明治の魔法剣士は知らない戦地に転生しました。   作:偽帝

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千の声

「シオン様!」

 

 

刀を腰に付けた中年の男が叫ぶ。

 

 

それと同時に遠い所から爆発音がした。

 

 

「今日はもう来たか・・・面倒だな」

 

 

「はい、今義章隊と一聯隊が有川で応戦中です!」

 

 

シオン・・・山奈紫苑は椅子から立ち上がると、コップに入った水を一気に飲み干した。

 

 

背筋をピン、と伸ばして立っている中年の男・・・永井はシオンがコップを置いたのを確認すると、刀を手渡した。

 

 

「どうも、」

 

 

シオンは刀を受け取ると、ゆっくりと歩き始める。

 

 

「シオン様、危険でございます!新政府軍の銃は連射型!防具を付けていない生身の体では・・・!」

 

 

「大丈夫だって」

 

 

シオンは止まって口元を緩めながら永井を見る。

 

 

永井は心配そうな、落ち着きのない顔でシオンの話を聞く。

 

 

周りの兵達は二人の近くを通る時、止まって敬礼した後、前線へと向かって行く。

 

 

 

十年前に起こった譲都戦争。

 

 

国を二分した戦いももう終わりが近づいている。

 

 

今シオン達がいる場所は最北の戦地。

 

 

つまり、ここが陥ちれば戦争が終わるのだ。

 

 

だが、シオンには負ける気など少しもなかった。

 

 

 

シオンは刀を持っていない手をパーに開く。

 

 

すると、手の真ん中に赤い色の魔方陣が展開されてゆっくりと回りだす。

 

 

瞬間シオンは片手を空に向けて伸ばした。

 

 

 

ブオオオオッ!

 

 

音と共に雲が、左右に分かれて完全に消える。

 

 

それを見たシオンは手を下ろして爆風が舞う最前線の戦地の方を見る。

 

 

「俺には、魔法(これ)があるからさ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

銃を持った兵が横一列に綺麗に並んで構えている。

 

 

目標は勿論、こちらだ。

 

 

「すげ、二ヶ月で新式取り寄せてくるとは仕事速いな、新政府は」

 

 

「シオン様!危険です!」

 

 

永井は身を屈めずに新政府軍が展開している軍を見ているシオンの頭を下げる。

 

 

「だいじょぶだって、前の隊だって見られてるのに撃たれてないから」

 

 

シオンや永井、他の司令官達のほんの数メートル前にはこちらの隊が刀を抜刀するタイミングを伺っている。

 

 

「あと十年遅かったら確実に隊は全滅してたな」

 

 

「それは今も同じなのではないでしょうか・・・?」

 

 

髭に手を当てながら永井はシオンに問いかける。

 

 

「いや、こっちは刀の精鋭部隊だ。それに比べて新政府の銃隊は武器こそ新しいけど、兵がまだ未熟だ。見ろよ、手が震えてる奴もいる」

 

 

シオンが中指で指した方向を見ると、確かにシオンとほぼ同年代の青年が洋式の軍服で銃を構えていた。

 

 

しかしその表情は何か恐ろしい物を見るような目で、指と歯は小さく震えていた。

 

 

「・・・・・」

 

 

シオンは何も言わずに振り返ると、抜刀した。

 

 

「シ、シオン様!?一体何を・・・?」

 

 

「今から転移して新政府軍(あいつら)の真ん中に行く。それで陣形が乱れたら、突撃しろ」

 

 

「そ、そんな無茶なですっ・・・!」

 

 

永井がシオンを押さえようと手を伸ばしたときには、もうその場にシオンはいなかった。

 

 

 

 

 

(さて・・・、やりますか)

 

 

新政府軍の真上でシオンは刀に魔法で雷を纏わせる。

 

 

両手で刀を掴むと、それを地面に突き刺すようにシオンは急降下した。

 

 

(核縁雷!)

 

 

地面にシオンの刀の先が刺さる。

 

 

同時に亀裂が入ったように電撃が走り、新政府軍は体が痺れて動くことが出来ない。

 

 

シオンは周囲にいた数十人を円を描くように斬った。

 

 

シオン達より遥かに丈夫な装備にもかかわらず、血が噴き出す。

 

 

新政府軍は状況を読み込めず、前方と後方が入り混じっている。

 

 

それをしっかりと確認した永井は、自分の刀を抜刀し叫んだ。

 

 

「突撃ィ!!」

 

 

それに呼応するように周りにいた隊士が次々と抜刀して、斬りこみに行く。

 

 

少しずつ、新政府軍が圧されていく。

 

 

シオンは片っ端から相手を斬って行く。

 

 

喉元、心臓、腕、足の腱。

 

 

次々と向かってくる相手を意図も簡単に斬り進む。

 

 

(もう、撤退するだろ・・・)

 

 

三十人を超えた辺りで相手が沈黙したので、シオンは自陣の方向へ歩き出した。

 

 

一応、回りに倒れている兵士を見るが、息をしていそうな者はいない。

 

 

「・・・・・」

 

 

シオンが二、三歩歩き進めて刀に付いた血を拭こうとした、その時ーーーーー。

 

 

 

 

胸の辺りにあたたかい感触と銃声音がした。

 

 

シオンはゆっくり首だけを後ろに向けた。

 

 

すると斬り傷が浅かったのか、出血して倒れながらも一人の兵士が銃をこちらに構えていた。

 

 

シオンは目で兵士を睨んだ。

 

 

強く、強く、恨むように。

 

 

あまりの恐怖に兵士は銃を持ったまま地面から動くことが出来ない。

 

 

「・・・」

 

 

シオンは無言でゆっくりとその兵士に歩み寄る。

 

 

そして刀を空高く上げると、思いっきり兵士の頭に刺した。

 

 

「うヴァッ!!」

 

 

顔に刀が完全に貫通した兵士は悲鳴と共に死亡した。

 

 

 

グジュッ、グジュグジュッ!

 

 

シオンは無言で刀を縦横に動かした。

 

 

溢れ出てくる血でもはや顔が判らず、細かくなった脳が少しはみ出てきた。

 

 

兵士の頭から刀を抜く。

 

 

シオンはまた先程の道を歩いて、死体も何もない所に着くと力無く地面に倒れる。

 

 

そして片手で胸の辺りを触る。

 

 

辛うじて心臓を貫いてはいないがもう止血が手遅れな量の出血をしていた。

 

 

(・・・終わったな。もう手遅れだわ)

 

 

静かに息をしながら、シオンは青い空を見つめる。

 

 

いつ以来だろう、こんなに空を見たのは。

 

 

(あーあ、もう死ぬのか・・・)

 

 

「・・・オン様ッ!・・・・・長ッ!!」

 

 

永井や他の兵士達の声が聞こえるが、ハッキリと聞こえない。

 

 

少しずつ意識が遠くなっていく。

 

 

もう刀を握る力もない。

 

 

 

シオンはゆっくりと目を瞑った。

 

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