて特にお知らせする必要はないと判断しました。そこで、先生がお疲れだったようなので、私の家に来ませんか、と聞いたところ、半ば寝言のように『うん、いくぅ』とおっしゃっていたので、お連れした次第です。以上が、昨晩の概要になります」

 

 

 

 すらすらと淀みなく昨夜の状況を諳んじるノアの姿にさすがだと改めて感心すると同時に、美しいと思う。どこか別世界の物を見るように。自分が覚えてないだけでそんなことをやっていたと知れば現実逃避の一つや二つしたくなるというものだ。

 

 ここではないどこか遠くを見つめながらノアの記録を反芻していると、ゆっくりと現状が理解できてくる。

 

 ……えーと、つまりなんだ?今は4月14日でノアの誕生日はもう過ぎていて、仕事はギリギリ終わらせることができて、私の記憶にはないけど誕生日を祝うこともできて。そして今私はなぜかノアの家にいる、と。

 

 なるほどなるほど、見慣れない部屋だったのはノアの家だったからかぁ。そしてノアがめちゃくちゃかわいいパジャマ姿なのも自分の家にいるからかぁ。

 

 

 

「ノア、ちょっと一発私を撃ってみてくれない?なんか今なら無傷で耐えられる気がするんだ」

 

「……どういう思考を経てそのような結論を導き出したのか知りませんが、お断りします。そういったことはたとえ冗談であっても絶対に言わないでください。全く笑えません」

 

 

 

 ちょっと頬をつねってくれない?くらいのつもりで言ったのだが、ノアの返答は恐ろしく冷たかった。表情もいつもの余裕あるそれからは想像できないほど真剣そのもので、私は自分の失敗を悟る。

 

 

 

「……ごめん、もう言わないよ。言っていいことじゃなかったね」

 

「いえ、わかっていただければ大丈夫です。きっと先生も、昨日までの疲れが抜けていないのでしょう。ただ、もしも先生を失うことがあれば……その時は、ユウカちゃんも、私も、キヴォトスの生徒の多くが悲しむということは、頭の片隅に留めておいてください。決してそんなことが起こらないように」

 

 

 

 言い訳の余地もないほど私が軽率だっただけなのに、疲れていると逃げ道を用意してくれるノアの優しさに申し訳なさが募る。変な浮かれ方をしていた数秒前の自分を殴ってやりたい気分だ。

 

 二人の間に重い沈黙が流れる。

 

せっかく疲れ切った私の甘えを受け入れてくれたノアにこんな思いをさせるのはあまりに不甲斐なくはないか。せめて、この空気を変えることぐらいは自分でするべきだろう。

 

 

 

「それで、ノア。あまりこのタイミングで言うことじゃないかもしれないけど、改めて、誕生日おめでとう。一応昨日言ったみたいだけど、私自身覚えてないからもう一度祝わせてほしいんだ」

 

「……生まれた日を記して回想する行為に特に意味はないと言いますが、それでも、祝ってもらえるのは嬉しいですね。覚えていただいて、ありがとうございます」

 

「そうかな、私は誕生日に意味がないとは思わないよ」

 

「と、言いますと?」

 

「……なんとも言語化が難しいな。誰しも生まれてきてくれたことには意味があると思うし、ある種の奇跡ともいえると思う。そんなめぐりあわせに感謝したり、相手や自分の幸福を祈っていることを改めて伝えなおしたりする機会って、実はそんなに多くないんだ。心の中でどれほど強く想っていてもね。そして、こういったものはきちんと伝えないと、ちょっとしたすれ違いで取り返しのつかないことになる場合も少なからずある。だから、なんというか……うーん……。……そのうちわかるということで、ここはひとつ」

 

「ふふ、なんですかそれ。締まりませんねぇ」

 

 

 

 あまり具体的に考えたことがなかったせいで、うまく言葉にできない。そんな私を、ノアは笑って受け入れてくれた。そんなことに幸せを感じる。

 

 とはいえ、うまく言葉にできなくても、こういったことに意味があると思うのは本当だ。そのうちわかるとは言ったものの、それは苦い経験をする、ということと同義かもしれない。もしかしたら、わからないままでいる方が幸せな人生だということにはならないか。

 

 

 

「やっぱり、しばらくこの意味は考えて言葉にしてみるよ。そうだね、来年のノアの誕生日までには。だから、その時にはノアに私の考えを記録して、どう思うか教えてほしい」

 

「楽しみにしていますね。しかし、先生は忘れっぽいですから一年も覚えていられますかね?」

 

 

 

 いたずらっぽく微笑んでからかってくるノア。この天使とも小悪魔とも思える笑みがいつまでも褪せないことを祈りながら、二ッと笑って見せる。

 

 

 

