朝陽食堂・銀ベロ始めました ~赤き瞳のクレイドル 外伝~ 作:末末
(`・з・)ノU☆Uヽ(・ω・´)
くうぅぅあぁぁ~~……シャーリィの大あくびが、少しばかり薄暗い店内に響く。
「大将~、お店開けるの早いよ~」
時刻は、“朝陽食堂”が開店するには早い、昼下がりの三時前。
「前から言っているだろ? こんな日はちょっと特別なお客さんが来る日だって。開店前には呼ぶから部屋でゴロ寝してなよ」
「んんあぁぁ~、特別なお客さん、私も会ってみたーい」
すでに眠気を感じているのか、カウンターに突っ伏し、ゴロゴロと喉を鳴らす猫族のシャーリィ。動きも緩慢になっている。
そんなだらしない従業員を、苦笑混じりに一瞥し、窓の外を見やる──
昼前から、しとつく雨が降っていた。
直に霧が出て、霧雨になるだろう──
こういう日にしか来ない、ある客のために早くから店を開けているのだ。
店を開けているといっても、暖簾や看板は出していない。
店内の灯りを付けているだけだが、光量を落としているので、店の中は薄暗い。
そのせいなのか、眠気でふにゃふにゃになっているシャーリィ。
「ほら、ここで寝たら風邪ひくぞ。部屋に戻れよ。夕方、店開ける前に呼ぶから」
ふあぁぁ~い、と寝惚け眼で応えながら、店の裏口から出て行くシャーリィを見送り、煙草に火をつける。
シャーリィはここ“朝陽食堂”で、住込みで働いている。
店の裏手はちょっとした庭になっていて、そこには従業員を住込みで雇う事になったなら使ってもらおうと思っていた、人二人ほどが住むに充分な広さの、水道設備が整った小さな家がある。
大将本人は、店の二階が男一人には適度な広さの居住空間になっているので、そこで暮らしている──
ちなみに、シャーリィの実家はここ繁華街を出てすぐの居住区にある。
家族は祖父、両親、妹の五人家族。家業は商家で、グレイオウル領では有数の輸入商会として知られている。
はっきりいうと、シャーリィは良いとこのお嬢さんだ──
「……そろそろ、かな」
煙草を灰皿に押し付け、鍋に火を掛ける。鍋の中身は煮込み。昨日の夜に作っていた物だ。
今日という日の為に作っていた、少々特別な煮込み──グレイオウル領の湖産の魚介類
海産物は、帝都や近くの港町ハルベルトリバーからグレイオウル領に入って来るが、今回は地元の魚介類を使う──今日の特別な客をもてなす為に。
「煮込みは良し、と……」
弱火でゆっくりと、煮込みを温めながら、その間にもう一品の準備を始める。
薄切りにした魚の白身。甘めのタレと酢を混ぜ合わせたマリネ用の特製ダレに、みじん切りにしたニンニク。
平皿に、魚の白身を丁寧に並べる。イメージとしては、“大輪の華”──
それほど間を置かず、平皿に白い華が咲いた──華の中央には、みじん切りのニンニクを小さく盛り付ける。
マリネには、ショウガやワサビも合うのだが、今日の客はニンニクを特に好むのだ。特製ダレは、今は使わずに容器に分けておく。
白身のマリネ──“大輪の華”に保湿用の薄紙を乗せ、特製ダレの容器と共に保冷庫に入れる。
「……さて、もう一品は、と」
ここグレイオウル領で収穫された、野菜と果物のサラダといくか……。
ふと時計を見ると、時刻は昼下がりから夕方に差し掛かる時間帯になりつつあった。しとつく雨は、今だ止む気配を見せていない──(……少し寝てた、か)
料理を作り終えた後、いつの間にか微睡んでいたらしい。
(こんな日は、どうも怠くなるな……)
眠気は消えているが、倦怠感が微かに残っている。それを振り切るために、煙草を咥え火をつけた──
(……ん、お越しになったか)
ふっ、と煙草の煙を吹き、灰皿で押し消す。
すりガラスの扉の向こう側、微かに映る人影が揺れ、静かに扉が開く──
「こんにちは、大将」
入って来たのは、爽やかな気品と優雅な雰囲気をまとった、淑女然とした清楚な美貌の女性──
綺麗に整えられた細い眉。碧色の大きな瞳と、垂れ目気味の顔立ちからは、穏やかさを感じさせる。
濃い碧色の、流れる様なロングヘア。
髪の色と同じ、今の時季には合わない薄手の七分袖のワンピース姿。
「いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」
大将の言葉が終わらぬうち、カウンター席の中央、大将の正面に着く女性。
「今日の料理は、良い魚と貝が入ったので、その煮込み。あと、白身魚のマリネに果物のサラダです。食材は全部、ここグレイオウル領の物ですね」
大将の説明に、嬉しそうに目を細める淑女。
「御飲み物はどうします?」
「……そう、ですわね。果実酒の炭酸入りをお願いしますわ」
穏やかな笑みを浮かべる淑女の注文に頷く大将。
「果実酒炭酸割りです。料理の支度が済むまで、これでも摘まんでいて下さい」
酒と共に出したお通しは、素揚げした小エビに塩をさっと振っただけのシンプルな物。
小エビも当然、グレイオウル領の湖。オウルレイクの産だ──
微笑みを浮かべ、グラスに手を伸ばす淑女に、大将は少しの緊張を感じた。
一息にグラスの半分を空け、ふう、と息を吐く淑女。
(……この
箸を手慣れた様子で使い、小エビの素揚げを摘まむ淑女。
さく、と素揚げがなる──気に入ったのか、嬉しそうに目を細める。
「煮込みを出しても構いませんか?」
「ええ、お願いしますわ。それと、オウルリバーを……果実酒入りで」
いつの間にか、果実酒炭酸割りを干していた淑女。お次はオウルリバーの果実酒割りか……今日は、ゆっくりと飲むつもりらしいな。
「はい、直ぐに。煮込みと一緒に出しますよ」
「ええ。お任せしますわ」
穏やかな笑みを浮かべる淑女。その様子を見ながら、大将は思った。
(雨が晴れるのは、少し遅くなるかな?)
窓から外を見ると、霧雨は静かにしとついていた──