「大丈夫、ノアのことなら忘れないよ」

 

「あら、昨日私の誕生日を祝ってくださったことを忘れていたのに?」

 

「ぐぅっ!?」

 

 

 

 やっぱり、今回もダメだったよ。ノアに勝てる日は遠いらしい。

 

 痛いところを突かれて蹲る私を見て、ノアは楽しそうにクスクスと喉を鳴らす。

 

 

 

「それなら、私は今年とてもラッキーだったというわけですね。もしかしたら、他の生徒の誰よりも」

 

「何かいいことでもあったの?ユウカ達に盛大に祝ってもらったとか?」

 

 

 

 藪から棒にラッキーだったなどと言い出したノアを不思議に思って顔を上げてみると、満面の笑みの彼女と目が合う。それは、いつもの余裕綽々などこか超然とした笑顔ではなく、すこし緩くあどけなさがのぞく笑顔だった。

 

 

 

「もちろん、昨日はユウカちゃんをはじめ、セミナーの皆さんに盛大に祝ってもらいましたし、それもとてもありがたいことだと思います。ですが、それだけではありません。大切な人が、自らとても大きな意味を持つという祝福を二回もしてくれたのですから。それは、とても幸せなことだと……そうは思いませんか、先生?」

 

「へ……?それって……」

 

「さぁ、どういう意味でしょうね?お好きに受け取っていただいて構いません」

 

 

 

 意味深なノアの発言に呆けていると、珍しい笑顔はやがていつもの悪戯っぽい笑顔と言葉に隠れてしまう。少しの名残惜しさを感じる一方で、いくら見ていても次から次へと新たな一面をのぞかせてくるノアにますます惹かれていく自分がいることにも気が付く。

 

 

 

「さて、先生は確か、仕事を終わらせたことを褒めてほしかったんですよね?たっぷり褒めてあげますので、こっちに来てください♪」

 

 

 

 そう言って、ベッドに腰掛けるノア。その手は自らの太ももをポンポンとたたいており、それが意味するところは、つまり。

 

 

 

「あとでやってあげると言いましたからね。私、約束は忘れないタイプなんですよ?」

 

 

 

 ごくり、と生唾を飲み込む。慈愛に満ちた目を向けてくるノアに引き寄せられるように一歩、また一歩と近づいていき、やがてノアの横に腰掛けた。

 

 

 

「えっと、本当にいいの?」

 

「……ここまで来て躊躇するんですか。さっきあれほど熱っぽい視線を送っておきながら?」

 

「返す言葉もございまs……うわっ!?」

 

 

 

 急に二の腕を引かれ、姿勢を崩す。立て直す間もなくノアの膝の上に倒れ込んだ私を押さえつけるように、視界に銀白の影が落ちた。直後、頬に柔らかく暖かいものが触れる感触。

 

 驚いてノアを見上げると、今まで見たこともないほど真っ赤に染まったノアが露骨に顔をそらしていた。

 

 

 

「ノア、今のは……」

 

「先生」

 

 

 

 疑問を投げかけようとした私に、心なしか低めの声が被せられる。そのまま、ノアのほっそりとした手が私の視界を塞いだ。少し高めの体温が伝わってくる手がアイマスクのようにリラックスをもたらした。

 

 

 

「今日は、私が先生をたくさん褒めてあげますので……。その、昨日は私の誕生日、でしたし。今日、この部屋の中にいる間だけは……私と先生の二人だけの間は、すこし、甘えさせて、ください。そして、部屋を出たら……すべて、忘れてください」

 

 

 

 今、ノアはどんな顔をしているのだろう。か細く震えた途切れがちな声からはとても想像がつかない。ただ、いつもとは違う顔をしているだろうということだけしか。

 

 

 

「私はノアと違って記憶力がいいわけじゃないからね。きっと、私は今日のことも夢のように忘れちゃうだろうね」

 

「……そうですね、先生は、忘れん坊さんですからね。ありがとうございます」

 

 

 

 お礼を言うのは、果たしてどちらであるべきか。

 

 目隠し代わりに置かれていた手が外され、ゆっくりと髪を撫でていく。その心地よさに目を細めると、同じように幸せそうに細められた藤色が映った。少し紅くなった頬と相まって、後光のさす芸術品のような美しさにただ見惚れる。きっと、私の表情はひどく間抜けなことだろう。

 

 その後のことは、覚えていない。少なくとも、そういうことになっているのだから。




今回は後半のノアがノアらしくないことしてますが、たまにはノアも自分の心に正直になるタイミングが合ってもいいと思うんです。いや、いつも正直と言えば正直なんだけども、もうちょっと素直になるといったほうが近いかも?あくまで健全な範囲で、好きな人に甘えてほしいなとそう思う次第です
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